元アイドルの妻が憑依されたー。
あれから、家族は地獄のような日々を過ごしてきたー
最後に待ち受けるのは、
光か。
それとも闇かー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「奈々子の身体、返してもらうぞ!」
憑依された息子ー
奈々子に踏みにじられて”怪我”をしている
父・泰治は、それでも必死に奈々子を取り押さえていたー
「ーーーーー」
元妻・希海は目に涙を浮かべながらその様子を見つめているー
「ーー希海ー…君は何も悪くないー。
何も悪くなかったんだー
全部、このイカれた野郎の仕業だったんだからー
希海は何も気にする必要はないー。
こいつを、
こいつを奈々子から引きずり出したらーーー
もう、手遅れかもしれないけどー
希海と、奈々子が良いのならー
また一緒にー」
泰治がそこまで言うと、
希海は悲しそうに首を横に振ったー
「わたしが憑依されたのは、奈々子が4歳のときー…
今更わたしが家に戻ることなんてできないよー
だって、奈々子からしたらー
”知らない人”が急に家族です、って入って来るような
ものだからー」
希海が言うと、
泰治は「そー…それはー」と、困惑するー。
”そんなことない!”と断言したかったー
でも、奈々子本人がどう思うかは、
奈々子に聞いてみないと分からないー
”4歳まで”しか一緒にいなかった母・希海ー。
確かに奈々子からすれば
”血がつながっている”と言われても、
”いきなり家族が増える”ような感じで、
素直に受け入れられるかどうかは、
分からないー。
「ーー…こいつをどうにかしたら、みんなで話し合おうー」
泰治はそう言うと、希海から視線を落として、もがく奈々子の
ほうを睨みつけたー。
「ーーこれ以上…お前の好きになんてさせないー…!」
怒りの形相でそう呟く泰治ー
「ーーぐ…ぐ…のぞみちゃんは、僕の…僕だけのものだ!!
のぞみちゃんも、のぞみちゃんから生まれたこの女も、
僕の、僕だけのものなんだあああああああ!」
奈々子が大声で怒鳴り声を上げるー。
しかし、泰治はそれにも負けずー
力を込めて奈々子を抑えつけたー。
「無駄だー」
泰治が言うー。
「ー奈々子の身体じゃ、お前に逃げ道はないー」
その言葉に、表情を歪める奈々子ー
大人の男である泰治と、
特別鍛えているわけでもないごく普通な女子高生の奈々子ー
その二人の”腕力”の差は歴然だったー。
こんなことはしたくないが、
大人の成人男性の力で、
女子高生の身体を力ずくで、拘束している状態だー。
「ーーそ、その人にキスされないように注意して!」
希海が叫ぶー。
希海は、微かに覚えていたー
希海から、奈々子に憑依した瞬間ー
男は希海の身体で奈々子にキスをしたー。
希海に憑依したあと、既に自分の身体を失っている憲彦はー
キスをすることで、他人の身体に移動できる力を
身に着けていたー。
泰治は、希海のその言葉にうなずき、
奈々子にキスをされないように、細心の注意を払いながら
憑依された奈々子を追い詰めていくー。
「ーーー奈々子から出ていけー」
今一度繰り返す泰治ー
「ぐへ…へへへへへへ」
なおもニヤニヤする奈々子ー。
「ーー奈々子から、出ていけ!!!!」
大声で怒鳴る泰治ー。
「ーーーえへへへへー
この身体は僕のものだ!
僕は奈々子だ!わたしは奈々子だ!
あっはははははははぁ!」
それでも挑発をやめない奈々子ー。
「ーー貴様ぁぁぁ…」
ギリギリと歯ぎしりをしながら
今にも頭から炎を出して噴火してしまいそうな
鬼の形相で、泰治は奈々子を睨みつけるー
「ーー奈々子から出て行って!お願いだから!」
近くにいる希海もそう叫ぶー。
しかし、それでもこの男は止まらないー
希海の熱狂的なファンー、上林憲彦は
”自分の欲望を満たすため”なら、何でもするー。
何を言われようとー
何をされようと、この男に奈々子を開放するつもりなど、ないー
「わたしは奈々子!わたしは奈々子!わたしは奈々子!
うひっひひひひひひ!」
奈々子が何度も何度もそう連呼するー
「お前はーーーー
お前は奈々子じゃない!早く、早く奈々子から出ていけ!
この…このクズ野郎が!」
泰治が怒り狂って、倒れている奈々子の胸倉を掴んで
奈々子を振るー
「ーーわ・た・し・は・な・な・こ!」
なおも挑発を続ける奈々子ー
「うぅぅぅぅぅぅ!うあああああああ!」
泰治は、拳を奈々子のすぐ横に叩きつけたー。
流石に奈々子に憑依している憲彦も驚いたのか、
身体をビクッとさせたー
「えへへへ…殴ったら傷つくのは”わたし”だもんね?」
奈々子がニヤニヤしながら言うー。
「ー殴りたければ殴ればー?
警察に通報したければ通報すればー?
でも、
殴ったら傷つくのは”わたし”だしー、
通報したら逮捕されるかもしれないのは”わたし”ー
ひひ、高校生だからー
逮捕も何もねぇか?」
奈々子は笑みを浮かべるー。
泰治が涙を流しながら
「いいから…返せ!奈々子の身体を返せ!」と、
繰り返し言葉を発するー
「ーーえへへへへ」
奈々子は応じないー
「ー憑依とかー…信じられないけどー…
そんなことー…されてる側のことを、考えろー…!
希海や、奈々子の気持ちを考えてみろー!
お前が、お前がもし、希海みたいにー
10年も身体を好き放題されていたらどう思うんだー?
ーーーおい!!
答えてみろ!!!」
泰治がそう叫ぶとー
奈々子はニヤッと笑ったー
「ー僕みたいなおっさんに、憑依したがる人なんていないからなぁ」
とー。
「ーくそっ!答えろー…!答えやがれー」
泰治は脱力感を感じながら、そう呟くー。
この男は、何があっても奈々子を開放するつもりはないのかー。
「ーーーー」
泰治は、歯ぎしりをしながら”あること”を考えるー。
このままではー
奈々子は乗っ取られたままー。
”一縷の望みに賭けるならー…”
泰治は、希海のほうを見て、
「希海ー……」と、呟くと、
「ーーー何が起きてもー見守っててくれるか?」と、
言葉を投げかけるー。
一瞬困惑した様子の希海だったが、すぐに頷くと
泰治は悲しそうに笑みを浮かべたー
そしてー。
ーーガッーーー!
泰治が信じられない行動に出たー。
娘のー
奈々子の首を絞めたのだー。
「ーーや、泰治ー…!?」
困惑して声を上げる希海ー。
だが、希海は、”泰治を信じて”それを止めることはしなかったー。
震える身体を何とか抑えながら泰治のしていることをそのまま見つめるー
「ーな…な…何を……ぼ、僕を殺す気かー!?」
奈々子が苦しそうにしながら声を振り絞るー。
「ーー奈々子を返せー」
泰治が歯ぎしりをしながらそう呟くー。
”中身が、イカれた男”だと分かっていてもー
苦しそうにしている奈々子の姿を見るのは、
父親として、とても耐え難いー。
だがー、
これまでの会話で、この男が、奈々子を開放するつもりが無いことは分かったー。
奈々子を開放させるためには、こっちも”狂気”を見せつけてやるしかないー。
そう、思ったー。
「ーー…へ…へへ…死ぬのは…僕じゃないー…この、女だぞぉ?」
奈々子が苦しそうにしながらそう呟くー。
「ー奈々子と一緒に、お前も死ぬだろ?」
泰治は、”発狂しそうなほどの動揺”を悟られないように
淡々とそう呟いたー
その言葉を聞いた奈々子の表情がみるみると青ざめていくのが分かったー。
「ーーーそ…そんなことー……で、できる… ぅ… うぅぅ」
奈々子が言葉の途中で苦しくなってそう呟くー。
「ーー希海と、奈々子の人生を奪ったお前が憎いー。
奈々子のことを開放しないっていうなら、
俺は奈々子ごとお前を殺すー。
一生憑依され続けるぐらいなら、奈々子だって
分かってくれるさー」
泰治は、本気でそう思っているわけではないー。
だがー、この男を奈々子から追い出すためにはー
こうするしかないー
”狂気には狂気をー”
見せつけてやるのだー
「ーーーひっ…… お、お前は… 殺人……犯にー」
「ー構わないーお前を殺せるのなら」
泰治は”わざと”満面の笑みを浮かべたー
手の力を全く弱める様子のない泰治ー。
あまりの狂気にー
奈々子は目に涙を浮かべながら、必死に息を吸い込もうとしていたー
意識が遠のきそうになるー
こ、このまま、死ぬー
そう思った瞬間ー
奈々子に憑依していた憲彦は”死”の恐怖に、
限界を迎えたー。
「ひぃぃぃっ」
そう呻くと、奈々子はガクッと意識を失うー。
「奈々子!」
すぐに手を離す泰治ー
気を失った奈々子を見て、希海も慌てて駆け寄ってくると、
泰治も希海も、奈々子のことを必死に呼びかけたー
やがてー
奈々子が苦しそうに意識を取り戻すとー
目に涙を浮かべながら、
「お父さんー」と、静かに呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから1か月後ー
娘の奈々子と話し合った結果、
泰治と希海は、”再婚”を果たし、
今では家族三人で再び暮らしているー。
4歳の時に、母・希海が憑依されて、
家を飛び出してしまったことからー
やはり、娘の奈々子はどこか他人行儀なところは
あるものの、基本的には仲良くやっているー。
家族の大切な大切なー
長い時間を失ったー。
しかしー
柚本家はこうして、
10年以上の月日を経て、
ようやく”平穏”を取り戻したのだったー。
奈々子はやがて、大学生になり、
一人暮らしを始めたい、と言い始めたー。
親元を離れて、一人暮らしを経験することで、
自立できるように、という奈々子らしい真面目な考えだったー。
泰治も希海もそれを承諾して、
大学生になると同時に、奈々子は一人暮らしを始めたー。
大学生活が始まってからも、
奈々子は欠かさず週に1度は実家に連絡してきたー。
忙しいらしく、なかなか実家に帰ってくることはないけれどー、
それでも、元気にやっていることは確かだったー。
一時は壊れた家族の絆ー
でも、こうして希海も、奈々子も戻ってきたー
”本当によかったー”と、
泰治は、安堵の表情を浮かべながら、
満足そうに”家族写真”を見つめたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
”知らないほうがいいこともあるー”
「ーーーーーーー」
一人暮らしをしている部屋に、帰宅した奈々子は笑みを浮かべたー
”あの父親ー…本当に娘ごと僕を殺す気だったー…”
奈々子はー
正気に戻ってなどいなかったー。
だが、泰治のあまりにも強い憎しみに、
奈々子に憑依している憲彦は、恐怖を感じ、
”大学生になって一人暮らしができるようになるまで”は、
奈々子として振る舞い、泰治から逃れようと考えー
それを実行したー
「ーーへへへへ…一人暮らしさえ始めちまえば
こっちのもんなんだよー」
笑みを浮かべる奈々子ー。
”のぞみちゃん”が着ていたアイドル衣装そっくりの服を身に着けて
色々なポーズをしながら自撮りを繰り返しー、
最後には我慢できなくなってエッチなことを始める希海ー。
「ーーーへへへへへへ…♡
やっぱ、あいつはバカだなぁ…!
のぞみちゃんのことも、娘のことも何もわかっちゃいない!
えへへへへ…
まぁ、妻が憑依されたことに10年以上も気づかないバカだから、
僕がちょっと演技するだけで、
”正気に戻ってよかった!”なんて思っちゃうんだろうなぁー
げへへへへへへへっ!」
奈々子は狂ったように笑いながら
「徐々に実家とは縁を切ってー
奈々子ちゃんを、僕好みに大改造してやるんだー!
ぐへへへへへ」
と、言葉を呟いたー
”知らない方がいいこともあるー”
母・希海は、今日ー
奈々子の家まで、一人でやってきていたー。
”泰治は気づいていないー
でも、憑依されていたわたしには、分かるのー”
「ーーー奈々子ー…」
”奈々子は、まだ元に戻っていないー。”
奈々子を救う方法を、この数年、ずっと考え続けて来たー。
”もう、泰治をこれ以上苦しめたくないー”と、
すっかり奈々子が正気に戻っていると思い込んでいる泰治には伝えずー、
希海は、自分の力で、奈々子を元に戻す方法をこの数年、
探し続けてきたのだー
「ーーーーーー」
そして、今日、希海は奈々子を正気に戻すためにここにいるー。
”あの男はわたしのファンだからー
元はと言えば、わたしが作り出してしまった、地獄だからー”
希海はそう呟くと、
奈々子を取り戻すことを決意して、
奈々子が一人暮らしをしている部屋のインターホンを鳴らしたー
”あ!お母さん!”
奈々子が中から応答するー。
「ーーー…奈々子!遊びに来ちゃった」
母・希海が笑うー。
「ーーーーーー」
奈々子は部屋の中でにやりと笑みを浮かべると、
静かに玄関の方に向かって行くー。
つくづく、バカな家族だー。
また、お前たちは引き裂かれるー。
どこか抜けている父ー。
責任感が強すぎて夫に相談せず、ふたたび破滅に向かう母ー。
悪い両親じゃないー。
だが、愚かだー
”お前が、僕に気付いていることなんて、
こっちもとっくに気づいてたぞぉ…のぞみちゃんー”
奈々子が玄関の扉を開いたー
それは又ー、柚本家に闇が訪れることを意味していたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
妻は元アイドル後日談の最終章でした~!☆
ハッピーエンドと思いきや、
やっぱり引き裂かれてしまう家族…
どこか、うまくいかない夫婦ですネ~…!
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
希海は娘が元に戻ってない事に気付いてたみたいですけど、憑依をどうこうする手段でも見つけたんですかね?
しかし、気付いてるということに気付かれてるのでは、この後どうなるのか、とても気になります。
取り敢えずはハッピーエンドに見える、バッドエンドみたいな結末ですが、まだ続きそうな終わり方ですよね。また新しい○○編とかにでも続くのかな?
コメントありがとうございます~!
この先も頭の中にはあるので、
〇〇編という形で続きを書く可能性はありますネ~!
また、希海さんが憑依でもされたら…ゾクゾク。次も楽しみにしています。いつも有難うございます。
やつはし様~!ありがとうございます~!☆
まだいつになるかは未定ですが、次もあるので、
ぜひゾクゾクしてくださいネ~!☆