＜憑依＞妻は元アイドル③～独占～（完）

アイドル時代のファンの男に憑依されてしまった妻ー。

事情も分からないまま離婚を突き付けられた男は、
娘と共に、ただ困惑することしかできなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

希海が、現役復帰を表明したのは、
それからすぐのことだったー。

SNSを始めて、
可愛らしい写真を大量に載せ始める希海ー

”のぞみ”として再び活動を開始し、
当時のファンたちは、予期せぬ復帰に驚き、喜んだー。

”みんな～！のぞみだよ♡”

嬉しそうに笑顔を浮かべる希海の姿を
生配信で見つめる泰治ー

”いったい…どうしてしまったんだー…”

離婚を突き付けられたあと、希海の両親にも連絡を取り、
状況を確認したものの、希海の両親も事情を知らず、
困惑していたー。

その後、希海の両親も希海に連絡を取ってくれたようだったが、
”わたしは、アイドルだもん！”を繰り返し、
話が通じない様子だったというー。

「ーくそっ…いったい、何が起きてるんだー」

泰治は、希海と接触しようとしたものの、
どうすることもできず、
娘の奈々子が強くショックを受けていて、
身動きも取れない状態になってしまっていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーぐふふふふふふふ♡」

夜ー
”アイドル”としての立場を利用して
アパートを借りた希海は、笑みを浮かべながら
自撮りを繰り返していたー

「のぞみちゃんが、ぜ～んぶ僕のものだー」
ニヤニヤしながら涎を垂らす希海ー

「ーのぞみちゃんの髪も、顔も、声も、おっぱいも、
　足もー指も、ぜんぶ…ぜんぶ…
　ひひっひひひひひひひひひ♡」

顔を真っ赤にしながらゲラゲラと笑う希海ー。

もはや、今の希海に夫や娘のことなど、
頭の片隅にもないー。

「ー上林さん…いつも、のぞみを応援してくれて、ありがとう♡」
希海に憑依している憲彦は、笑みを浮かべながら
希海に”自分への感謝の言葉”を口にさせるー

「ーお礼に、のぞみのぜんぶを、見てほしいな…♡」
甘い声を希海に出させて、激しくゾクゾクしながら、
奇妙な笑い声をあげて、自分を抱きしめるー

「あぁぁ…のぞみちゃんは最高だー♡　へへ…えへへへへへ…♡」

憲彦自身が元々着ていた
”のぞみちゃんLOVE”と書かれたシャツを身に着け、
ニヤニヤと笑みを浮かべる希海ー。

「ーー大好きだよ…♡　大好きだよ…♡
　は～～～大好き…♡」

憲彦が大好きなポテトチップスをボリボリと希海の手で
食べながら、スナック菓子を掴んで汚れた指を
ペロペロと舐めるー

「ーーのぞみちゃんの…指…♡」
ペロペロと何度も何度も舐め続けると、
笑みを浮かべながら、「のぞみちゃああああああん！」と、
一人、奇声を上げたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”えへへへへ…お前たちにも”のぞみちゃん”を分けてやるー”

現役に復帰した希海は、
引退前ほどの人気を得ることは、もうできなかったものの、
それでも、当時高い人気を誇っていたアイドルが
現役復帰ということで、かなりの話題にはなったー。

20代後半になっても、やはり希海はかわいいー。
かつてのファンたちが集まり、ミニライブイベントでは、
希海が嬉しそうに歌を熱唱していたー。

だがー
そこにー
夫の泰治はいたー。

「ーーー…希海！！！」
ライブイベントが終わると、すかさず希海に声を掛ける泰治ー。

今日は娘の奈々子を、両親に預けて
こうしてここに来ているー。

奈々子の側にずっといてあげたかったが、
それでは、事は解決しない気がしたし、
解決しなければ、”お母さん…”と奈々子はいつまでも立ち直れないー。

一緒に連れて来ることももちろん考えたー

けれどー
奈々子を余計に傷付けてしまう可能性を考えて
ここには連れて来ることができなかったー。

「ーーーあれ？あいつ夫じゃね？」
「ー離婚された夫！」
「ーーー酷いよなぁ」

ファンたちが小声で呟くー

「まだ離婚してない！」
泰治がファンたちに反論すると、
壇上に上がって、希海のほうを見つめたー

「いったい、何を考えてるんだ！
　奈々子も、ご両親も、悲しませて！」

泰治が叫ぶー。

希海は腕組みをしながら、
マネージャーらしき人物に
「追い出して」と呟くー

「おい！何なんだ！ふざけるな！希海！
　君は…君はこんなことする人間じゃなかったはずだ！」

泰治が必死に叫ぶー

「せめて！せめて理由を教えてくれ！
　どうして、どうしてなんだ！」

二人の男に腕を掴まれながらもそう叫ぶ泰治ー

希海はそんな泰治を無視して
「みんなは、あんなストーカーになっちゃダメだからね♡」と、
甘い声で囁くー

”ストーカー扱い”されて、激しいショックを受けた泰治は、
男を振り払って希海の方に近付くー

「ーーーーー！」

泰治が、怒りの形相で手紙を差し出すー。
娘の奈々子や、希海の両親が書いた手紙だー。

みんな、希海の豹変に心を痛め、必死に希海に
呼びかけようとして、それぞれ手紙を書いてくれたー。

だがー

「ーーーこれ、捨てといて」
希海がマネージャーの男にそれを手渡すー

「ーーな…何でだよ…！せ、せめて読んでやってくれ！
　奈々子…　奈々子は毎日”お母さん”って泣き続けてるんだぞ！」

ライブ会場の照明が色とりどりの光を発する中、
希海は、笑みを浮かべるー。

「ーーそんな子、知らないー」

「ーなんだって？」
泰治は思わず聞き返すー。

「ーー君が…君が生んだ子供だろ！？
　なんでそんな酷いことー」

「ーーーふふ…
　だって、いらないんだもんー」

馬鹿にしたように笑う希海に対して、
泰治は怒りを露わにしたー

「ーーーふざけるな！！！
　俺は…俺はいい…
　希海が気に入らなかったなら、理由は分からないけど、
　俺のことはどう思ってもらってもいいー

　でも、でも、奈々子にまでー
　奈々子にまでそんなこと言うのはー」

「ーーあ～～～～～～～～」
希海はイライラした様子で頭を掻きむしると、
「のぞみ、そんな子いらな～い♡
　奈々子奈々子奈々子うるさ～い！」
と、小馬鹿にした態度を取る希海ー

「ーそんなに奈々子奈々子奈々子ってうるさいならー
　自分で育てればいいじゃん。
　わたし、そんなやつ、いらないから」

その言葉に、泰治の心は、完全に折れてしまったー

目に涙を浮かべて、歯ぎしりをしながら
「君は、最低だー…」
と、言い放つー。

「ー君は…そんな人じゃなかったはずなのにー
　今の君は、最低だー。
　アイドルとして、今後成功したとしてもー
　俺は君のことをずっと軽蔑し続けるーー」

悔しそうに泰治が言葉を振り絞ると、
希海は「うふっ♡」と、だけ笑うと、
「離婚届、ちゃんと書いてよね！」と、
泰治の頬を馬鹿にしたように指でつついて、
そのままファンたちの方に視線をずらしたー

「みんな～！お邪魔虫が乱入したけど、
　今日はありがと～♡」

希海はそれだけ言うと、ファンたちの歓声に
包まれながら、そのまま会場を後にするー

「ーーー君は最低だ…！俺は絶対に許さないからな！」
泰治が泣きながら叫ぶと、
希海は、ニヤニヤしながらその場から立ち去って行ったー

「あ～～～あ、夫に嫌われちゃったぁ♡
　ふふふ…これで、のぞみちゃんは、僕たちファンのものだ♡　
　えへ」

希海は関係者用の通路を歩きながら、
嬉しそうに笑みを浮かべたー。

だがー
”誤算”が生じたー

泰治の行動が、”希海に憑依した憲彦の描く未来”を壊したー

「ーーーーーー」

”のぞみちゃんLOVE”と書かれたハチマキとシャツを着たまま
希海は自宅で歯ぎしりをしていたー。

”のぞみちゃん、ちょっと幻滅したわ”
”さすがに旦那さんと娘が可愛そうだよな”

ネット上に、そんな声が上がり始めていたー。

泰治が乱入したライブイベントは
熱狂的なファンだけが集まるような
小規模なイベントだったがー
その中にも、”希海の態度に疑問を抱く人間”がいたのだー。

熱狂的なファンも、憲彦のような人間ばかりではないー。
良識を持った人間は当然、たくさんいるし、
”大好きなアイドル”が相手であっても、悪いことを悪いと言える
人間は、たくさんいたー。

”ーそんなに奈々子奈々子奈々子ってうるさいならー
　自分で育てればいいじゃん。
　わたし、そんなやつ、いらないから”

そんな、希海の言葉がネット上に拡散されているー

”アイドル復帰の”のぞみちゃん”まさかの暴言”

そんなニュースにもなってしまっているー

「ーくそっ！僕の邪魔をしてっ！」
希海は怒りの形相で、ポテトチップスの袋を投げつけると、
何度も何度も爪をガリガリと齧りながら、
怒りの形相を浮かべたー

やがてー
騒動は大きくなり、事務所から契約を解除されたー。

契約を解除されたあとの会見では
「ーうるさい！！！邪魔をするな！！！」と、
逆ギレする希海の姿まで映し出されてしまったー。

「まぁいいやー…これで、のぞみちゃんは僕だけのものだー
　僕だけの、のぞみちゃんだー」

解雇された希海はニヤニヤしながらそう呟くー

毎日、家でコスプレを楽しんだり、
エッチなことを繰り返したり、
欲望のままに”希海”を堪能したー

「僕は…♡　僕は…えへへへへへへ…」
乱れ切った希海は、満面の笑みを浮かべながら、
そう呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーおかえり」

夫の泰治は、希海と正式に離婚をしたー。
親権は、希海側が放棄しているため、
泰治が持ち、今は奈々子と二人で暮らしているー

希海との家族写真は、ほとんどを処分したー。

奈々子も辛そうだったし、
泰治は、心底希海に失望してしまったー。

あんな人ではなかったはずなのにー
急にどうしてしまったのだろうー。

契約解除後に、週刊誌に撮影された写真では
逆ギレして中指を突き立てている希海の姿もあったー。

希海のあまりの豹変に心を痛めつつも、
泰治は”きっと、俺の見る目がなかったんだろうなー”と、
希海のことを心底嫌悪していたー。

どんなに信じていても
どんなに好きだった相手でも、
あんな振る舞いをずっとされ続ければ
その信頼は絶たれてしまうー。

「ーーお父さん～！これ見て～」
希海が豹変してから数か月ー
奈々子は次第に立ち直ってきているー

「ん～？お～すごいなぁ～」
幼稚園で描いたという絵を見せられて
泰治は微笑みながら、奈々子の絵をほめるー。

仕事は在宅も交えながら
なんとかこなしているー。

”この子には、俺しかいないんだー”
泰治は、希海という母親に裏切られた奈々子を
何とか守って行こうと、強い決意を固めていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーは～～～～♡　たまんねぇ…
　すげぇ…　のぞみちゃん…えへへへへ♡」

希海は、部屋でAVを見ながら笑みを浮かべていたー

事務所から解雇された希海は、
その後、AV業界デビューを果たして
”元アイドル・のぞみちゃん　衝撃のAVデビュー”と、
少しだけ話題になったー

憑依された希海は今、
少し前に撮影した”自分のAV”を見て、
一人、お楽しみをしている最中だったー

「えへへへ…僕がのぞみちゃんをAV女優にしたんだ…♡
　えへへへへへへ」

”のぞみちゃんの身体で、のぞみちゃんのAVを見て、
　のぞみちゃんの身体でイクー”

最高だぜー
と、笑みを浮かべながら、希海は一人、絶頂を迎えて
満面の笑みを浮かべるー。

「はぁ…はぁ…♡　僕だけののぞみちゃんー
　えへ…　えへへへへへー♡」

”堕落していく希海”ー

乗っ取られている本人に、
もしもー
”意識”が残っているのだとしたらー
今の自分を見て、彼女は何て言うのだろうかー。

それはー
希海に憑依して、好き放題している憲彦にも、
分からないことだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから時は流れー
娘の奈々子は、高校生になったー

奈々子に弁当を持たせて、
泰治は「さて、俺も仕事に向かうか」と、
仕事に向かう準備をしながら、
ふとテレビを見つめるー

”AV女優の長野　希海さん逮捕”

「ーーーー」
そんな、ニュースが流れているー

どうやら、違法なモノを所有していたことで、
逮捕に至った様子だったー

「ーーー…」
あきれ果てた様子で、泰治はため息をつくと、
「ーーー君は、本当に最低だよー」
と、寂しそうに、呟いたー

”真相”を知ることもなくー、
彼は、希海のことを心底軽蔑しながら、
テレビを消して、職場に向かい始めたー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

最終回でした～！☆
ダークに突っ切った憑依モノでしたネ～！

ちなみに、①のときと③の最後で希海のフルネームが違うのは、
泰治と離婚が成立したためデス～！

お読み下さりありがとうございました～！