<憑依>ユメノオワリ

少女は目覚めたー。

何が何だか、分からぬままー。

これは、一体どういうことなのかー。
何も分からぬまま、少女は
自分を求めて歩き出すー。

-------------------------—

風が、冷たいー。

最初に感じたのは、それだった。

自分が今、どういう状況なのか、わからない。
寝ていたのだろうか。

ただ、風が、冷たい。
そう思った。

「あれ…」
自分が誰かも、分からないー。

何故だろうか。
寝惚けているのだろうかー。

ただ、風が冷たくて、
何だか、長い間、眠っていたような、そんな感覚だった。

昨日ー
自分は何をしていたのかー

”彼女”は、そう考えたー。

昨日ー

昨日ー

そう。昨日は、学校のテストの日だった。
数学のテストの出来栄えが思ったよりも
よくなくて、ため息をつきながら、
家に向かって歩いてたのだった。

それからー?
それから、自分はどうしたのか。

何故だか、思いだせないー。

そしてー

「---ここ、どこ…?」
彼女は、周囲を見渡した。

人気のない、廃虚のような場所ー
そこで、彼女は下着姿で立っていたー

「って…えっ?」
自分が下着姿で見知らぬ廃虚に居るー。

これは、どういうこと?

彼女は、必死に考えたー

彼女は、高校2年生の
高瀬 奈美恵(たかせ なみえ)。
昨日、試験が終わり、学校から帰っている途中ー。

・・・
それ以降が思いだせない。

一体、自分の身に何がおきていたのか。
その、大事な部分を思いだすことができない。

「--寒い…」

目が覚めたら、周囲は謎の廃虚で、
自分は下着姿だった。

まったくわけがわからない。

それにー
長い間眠っていた気がするのは、どうしてだろうー

そういえばーー

”今日から、お前は俺のモノだ”

…意識を失う直前、そう聞こえたことを思い出した。

そうだー
学校からの帰り道、
突然身体が動かなくなって、
悪寒がし始めて、
”なんだろう…”って思ってた時に、
その声が聞こえてきてー

それからー
それからー?

自分に、何があったか、まったく分からない。

「わたし・・・もしかして誘拐されたの?」
不安そうにつぶやく奈美恵。

きっとそうだ。
こんな廃虚のようなところで、
下着姿にされていて…

「とにかく、ここから逃げなくちゃ」
奈美恵はそう呟いた。
近くに干されていた汚らしい服を手に取り、
躊躇しながらも、それを着る。

流石に、下着姿で移動することはできない。

廃虚の建物の3階で目を覚ました
奈美恵はそのまま1階へと降りていく。

ここは、何なのか。

もしも…
もしも、誘拐ならば、誘拐犯に見つかった俊寛に
自分は”消される”かもしれない。

だから、絶対にー

廃虚の建物の出口と思われる扉のドアノブを
掴もうとしたその時だった。

ドアが、反対側から開いた。

「きゃあああ!」
思わず奈美恵は叫ぶ。

誘拐犯と鉢合わせしてしまった。
最悪ー!

・・・と思ったが、
小汚い小柄な男は言った。

「---そんなに驚かなくてもいいじゃないか?」

とー。

「え…?」

男は、奈美恵に、近くのボロイ椅子に座るように促した。
奈美恵は、とりあえず椅子に座るjことにした。

ここで変に反抗するのは危険な気がしたからだ。

「----えっ」
椅子に座った奈美恵は思わず声をあげる。

廃屋の壁に掲げられていたカレンダーには
”2039年”と書かれていたのだー

「---!!?」
奈美恵は激しく動揺したー。

今は2018年12月のはずだー、と。

しかしー
カレンダーには確かに、2039年と書かれている。

「あの…」
奈美恵が口を開くと、
男は首をかしげながら奈美恵の方を見た。

「--ここは、どこですか?」

奈美恵の言葉に、男が頷く。

「ここは、俺のようなホームレスが集まる場所さ?
 覚えてないのかい?
 1週間前、君がここにやってきて、
 ”夢の最後を楽しませておらおう”とか言ってさ」

ニヤニヤしながら言う男。

奈美恵は嫌悪感を覚えながら言う。

「…1週間?」

自分は1週間も監禁されていたのだろうか。

「--わたしをここに連れて来た人は誰ですか?」
奈美恵が聞くと男は笑った。

「何言ってるんだい?
 あんたが、自分で来たんじゃないか。ここに。
 
 昨日まで俺たちとエッチしまくってたじゃないか。
 忘れたのか?」

男の言葉に、奈美恵は、鳥肌の立つ思いを
しながら考えたー。

この男が誘拐犯なの?
とー。

「--と、とにかく、わたし、家に帰らないと
 お父さんとお母さんが心配してますし、
 高校行かなくちゃいけないので!」

奈美恵がそう言って建物から出ようとすると、
男は笑った。

「高校ー?
 馬鹿いっちゃいけないよ。」

「えー?」

奈美恵が振り返ると、
男は鏡を持ってきて微笑んだー

「あんたー
 どう見ても高校生に見えないよ」

男の持つ鏡に映った自分の姿はー
30代後半の女性のそれだったー。

「---ひっ…!?
 わ、、、わたし…?」

奈美恵が驚く。
そして、もう一度カレンダーを見る。

2039年11月ー

「---あの…今は何年ですか?」
奈美恵が恐る恐る尋ねた。

男は笑いながら答えた。

「何年って?2039年に決まってるじゃないか。
 2039年の11月12日だよ」

男が笑う。

「---う、うそ…!?」

奈美恵は思うー

そんなはずはない。
自分はー
2018年12月4日のテストを終えてー
下校している途中だったはず

「---う…嘘…嘘よっ!」
奈美恵はそう叫んで、ぼろい服を着たまま
外に飛び出した。

「--あっ、おい!」
男が飛び出す奈美恵に声をかけたが、
奈美恵は反応することなく、そのまま走り去ってしまった。

「うそ…うそっ!」

寂れた裏路地を走る奈美恵ー

そしてー
飛び出した大通りにはー
見覚えがあったー。

自分が高校に行く途中に使っていた道だ。

奈美恵は走るー。
何かの間違いだと。

今が、2039年?
そんなことは、あり得ない。

奈美恵は必死に走った。
どういう、からくりなのか。

自分の身体は、遊ばれ尽くしてやつれているだけだ
あのカレンダーは、私を驚かすためだけのものだー

そうに、違いない。

ふと周囲を見ると高校生たちが下校していた。

しかし、下校している生徒たちに、見覚えのある人間はいない。
一人ぐらい、友達が歩いていても、いいはずなのに…

「---あれ…」
奈美恵は走りながら思うー。

”昨日”まであったはずのおじいさんが営業している本屋もー
その隣のクリー二ング屋も無くなっている。

代わりに大型の商業施設がー。

そんなー

そんなはずはーー

奈美恵は、そう思いながら必死に、必死に
自宅へと駆けつけたー。

しかし、
そこにはー

自分の苗字である
”高瀬”の表札はなかったー。

”久保田”と書かれているー。

「--うそ…」
奈美恵はその場に膝をつく。

廃虚の建物から持ってきた、汚らしい布きれを
着たまま…。

「---そんな…そんな…
 うわあああああああ!」

奈美恵はわけも分からず走った。
何がどうなっているのか分からない。

昨日ー
学校帰りに…何があったのかー

「--どこなの?ここは?
 夢…夢なのよね???
 ははは、早く!早く目覚めて!!!」

奈美恵は空に向かって叫ぶ。

そこにー
さっき、廃虚で出会った男がやってきた。

「--………あんたに伝えたいことがある」
男はそう言って奈美恵の方を見た。

男の表情は真剣だった。
奈美恵は、怪しい男だと思いながらも、
今、自分のことを知るのは、この男しかいない、と
考えて男の後についていき、
さっき自分が目覚めた廃虚へと戻った。

そしてー。

男は煙草に火をつけながら言った。

「あんたがやってきたのは1週間前。
 ”最後の夢、楽しませてもらう”とか言って
 君がここに乗り込んできたんだよ

 さっきも言ったけどよ、
 ここは俺らのようなホームレスが集まる場所だ。

 10年前、廃虚になったこの場所は、
 今や俺らのたまり場だ」

そう言われて、奈美恵は周囲を見回す。

そう言えば、ここは、マンションだったはずだ。
それが、廃虚になっている。

男がボロいテーブルに座るように促す。
奈美恵は困り果てた様子で椅子に座ると
男が口を開いた。

「あんたはなー」

しばし流れるr沈黙。
男が煙草の煙を吐きだし終えると、続けた。

”憑依、されてたんだよー”

と。

「…ひ、憑依…?」

「あぁ…」

信じられない言葉に、奈美恵はさらに混乱した。
憑依とは何か?
具体的には、あまりその意味は知らない。

霊体が人に乗り移って操る、みたいな
そんな漠然なイメージしかなかった。

「--20年間…あんたは憑依されていたー。」
男の言葉に、奈美恵が凍りつく。

「え……・!」

男はそんな奈美恵の様子を見つめながら
少し同情した様子で呟いた。

「--昨日、あんたは自分で言ってたよ。
 ”今日でこの身体とはお別れだ”ってな」

男が、2本目の煙草に火をつけながら、
廃虚となったマンションの外を見つめる。

外では、男と同じような小汚い男たちが
何かを運んでいた。

「--いいかい。
 落ち着いて聞いてくれ」

男が呟く。

男は、昨日
”何者かに憑依されている状態の奈美恵”から
全てを聞いていた。

男は、ゆっくりと事実を話し始めた。

奈美恵は、20年前の2018年ー、
下校中に、とある男に憑依薬という薬を使った男に
憑依されてしまったことー

憑依された奈美恵は、それから20年間、欲望のままに
生きてきたことー

そして、昨日を最後に、奈美恵に憑依していた男が
奈美恵から抜け出したことー。

「あんたは、20年以上の人生を奪われたんだー」
男の言葉に、
奈美恵は泣き崩れている。

「うそ…」
奈美恵が呆然とした表情で、壁にかかっている鏡を見る。

そこにはー
もう、40目前になりつつある自分の顔があった。

「うそ…うそ…」
20年ー

その間、自分は、何をしていたのかー

自分が、生きてきた17年間ー
支配されていた20年以上の月日ー。

自分の方が、この身体で過ごした時間は短い。

そんなことを考えていると、男が言った。

「なぜ、あんたに憑依していた人間は、
 あんたから出て行ったと思う?」

その言葉に、奈美恵は呟いた。
「…わたしが…おばさんになったから…ですか?」

奈美恵は自虐的に言う。

しかしー
男は首を振った。

事実は、もっと、冷たかったー。

「あんたはーーーー」

その言葉にーーー
奈美恵は凍りついたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

奈美恵は走った。
男から、両親の今の居場所を聞き出した。

男は、憑依されていた奈美恵から、
両親の居場所を聞いていたのだという。
笑いながら、憑依されている状態の奈美恵は答えたらしいー

”今はー”

「--お父さん…お母さん!」
奈美恵はボロい洋服を着たまま走った。

ただ、ひたすらにー
男から教えてもらった場所に向かってー

そこにはー

「そ…んな…」

奈美恵が膝をつくー。

高瀬家の墓ー。

そう、既に両親は死んでいた。
高校時代の奈美恵が憑依されて、
突然豹変し、家を飛び出した。

それ以降、奈美恵とは音信不通のまま、
両親は死んでしまったというのだー。

母親は、最後の瞬間に
”なみえ…”と呟きながら
死んでいったのだというー。

「--おとうさん…おかあさん」
奈美恵は涙をボタボタと垂らしながら
墓石の前に、膝をついた。

奈美恵にとってー
昨日まで”一緒”だった存在ー。

20年以上の年月が経ってしまったけれどー
そんなこと信じられない。

自分がそんなに長い間、憑依されていたなんて。

「うそっ…うそよ!」
奈美恵が叫ぶ。

ーーーーーーーーー!!!

奈美恵の胸に激痛が走る。
激しく咳き込む奈美恵。

奈美恵は、血を吐いて、
その場に倒れる。

廃虚に居た男の言葉を思い出す。

「なぜ、あんたに憑依していた人間は、
 あんたから出て行ったと思う?

 あんたはー、
 あんたは、余命宣告されているー。
 末期の癌でな…」

奈美恵の身体は、
高校時代から弄ばれ続けて、
不健康な生活を送ったからかー、

彼女の身体はーー
蝕まれていたー

その場で、奈美恵は意識を失ってしまうー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

夢を見たー

高校時代の楽しい夢ー。

自分の時計の針は、あの時から止まったままー
けれど、突然目が覚めたら
20年以上経過していたー

それが、どれほどの恐怖か、
分かるだろうかー。

いいや、きっと、分からない。

目が覚めたら
自分は30後半の女性になっていたー

しかもー
そこに、両親はなく、
友人たちとは疎遠ー
さらには自分が病気ー

「------どうして…」
奈美恵は病室で目から涙をこぼしていた。

「どうして…どうして…ひどい・・・」
奈美恵の目からボタボタと涙が零れ落ちる。

自分は、普通の高校生として
日々楽しく過ごしていたのに。

どうして、こんなことにー

「おねがい…夢なら醒めてよ…」
奈美恵が、泣きながら呟く。

けれどー

これは、

夢などではないー

奈美恵は、数日後、
涙を流しながら世を去ったー。

これがー
憑依された挙句、捨てられた人間の末路。

憑依薬を開発したとある学者は言う。

もしも、あなたが誰かに憑依しようとしているなら
よく、考えてあげてほしい。
乗っ取られる側のことをー。

乗っ取られる側は、人生を奪われる。

その重みと、
解放されたときの苦しみを想像してみてほしいー

だからー
乗っ取った後はー

せめて、幸せにしてあげてほしいー

遊び終えた身体をそのままにするのではなくー
”廃棄”するかー
もしくは”染め上げるかー”

それが、せめてもの情けなのだからー。

とー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

”何十年も憑依されたあと”
突然目を覚ましたらどうなるのか…?
普段描かれない部分をあえて書いてみました!

毎日書いているので、たまにはこういう作品も…笑

小説
憑依空間NEO

コメント

  1. 飛龍 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    これは後味のわるい話ですね…
    学者のコメント、結論がおかしいですがw
    でも、染められた方が主観的には幸せだから良いのかな

  2. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    なんてダークな話…(大好きです)

  3. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > これは後味のわるい話ですね…
    > 学者のコメント、結論がおかしいですがw
    > でも、染められた方が主観的には幸せだから良いのかな

    ありがとうございます!
    憑依されていた子の悲劇をテーマにしたので、
    どうしても後味悪くなりますよネ…笑

    最後の学者は…おかしな人デス☆

  4. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > なんてダークな話…(大好きです)

    ありがとうございます~!
    憑依された後、その子がどう感じるのかを
    考えた結果、誕生したお話デス☆

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