”人を皮にして着る”ー。
そんな”乗っ取り”の手段は
着る側の人間のサイズの方が大きくても、
不思議な力で、着れば乗っ取った相手のサイズになることが多いー…
けれどー、彼が出会った”皮”の力は、そうではなかったー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
彼はーー
体重100キロ越えの巨漢だったー。
”人生は1度きり”
だからこそ彼は、
食べたいときに食べたいだけ食べ、
寝たいときに寝たいだけ寝るー、という堕落した
生活を送っていたー
”運動”なんてことも一切しないー。
人生は有限だから、”自分のしたくねぇことはしねぇ”と、
そんな開き直りにも似たポリシーを、彼は持っていたー。
そんな彼は、ある日、出会ったー。
”人を皮にする力”
とー。
「ーーマ、マジで他のやつの身体を乗っ取ることができるのか!?」
彼ー、
杉田 松五郎(すぎた まつごろう)が、そう声を上げるとー、
「ーーえぇ、その通りですー」と、商人風の男は
そう言葉を口にしたー。
「ーこの”人を皮にする注射器”を相手に打ち込めば
その相手はたちまち、”着ぐるみ”のようになります」
商人風の男はそう言葉を口にすると、
チラッと、付近を見つめるー。
そこには部活帰りの女子高生がひとり。
「ーーしばしお待ちをー」
商人風の男がそう言うと、女子高生の方に近付いて行きー、
容赦なく”人を皮にする注射器”を突き立てたー。
「ーえっ…?」
普通に下校していただけのその子が驚いた様子で振り返ると、
あっという間に身体中から”空気”が抜けていくかのように
ペラペラになって行きー、
やがて、その子は路上に崩れ落ちたー。
商人風の男は笑いながら”それ”を着ると、
今、歩いていた女子高生の身体を支配して、
「ほら、この通りですよー」と、ニヤニヤしながら自分の髪を
得意気に触ってみせたー。
「す、すげぇ…!」
松五郎が驚きと、興奮に目を輝かせながら
そう言葉を口にすると、
「そ、その注射器はいくらだ!?」と、
そう叫ぶー。
乗っ取った女子高生の身体のまま金額を提示する商人ー。
決して安い金額ではなかったものの、
幸いなことー…と、言えば良いのだろうか。
独身であった松五郎には十分な資金的余裕がありー、
商人から”人を皮にする注射器”をその場で購入するのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
”先日から、金倉 美沙(かねくら みさ)さんが
行方不明になっている事件で、
警察は公開捜査に踏み切りー…”
そんなスマホのニュースを見つめる松五郎ー。
「ーーーあの商人に乗っ取られた子だなー
”人を皮にする注射器”の商品説明のために
身体を乗っ取られちまうなんてかわいそうにー」
松五郎は小声でそんな言葉を口にすると、
スマホをしまってから、
「へへー」
と、ニヤニヤ笑みを浮かべたー。
松五郎が”人を皮にする注射器”を入手した数日後ー
松五郎は、下校中の二人組の女子高生を見つめるー。
そのうちの一人が、”乗っ取りたい身体”のようだー。
「ーじゃあ、また明日~!」
「うん!明美(あけみ)ちゃん、また明日~!」
そんな会話をする二人ー。
”へへー明美ちゃんって言うのかー”
松五郎は笑みを浮かべながら、”乗っ取る身体”の
ターゲットとして定めた明美のほうを見つめるー。
やがて、友達と別れて”明美”と呼ばれた子が
ゆっくりと歩いていくのを確認すると、
松五郎はニヤニヤとしながら、明美に近付いて行くー。
”人を皮にする注射器”
これさえあればーー
自分の人生を逆転させることができるー。
松五郎は思うー
”こういう可愛さも、色々努力して手に入れてるんだろうなー”
とー。
何事も、”努力”をしない道を選んで生きてきた松五郎ー。
松五郎は、明美の後ろ姿を見つめながら
”その努力ごと、俺が奪わせてもらうぜ”と、そう心の中で叫ぶと、
背後から容赦なく、その女子高生ー、明美に向かって
”人を皮にする注射器”を打ち込んだー。
「ーーーーーいたっ…!?」
明美が困惑した表情で振り返るー。
しかし、振り返ったときには
既に、明美の身体から力が抜けて、
まるで脱ぎ捨てられた着ぐるみのように、その場に崩れ落ちていくー
「ーーーぁ…」
何が起きたのかも分からないまま完全に”皮”になってしまった明美を
見つめながら、松五郎はニヤリと笑うー。
そして、皮になった明美を回収すると、
すぐ近くの人目につかない裏路地に入ってから、
ニヤリと笑みを浮かべたー。
「ーーへへへへ…これで俺が”明美ちゃん”ってわけだなー」
松五郎は、さっき、友達らしき人物と会話していた際に
明美が浮かべていた笑顔を思い出すー。
その声を、思い出すー。
それらが全て、自分のものになるのだと想像しただけで、
ドキドキも、ニヤニヤも止まらなくなってしまうー。
「ーーへへへへーさぁ~て、今日から俺が明美ちゃんだ!」
そう声を上げると、松五郎は嬉しそうに
皮にした明美を身に着け始めるー。
がー、
次の瞬間ー
ビリッ、と嫌な音がしたー。
「ーーあ???」
不思議に思いながらも、明美の皮を無理やり着ようとする
松五郎ー。
しかしー、さらにビリッビリッと、音が続きー…
気付いた時には、
「ーーーぁ…???」
明美は、”破れて”しまって、松五郎の身体の周りに、
切り取られた紙のようになって、パラパラと床に落下していたー。
「ーーな、な、なんだこれはー…?」
松五郎は不満そうにしながら、明美の皮のまだ残っている部分を手にして、
無理矢理身に着けようとするー。
しかし、さらにビリッと音がして、”明美の皮”は、
完全にビリビリに破れてしまった状態となりー、
もはや、とても”着る”ことができるような状況では
なくなってしまっていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーおい!クソ商人!これはいったいどういうことなんだ!?」
松五郎は、不満そうに声を荒げながら
”人を皮にする注射器”を売ってくれた際に
教えてもらっていた連絡先に連絡ー、
商人風の男にクレームをつけていたー。
”まぁまぁ落ち着いてー。
どんな子を乗っ取ろうとしたんです?”
電話の向こうから聞えてきたのは”女”の声ー。
松五郎は一瞬「俺に”人を皮にする注射器”を売ったやつを出せ!」と、
声を上げようとしたものの、
すぐに相手の”女”の声はー、
商人風の男が”見本”のために皮にして、
そのまま着ている女子高生の声であることに気付きー、
それは言わなかったー。
「ーーー…あんたがこの前乗っ取った、その子と似たような感じの子だよー」
松五郎は不満そうにしながら、早口でそう言葉を吐き出すと、
”あははーこの女と同じぐらいのサイズってことですか?”と、
乗っ取っている美沙の声で、商人風の男は半笑いで言ったー。
「ーーー何がおかしいんだよ!俺は高い金払って
”人を皮にする”ってやつ買ったんだぞ!」
松五郎がそう叫ぶと、
電話の向こうから”美沙”の声が聞こえて来るー
”いやぁー、ははー、ごめんなさいごめんなさいー。
ただー…それは当たり前のことじゃないですかー。
お客さんの身体の大きさで、そんなサイズの子を乗っ取ろうとしたら
破れて当たり前ですよ?
ー洋服だって、そうでしょう?
サイズの合わない洋服を無理に着ようとすれば破れるー。
そういうことです”
”美沙”の声でそう答える商人風の男に対して
松五郎は「ーーな…こ、こういうのって、着る側の体格に関係なくー
着れるんじゃー?」と、そう言葉を口にすると、
”美沙”は言ったー。
”そんなわけないじゃないですかー。
サイズが合わない子を着ようとすれば、破れますよ”
とー。
「~~~~~~~~~~~~」
松五郎は、思わず自分の身体を見下ろしたー。
自分の体重を今ほど恨めしいと思ったことはなかったー。
「つ、つまり、可愛い子を着たいなら、
皮にしたその子が破れないぐらいのサイズに
俺がならないとダメってことかー?」
松五郎がそう確認すると、
”えぇ、その通りですー”と、美沙を乗っ取っている商人は
そう返答したー。
「ーーーーーーー」
松五郎は”マジかー…俺が、可愛い子を着るには50キロー、いやもっと
減量しないとダメじゃねぇか”と、そんな言葉を口にするー。
そしてー、ふと、千切れた明美の皮が周囲に散らばっているのを見て、
松五郎は「お、俺が着ようとして破れた女はどうすれば?」と、
そう確認するー。
すると、美沙を乗っ取っている商人は笑いながら答えたー。
”あぁ、やらかしちゃった皮の破片は
そのままゴミに捨てて下さい。
捨てればバレませんから”
とー。
「ーー???」
松五郎は少しだけ首を傾げると、
「ー俺が乗っ取ろうとしたこの女は、元に戻らねぇのか?」
とー、そう確認するー。
”えぇー。破れちゃったらそれでおしまいです。
とにかく、ちりとりか何かで回収して、
ゴミに出してください。それでバレませんからー”
美沙の皮を着たまま、そう言い放つ商人ー。
その言葉に少しゾッとしながらも、
松五郎も「まぁ、いいかー」と、そのままバラバラになった明美の皮を
かき集めて、ビニール袋に入れると、
何食わぬ顔で、近くの自販機の側にあったゴミ箱の中に
放り投げたー。
何の罪もない明美はー、
意味も分からないまま、皮にされて
着られる際にビリビリに破けて、
しかもゴミに捨てられて、
実質上、死んだことにも気づかないまま
葬られてしまったのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
自分がしたことを大して悪いとも思わず、
松五郎は日々、ダイエットを続けていたー。
厳しい食事制限に運動ー、
やれる限りのことはしていくー。
今まで、どんな方法を試しても、
ロクにダイエットが捗らなかった松五郎ではあったものの、
皮肉なことに、”可愛いJKの身体を乗っ取りたい”という思いが、
松五郎を過酷なトレーニングへと走らせたー。
体重が100キロを下回るようになり、
さらに意地の減量を続ける松五郎ー。
1年近くかけて、
90キロ⇒80キロ⇒70キロ⇒60キロ⇒50キロと
体重を減らしていき、ついにはー
42キロまで体重を減らすことに成功したー。
「ーぐふふふふーさすが俺だぜ」
”そろそろいいだろう”
そう思いつつ、人を皮にする注射器を手に、笑みを浮かべると
そのままゆっくりと外に向かって歩き出すー。
このスリムな体形ならー…
流石にこの前みたいなことにはならないだろうー。
健康的なダイエットー、と言うよりかは
不健康なダイエットで、身体もガリガリだけど、
そんなことはもはや、どうでもいいー。
どうせ自分はこれから、”新しい身体”をついに手に入れるのだからー。
そう思いつつ、玄関の扉を開けた松五郎ー。
がー、
ちょうど、松五郎の家に向かっていた男二人と、
松五郎は鉢合わせをしたー。
「どこへ行くつもりだー?」
二人組の男の一人の言葉に、松五郎は少し表情を歪めるー。
”どこだっていいだろ?”と思いつつも、
”どちらさまですか?”と、そう確認する松五郎ー。
しかしー、その二人組の男の一人がー、
信じられないものを取り出したー。
”警察手帳”
「ーーーーぁ?」
松五郎が表情を歪めると、
警官の一人が言ったー。
「杉田 松五郎だなー?
殺人容疑で逮捕するー」
とー。
逮捕状を手に、
そう宣言した警察官ー。
「ーーえ…??え????」
松五郎は戸惑いながらも、そのまま手錠を掛けられてしまうー。
「ーーお、おいっ!俺は何もー」
松五郎がそう叫ぶと、
警察官は言ったーー
”1年前ー遺体を何らかの方法でバラバラにして、公園のゴミ箱に遺棄したー”
とー。
「ーー!!」
松五郎は表情を歪めるー
およそ1年前ー、
人を皮にする注射器を手に入れて、”明美”という子を皮にして
乗っ取ろうとしたあの日ー、
松五郎の体格が大きすぎたせいで、”ビリビリに破れて”しまった明美ー。
商人が”刻んでゴミ箱に捨てておけば大丈夫”と言っていたから
捨てた明美ーーー
そのー、”明美の遺族”と、警察の執念深い調査で、
約1年かけて、松五郎の犯行の証拠を警察は入手したのだー。
「ーーーーち、違う…お、俺は、た、ただー…皮をー」
松五郎が焦り切った様子で叫ぶー。
「ー何を言っている?いいから、来いー」
警察官に引っ張られていく松五郎ー。
”他人の身体を乗っ取るためにダイエットをした”男・松五郎は、
こうして警察に連行されていくのだったー。
おわり
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コメント
1話完結の皮モノでした~~!★
着る時に服が破れちゃう~~!なんて場面から
浮かんだお話ですネ~笑
お読み下さりありがとうございました~!★!
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