その世界では
当たり前のように”憑依薬”が存在していたー。
あらゆる分野に使われている”憑依薬”
しかし、そんな憑依薬が供給不足に陥ってしまったー。
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2XXX年ー。
その世界では”憑依薬”が当たり前のように
存在していたー。
娯楽、医療、ビジネス、そして犯罪ー。
正しいことから、悪事まで、
あらゆることに憑依薬が使われるようになった時代ー。
最初は、医療用として開発された憑依薬ー。
医師が、患者に憑依して
患者の身体で”実際に症状を確認”することや、
どうしても注射や治療を怖がる患者に憑依して、
”苦しい治療を肩代わりする”ようなことも行われたー。
患者から話を聞くよりも
”実際にそれ”を憑依によって体験することで
医師の診察は今まで以上に容易になり、
また、誤診などが起きる件数も大幅に減ったー。
治療を怖がる患者に憑依して
”患者の代わりに痛みに耐える”
そんな専門のスタッフが大病院を中心に配属され、
新たな雇用も生んだー。
そして、歯医者嫌いの患者などは、安心して治療を
受けることができるようになり、
患者・医師、双方のメリットになっていたー
この世界ではー
”歯医者の治療を自分で痛みを感じながら受けるなんて
Mのすることだ”と、そんな風に言われているぐらいだー。
そして、憑依薬は医療以外の分野にも
利用されるようになった。
ビジネス面では、
憑依される側の意識を残したまま、
相手に憑依して仕事を教えたりすることに用いられたり、
憑依薬の製造で業績を上げる業者が出てきたりー、
”嫌なことを肩代わりする”憑依代行人と呼ばれるような
業者も生まれたり、と、
色々な場所で憑依薬は活躍を続けていたー。
憑依薬をビジネスに全く取り入れていない企業の方が
今は珍しいとも言えるー。
さらに、娯楽面でも憑依薬は活用されはじめたー。
”お互いに同意した上で”憑依を楽しむことができる
”憑依ホテル”や、
専門の女性スタッフに憑依して一定時間、
個室でお楽しみができる”憑依風俗店”ー
さらには、憑依された状態でショーを繰り広げる
”憑依ショー”など、色々な使われ方をしているー
悪用を防ぐために一般販売はされておらず、
また、長期間の憑依ができないよう
リミッターがセットされているなど、
管理も徹底的に行われていて、
憑依薬によるトラブルはそれほど起きておらず、
この世界ではそれによる恩恵の方が大きかったー
一部、犯罪組織などが憑依薬を悪用するケースもあり、
密売されたり、一般人が憑依されて悪事に加担させられたり、
ということもあったものの、
”何事も”存在する限り、悪用しようとする者が必ず
現れる以上、こればっかりはどうすることもできないのが
事実だったー。
そんなー
憑依薬が当たり前のように存在する世界で、ある問題が起きたー。
憑依薬を作るために必要不可欠な原材料が、
複数の要因が絡み、十分に世界各国に行きわたらなくなり、
憑依薬の供給不足が起き始めたのだー
”続く憑依薬の供給不足 事態はより深刻にー”
そんな見出しでニュースが放送されているー。
「ーーーこれ結構ヤバいよなぁ」
男子大学生の北沢 武夫(きたざわ たけお)が
苦笑いしながら呟くと、
現在同棲中の女子大生、皆本 結花(みなもと ゆか)が
「来週の歯医者の予約、大丈夫かなぁ」と、心配そうに呟いたー
「ーあ、そっかぁ…歯医者でも憑依薬、使ってるもんな」
武夫が言うー。
この世界では”歯科治療で痛みを感じる”人はほとんどいないー。
現在、歯の治療のために歯科に通っている結花も
”治療中は憑依されている”ために、
歯医者に恐怖心というものを感じたことはないー
「ー俺の友達、一人、憑依なしで治療受けてるやついるんだけどさ、
そいつ言ってたぞ?
急にチクッ!って来たり、変な機械の音がすごかったり、
たまに「うぉぉぉぉ!」みたいな痛みも来るって」
武夫の言葉に、結花は
「ちょっと~!脅かさないでよ」と、少し怯えた様子で呟いたー。
「ーー…まぁ、でも、このままだと困るよなぁ…
俺が就職しようとしている会社も
憑依で職業体験とか、そういうことやってる会社だしー、
憑依薬に滅茶苦茶依存してる会社だから
憑依薬が供給不足になったりするとー、
業績も悪くなりそうだしー」
武夫が少し不安そうに呟くー。
そんな武夫を見て、結花は「とにかく…早く解消されるといいね」と、
少し不安そうに、言葉を口にしたー。
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だがー
憑依薬の供給不足はさらに悪化していき、
やがて、世界的に憑依薬に必要な原材料の価格は高騰ー、
憑依薬の輸出や輸入にも影響をきたし、
各国では憑依薬の供給不足が深刻化し始めていたー。
「ーーえ~現在、世界的に供給が不足している
憑依薬ー。
こちらについては、可能な限り供給不足が起きないよう、
関係各国と協議しながら、一刻も早く、
需要を満たせるよう、務めているところでありー」
総理大臣の記者会見を見つめながら
武夫は「なんか歯切れが悪いなぁ…」と呟くー。
いつもハキハキしている総理大臣なのだが、
具体的なことをぼかした話し方をしていて、
状況がかなり深刻であることが分かるー
実際に、武夫が就職内定を既に貰っている企業の
業績も大幅に悪化しており、
このままでは内定取り消しになりかねないー。
「え~~…ほんとですかー…
え~~~…じゃあ、はい、入荷まで待つ、ということで
順番待ちをお願いしてもいいですか?」
彼女の結花がそんな話をスマホを手にしながらしているのを見て、
話が終わったタイミングを見計らってから、武夫が声を掛けるー。
「どうした?」
武夫のそんな言葉に、結花は「あ、うんー…」と、
少し間を置いてから
「歯医者で憑依薬が切れちゃったみたいだから、
今日の予約ー、このまま治療を受けるなら
憑依薬なしでって言われたからー…
今日はお断りしちゃった」
と、結花が少し困ったような表情を浮かべながら言い放つー。
「ーーあ~…ついにそんなところにまで影響が
出て来たのかぁ…」
武夫も困惑しながらそう呟くー。
既に、ネットオークションなどでも、
どこから流出したのか
”業務用憑依薬”だとか”医療用憑依薬”の転売が行われているー。
「あいつら、何にでも湧いてくるからなホントー」
フリマアプリを見つめながら
呆れ顔の武夫ー。
程なくして、
憑依薬の供給不足は社会的影響も大きい、とのことから
憑依薬の転売は法律で禁止されたものの、
”そもそも”供給が不足してしまっているこの状況では
転売を禁止したところで、
その状況が大きく改善するようなことは、
残念ながらなかったー。
憑依薬の供給不足はさらに深刻化していき、
憑依風俗店や憑依ショー、憑依ホテルなど、
娯楽関係の個所も、次第に臨時休業したり、
憑依以外のサービスを提供し始めたりし始めるー。
だがー
”憑依”で己の欲望を満たしていた人間の一部は
”憑依薬のない生活”に耐えることが出来ず、
犯罪行為に走る者も、ごくわずかながらいたー。
医療業界にも激震が走り、
歯科医院などでは、憑依薬が使えなくなったことにより
”治療の肩代わり”ができなくなり、キャンセル者が続出、
それによって虫歯が進行してしまいー
と、いう悪循環まで起き始めてしまった始末ー。
さらには、この世界の医師は
”患者に直接憑依して症状を確認することが
当たり前になっていたため、
”患者から症状を説明されただけで判断する”という力は
著しく低下してしまっている、そんな状態だったー。
各所に影響が出続ける中ー、
武夫は表情を歪めたー
「あぁ!くそっ!」
思わず声を上げてしまう武夫ー。
「ーど、どうしたの?」
同棲中の彼女・結花が少し驚いた様子で
武夫のほうを見るー。
「ー内定、取り消しされたー」
武夫が呆然とした表情で呟くー。
「嘘…?」
結花も、困惑した様子で、武夫のほうを見つめるー。
「ーーいや、ホントだよー…
最近、ヤバいと思ってたけどー
マジでこうなるなんてー」
武夫が内定をもらっている会社は、
”憑依薬ありき”で業績を上げていた会社。
この世界では、憑依薬を悪用するわけではなく、
”良い方向に利用してビジネスを展開している”
そんな会社もたくさんあったー。
憑依による職業体験や、
色々なポジションにいる人間を”疑似体験”できる
サービスなどを提供していたのが、
武夫が内定を貰っていた会社だー。
しかしー、
憑依薬の供給不足が発生した今、
そのサービス継続が困難になってしまいー、
業績は急激に悪化、
もはや新入社員を採用するどころか、
リストラを初めている始末だったー。
「ーーー憑依薬の供給不足、このまま続くと、やばいかもなー」
武夫がそう呟くと、
結花は不安そうに、武夫のほうを見つめたー。
そしてー
武夫の嫌な予感は的中したー。
憑依薬の供給不足が世界的に続き、
既に”憑依薬が当たり前のように存在するようになって”
この世界では何百年以上も経過しているため、
色々な場所で大きな問題が起きたー
医師は、”患者に憑依してその症状を確かめる”のが
当たり前になっていて、
”患者から話を聞いて病状を判断する能力”は
この世界では大幅に低下していたー。
誤診の嵐が巻き起こりー、
医療の世界は壊滅的な打撃を受けるー。
憑依を用いたビジネスを展開していた会社は
壊滅的打撃を受けー、
憑依薬をめぐり、犯罪組織らが抗争を起こすなどを
繰り返しているー。
”憑依”で痛みの肩代わりを専門のスタッフが行うことで
治療するのが当たり前だった歯科医院も
壊滅的打撃を受けるー。
この時代では”痛みに耐えて虫歯治療”ということを、
人々はしたがらなかったー。
虫歯に耐えて、虫歯が悪化するー。
そんな、悪循環が起きるー。
人々の我慢は限界に達しー、
そしてついに犯罪組織が流出させた”違法憑依薬”まで
出回り始めて、社会は混乱を極めたー。
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「結花も気をつけろよー?」
内定取り消しにより、就職活動を
再開していた武夫は、
帰宅した結花に対して、そう言い放ったー
「ーーえ?」
結花が首を傾げると、
武夫は「ほら、これ」と、スマホを手に
結花にそれを見せつけるー
”違法憑依薬流出 憑依被害増える”
そんな見出しの記事ー。
今までは”時間制限”がついていたり、
”安全装置”がついていたり、
この世界で合法な憑依薬が出回っていたものの、
憑依薬の供給不足に呼応するかのように、
”何の制限もない違法憑依薬”が出回り始めたー
通常のこの世界の憑依薬では、
例えば、5分で効果が勝手に切れるものや、
憑依される側の意識を残し、
憑依した側が何か問題行動を起こそうとすれば
憑依された側の意思で憑依を解除できるものなど
”必ず、安全装置のようなもの”がついていたー
しかし、違法憑依薬にはそれがないー。
”完全に相手の人生を乗っ取ることもできてしまう”
それが出回りー
各地で憑依された人間が犯罪に利用されたり、
人生を奪われたりしている被害が、ここ最近、増えているー。
「ーーあ、違法憑依薬の話ねー」
結花は不安そうにそう呟くと、
武夫は少し恥ずかしそうにー、
「そ、その…結花、可愛いから、狙われやすそうだしー
気を付けてー」
と、呟くー
結花は「ちょ、い、いきなりそんな照れるようなこと言わないでよ」と
言いながらも
「大丈夫大丈夫、わたしみたいな感じの人はどこにでもいるから
わたし、目立たないよー」と、苦笑いしたー。
”憑依薬が当たり前のように存在する世界で起きた
憑依薬の供給不足”
それが今、社会に大混乱を起こしつつあったー。
②へ続く
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コメント
数年前から騒がれている”半導体不足”から
思いついた作品デス~!
”もしも、憑依薬が当たり前のように存在する世界で
それが不足したら…?”
を、描く作品ですネ~!
次回もぜひ楽しんでください~!☆
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