<入れ替わり>おっさんチェンジ

中年のおっさんとおっさんが入れ替わった。

誰得なのか分からない
謎の入れ替わり小説!

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松金 竜太郎(まつがね りゅうたろう)
42歳独身ー。
コンビニのバイトをしながら、フリーターとして働き、
アパートで暮らしているー。
フリーターでも、十分に暮らしていける生活スタイルで、
趣味は釣りー。

小島 康則(こじま やすのり)
41歳独身ー。
飲食店でバイトをしながら、フリーターとして働いている。
アパート暮らしで、
同じく、趣味は釣り。

「どうも」
休日ー
釣りにやってきた康則が頭を下げると、
竜太郎も「どうも」と下げたー

二人とも”同じ釣り場で釣りを楽しむ”程度の
間柄であり、お互いの名前も知らないし、
特に特別親しいわけでもないー。

だがー
この日ー
二人はー

「あっ!」
竜太郎が石ころに躓き、
釣りをしていた康則とぶつかるー。

康則と竜太郎が、水の中に転落しー
慌てて水から上がった時にはー

「え」

「あ」

二人は、入れ替わっていたー

「えぇ?」
「おぉ?」
竜太郎と康則ー
ふたりの”おっさん”は声をあげたー

そして、その入れ替わりは、
驚くほど、物語映えしない入れ替わりであったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

世の中には、光があれば、影もあるー。

世の中で、時々起こるとされる”入れ替わり”にも様々ー

男女の入れ替わりー
女性同士の入れ替わりー
立場のことなる男性同士の入れ替わりー

物語映えする入れ替わりは、あまたの数、存在するー

しかしーーーー

「---」

「----」
竜太郎と康則は、驚くほどにーーーーー

入れ替わっても”何も変わらなかったー”

「---はは、俺とほぼ同じじゃないっすか」
竜太郎になった康則が言う。

「そうですねぇ」
康則になった竜太郎が言う。

二人はー
年齢もほぼ同じー
独身なのも同じー
両親が既に他界しているのも同じー
友達がほぼいないのも同じー
趣味は釣りで
フリーターなのも同じー

驚くほど、変化がなかったー

「---…でも、どうします?」
竜太郎(康則)が言うと、
康則(竜太郎)は「まぁ…どうしましょうねぇ」
と、呟いて、
二人でぼんやりと空を見つめたー。

二人とも入れ替わりが大好き!というわけではなかったが
それなりに「そういうジャンルの話」についても知識があったー。

「---まさか、本当に入れ替わっちゃうなんて」
康則(竜太郎)が呟くと、
竜太郎(康則)が「これじゃ、おっさんの名は。ですねぇ」と
呟いたー。

「----」
「----」
水面に映る自分たちの顔を見つめるふたりー。

驚くほど、しらけているー。

「--入れ替わりって、なんか、驚きやドキドキに満ちたものだと
 思ってましたけど」
竜太郎(康則)が言うと、
康則(竜太郎)は「俺たちじゃ……まぁ…なんというか…あんま変わりないって言うか」と
苦笑いしたー。

性別が変わるわけではないー
男女の入れ替わりであれば、
性別が変わり、色々な意味で新鮮だー
ドキドキ要素もあるだろうー

女性同士の入れ替わりもー
ODと呼ばれ、人気があるー
実際に入れ替わった組み合わせ次第では
人生がガラリと変わるー

男性同士の入れ替わりもー
イケメンと冴えないおじさんが入れ替わったりする
BLモノは人気があるー。

だがー

竜太郎と康則はー
男女入れ替わりのTSFでもなければ
女性同士のODでもなければ
イケメンとおっさんの入れ替わりのBLでもないー

冴えないおっさんと
冴えないおっさんの入れ替わりだー

「誰得だよこれ…」
竜太郎(康則)が呟くと、
「--さぁ」
と、康則(竜太郎)は呟いたー

二人は、互いに情報交換をするー

お互いに家では、ネットをやったり、ゲームをやったりして
生活していてー
特に変わりない生活であることが分かったー

「-むしろ、俺が小島さんの家に帰らなくても
 問題なさそう、まで、ありますね」
康則(竜太郎)が言うー

小島康則の身体になってしまった竜太郎だが
互いに近所づきあいもほとんどないため、
小島康則の身体で、松金竜太郎の家に帰っても
問題なさそうだ、と言うのだー

「ははは、確かにそうですねぇ」
竜太郎(康則)が笑うー

仕事もー
「--仕事もなんとかなりそうっすね」
と、お互いに情報交換をするー

竜太郎は、大学時代に居酒屋での勤務経験がありー
康則は、コンビニでの勤務経験があるー。

だからー
最初は戸惑うだろうけど、問題ないだろうー、という
二人の判断だったー

「じゃ、連絡先だけ交換しましょうか」
竜太郎(康則)が言うと、
康則(竜太郎)が、「はは、業者とバイト先以外、誰も登録してないっすけどね」と、笑ったー。

「俺もです」と
竜太郎(康則)が笑いながら言うと、
二人は連絡先を交換したー

「あ…見ちゃいけないものとかあります?」
竜太郎(康則)が聞くと、康則(竜太郎)は首を振ったー

「どうせ何も入ってませんから」
とー。

持ち主と別のスマホを持っていると面倒だろうー
ということで、スマホも交換したー。
必要なデータだけやり取りしたが、
お互いにほとんどデータもなかったので、
すぐだったー

「あ、ツイッターのログアウトとソシャゲのログアウトだけさせてください」
笑いながら竜太郎(康則)が、スマホを手にすると
自分の使っているサービスのいくつかから、ログアウトしたー。

「あ、じゃあ俺もいいですか」
康則(竜太郎)もツイッターや2年間更新していないブログからログアウトしたー

そして、スマホを交換するー

「俺たち、スマホまでそっくりですね」
竜太郎(康則)が言うと、
康則(竜太郎)は「安くてシンプルが一番ですからね」と答えたー

二人は、お互いの家の位置を教えてー
そして、”入れ替わったまま”生活することになるのだったー

別れ際に、
「あ、元に戻る方法、試してみます?」と
康則(竜太郎)が提案したが
二人とも「なんか面倒くさいし、いいか」ということになり
入れ替わったまま帰宅することになったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅した竜太郎(康則)は苦笑いするー

「はは、俺の部屋と変わらないなぁ~松金さんの部屋も」
そう呟くと、
”元に戻る方法”を一瞬頭に浮かべてみるー

ぶつかるー
一緒に転がり落ちるー
キスをするー

おっさん二人がそれをやってる光景を思い浮かべる
竜太郎(康則)-

「---…絵にもならねぇな」
そう呟くと、自宅のパソコンを起動してー
ネットを眺めるー。

時々、トイレに行くー

トイレも、普通にできるー
少しアレが自分のより大きい気がしたが
そんなことはどうでもよかったー。

「--なんか、俺の部屋より少し汚いな。
 整理整頓でもするか」
竜太郎(康則)は、竜太郎の部屋の整理整頓と
掃除をするー。

そして、テレビを見ながら笑う竜太郎(康則)-

笑い声が出て、
”自分の声じゃない”ことを改めて自覚するー

正直、もう、入れ替わりのことなど
どうでも良くなるぐらいに、忘れていたー

竜太郎(康則)はふと鏡を見つめるー
自分ではない、おっさんの姿がそこにはあるー。

だが、康則は元々、自分のことが特に好きではないー。
そして、新しい身体ー
竜太郎の身体も、特に好きではないー

「入れ替わったのに、何も変わらなすぎて…
 なんだか泣けてくるなー」

ライフスタイルまで同じー
バイトに行って、帰ってきてネットを見たり、のんびりして、寝るー。
休日には、釣りに出掛けたり、場合によっては、家でのんびり、寝るー。

もちろん、康則自身は、その生活に満足しているー。
だが、入れ替わっても何も変わらない、ということにはー
なんとなく、寂しさを覚えたー。

・・・・・・・・・・・・・・・

「お疲れ様ですー」
康則になった竜太郎は、
康則として、居酒屋でのバイトを終えたー。

コンビニから、居酒屋バイトにー。

だが、竜太郎は大学時代に居酒屋でバイトを
したこともあったし、
仕事自体はなんとかすぐに覚えることができたー

とはいえー。

”誰からも”
何も言われないー。

”何か様子がおかしいですね”とも言われないし
”最近変わりましたね”というようなことも、言われないー。

バイト先から帰路ー
ぼんやりと空を見つめながら煙草を口に咥える
康則(竜太郎)は苦笑いしたー

「中身が変わっても、誰からも疑問に思われない、なんてな」
笑いながら煙を吹かすー。

別に、悲しいとも寂しいとも思わないー。
だがー
康則(竜太郎)がこれまでに見た入れ替わりの映画やアニメはー
入れ替わったことによって大きなギャップを感じたり、
元に戻ろうと奔走したり、
入れ替わったことによって、相手のことを色々とお互いに理解して、
絆を深めていったり、そういうものが多かったー。

でもー
現実は違う。
現実は、フィクションとは違うー。

「そうだよな…ドラマみたいなことは、現実では起きないもんな。」

日常もそうー
入れ替わりもそう。

現実で起きる入れ替わりは、フィクションのように、
輝いているものとは限らないー
変化に満ちたものとは、限らないー。

後日ー。

ファミレスで
竜太郎(康則)と康則(竜太郎)は待ち合わせをしていたー。

「---入れ替わってから1か月ー。
 そっちは、どんな感じですか?」

康則(竜太郎)が言うと、
竜太郎(康則)は「ははは、特に何も変わりませんよ。
驚くほど、そのまんまです」と、笑ったー

康則(竜太郎)も「俺もですよ」と笑みを浮かべたー

注文したスープを口に運ぶ康則(竜太郎)-

驚くほどにー
なんの変化もなかったー

家族は既に他界しているし、
特別親しい友達もいないから、
ある程度の友達はいても
こちらから連絡をしなければ、それで終わりー

「まぁ、でも、それなりに楽しくはやってますよ。
 小島さんの家には、見たことない映画のDVDもありましたし
 それ見たりしながら、ビールを飲んだりしてね」
竜太郎(康則)が言うと、
康則(竜太郎)が少しだけ笑いながら、
「--あ、俺は最近、松金さんの家のゲームやるのにはまってますよ」
と、笑みを浮かべたー。

今後について話し合うふたりー。
現状、ほとんど不便はなかった。

「どうします?」
竜太郎(康則)が言うー。

”どうします?”とは元に戻るために何かするかどうか、
ということだったー。

「別に、いいんじゃないですか?
 俺も、松金さんも不便してないならー。」

康則(竜太郎)はそう、呟いたー

おっさん同士キスしたりとかー
そんなことを試してみなくても、
このままなら、このままでいいのではないか、とー

「はは、そうですね」
竜太郎(康則)はそう呟くと、
「入れ替わっても、あんま変わらない人生ー
 まぁ、そういうのも、悪くはないかもしれませんね」と
付け加えたー。

二人は、ファミレスで軽いランチを済ませると、
日曜日の昼下がり、それぞれの家に向かって
帰宅を始めたー

この世に起きる出来事は、
物語映えするものばかりとは、限らないー

男女が入れ替わってその変化に驚いたりー
同性が入れ替わって、そこから色々な出来事が起きたりー

物語映えする入れ替わりに隠れてー

誰にも語られないー
誰にも見向きもされないー
なんの変化もないような、入れ替わりも、
確実に、どこかで起こっているのだー。

入れ替わっても、ほとんど日常が変化すらしなかった
このおじさんたちのように…。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

物語映えしない、性別の差も、
容姿の差も、年齢の差も、境遇の差も、
何もない、
ただ入れ替わっただけ、のお話を
”あえて”書いてみました~!

いつものように、意外なオチをつけたくて仕方がなかったのですが
それもあえて排除して…笑

こういう入れ替わりもあるかもしれないですネ!
と、いうお話でした!笑

今年の小説も明日の「体越し2020①」を残すのみになりました!
最後まで、頑張ります~!

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小説

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