過去に美少女に声を掛けられたことから、
命を救われた経験を持つ男ー。
彼は、憑依能力を使って、
過去の自分と同じように命を捨てようとしている人々を
助けようとしていたものの…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「き、き、昨日ー…ちゃんと思い留まってくれたはずなのにー
どうしてーーー????」
霊体として、宙を漂っている亮哉は
困惑の表情を浮かべながらそう言葉を口にしたー。
いじめを受けていた圭太が、自宅で自ら命を絶ってしまったー。
昨日、圭太のクラスメイトである萌愛に憑依して、
萌愛の身体で圭太に声を掛けて、思いとどまらせたはずなのに、
最悪の結末を迎えてしまったー。
「ーーどうして…」
亮哉はそう呟きながら、
その場から立ち去っていくー。
そしてー…
「ーあいつ、死んじゃったんだねー」
圭太が通っていた学校に向かうと、
昨日、亮哉が憑依した相手…萌愛が、友達に対して
そう言葉を口にしていたー。
「ーーあはははー、まさか本当にこんなことになるとは思わなかったけど」
萌愛の友達らしき子が、そう言葉を口にすると、
萌愛は笑みを浮かべながら言ったー。
「でもさー、手紙とか、そういうものは何もなかったみたいだし、
助かったよねー。
わたしたちのこととか、書かれてたら厄介でしょ?」
とー。
「ーーー!!」
その光景を、霊体として見ていた亮哉は困惑の表情を浮かべたー。
そうー、この萌愛も
圭太をいじめていたメンバーの一人だったのだー。
そうとは知らずに、萌愛に憑依、
”美少女の身体で声を掛ければ、僕みたいに死を思い留まらせることができるかもしれない”
と、行動してしまった結果、
圭太からすれば”いじめの張本人の一人が煽りに来た”ようにしか感じることが出来ず、
結局、屋上から退散して自宅で命を絶つ道を選んでしまったー。
圭太からすれば”わたしの目の前で死なないで。一人で死ね”と、
そう言われたように感じてしまったのだー
「ーここで僕が死んだら、迷惑ってことー?」
と、圭太が聞いた際に、
「ーーう~ん、まぁ、それもあるかな?」と、
萌愛に憑依している亮哉が答えた際に、
圭太は”だったら、家で死んでやる”と、そう決意してしまったのだー。
「ーーー僕はーー…」
亮哉は、かつての自分のように立ち直るきっかけになればー、と、
そう思って憑依を続けているー。
けれど、その想いは逆方向に作用する結果となってしまったのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーねぇねぇ、少しだけ話さないー?」
後日ー。
亮哉はまた、”死のうとしている男”を見つけては、
その男子と同じ学校に通っている女子高生・美香(みか)に
憑依して、そんな言葉を掛けていたー
「は、話すー?放っておいてくれー!」
その男子生徒はそう叫ぶー。
が、美香に憑依した亮哉は
「ー止めたりはしないから、独り言だと思って聞いてね」と、
そう言葉を口にするー。
あの日、真美から
悪く言えば”どうでもいい話”をされたことで、
亮哉は死を思い留まったー。
真美からすればきっと、ただの気まぐれだったのだろうし、
本当に、亮哉のことを助けようとしていたわけではないのだろうとは思うー。
ただ、それでも亮哉は
直接的に”死なないで”と言われるよりも、
ああいう、どうでもいい話を投げかけられたことが救いになったー。
美少女に声を掛けられたことが、救いになったー。
たぶんー、あの時、真美に
”死んじゃだめだよ!”みたいなことを言われていたら
”は?”となっていたと思うし、
”恵まれた立場にいるお前には分からないよ”と、
そう不満を抱いて、命を絶っていたかもしれないー。
声を掛けて来るのがー、
巨体のおっさんだったらー、どうだっただろうかー。
見た目で人をどうこう、なんてことはしたくはなかったけれど、
亮哉は、あの日、話しかけて来てくれたのが、
真美だったからこそー、
そして話の内容が、”直接的に死を止めようとする内容”じゃなかったからこそー、
こうして今、ここにいるー。
あの時の自分と同じように、死のうとしている人間を
救うために、
それだけのために、憑依の力を使っているー。
「ーーはぁー…わたしの悩みを聞いてくれてありがとうー」
憑依している美香の身体で、適当な愚痴を言い終えると、
そう言葉を口にしてから立ち上がるー。
が、自ら命を絶とうとしていた男は
少しだけ笑うと、言葉を続けたー。
「美香さー…俺を馬鹿にしてるのか?」
とー。
「ーーえっ…?」
美香に憑依している亮哉は一瞬驚くー。
そんな言葉が返って来るとは思わなかったからだー。
「バ…バカにしてるって?ど、どういうこと?
ぼー、わたしは馬鹿にしてなんかー」
美香の身体で、亮哉は慌ててそう返すと、
男は言ったー。
「俺が死のうとしてるのは、誰のせいだと思ってるんだ!!」
とー。
「ーーえっ…」
美香に憑依している亮哉が青ざめながら言うー。
すると、男はさらに続けたー
「お前のせいだっ!」
とー。
聞けば、男は、美香の恋人で
美香に”とても酷い裏切り”を受けて、
浮気された挙句に捨てられたのだと言うー。
亮哉がその話を聞いても、ゾッとしてしまうぐらいには
酷い内容だったー。
「お前のせいで、俺は死ぬんだー」
男はそう言うと、絶望の表情で言葉を口にしたー。
「ーーあんな仕打ちをして、死のうとしてる俺に
そんな風に話しかけて来て煽るなんてー
ーーー酷い女だな」
男はそう言うと、そのまま屋上から飛び降りようとするー。
「ち、ちがっ…ぼ、僕はー」
美香に憑依している亮哉は、青ざめながら慌ててそう言葉を
口にしたものの、その言葉が男に届くことはなかったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
亮哉は”憑依”を繰り返したー。
死を考えている相手に
”美少女”の身体で声を掛けるー。
それをすれば、
きっと相手を救うことができるはずだー、とー。
けれど、亮哉は”毎回”失敗していたー。
確かに、亮哉がそうなったように、
美少女から声を掛けられれば、
”死を考えている人間”のいくらかは、
考えを改める可能性は0ではないし、
実際に亮哉は、真美に言葉を掛けられたことで救われたー。
けれどー、亮哉は、誰も救えなかったー。
美少女に憑依して、死のうとしている相手に声を掛けても、
いつも、”憑依した子”こそが元凶であったりすることが多く、
結果的に、亮哉が憑依でエールを送ろうとした相手は
みんな、死んでしまっているー。
どうして、どうして、いつもそうなってしまうのかー。
「ー僕はー…僕は、ただ、救いたいだけなのにー」
亮哉は表情を歪めるー。
僕のように、死を思い留まって
大人になればー、いいこともきっとー…
「ーーーーー」
亮哉は、そこまで考えてふと自分の手を見つめるー。
霊体として漂っている亮哉ー。
しかし、よく考えたらー…
「ーーー…あれ…?僕は、ずっとー…霊体ー?」
亮哉は困惑の表情を浮かべるー。
憑依の力を手に入れて、美少女に憑依して
死のうとしている人にエールを送り、
助けようとするー。
亮哉はーー”それ”しかしていなかったー。
「ーーーえ…… あれ???」
自分の人生”それ”だけだったー。
「ーーーーー」
亮哉は呆然としながら、”当時”のことを思い出すー。
真美によって、死を免れた亮哉ー。
しかし、その1ヵ月後ー
「ーーてっきり、1週間ぐらいで死ぬと思ったんだけどー
あの子、なかなかしつこくてー。
ほら、わたしの目の前で死なれると迷惑だからー。
だから、あの時は適当な話をして誤魔化したんだけど
なんか、気に入られちゃったのか、面倒臭くて」
真美は、友達と廊下の影でそんな言葉を口にしていたー。
「ーあはは、真美ってば自己保身と面倒臭がりの塊だもんねー
表ではいつもニコニコしてるけど」
真美の”本当の姿”を知る親友がそう言葉を口にすると
真美は「それ、褒めてないし」と、そう言うと
「いじめを止めるのも面倒だし、いじめが起きてるのも面倒だし、
目の前で死なれても面倒だしー、
とにかく、あの子邪魔ー」と、真美はそう吐き捨てるー。
「ーーーわたしはただ、屋上で休んでたわたしの目の前で死なれたら
困るから、そう言いたかっただけなのに
あの子、何か勘違いしてずっと生きてるしー。
”わたしがいなくなったら勝手に死んで”って意味だったのにー」
真美は心底面倒臭そうにそう言葉を口にすると、
その友達は笑うー。
「ーああいう鈍い性格だから、いじめられてるのかもねー。
まぁ、わたしはいじめるつもりもないし、
いじめてるやつらも面倒臭いから、消えて欲しいけどー」
真美は”トラブルとか全てが面倒臭い”と、そう冷たく言い放つと、
「あ~、あの子もいじめてるやつらもみんな死んでほしいなぁー
わたしの見えないところで」と、そう付け加えたー。
その言葉を聞いてしまった亮哉はー
震えながらその場を立ち去ったー。
そして、その日の夜ー。
「そうだー…僕はー」
”霊体”として、憑依を繰り返していた亮哉はー、
無意識のうちに封じていた記憶を思い出したー。
僕はー、あの日、死ななかったけど、
そのあとー…あの子の真意を知ってー…
死んだんだー…。
「ーーーー」
呆然としながら空中を浮遊する亮哉ー。
亮哉は、憑依薬を使ったり、
何らかの憑依能力に目覚めて、ここにいるわけではないー。
死んで、成仏できずに幽霊となって
ずっとずっとずっと、憑依を繰り返して来たー。
けれど、”助けてくれたはずの真美の真意”を知って
自ら命を絶った辛い記憶を無意識のうちに封じ、
自分自身、”ちゃんと大人になって憑依能力を使って
過去の自分と同じように死のうとしている人たちを助けている”と、
そう思い込んでこれまで活動を続けて来たー。
「は、はははー…そうだー僕は、死んだんだー
結局、あのあと…ははー…はははー」
亮哉は悲しそうに笑うー。
憑依能力を使い、美少女に憑依して
自ら命を捨てようとしている人に”エール”を送り、
人を助けるー。
そうしようとしているのに、結果的に
助けようとした人が、自ら命を絶ってしまう結果に
いつも終わるのもそのせいー。
亮哉は自分でも分からないまま、
成仏できずに”怨霊”と化していて、
無意識のうちに、”自分と同じように命を絶とうとしている人間”を、
”自分と同じように”死なせようと、そうしてしまっていたー。
だからいつも、
命を絶とうとしている相手の”その原因となった人物”に
無意識のうちに憑依してしまい、
結果的にその人が命を捨てるのを後押ししてしまっているー。
命を捨てようとした男をいじめていた女に憑依したときもー、
酷い裏切りをした元カノに憑依したときもそうー。
亮哉自身は本気で”助けたい”と思っても、
無意識のうちに逆の行動をしてしまうー
そんな状況に陥っていたー。
亮哉は、これから先もどんなに人を助けようとしても、
助けられないー。
「ーーう…う、うわああああああああああああ!!!」
自分が生きていると思っていた亮哉ー
あの日、真美に助けられたと思っていた亮哉ー。
僕と同じような人たちを助けていると思っていた亮哉ー。
けれど、全部違っていたと思い知らされて、
亮哉は泣き叫ぶようにして悲鳴を上げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
「ーーあ、あの人ー」
亮哉は”また”命を絶とうとしている人を見つけたー。
そして、その人物を助けようと、
身近な美少女に憑依するー。
けれど、その美少女は、男にとっての”トラウマ”の張本人でー、
亮哉の行動はまた”裏目”に出てしまうー。
亮哉は「どうして…どうして…」と、
悲しそうに呟くー。
彼はまたー、
本当は自分はもう死んでいる、という”辛い過去”を
無意識のうちに封印して、
”人助け”を続けていたー。
亮哉はもう、10年以上も
”思い出しては、その記憶を封印する”を繰り返しているー。
永遠に、辛い過去を思い出しては絶望して
無意識でそれを封じるー…
そんな、悪夢のようなループを繰り返しているー。
彼は今日もまた、”誰も救うことのできないエール”を送り続ける…
”憑依”でー。
おわり
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コメント
題名から明るい話のように思わせておいて
実はとってもダーク…
そんなアイデアから思いついたお話でした~!
何の救いもない結末でしたネ~…!
お読み下さり、ありがとうございました~!☆
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