<憑依>ポゼッションエール①~言葉~

学生時代に自ら命を絶とうとしていた彼は、
クラスの美少女に声を掛けられたことで、
それを思い留まり、立ち直った過去を持っていたー。

そんな経験から、彼は憑依で”エール”を送り、
人を助ける活動を行っていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーーーーーーーーー」

両親はいつも喧嘩ばかりー
クラスではいじめられていて、
これと言った趣味もないー。

そんな彼ー、木戸 亮哉(きど りょうや)は
自ら命を絶つことを考え、
その日、屋上へとやってきていたー。

生徒の立ち入りは禁じられている学校の屋上ー
放課後にその場所へとこっそりとやってきた亮哉は
思わず自虐的に笑うー。

生まれて初めて、学校の”ルール”を破ったー。
まさかそのルールを破ったのが、”死ぬため”だとは、
自分でも思わなかったし、
まさかこんなことになるなんて、と、
思わず、笑いが込み上げて来てしまうー。

何故、自分はこれから死ぬのに
笑っているのだろうー。

亮哉はそんなことを考えてしまうー。
普通だったら、死ぬ直前に笑ったりはしないとは思うー。
でも、何だか笑いが込み上げて来てしまったー。

そんな、自分でも訳の分からない感情に
困惑する亮哉ー。

いや、きっと
”死ぬ前に笑ってしまうような精神状態”だからこそ、
自ら死を選択するのかもしれないー。

そんなことを思いつつ、
亮哉は屋上のフェンスを越えて飛び降りる準備を始めるー。

が、その時だったー。

「ねぇ、何してるの?」
そんな声が聞こえて来たー。

ビクッとして振り返ると、
そこでは、クラスの学級委員長の
三森 真美(みもり まみ)の姿があったー

真美は、同じ学年内でもトップクラスの美少女で、
本人は”わたし、可愛いでしょ?”みたいなタイプではないものの、
周囲からよく、かわいいかわいい言われているー。

明るく、友達も多いタイプの真美は、
亮哉にとっては雲の上の存在で、
必要以外にはほとんど話したこともないー。

そんな、存在だったー。

「ーぼ、ぼ、僕はー」
亮哉が困惑した表情を浮かべながら言うと、
真美はクスッと笑ってから、
「死のうとしてるんでしょ?」と、
そう言葉を口にするー。

「ーー……そ、それはー」
亮哉は青ざめながらそう言葉を口にするー。

すると、真美は
「ー木戸くん、いつも大変だもんねー。
 大佐田(おおさだ)くんたちにいじめられてー」
と、そう言葉を口にするー。

”大佐田”とは、亮哉をいじめている男子たちのリーダー格だ。

この真美自体は、そのいじめには関与していないものの、
特に助けたりしてくれているわけでもなく、
”無関係”という状態だったー。

「ーー……ごめんね。わたしも気持ちいいものじゃないんだけど、
 いじめを止めてあげられるほどの力はないしー、
 ー正直に言えば、わたしもいじめられたくないから」
と、真美はある意味素直に”いじめを止めようとしない理由”を口にする。

「ーーー…うん、いいよー。
 で、でも、その代わり、僕のこと、止めないでね?」
亮哉がおどおどしながら言うと、
真美は苦笑いしたー。

「止めないー。けどー、
 わたしからもその代わりなんだけど、わたしの話、聞いてくれる?」
真美がそう言うと、
亮哉は「ー説得とかは聞かないよ?」と、そう言葉を口にするー。

真美は少しだけ溜息を吐き出すと、
「説得はしないー。だって、木戸くんが決めたことに口出しできるほど
 わたしは親しいわけじゃないからー、
 木戸くんのこと、知ったような気になって”死んじゃだめ”なんて言えないし」
と、そう続けるー。

亮哉は少しだけ笑うと、
真美は言ったー。

「わたしね、学校で居場所がないの」
とー。

「ーーへ???」
亮哉は困惑しながら真美を見返す。

そして、”もうどうせ死ぬんだし”と思ったのか
「三森さんー、人気者の癖に、それはないよー」と、
不満そうに呟くー。

すると、真美は笑いながら、
「わたし、人気者になりたくないんだよねー
 本来のわたしってね、暗くて、ドライなのー。
 優しくもないし、冷たくもないー。
 人間に興味がないって言うかな」と、そう呟くー。

亮哉はその言葉を聞いて「あ~…それで僕のことも止めないんだね」と、
笑うと、
「ーうん。わたしって自己保身の塊だしー」
と、真美は言う。

その上で、真美は呟くー。

「ーーーいつもみんなの前にいるわたしは無理をしてるの。
 親の前でも、クラスのみんなの前でもー。
 明るくニコニコしてるわたしに、吐き気を感じながら
 いっつも耐えて耐えて耐えてー。

 ーー頭がおかしくなりそうだから、
 こうしていつも、立入禁止の屋上にこっそりやってきて
 誰もいない時間を楽しんでるって感じかなー」

とー。

「ーーー」
亮哉は、少しだけ戸惑いながら
「ーー三森さんが、そんな悩みを抱えてるなんて知らなかった」と
そう言葉を口にするー。

「ーー誰にも言ってないからねー
 親にも。
 でも、木戸くんはこれから死ぬみたいだし、
 言っても、誰にも広まる心配ないでしょ?」

真美はそう言うと、
亮哉は「ー三森さんの秘密を知ってるのは僕だけかぁ」と、
少しだけ照れ臭そうにするー。

「ーーー」
真美は少しだけ沈黙すると
「ーーじゃ。わたしが突き落としたって勘違いされると困るから、
 死ぬの、10分だけ待ってくれる?」と、
そう言葉を口にして、屋上から立ち去ろうとするー。

「ーーあ、あははー」
亮哉はそう言葉を口にすると、
真美は「よろしくー」と、そう呟いて
そのまま屋上の出口へと向かったー。

しかしーー

「ーーね、ねぇ、三森さん!」
亮哉がそう言葉を口にすると、
フェンスを再び乗り越えて、屋上の中へと戻って来るー。

「ーーー?
 ーー死ぬの、やめたの?」
真美は少し困惑した様子でそう呟くと、
「ーーーあ、あの……三森さんのことは誰にも言わないからー」
と、亮哉はそう言葉を口にするー。

「ーーあ~…別にそういうことは心配してないけどー、
 死ななくていいの?邪魔しちゃった?」
真美がそう言うと、亮哉は「邪魔って言うよりかはー」と、
そう口を開いてから、
「三森さんの、本音ー……なんか面白かったし、
 これからもそんな話が聞けたらいいなってー
 どうせ、僕、友達いないから、誰にも言うこともないしー」
と、そう続けるー。

そんな亮哉を見て、真美は少しだけ笑うと、
「ーーいいけど、木戸くんってそんなおしゃべりだったっけ?」と、呟くー。

すると亮哉は「あっー」と言葉を口にしてから
「どうせ死ぬんだし、キモイって言われてもいいやって思ってたらー」と、
いつもより口数が多かった理由を説明するー。

「あ~…なるほどー」
真美は、静かに頷くと、
「ーま、本心を吐き出せる相手がいると楽かもしれないしーいいよ」
と、そう言葉を口にしたー。

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そんな”過去”を思い出しながら、
大人になった亮哉は、”憑依薬”を手に、
ある活動を続けていたー。

それはー、”自分のように死のうと考えている人”を見つけては
身近な美少女に憑依し、”エール”を送るという活動だー。

亮哉はあの日ー、学年でもトップクラスの美少女ー、真美から
声を掛けられたことで、命を捨てることを思い留まったー。

あの時と同じように、
”憑依”の力を手に入れた自分にも、そういった形で
人助けをすることができるかもしれないー。

亮哉は、そう考えたのだー。

そして、亮哉はこの日もその活動を続けていたー。

「ー少し、身体を借りるよー」
放課後の高校の校舎内で、
偶然見かけた美少女の沼田 萌愛(ぬまた もえ)に
憑依すると、萌愛の身体でそう呟いてから、
学校の屋上へと向かって行くー。

この学校では、今、”いじめ”を受けて
命を捨てようとしている子がいたー。

その子の名前は、西本 圭太(にしもと けいた)ー

かつての亮哉のようにクラスの男子生徒たちから
いじめを受けていて、
日に日に、追い詰められつつあって、
彼は自ら命を捨てようとしていたー。

その圭太を止めるのだー。

あの時、真美が自分に声を掛けてくれなければ、
亮哉はあの日、自ら命を捨てていただろうー。
しかし、クラスでもトップクラスの美少女だった真美から声を掛けられて、
その真美の誰も知らない一面を知ることができて、
亮哉は死を思い留まったー。

「今度は僕が、人を救うんだー」
萌愛に憑依した亮哉は、そう言葉を口にすると、
屋上へ向かった圭太の後を追うー

圭太の”オーラ”を見る限り、
今日が山場だろうー。
”死を望むオーラ”が、圭太の背後に強く現れているー。
恐らく、このまま放っておけば
圭太は今日、この日、自ら命を捨ててしまい、
それで全ては終わるー。

そうなってしまうことを阻止するためにも、
亮哉は、萌愛の身体で屋上へと向かったー。

「ーーー西本くん!」
萌愛の身体で、そう叫ぶ亮哉ー。

屋上の端の方で、死のうかどうか、
そんなことを考えていた様子の圭太は
少し驚いた様子で振り返るー。

その姿が、萌愛に憑依している亮哉には
”あの時の自分”と重なったー。

「そこで、何をしてるの?」
萌愛として、そう言葉を口にすると、
圭太は「い、いやーそ、それは、そのー」と、
そう言葉を口にするー。

「ーー死のうとしてるんでしょ?」
あの時、真美に言われた言葉を、同じように萌愛の身体で口にする亮哉ー。

圭太は少し驚いたような表情を浮かべると、
「ーーーー…ほ、放っておいてくれよ!」と、そう言い返して来たー。

そんな圭太の言葉に、
萌愛は「どうしても死にたいと言うなら、止めはしないけどー」と、
そう言葉を口にした上で続けるー。

「ーでも、わたしの話、少しだけ聞いてくれるかなー?」
萌愛がそう言うと、圭太は険しい表情を浮かべながら、
萌愛の方を見つめたー。

あの日、亮哉は、”真美”の何気ない話によって救われたー。
亮哉が命を捨てようとしているのを”止める”わけではない、
本当に何気ない話によって、亮哉は救われたー。

あの日、真美から”命を捨てないで!”と、言われたら
どうしていただろうかー。
素直にその言葉を受け止められなかったかもしれない。

けれど、
”ただただ話す”という名のエールを送られたことで
亮哉はあの日、死を思い留まったのだー。

「ーー……ーーそんな感じでー、
 色々わたしも困っててー」
適当な雑談をしながら、そう言葉を口にする萌愛ー。

「ーーーー」
圭太はしばらくの間、萌愛の話を聞いていたものの、
やがて、ため息を吐き出すー。

「ーここで僕が死んだら、迷惑ってことー?」
圭太が不満そうに言うと、
萌愛は「ーーう~ん、まぁ、それもあるかな?」と
苦笑いするー。

圭太は今一度大きくため息を吐き出すと、
「分かったよー」と、それだけ言葉を口にして
立ち去って行ったー。

「ーーはぁ~~~~…」
萌愛は、圭太が飛び降りるのをやめて、
屋上から立ち去ったことに安堵すると、
その場に座り込むー。

「ーーー生きていれば、良いこともあるよー、きっと」
萌愛に憑依している亮哉はそんなことを口にしながら、
自分自身が死を思い留まったあとのことを思い出すー。

そして、すぐに首を横に振ると、
「ーーさて、これでOKかなー」と、そう言葉を口にしてから
萌愛は立ち上がると、
亮哉は、その身体からゆっくりと抜け出すのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その翌日ー。

「ーーーえ…」
亮哉は、霊体として浮遊しながら、
呆然としていたー。

昨日ー、”命を捨てようと”していた男子・圭太が
家で自ら命を絶っていたのだー。

彼自身の家でー。

「ーーえっ…そ、そんなー…
 ど、ど、ど、どうしてー?」
亮哉の霊体は、そう言葉を口にすると、
圭太の亡骸の近くで、困惑の表情を浮かべるー。

しかし、圭太はどう見てももう死んでいるー。

「き、き、昨日ー…ちゃんと思い留まってくれたはずなのにー
 どうしてーーー????」

かつての自分のように、命を捨てようとしている人を助けたいー、
そんな亮哉の想いは、
”憑依でエールを送る”亮哉を思いは、彼には届かなかったのだろうかー。

亮哉は戸惑いの表情を浮かべながら、
”その理由”を調べ始めたー

②へ続く

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コメント

明るい憑依のお話…と思わせておいて
ちょっと怪しい感じのお話デス~!!

②で何が起きるのか、何が隠されているのかは、
明日見届けて下さいネ~!!

続けて②をみる!

「ポゼッションエール」目次

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