元アイドルの妻が憑依されー、
家族は、壊れたー。
その果てに待つ家族の行く末ー。
”妻は元アイドル”
その、最後の物語ー…。
※「妻は元アイドル」シリーズの最終シリーズデス!
過去の作品は⇒こちらからご覧ください~!
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”絶望”の扉は開かれたー。
「ーー希海(のぞみ)ちゃんー
君は今ー、
”パンドラの箱”を開いたんだー」
静かにそう呟く女子大生ー
彼女は、元アイドルである希海の娘・奈々子(ななこ)ー
奈々子は現在、実家を出て
一人暮らしを初めているー
がー、
そんな娘の家に、今日は母親の希海が遊びに来たのだー
母親が、実家を出た娘の家を訪れるー。
別に、これ自体は特別なことではないー。
しかしー
「ーー急に遊びに来たから、びっくりしちゃったよ~」
奈々子は、そう言いながら
母の希海を部屋の中に迎え入れるー。
希海は”まだ”憑依されたままの娘を取り戻すためー
そして、奈々子は”憑依に気付いた母親”を今度こそ完全に”排除”するためー。
普通の母と娘の関係ではない
親子の対面ー
それがまた、新たな地獄を生みだそうとしていたー。
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父・泰治(やすはる)は、仕事を終えて帰宅すると、
ふと、妻である希海がいないことに気付いたー
「希海ー…?
あぁ、そういえば今日は用事があるから遅くなるかも
しれないって言ってたっけー」
そう呟きながら、泰治は仕事帰りの片づけを終えると、
家族写真を見つめたー
泰治と、希海ー
そして娘の奈々子ー
柚本家は、”悲劇”の連続だったー。
奈々子が4歳のころ、
妻で、元アイドルの希海は、
アイドル時代のファンの男・上林憲彦(うえばやしのりひこ)に
憑依されてしまいー、
娘を捨てて、家を飛び出し、AV女優としてデビューし、
さらには法律に反する行為を行い、最後には逮捕されてしまったー
それから、10年以上もー
泰治と奈々子は”希海が憑依されたことに気付かず”
父と子、二人で支え合い、生活してきたー。
しかしー、
少し前ー、
憲彦が、希海の身体が老いたことで興味を失い、
希海を開放、その娘である奈々子に憑依したことで、
”真相”を、泰治たちは知ったー。
最終的に泰治は、奈々子に憑依した憲彦を追い詰めー
奈々子は無事に正気を取り戻したー
…はずだったー。
泰治と希海は10年以上の時を経て誤解を解き、再婚ー。
娘の奈々子も解放されて、大学生になったタイミングで
一人暮らしを始めたい、と、自立への第1歩を踏み出したのだったー。
だがー、夫の泰治は気づいていなかったー。
娘の奈々子は”まだ”憲彦に憑依されたままである、ということをー
あの時、追い詰められた憲彦は”奈々子のフリをして大学生になるまで耐え”
一人暮らしをし始めたら、やりたい放題をするー、という方針に
転換したー。
その結果ー
”どこか抜けている”性格の泰治は、簡単に騙されてしまったのだったー。
しかしー
母の希海の方は見逃さなかったー
何故なら、彼女自身も憲彦に憑依され続けてきたのだからー。
言葉では言い表すことはできないけれどー、
”憲彦の気配”を奈々子の中から感じたー。
そしてー
希海は”憲彦”を追い出す方法をついに見つけてー
今日、こうして奈々子の家に遊びに来たのだったー
「ーお母さん、今、飲み物入れるから待っててね~!」
奈々子が微笑みながら台所の方に向かい、
飲み物を入れるー。
「ーーーー」
希海は険しい表情を浮かべるー
”憑依されている間”は、
まるで夢のような、幸せな光景を希海は
ずっと見続けていたー。
自分が、憑依されている自覚のできないままー。
脳が”憑依されている”という悪夢のような現実から
逃げるかのように、
憑依されている10年以上、希海は幸せな光景を
繰り返し、繰り返し何度も見て来たー。
きっとー
奈々子も、今、同じ状況に陥っているー。
だからー
早く助けてあげないといけないー。
一方、母・希海に背を向けた奈々子はー
数秒前までの笑顔が嘘かのように、冷たい表情を
浮かべていたー。
奈々子は、ニヤリと笑みを浮かべると、
”コップの中のお茶”に、
自分の涎を垂らしたー。
紫色の謎の涎ー。
それがコップの中に入りー
すぐにお茶の色と同化して、消えていくー。
「ーークククー
のぞみちゃんー
もう一度”僕”になろうねぇーククー」
奈々子はそれだけ言うと、
コップを2つ手に持ち、
母・希海が待つ方へと微笑みながら向かって行くー。
一方の希海はー
”あるもの”をこの部屋に持ってきていたー
娘の奈々子を救うためには
どうしたら良いのかー。
あの時ー
父・泰治が極限まで奈々子に憑依した憲彦を
追い詰めても、結果的にはー
憲彦は奈々子から出て行くことはしなかったー。
つまりー
”どんなに力づく”で追い詰めても、
上林憲彦が自分の意思で奈々子から
出て行くー、と言う可能性は低いー。
では、どうするのかー。
希海は”自分がなぜ憑依されたのか”を
徹底的に調べたー。
アイドル時代の人脈も何もかも、
利用できるものは徹底的に利用し、
上林憲彦の個人情報も何もかも調べ尽くしー、
そして、”憑依薬”と呼ばれる存在にたどり着いたー。
上林憲彦が希海と、奈々子に憑依する際に
使ったと思われる薬だー。
上林憲彦は、怪しげなサイトから憑依薬を購入していたー。
希海はその痕跡をさらに辿りー、
憲彦に憑依薬を売った”組織”にたどり着き、
”何の目的で作られたかは知らないけど、
憑依薬の解毒剤のようなものがあるのではないか”と
考えたー。
例えばー
”良い目的”で使おうとしてるなら悪用された場合のための
”備え”が必要だー。
”悪い目的”でー、
例えば犯罪組織などが他人に憑依して人質にするような目的で
使われているとしても、やはり”交渉材料”として
憑依状態を解消させるような、そんな薬が必要なのではないかと
希海は考えたー
”10年”ー
それだけの長い間、憑依されていた希海だからこそ
希海は執念深く、何とかして奈々子を助けようと、
そう考えて行動したー。
その結果ー
ついに希海は、手に入れたのだー。
”憑依された奈々子”を救い出すためにー
”憑依した人間”を消し去るための薬をー。
その薬は憑依薬を開発した組織が開発した薬で
”人体の中に潜む他人の意識”を、消滅させる力を持った薬だったー。
”別人の意識”を身体にハッキリと”外敵”だと認識させ、
それによる免疫作用で、体内のウイルスと同じように、
駆逐するー、とか、なんとか説明されていたー。
これを手に入れるために、希海は法律の範囲内で
あらゆる手段を使い、
そして今日、奈々子の家にいるー
夫の泰治には、伝えなかったー
”泰治にはもう、これ以上迷惑かけられないからー”という
希海の優しすぎる性格ー
それ故に、希海は、泰治に”まだ奈々子は憑依されている”ということを
言い出すことはできなかったー。
”クククー”
一方の奈々子は、笑みを浮かべながら
お茶の入ったコップを2つ、机に並べるー。
奈々子に憑依した上林憲彦はー
いつの間にか”更なる力”を身に着けていたー
憑依薬で憑依能力を手に入れてから
長年経過したことによる変異だろうかー
”自らの魂を分裂させて”
他の相手に憑依する力を手に入れたのだー。
奈々子が先ほど吐き出した紫の液体はー
”上林憲彦の分身”ー
これを飲めばー、希海は憲彦に憑依されるー
憲彦の分身に憑依されて、憲彦そのものになるのだー。
”ククククー
のぞみちゃんー
いつまでも僕の邪魔をするならー
娘と一緒に、僕になろうやー”
奈々子がニヤッとしながら希海のほうを見つめるー。
そう、心の中で思いながらー。
しかしー
「あ、わたし、あまり喉乾いてないから
少ない方がいいなー」
希海はそう言いながら、奈々子の方に置かれた
コップを手にすると、希海は自分の前に置かれた
コップを手にしてー、
お互いのコップを交換したー
「ーー!!!」
奈々子が表情を歪めるー。
希海が”何かに気付いた”のか、
それともー”偶然”かー
「ーーーー…」
奈々子は交換されたコップを見つめながら
顔を上げて言葉を呟こうとしたその時だったー
「ーーー奈々子の身体を返してー」
希海がそう言い放ったー
”やはり気づかれていたか”
そう思いながら、奈々子はにやりと笑みを浮かべるとー
「お母さんー何のこー」と、言葉を言いかけたー。
がーー
希海は突然、コップの水を奈々子の顔面にかけると、
そのまま奈々子の腕を掴みー
持っていた薬を無理やり奈々子の口の中に放り込んだー
「なっ…むぐっ…!?」
奈々子に憑依していた上林憲彦は驚くー
咳き込みながら床に伏せると、
希海が「ーーいい加減、わたしたち家族を壊さないで!」と叫ぶー。
奈々子は苦しそうに席をしながら顔を上げー、
希海のほうを睨むー。
「ーーな…な… お母さん…? な…何を…?」
奈々子はそう言いながらも、急激に身体の感覚が
抜けてー”自分が薄れていく”感じを覚えて、
大声で叫んだー
「ーのぞみぃぃぃぃぃぃ…僕に何をしたぁああああああ!」
鬼のような形相で叫ぶ奈々子ー。
「ーーーー…」
希海は答えないー
アイドル時代の迷惑なファンー
上林憲彦には、もう何を言っても分かり合うことはできないー
そう、理解したからー。
何を言っても上林憲彦が
希海に10年間憑依して、そして娘の奈々子にまで数年間
憑依した事実を変えることはできないし、
上林憲彦が反省することもないー。
だから、希海は答えなかったー
只々、”軽蔑のまなざし”を向け続けることしか、
しなかったー。
「ーーーお前は…!お前は、”また”僕を裏切るのか!!!
僕は、のぞみちゃんのことが大好きで、大好きで、大好きだったのに!
アイドルを勝手に引退して、知らない男と結婚してー…!
僕は…
僕はあああああああ!!!!」
怒りの形相で叫ぶ奈々子ー
「ーーアイドルは友達でも恋人でもないー。
夢を壊すようだけど、アイドルは商売なのー」
希海は、消えゆく上林憲彦に対して、そう言い放ったー
「ーぅぅぅぅぅうあうあぁああぁああああ…」
苦しそうに声を上げると、
奈々子の身体のまま、無理やり立ち上がって、
上林憲彦は、台所の方に向かおうとするー。
「きりっ… きざんでやるー…
きり…きざんでやるー!」
奈々子がそう呟きながら
台所にたどり着くと、
キッチンに置かれていた包丁を手にしようとしたー
「僕のものにならないならっ…
のぞみちゃんーも、 この女もー
いらないー
ぜんぶ…ぜんぶぅぅぅぅぅ」
そこまで言うと、奈々子は崩れ落ちるようにして
その場に倒れ込んだー
包丁を手にすることはできなかったー
「ぅぅぅぅぁあああああ…消えたく…ない…
消えたく……ないぃぃぃぃ」
それだけ呟くと、奈々子の身体から紫色の液体のようなものが
漏れだしてー
そのまま蒸発するようにして、それは、消えたー。
「ーーー奈々子…!奈々子!」
希海が倒れ込んだ奈々子に慌てて駆け寄りー、
奈々子の名を呼ぶと、
奈々子は静かに目を覚ましたー
「ーーー……」
ビクッと震える奈々子ー
”憑依されていない母・希海”と話をするのは、
4歳の頃以来だー。
奈々子からしてみれば
希海は”家を捨てて出て行ったお母さん”であり、
再会したと思ったら”訳の分からないことになって身体を奪われた”
相手でありー、
怯えるのは当然だったー
「ー奈々子…ごめんね… 本当に…ごめんね」
怯える奈々子に対して、そう言葉を投げかける希海ー。
奈々子は「ーー…わ…わたしは…いったい…?」と、
見慣れない部屋で意識を取り戻したことに
困惑の表情を浮かべると、
希海はそんな奈々子に対して、
「ー全部…全部、説明するから、落ち着いて聞いてー」と、
順を追ってこれまでの出来事を話すことを約束したー。
「ーー大丈夫ですか!?」
鍵を閉めていなかった玄関から、
アパートの大家さんが顔を出すー
「すごい物音がしたものだからー」
大家さんの言葉に、希海は「あ、はいーすみません」と
頭を下げると、
大家さんも「何事もなくてよかったー」と、微笑むー。
そしてー、
希海は”10年以上に渡る悲劇”を、
全て奈々子に話そうと、奈々子のほうを見つめて
口を開いたー。
<中編>へ続く
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コメント
暴走したファンとの決着…!
中編以降では一体…何を描くのでしょうネ~?(なぜか他人事コメント笑)
続きはまた次回(土曜日枠の作品なので、また来週になります)の
お楽しみデス~!
コメント
今のところ、憑依から解放されて、ハッピーエンドみたいな感じですが、ここの小説は簡単にハッピーエンドになる程、甘い展開の物はそうはないんですよね~。まだ前編ですし。
恐らく、中編から良からぬことになる可能性は大でしょう。
コメントありがとうございます~!☆
何が起こるかはまだ言えませんが、
2話残ってますネ~★笑