<憑依>妻は元アイドル②~豹変する妻~

アイドルを引退し、
現在は夫と娘の二人と暮らしている
元アイドル・希海。

しかし、そんな希海の元に
アイドル時代のファンの男がやってきて…!?

・・・・・・・・・・・・・・・

「え…?迎えに来ていない?」
仕事を終えた泰治は、娘・奈々子が通っている
幼稚園の先生からの連絡に
困惑の声を上げたー

「ー分かりました。ちょうど仕事も終わりましたので
 今からすぐにそちらに向かいますー。
 ご迷惑おかけして申し訳ありません」

希海の夫・泰治はそう謝罪の言葉を口にすると、
すぐに幼稚園に向かうために車を走らせたー。

”希海、体調でも崩しちゃったのかな”

娘の奈々子のお迎えを急にできなくなってしまった
事情が何かあるのかもしれないー。

だが、車に乗り込む前にスマホを確認した限りでは、
特に希海からの連絡も来ていなかったー。

”連絡もなしに、娘を迎えに行かないー”

希海は、そんなことをする人間ではないー。

「ーー何かあったのかー…?」

途端に心配になる泰治ー。
急病かー…事件かー…
そんな、嫌な予感まで頭をよぎるー。

そうこうしているうちに奈々子の幼稚園に
到着した泰治は、すぐにスマホを確認するが、
希海からの返信はなかったー。

先程、電話もかけたがそれにも応答はないー。

「ーーー」
強い違和感を感じながら、まずはー、と
幼稚園の中に入っていき、幼稚園の先生たちに
頭を下げながら、奈々子の元へと向かうー。

「あ、お父さん!」
少し寂しそうにしていた奈々子が、
父・泰治の姿を見つけると同時に嬉しそうに
笑顔を浮かべるー

「ははは ごめんな奈々子ー遅くなっちゃってー」
泰治が言うと、奈々子は”おかあさんは?”と、
心配そうに聞いてきたー

それはまぁ、当然の疑問だー。

「ーお母さんは、ちょっと急に風邪を引いちゃってなー」
泰治が笑いながらそう言うー。

それが、一番娘の奈々子に伝わりやすいと思ったし、
仮に違う理由だったとしても、
奈々子を心配させないようにするためには
これが一番だと思ったー

「そっか…!じゃあ、わたし、お母さんを手伝う!」
無邪気に言う奈々子ー。

「はは えらいぞ。俺もしっかり手伝わなくちゃな」

泰治はそう言いながら、今一度
幼稚園の先生たちに頭を下げながら
「どうも、ありがとうございましたー」と、言葉を口にして、
そのまま奈々子を乗せて、車を走らせたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅した泰治は、車を入れながら、
家の電気はついていることを確認したー。

希海と連絡が取れないー。
そして、娘の奈々子を迎えにも行かず、
幼稚園にも連絡を入れていないー。

もちろん、人間、急に調子が悪くなったりすることはあるし、
こうして代わりに迎えに行くことには何の不満もないー。

だが、何一つ連絡がないことは、”とにかく心配”だったー

♪~~~~

♪~~~~~

♪~~~~

「ーーー!?」
泰治は、家の中から大音量の音楽が
流れてきていることに気付くー。

「ーなんだ、この音ー?」
不思議そうに首を傾げる泰治ー。

「ーーなんか、聞こえるね」
娘の奈々子が言うー。

「ーーー…これは」
泰治は、その曲に聞き覚えがあったー

これは、妻のー
希海のアイドル時代の曲の一つだー。

「ーーーー」
泰治は、さらに異様な雰囲気を感じ取って、奈々子に
「ちょっとここで待ってて」と、頭を優しくなでるー。

「うん!待ってる!」
幸い、奈々子は何の疑問も抱かずに、
素直に泰治の言葉に応じてくれたー。

泰治は車から降りると、家の玄関の方に向かっていくー

「ーーーー!!!」

そしてー
玄関の扉に近付くと、さらに”異変”に気付いたー。

”家の中から希海の歌声”が聞こえるのだー。

「ーー希海ー…?」
不安そうにしながら、玄関の扉を開けると、
家の中は散らかっていてー
リビングからは、
希海の現役時代の曲が聞こえてくるー。

”自分がアイドルだった時のもの見るのってなんだか恥ずかしくてー”

そんな風に言っていた希海は、
自分の現役時代の曲を自分で聞くことはしなかったし、
自分の写真とか、そういうものも見ようとしなかったー

別に、嫌なことがあって引退したとか、
そういうことでもないのだが、
単純に”アイドル・のぞみ”としての自分を見るのが
恥ずかしかったようだー。

「ーーの…希海ー…」

しかしー
リビングにいたのはー
アイドル時代の衣装と思われるものに身を包み、
可愛らしい振りつけをしながら、
自分の曲を熱唱している希海の姿だったー。

「ーーーの、希海ー…な、何してるんだー?」
泰治は思わず困惑してしまうー

希海はちょうど歌を歌い終えるとウィンクしてから
「ーーのぞみだよ~♡」と、笑いながら手を振ってきたー。

「ーな…な… な…ど、どういうことー…?」
泰治は思わず困惑してしまうー

「ー…な…奈々子の送り迎えはー…?
 い…いや、今日は俺が行ってきたからいいんだけどさー」

泰治が困惑しながらそう呟くー。

すると希海はクスッと笑ったー

「ーわたしに夫とか、娘とか、そんなのいらないー
 だってわたし、のぞみだもん!」

希海はそう言うと、ニヤニヤしながら台所の方に向かうー。

”ーへへへ…のぞみちゃんはあんたのものじゃないー
 俺たちファンのものなんだぜー”

そんな風に思いながら、台所付近に置いてあった紙を手にするー

希海に憑依した憲彦は
”のぞみ”の熱狂的なファンー

だから、希海の所属していたグループの曲は
全て暗記しているし、
希海が一人で歌った曲に関しても、全て暗記しているー

歌詞だけではないー。
振りつけも、全てだー。

そしてー
希海の身体自身にも、現役時代の勘のようなものが
しっかりと刷り込まれていたー。

そのため、憲彦は、
現役時代の希海そっくりの歌を披露することができたのだー。

「ーえ」
夫の泰治は、思わず変な声を出してしまったー

突き付けられたのは
”離婚届”

「ーーえ……」
泰治は、意味が分からず困惑するー

今まで喧嘩も一度と言っていいほどしたことがなかったし、
最近も何かもめたつもりはないー。
家事を押し付けてまかせっきりにしたこともないし、
むしろ進んで色々とサポートしてきたと思うー。

浮気も当然ないし、娘との関係も当然悪くないー

頭をフル回転させて、
離婚届を突き付けられてしまった原因を
必死に考えようとしたものの、
どんなに、どんなに考えても、
その理由は分からないままだったー

ゴクリ、と唾を飲み込んでから
「え…こ、これは…いったい、どういうー?」
と、泰治はやっとの思いで声を振り絞ったー

「ーわたし、アイドルだもん!
 夫なんて、いらない
 さっさと別れて」

そう言うと、希海は離婚届に記入をするよう、
泰治に促したー

「ちょ…ちょっと待ってくれ!い、いきなりどうしたんだー!?
 奈々子はどうなるー?」

泰治からすれば
”全く思いあたることのない”
意味不明な希海の行動ー。

「奈々子ー?
 あぁ、”この女”のガキかー」

希海が小声でそんなことを呟いたー

「え…今なんて?」
ハッキリと聞き取れなかったことー
そして、あまりにキツイ言葉に、それが現実とは
受け止められなかったことから、
泰治が聞き返すと、
希海は「子供なんて、別にいらないから、いいよ、あげる」と、
笑みを浮かべながら答えたー

「ーな…な… なんてこと言うんだ!?」
思わず語気が少し強まってしまうー。

希海に対して怒りを感じたことはー
今までほとんどないし、
声を荒げたこともないー

だがー
娘の奈々子を”いらない”と言われたことで、
泰治は初めて希海に対して怒りを覚えたー。

「ーーほら、次の曲が始まるから、どいて」
希海はそう言うと、ポーズを決めながら
再び踊り出そうとするー

「おい!ちょっと待て!」
音楽を掛けているプレイヤーの電源を切ると、
不満そうな表情を浮かべた希海に向かって
「奈々子がいらないってどういうことなんだ!」
と、叫ぶー。

「ー奈々子は今、外で”お母さん”って、心配しながら
 待ってるんだぞ!?」

とー。

「ーーだ~~か~~ら~~ い・ら・な・い!
 わたし、アイドルに戻ることにしたの!
 ふふっ♡
 だって、わたしの身体は、ファンのためのものだもんー」

笑顔でそこまで言うと、
希海は急に真顔になってー

「あんたのものじゃない」
と、憎しみの感情をぶつけてきたー。

「ーーど…どうしたんだ急に…!?の、希海!?」

「ーーうるさい!”のぞみちゃん”を独占することなんて
 絶対に許さない!」

希海の目には”憎しみ”の色が浮かび上がっていたー
とても、ふざけているような目には見えないー

「ーーーわたしの邪魔はしないで」
希海はそれだけ言うと、再び音楽を掛けて、
自分の歌を嬉しそうに熱唱しながら、
踊り始めるー。

「ーお…おいっ…!」
泰治は困惑することしかできなかったー。

いったいー…
どうなっているんだー?

とー。

希海の現役時代も知っている泰治から見ても、
動きは現役時代そっくりー。

今更、急にアイドルとして活動を再開したくなったとでも言うのかー?

”へへへ…最高だぁ…これこそのぞみちゃんだー…”

”のぞみ”の熱狂的なファンである憲彦はー
”希海の身体”さえあれば、希海として振る舞えるぐらいに
歌も、振り付けも、何もかもを”暗記”していたー。

もちろん、憲彦本人がそれを歌って踊っても
周囲からは”キモい”と言われるだけだろうー

しかし、今は違うー
”アイドル・希海”の身体を、自分自身が持っているのだからー

「ーー僕なら、のぞみちゃんの身体を、
 ちゃんとした形で使うことができるー…
 こんな男の妻としてではなく、アイドルとしてー…
 僕たちファンの夢と希望としてー」

ニヤニヤしながら小声でそう呟くと、
父が戻ってこないことを心配したのか、
娘の奈々子が家の中に入ってきてー
「お…お母さん…!?」と、
不安そうな表情を浮かべながら叫んだー。

「ーーな、奈々子ー」
奈々子が家に入ってきてしまったことに
戸惑いながら、泰治は「希海!」と、声を上げるー

「ーーうるさい!のぞみの邪魔をしないで!」
希海が怒りの形相で叫ぶー。

「ーーー…」
家の中も荒れ果てた雰囲気で、
いつも希海がやっているようなことも、何もしている様子がないー

「の…希海…わ、悪かったー
 希海はずっと、アイドルとして復帰したかった…ってことかー?
 だったら、気づかなくて悪かった!

 だ、だから、まず、落ち着いてくれ。話し合おうー…」

学生時代、よく”お人よし”などとも言われていた泰治は、
希海の異様な行動に対しても、そう言い放つー

だが、希海はピースしながら嬉しそうに決めポーズを決めて
ノリノリで熱唱を続けているー

「おかあさん…?」
娘の奈々子の目に涙が浮かぶー

母親の”おかしな姿”に困惑しているのが見て取れるー

「な、奈々子ー だ、大丈夫だからー
 お母さん、ちょっと今ー、そのー
 発表会の練習をー」

泰治は戸惑いながら、娘の奈々子にも伝わりそうな理由で
咄嗟に説明をしようとするも、
奈々子はついに泣き出してしまったー

泣き出す娘も無視して、希海は「じゃ、そういうことだから。離婚ね」と、
だけ泰治に言い放つー

「ーー希海ー…い、いい加減にしてくれ!
 何なんだ!?急に!」

流石の泰治も、ついに怒りを覚えて、希海に対して言い放つー

「ーふふふ…
 わたしはもう、人妻でも、そのガキの母親でもないのー
 わたしは、ファンのみんなを喜ばせるアイドルの女の子なの」

希海はそれだけ言うと、「の…希海…」と、
怒りを超えて困惑してしまった泰治を無視して、
家の外に出て行こうとするー

「ーーお、お母さん!」
奈々子が泣きながら母親である希海の手にしがみつくー

「ーーじ・ゃ・ま!」
希海はそう言うと、奈々子を突き飛ばして
下品な笑い声を上げながら家の外へと出て行ってしまうー。

「ーーおい!希海!」
泰治が叫びながら、希海を追いかけようとするー。

だが、突き飛ばされた娘の奈々子が泣いているのを見て、
奈々子を置いて希海を追うことはできなかったー

「ーー奈々子…大丈夫、大丈夫だからな」
泰治はそう言いながらも
”妻の突然の豹変”に、混乱することしかできずー、
その身体は、あまりの出来事に恐怖と怒りと、混乱ー
色々な感情が混ざり合い、小刻みに震えていたー。

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

次回が最終回デス~!

作中で「希海」「のぞみ」の表記があるのは、
アイドル時代は”のぞみ”の名前(表記)で活動していたため、
希海に憑依した男が名前を呼ぶときや、アイドル時代の
描写では「のぞみ」表記になっています~!☆
(本名は”希海”のほうですネ~ ※読みは同じデス!)

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憑依<妻は元アイドル>

コメント

  1. 匿名 より:

    憑依人のしたこととはいえ、母親に突き放された幼い娘がかわいそすぎる。
    妻が憑依されたりする話はこういうダークな展開のが多いですね。

    • 無名 より:

      続けてありがとうございます~!☆

      子供からしたら、理由も全く分からないですし、
      苦しいですネ~…!

      妻が憑依されると、どうしてもそうなりがちデス~!