<入れ替わり>わたしは物語の中に ~また、あの世界へ~ 第4章

物語の登場人物と再び入れ替わった加奈ー

”魔物の襲撃”という重大な局面を
騎士エミールに伝えるも、
襲撃を防ぐことはできず…!?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーそ…そんな…姫様…」
”物語の中”の主人公・エミールが表情を歪めていると、
魔界呪術師・ゼドによって洗脳されてしまった
リゼット姫が笑みを浮かべたー

「ーエミール…あなたも”こっち側”に来なさいー。
 わたしと一緒に、ゼド様に忠誠を誓うのよ」

リゼット姫の高圧的な口調に
エミールは困惑するー。

「ーーエ…エミール様!」
オディロン(加奈)がエミールに声をかけるー。

状況は最悪だー。
”本来”ラスボスとなるはずだった魔界呪術師・ゼドは、
物語の終盤で、圧倒的な力でエミールたちと敵対するー

そうー
ゼドは”かなり強い”のだー。

しかし、この場にはエミールしかおらず、
しかもリゼット姫は洗脳されていて、
その上、大型の骸骨の魔物もいるー。

この魔物も終盤でエミールに倒される魔物だが、
そこそこの強敵で、作中でエミールは苦戦するー

「ーーーひ…姫様…王国の…王国の民たちはどうなるのですか!」
エミールがたまらず叫ぶー。

しかしー
リゼット姫は笑みを浮かべたー。

「ー人間共の平和など、わたしの知ったことか!」
とー。

リゼット姫にそのような言葉を口走らせて
邪悪な笑みを浮かべる魔界呪術師のゼド。

オディロン(加奈)は
「エミール様!ここは一旦ー…!」と声をかけるー。

リゼット姫は、”本来の物語”であれば、
洗脳されて一時敵対することになるものの、
最終的には、”洗脳から解き放たれて正気を取り戻す”

だから、ここは一旦撤退をー、と
オディロン(加奈)は、そうエミールに伝えようとしたー。

騎士・オディロンの身体はそれなりに鍛えられているー。
本来のオディロンなら、エミールとの敵対関係はさておき、
戦おうと思えば戦えたはずだー。

だが、今のオディロンの”中身”は加奈ー。
身体は鍛えられていても、剣を握ったこともない彼女に
戦えるはずもないー。

「ーリゼット!」
エミールが”幼馴染”としてリゼット姫に向かって叫ぶー。

「ーークククー愚かな人間ー。
 ゼド様に歯向かうのならー
 わたしがここで、始末してあげるー」

だがー
リゼット姫には、エミールの叫びは届かなかったー

剣を構えて、魔界呪術師ゼドから与えられた闇のオーラを
身にまとい、エミールの方に向かってきたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー…」
魔物と”内通”している騎士長・ベランジェが
牢獄にやって来るー。

「ーおい!!!誰か!さっきからなんか聞こえるぞ!」
囚われている山賊・ガストンが牢屋の中から叫ぶー。

「ーーおや」
騎士・ベランジェがその声に立ち止まると、
ガストンのほうを見つめながら
「ーお前は確か、エミールが捕まえた山賊ー」と、
笑いながらガストンのほうを見つめたー。

「ーー王宮の方で何が起こってやがる!?」
ガストンが乱暴な口調で騎士・ベランジェに対して
確認すると、ベランジェは
「お前のような罪人に答える必要はないー」と、
そのまま地下牢の奥の方へと向かっていくー。

地下牢の奥には、
ベランジェしか知らない秘密の抜け道が用意されており、
そこを通じていつも、城から抜け出し、
魔物たちに”情報提供”を行っているー。

騎士・ベランジェはかつて
王国内の権力闘争で父親を失っており、
ずっと、人間たちを憎んでいたー。

”姫の幼馴染”というだけで、
周囲から疎まれていた
騎士・エミールに対しては一定の理解を示していたのは
”自分の過去の経験”があるからだー。

しかし、それとこれとは別ー。
騎士・ベランジェが人間たちを憎んでいることには
変わりなかったし、魔物たちに情報を流して、
王国を滅ぼそうとする意志にも、当然、変わりはなかったー。

「ーーおい!待てよ!」
無視されたガストンが牢屋の中から叫ぶー。

だが、ベランジェは相手にしないー。

しかしー
ガストンは、そんなベランジェに対して、ある言葉を呟いたー

「ーー聞けよ!この世界は”本”の中の世界だ!!」

「ーーー?」
ベランジェが振り返ってガストンのほうを見つめるー。

「ー俺は”この先の展開”もある程度知ってるー!
 お前にそれを教えてやる!
 だから取引だー!」

ガストンの言葉に、騎士・ベランジェは
しばらく考えるような表情を浮かべたあとにー
「ーーどうせ戯言だろうが…
 この先の展開を知っていると言うのであれば
 教えてもらおうかー」と、
ガストンのほうを睨むようにして見つめたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「くくくくっ!ゼド様に逆らう愚か者め!」
リゼット姫が剣を振るいながら、
容赦なくエミールに襲い掛かるー

「エミール様!」
オディロン(加奈)が叫ぶー

”わ、わたしに何かできることはー?”

正直ー
”この場面”で洗脳されたリゼット姫と敵対してしまった場合、
この先の展開がどうなるのか、オディロン(加奈)には分からないー。

本来は一度、リゼット姫は連れ去られて、
後日、魔物を率いて王国を襲撃するのだー。

その通りの展開で進めば、リゼット姫は
エミールの必死の呼びかけと”作戦”によって
解放されるー。

しかしー
今、こうしてー
”連れ去られる前”に洗脳されたリゼット姫と
対峙してしまっているー。

本来であれば、このあと、中盤以降に活躍する巫女と出会い、
そのキャラと一緒に、リゼット姫を正気に戻すのだが、
その巫女の子が、まだ”いない”

この状況ではリゼット姫を正気に戻すことができないー

「ーエミール様!ここは一旦!」
オディロン(加奈)が撤退を提案しようとするー。
事情を説明すれば、エミールも分かってくれるー、
そう、信じてー

だがー

「貴様の相手はこの俺だー」
巨大な骸骨のような魔物がオディロン(加奈)の
前に立ちはだかるー

「ーー!!!」
オディロン(加奈)は、何とか骸骨の魔物の攻撃を避けるも、
「ちょ…ちょっと待って!」と、悲鳴を上げるー。

加奈は、現実世界で格闘技なんて学んでいないし、
剣術も学んでいないー。
現役の騎士の身体であっても、
”何も分からない”加奈では戦うことができないー

「ーしまった!」
洗脳されたリゼット姫を前に、
熱くなっていたエミールも、咄嗟にオディロン(加奈)の危機を察知して、
オディロン(加奈)を助けようとするー

しかしー
骸骨の魔物の大剣がオディロン(加奈)に向かって振り下ろされてー

「ーーーー!」
”骸骨の魔物”が突然動きを止めたー

「ーーー!」
魔界呪術師のゼドも表情を歪めるー。

外から”聞いたこともないような轟音”が響いたのだー

「なんだー…?」
魔界呪術師ゼドが周囲を見渡すー

エミールも、あまりに異様な音に困惑しながら
王宮広間から少し先にある外を見渡すことのできる
バルコニーに出るー。

オディロン(加奈)もそのあとに続くとー

「ーーな、なんだこれはー…!」
エミールは、空を見上げながら、表情を歪めたー

王国全体が燃えているー

いやーーー
違うー

”空が”
世界そのものがー、燃えているー。

轟音を立てながら、空に”この世の終わり”かのような
炎が広がっているー

「ーど…どういうことだー?
 貴様ら!何をした!?」
エミールが後から外の様子を見に来た
魔界呪術師ゼドと、骸骨の魔物のほうを見て叫ぶと、
ゼドは先ほどまでの冷静さを少し失った様子で
「ー知らぬー…何が起こっているのだ!?」と、
困惑の表情を歪めたー。

洗脳されたままのリゼット姫は、人形のように横に
立ち尽くしたままー

「ーーこの炎では、民が全滅してしまうー…!」
エミールはそう呟くと、洗脳されたリゼット姫のほうを見つめながら
「ーー必ず、元に戻すからー」と呟き、
そのまま王宮の外に走っていくー

残された魔界呪術師のゼドは、
呆然とした様子のまま、炎に包まれた空を見上げるー。

「これはー…なんだ…
 王国が燃えているのではないー…
 空が…空が燃えておるー…」

自らを”闇を支配する者”と称している
魔界呪術師のゼドですら、その表情を歪めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・

「ー私にもう、過去など必要ないー」
加奈(オディロン)は笑みを浮かべながらー

燃やしていたー

”本”をー。

エミールが活躍する物語が描かれた本に火をつけてー
加奈(オディロン)は笑っていたー。

「ーククク…さらばだ…我が過去よー」
加奈(オディロン)は両手を広げて
嬉しそうに笑い始めるー

「ふふふっ…ははははははははっ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーこれはいったいどういうことなんだ!?」
民が逃げ惑う中、エミールが叫ぶー

オディロン(加奈)は「分かりませんー」と首を横に振るー。

少なくとも、”本来のこの物語”には、
世界が炎に包まれるような展開はなかったし、
こんな風に”世界そのものを燃やし尽くすような”
能力を持つキャラクターはいなかったー。

「ーーーもしかしてー」
オディロン(加奈)は、ハッとして立ち止まるー。

燃えている空を見上げるー。
さらに”地獄”のようー。

まるで”世界の外側”から
この世界そのものに炎が放たれたかのような、
そんな、異様な光景ー

「もしかしてー…わたしになったオディロンが、
 この世界ー
 ”本”に何かしたのかもー…?」

オディロン(加奈)が困惑の表情で呟くと、
「ーーそ、それはどういうことだー…?」と
エミールが戸惑いながら立ち止まるー

「ーわ、分かりませんー
 あくまでわたしの憶測なのですけどー…
 もし、もしもわたしになったオディロンが
 ”本”に何かしたのならー」

オディロン(加奈)が震えながら言うー。

逃げ惑う民たちー。
炎の勢いはさらに増し、火の粉となって
地上に降り注いでいるー。

炎が降り注ぐ中ー
オディロン(加奈)のほうをエミールは見つめたー

「ー言ってくれー。覚悟はできてるー」
その言葉に、オディロン(加奈)は
「エミール様…」と呟くと、
言葉を続けたー

「ーーこの世界は…消えてなくなると思いますー」
とー。

「ーーーー」
エミールは、呆然と炎に包まれた空を見つめていたー。

「ーーーーーー」
しばらくすると、やがてエミールは少しだけ笑ってから
何度か頷き始めたー。

「ーー世界の滅亡なんてー…
 まさかこの目で見ることになるとは思わなかったよー。」

そう呟くと、エミールは
「ーーついて来い」と、
オディロン(加奈)に向かって言い放ったー。

「ど、どこへ行くんですかー?」
オディロン(加奈)が言うと、
「君だけでもこの世界から逃がすことができるかもしれない」
と、エミールはそう言い放ったー。

「ーーえ…で、でもー
 リゼット姫はー…?それに王宮はー?」

オディロン(加奈)が不安そうに言うと、
エミールは少しためらった後に言葉を続けたー

「君の言う通りーもし、もしもここが本の中の世界ならー
 生かすべきは、君だー。

 俺は、”人を助けたい”そう思って、騎士になったー。
 だから俺は”人”を助けたいー

 たとえ俺も、本の中の登場人物なのだとしてもー
 
 …それでも、俺は”人”を助けることができると、証明したいー」

エミールの言葉に、オディロン(加奈)は
複雑そうな表情を浮かべながらも頷いたー

世界は燃えるー。
この世界は、本の中の世界に過ぎないのだからー。

空が燃えー
大地が焼けー
全てが、無に帰していくー。

何もかも、最初から存在しなかったかのようにー。

<最終章>へ続く

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コメント

これまで4週間に渡って書いてきたこのお話も
いよいよ次週で最終回デス~!

スケジュールの都合上、土曜日の作品は週1連載に
なってしまいますが、
来週で完結なので、ぜひ楽しんでくださいネ~!

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