<憑依>妻は元アイドル~決着編~(中編)

元アイドルの妻が憑依されー、
それから長い時間、その家族は悲劇に見舞われたー。

その決着の時がついに訪れてー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「何事もなくて良かったー」
奈々子の部屋での騒ぎを聞きつけて駆け付けた
大家さんがそう微笑むと、
希海と奈々子が、それに反応するように頭を下げるー。

そして、大家さんが立ち去っていき、
希海は深く、深呼吸するー。

”10年以上も続いた”ー

そんな、長きに渡る悲劇を、
母・希海は、全て娘の奈々子に話そうとしていたー。

アイドル時代のファンだった男・上林憲彦ー。
彼に、10年以上も憑依された母・希海ー。

そして希海の身体に飽きたあの男は
希海を捨てて、娘の奈々子に憑依したー。

今度は奈々子の身体を自らの欲望のために
貪りつくそうとしたあの男はー
ついに、裁きを受ける時が来たー。

「ぅぅぅぅぁあああああ…消えたく…ない…
消えたく……ないぃぃぃぃ」

希海が手に入れた”憑依した人間を消すための薬”によりー、
奈々子に憑依していた上林憲彦はついに消えたのだー。

「ーーー…本当に…お母さんなのー…?
ここは…どこ…?」

困惑する奈々子ー

奈々子は”母との再会直後”に希海から奈々子に移動した
上林憲彦に憑依されてしまっており、
母・希海の記憶はほとんどない状態のままだったー。

「ーーー…本当に、今までごめんね 奈々子ー
わたしにー…奈々子に、
何が起きていたのか、全部話すからー」

希海のその言葉に、不安そうに思いながらも
奈々子が頷くー。

そして、顔を上げたその時だったー

「あっ!!!」
奈々子が驚いて声を上げるー。

「ーー!?!?!?」
希海が、そんな奈々子の反応に、反応しようとした時にはー
もう手遅れだったー。

背後から、ハンカチで口を塞がれる奈々子ー

「え…!?!?!?!?え…!?!?!?」
もがく希海ー。

希海を背後から襲った人物はーーー…
先程顔を出した大家さんだったー。

立ち去ったと見せかけて、奈々子の部屋に入りー、
そして、希海を背後から襲ったのだー。

「ーーな…何をするん…ですかー?」
希海が困惑しながら言うと、
大家さんは笑みを浮かべたー

「”僕の本体”消しちゃうなんて、許せないなぁ」
とー。

「ーー!?」
表情を歪める希海ー。

だが、有無を言わさずー、
大家さんは”紫色の唾液”が溶け込んだお茶を、
希海の口に無理やり押し付けて、
希海を押し飛ばしたー。

よろよろと倒れてもがきだす希海ー。

「ーあぁ~…奈々子ちゃんだったっけー?
ふぅ~よかったぁ
いざという時のために
この大家のババアに”分身”を憑依させておいてー」

大家のおばさんが笑みを浮かべるー

奈々子に憑依した上林憲彦はー
いつの間にか”更なる力”を身に着けていた

それがー
”自らの魂を分裂させて”
他の相手に憑依する力だー。

奈々子に憑依していた時にも、コップの中の飲み物に
”自分の分身”を吐き出していたようにー、
既に、このアパートの大家に”自分の分身”を憑依させていたのだー。

上林憲彦の”本体”は消えたー。

だがー、

「ーーあ…ぅぅ… ぁ… ぁぁああっ」
ビクンビクンと苦しむ希海ー

「お、お母さんー…
ど、ど、どうなってるんですか!?
こ、ここはーーどこ!?」

奈々子が怯えた表情で大家さんを見ると、
苦しんでいた希海がすぅっと立ち上がったー。

「ーーーククク…どうだいのぞみちゃんー
また、僕に乗っ取られる気分はぁ… ぐへへへへ」

ニヤニヤしながらよろめく希海ー。

「ーーひっ!?」
奈々子が恐怖を感じて、後ずさっていくー。

しかし、大家さんも希海も
ニヤニヤしながら奈々子の方に近付いてくるー。

自分の魂の一部を分離させて
他人に憑依することができるようになってしまった
上林憲彦にもはや怖いものはないー。

上林憲彦の本体は消えたー。

けれど、一度”コピー”されて拡散した
上林憲彦は、消えないー。

「ーーへっへへへへへへへ…
そんなに怯えんなって」

希海がニヤニヤしながら言うー。

「ーさっきまでお前は”僕”だったんだからー
また”僕”に戻ればいいんだよー」

大家さんが笑うー。

「ひ…… や、やめて…たすけて…」
壁際に追い込まれた奈々子が
命乞いをするかのように
弱弱しい声でそう呟くとー、
希海は、そのまま奈々子の方に近付いて
笑みを浮かべたー

「ーーお……お母さん……なんだよね…?」
奈々子が震えながら言うと、
希海は「そうよ~」と、ニヤニヤしながら言うー。

「ーでもごめんね~
お母さん、”奈々子の中身”には興味がないのー
お母さんが欲しいのは、奈々子の身体だけー

だから、お前は”邪魔”ー」

冷たい口調でそう言い放つ希海ー。

憑依されたり、解放されたりで、イマイチ状況を把握できていない
奈々子は、”やっぱりお母さんは、わたしを捨てたんだー”と、
解釈して、絶望してしまうー。

4歳の頃に家を出たという母ー。

何か理由があるのかな?とずっと思ってきたけれどー
やっぱりー

「ーーわたし、最低のお母さんでしょ?」
クスッと笑う希海ー。

そして希海は無理やり奈々子にキスをするとー
口の中から”自分の魂の一部”を分離させて
それを奈々子に憑依させたー。

苦しそうにもがく奈々子ー

けれどー
奈々子もやがて支配されー、
しばらくすると、ゆらりと立ち上がり、不気味な笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「遅いなー…」
夫の泰治は娘の奈々子を助けに行った妻・希海と、
奈々子に起きたことを知る由もないまま、
家で心配そうに希海の帰宅を待っていたー。

あの日、奈々子の中にいた上林憲彦を
奈々子の身体から追い出すことができたー、と、
そう思い込んでいた泰治は、
奈々子の一人暮らしも心から応援していたし、
まさか”まだ憑依されている”とは夢にも思っていなかったー。

優しすぎるのかー
警戒心が足りないのかー
どこか抜けているのかー

泰治自身は、家族に対してとても優しいし、
穏やかな性格だー。
いざという時には、以前、奈々子が憑依されていた際に
それに立ち向かったように、
困難から逃げ出さずに立ち向かうだけの勇気も持っているー

だが、しかしー
どこか泰治は抜けているー。

だからー
10年以上も妻・希海が憑依されていることに気付かず、
一度は離婚してしまったし、
今も奈々子が”まだ”憑依されていることに
気付くことすらできていなかったー。

「ーーー」
時計を確認すると、心配になった泰治は
妻の希海に連絡を入れるー。

既に晩御飯は一人で済ませているため、
ご飯を作ってほしい、とかそういうことではなく、
単純に希海のことを心配していたー。

”もしもしー…?”
希海が電話に出るー。

「ーあ、希海!よかったー
思ったより遅いから心配になっちゃってー」

泰治がそう言うと
希海は”あ~ごめんね、今、奈々子の家に来ていて”と、
返事をするー。

「あ、そっちに行ってたのか~
ならそう書いておいてくれればよかったのに」

笑いながら言う泰治ー。

”ふふふ ごめんごめんー
あ、それでね、今日は遅くなっちゃったから
こっちで泊まっていこうと思うのー

だから、帰りは明日になると思うー
それでも、大丈夫?”

希海のそんな言葉に、
泰治は「あぁ、大丈夫だよ」と、頷くと、
少しだけ気になったことを口にしたー

「希海ー、なんかさっきから少し息が荒くないかー?」

純粋な心配だったー。

その言葉に、”上林憲彦の分身”に憑依されている希海は
すぐに答えたー

”家の整理整頓してたら息切れしちゃってー
わたしももう、おばさんだねー”

そう苦笑いする希海に対して、
泰治は何も気づかないまま「はは…あんま無理すんなよー」と
答えて、そのまま雑談を交わしー
そして、通話を終了したー

「ーーくくく…バーカ!」
スマホを放り投げた希海はニヤニヤしながら
娘の奈々子と抱き合っているー

「ーへへへ 電話の向こうで
わたしとお母さんがエッチしてるなんて
夢にも思ってないんだろうねぇ~?」

奈々子が言うー。

”両方とも中身は上林憲彦”ー
そんな状態の母と娘ー

「ーそれにしてもお母さんってば、
ずいぶんババアになっちゃってー
アイドル時代の栄光もなくなっちゃったねぇ~」

ニヤニヤする奈々子ー

「ふふふふ~わたし、劣化しちゃったぁ~♡」
嬉しそうに言う希海ー。

「ーへへへへ…でもまぁ、のぞみちゃんにはのぞみちゃんなりに
使い方もあるし、僕の身体の一つにしてあげるんだぁ
へへへ…

ほら、声はアイドル時代のままだしー」

希海が言うと、
奈々子も「へへへ…確かぃ…」と、
希海と同じような笑みを浮かべるー。

上林憲彦の分身に憑依された希海と奈々子は
二人とも”上林憲彦そのもの”と言えるような
醜悪な存在に変わり果ててしまい、
一晩中、欲望のためにお互いの身体を弄んだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー。

「ーーただいま」

希海が帰宅するー

「ーお、お帰り!奈々子は元気にやってたか?」
泰治がのんきにそんなことを言うと、
希海は「えぇ、とっても」と、意味深な笑みを浮かべたー。

「ーーそっか~それは良かった」
泰治がそう呟きながら、朝食の片づけをしていると、
希海はその後ろ姿を見つめながら笑みを浮かべたー。

「ーーー(またここで”三人”で暮らすってのも面白いかもな)ー」
邪悪な笑みを浮かべる希海ー。

あの時ー
奈々子に憑依していたあの時ー、
泰治に追い詰められて、上林憲彦は”奈々子のフリ”をし続け、
一人暮らしを始めるまで、大人しくしている必要が生じてしまったー。

しかし、状況はあの時とは変わったー。

あの時の上林憲彦は
”身体の乗り換え”は出来てもそれ以上のことはできなかったー。

けれど、今は違うー。

今は”自分の分身”をいくらでも作り出して、
何人にでも憑依することができるー

そう、”こいつを黙らせることぐらい”
とても、簡単なことなのだー。

「ーーーーーー昨日はごめんね
急に1泊してきちゃって」

希海が言うと、
泰治は「いや、いいよ」と笑うー。

「今日はちょうど休みだったし、家のことも色々とやっておいたからー」
泰治のそんな言葉に、
希海は「ありがとう」と言いながら
台所の方に向かうー

そしてー、
何気ない会話をしながらー
希海は、泰治に背を向けたままー
凶悪な笑みを浮かべたー

”クククーお前も今日から上林憲彦だー”

2つのコップの中に冷たいお茶を注いでいく希海ー

”二人で何気ない会話を”と装いつつー、

「ーーーうぷっ…」
希海はニヤニヤしながら、自分の口から
紫色の唾液ー…

自分自身ー
”上林憲彦”の分身体を吐き出して、
それをお茶の中に溶け込ませるー。

紫色の液体はお茶の中に入ると同時に
まるで身を隠すかのように、
その中に溶け込んでいくー。

「ーーククククー」
ニヤニヤと笑みを浮かべる希海ー。

”いつもいつもいつも僕の邪魔をしやがってー
大体お前は、前から気に入らなかったんだー

僕からのぞみちゃんを奪った
”どろぼう”だもんなー”

希海はそんなことを思いながら
「ーーはい」と、振り返って、笑顔を浮かべながら
お茶の入ったコップを差し出すー。

「ありがとう」
何も知らずー、
それを受け取る泰治ー。

まさか、”娘の奈々子”が憑依されたままだとは夢にも思わずー
そして、今、上林憲彦の分身体に再び希海が
憑依されてしまっているとも思わずー…

”ーーーさァ、飲めー”

希海がにこにこしながら泰治のほうを見つめるー。

泰治がコップを手にするー。

”僕の勝ちだー!
のぞみちゃんも、その娘も、みんなみんな、僕のものだ!!!”

希海は心の中でそう宣言すると、
勝ち誇った表情で泰治のほうを見つめたー

<後編>へ続くー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

次回が「妻は元アイドル」の終着点デス~!
それ以上の〇〇編はありません~☆!

どのような結末を迎えるのか、
ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、
それとも…?

ぜひ<後編>も楽しんでくださいネ~!

今日もありがとうございました~!

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憑依<妻は元アイドル>

コメント

  1. 匿名 より:

    こうなりましたか。予想では執念で薬の効果に耐えて消滅を免れるとかの展開になると、思ってたので分裂してたのは予想外でした。 
    それにしても娘に酷く誤解されたままの希海が本当に不憫ですね。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆★

      娘からすれば、母親のイメージは
      最悪の状態のままですネ~…!

      あと1話でどうなるのか、ぜひ見届けて下さいネ~!