その新種の虫は
人間に”変身”する力を持つ、
不思議な虫だったー。
人類は、次第にその虫たちに
成り代わられていくー…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
研究者・辻 健介は、
指定された廃工場地帯にやってきていたー。
そこに”虫”に捕まってしまった息子の陽太郎が待っているー。
「ーー逃げずによく来たねー褒めてあげるー」
息子・陽太郎の彼女である美優が姿を現すー。
…と、言ってもこの美優は、既に美優本人ではなく
”人間に変身する力を持った虫”が変身している偽物ー。
本物の美優は、”虫”に食べられてしまったー。
「ーーー陽太郎はどこだ?」
健介がそう言葉を口にすると、
美優はクスクスと笑いながら、
曲がり角の先を指差したー。
「ーーー…」
健介が警戒しながら進むと、そこにはーーー
”椅子に縛られた陽太郎”が”二人”いたー。
「ーー…!?
な、なんだこれはー…」
健介がそう言うと、
美優は笑うー。
「ー我々のことを研究していたあんたなら
知っているでしょう?
我々は人間に変身する力を持っているー。
つまりー、そこにいるあんたの息子はー
どっちかが本物でどっちかが偽物ー」
美優のその言葉に、
陽太郎は表情を歪めるー。
美優はナイフを取り出すと、
それをぺろりと舐めてから、
近くに放り投げるー。
「ーどちらか一人を殺しなさいー
そしたら、息子は解放してあげるー」
美優が冷たい口調でそう言いながら、
ナイフを拾うように健介に促すー。
健介は”二人の息子”のほうを見つめると、
表情を歪めるー。
「父さん!俺が本物だよ!」
陽太郎のうちの一人が言うー。
「ーふ、ふざけるな!俺が本物だ!
父さんー!!」
もう一人の陽太郎も言うー。
健介は、二人の陽太郎に対して
順番に質問をしていくー。
母親の名前や、
小さい頃の誕生日プレゼントー、
これまでの人生の思い出など、
定番とも言えるような質問を繰り返すー。
そんな様子を背後で見ていた美優は
笑いながら
その様子を見つめるー
”我々は変身した人間の記憶や思考も手に入れるー
そんなことしたって無駄だよー”
そう思いながら、勝ち誇った表情を浮かべる美優ー。
が、そうこうしているうちに、健介は
”わかった”とだけ呟くと、落ちていたナイフを拾い、
並んでいた陽太郎のうち、左側の椅子に縛られている方の
陽太郎にナイフを突き立てたー。
「や、やめっー」
そう言葉を口にすると同時に、身体が泡のように砕けていき、
”ハエよりも少し大きなサイズの虫”の死骸が落下するー。
「ーーーふんー」
美優は少しだけ不満そうにその様子を見つめていたものの、
やがて悔しそうに口を開いたー。
「正解ーやるじゃんー」
とー。
「ーー息子を解放してもらおうかー」
陽太郎がそう言うと、美優は「チッ」と舌打ちをしながら、
右側の椅子に縛られていた陽太郎を解放するー。
「ー父さんー……ごめん、俺のせいでー」
陽太郎は、悲しそうな表情を浮かべながら、
助けに来てくれた父・健介のほうを見つめると、
「ーーあぁ。いいさ。俺は息子のためだったら何だってする」と、
そう言葉を口にしてからー、
信じられないことに助け出した方の陽太郎の首にも
ナイフを突き立てたー。
「ーーぇ……???」
陽太郎は、”信じられない”という表情を浮かべながら
父・健介のほうを見つめるー。
「ーーーな、何をー…」
陽太郎の彼女・美優に変身している虫も、
健介の行動は予想外だったのか、少し驚きの表情を浮かべると、
苦しそうにしている陽太郎のほうを見つめながら言ったー。
「ーー二人とも、”虫”…ーーだろ?」
とー。
助け出された方の陽太郎は
驚きの表情を浮かべながら震えると、
そのまま、泡となって崩れ落ちーー、
そこにはハエよりも少し大きいー
そんな感じの虫の残骸だけが横たわっていたー。
「ーーーさて、本物はどこだ?」
健介がそう言うと、美優に変身している虫は震えるー。
「ーーもしも、”本物”だったらどうするつもりだったのー?」
とー、そう健介に言葉を口にするー。
「ーーー…それはないー。
本物の陽太郎は、”俺が本物なんだ!”なんて
慌てて俺には叫ばないー」
健介は言う。
本物だったら”俺のことはいい!”みたいなことを言うはずだー、とー。
「ーーーー…チッ」
美優は怒りの形相を浮かべると、
「ー俺は、人は殺さないー」と、健介はそう言葉を口にしてから
ナイフを美優に向けるー。
「が、虫は殺す。
相手が害虫なら、なおさらだー」
健介はそう言い放つと、美優は少し青ざめた様子で
「ーー…分かったー。案内するよー」と、
それだけ言葉を口にして、
ゆっくりと歩き出すー。
”ーーなんとしても、コイツは消してしまわなければー”
美優に変身している虫は、怒りの形相を浮かべながら、
ゆっくりと廃墟地帯を歩くー。
そしてーー
「ーーー!」
健介が戸惑いの表情を浮かべると、
周囲から、多数の男女が姿を現したー
「ーふふふふーはははははっー
人間ー
お前はここで死ぬんだー」
美優は笑うー。
健介は表情を歪めながら、美優のほうを見つめると、
そのまま”人間に変身した虫”たちに取り囲まれてー、
その逃げ場を失ってしまうー。
がーーーー
健介は、「それで勝ったつもりか?」と、
そう言葉を口にすると、
”殺虫剤”のような容器を鞄から取り出して、
それを構えたー。
「ーーふふー何をしてるの?
我々は、”虫”の中でも上位の存在ー。
ムシチョールとか、インセクトジェットとかー
よく売ってるやつは、効かないから無駄ー」
美優がそう言葉を口にすると、
健介は「俺がただ、研究室に籠って、
データとにらめっこしていただけだと思っていたか?」と、
そう言葉を返したー。
「ー研究者を舐めてもらっては困るー」
そう言葉を口にすると、殺虫剤のようなものを噴射し始める健介ー。
人間に変身している”虫”たちは、
次々と”人間”の姿から泡のような姿になり、
そのまま落下していくー。
「ーー…!?!?」
健介を取り囲んだはずの虫たちが、
次々と一網打尽にされていくのを見て
美優に変身している虫は呆然とした表情を浮かべるー。
「こ、これはいったいー…ど、どういうことー!?」
焦った表情の美優ー。
健介は笑みを浮かべると、
「お前たちは人間に変身できるー。確かに、それは人類にとって脅威ー。
だが、人類はどんな害虫に対しても、技術で打ち勝ってきたー」
と、そう言葉を口にするー。
健介は”完成”させていたのだー。
”人間に変身する虫”たちに、強力に作用する殺虫剤をー。
「ーお、お前ーーさっき、なんで使わなかったー!?」
美優に変身している虫が怒りの形相で言うー。
さっき、”偽物の陽太郎二人”が並んでいる時に
どうしてそれを使わなかったのか?
とー。
すると、健介は笑ったー。
「お前たちがこうして”集まる”のを待っていたのでなー。
お前たちにとって私は”厄介な研究者”ー
それを始末するために、こうして大量に待ち伏せしていると思ってたしー
きっと、お前たちの中で”重要なポジション”のやつらもここに混じっているはずだー」
そう言いながら、襲ってくる”人間の姿をした虫”たちに
次々と殺虫剤をかけ、ついには、美優と数名以外、全滅したー。
「ーさっきの時点でこれを使えば、待ち伏せしてたやつらは
私の前に出て来ずに、撤収しただろうー?
だから、こうしてお前たちが自らやってくるまで待っていたー」
健介はそう言うと、美優は「人間風情がー…!」と、怒りの形相を浮かべるー。
「ーーーさぁ、陽太郎のところに案内してもらおうかー」
健介がそう言うと、美優は怒りの形相を浮かべながら
本物の陽太郎を拘束している倉庫まで案内したー。
「陽太郎!!」
健介が倉庫内に陽太郎の姿を見つけると
陽太郎は「と、父さん!何で来たんだ!?どう考えてもこいつらの罠だろ!?」と、
先に父親の心配をしたー。
これでこそ陽太郎だー。
が、そうは思いつつも念のため、
「やつらが変身している偽物じゃないか、試してもいいか」と、
殺虫剤を腕に向ける。
人体に多少かける程度では一切害はない。
「ーあぁ、もちろん」
陽太郎の言葉に、殺虫剤を手に少しだけつけると、
その陽太郎は”変身解除”にはならずに、そのままの状態だった。
つまりは、本物だー。
そんな二人の後ろ姿を見つめながら、
美優に変身している虫は怒りの形相を浮かべると
隠し持っていたナイフを手にしたー。
最後の手段ー。
それは、息子と再会して油断している健介を抹殺することー。
自分たちにとって”害”を成す存在であるこの博士を
抹殺してしまわなければならない。
「ーーー」
無言で健介に近付き、背後からナイフで襲い掛かる美優。
しかし、健介はそれに気づくと、ナイフを弾き飛ばす。
「死ねええええ!人間!」
美優に変身している虫が怒りの形相で、もう1本のナイフを手に
健介に襲い掛かるも、健介が拘束を解いた息子の陽太郎が、
美優に変身している虫に、強烈な蹴りを叩きつけたー。
「ぐぁっ」
壁に叩きつけられて、苦しそうな表情を浮かべる美優の姿をした虫。
そんな彼女を見つめながら、陽太郎は悲しそうな表情を浮かべる。
父・健介は「この虫は俺が始末する」と、そう言葉を口にして
殺虫剤を向けるも、
陽太郎は「いや、父さんー。こいつだけは俺が」と、
そう言葉を口にすると、躊躇いの表情を少しだけ浮かべつつも
「わかった」と、殺虫剤の容器を、陽太郎に渡したー。
「ーーよ…よ、陽太郎ーわ、わたしー」
美優に変身している虫は、
陽太郎の情に訴えて隙を作ろうとする。
けれどー…
「ーーこれ以上、美優の真似をするな」
陽太郎は怒りの形相で言葉を口にすると、
「ー本物の美優はーどこだ?」と、
もう一度だけ聞いたー。
もう、答えは分かっている。
でも、望みを捨てたくなかった。
「ーーー…本物はーー食っーーー」
美優の姿をした虫は、これまで再三繰り返して来たことを
今一度口にした。
それと同時に、陽太郎は怒りの声を上げながら、
美優の姿をした虫に特殊な殺虫剤を吹きかけ始めたー。
美優の姿が崩れていき、泡となって、
虫の姿になってもー…
虫がもがいて、動かなくなっても、
それでも、陽太郎は殺虫剤をかけ続けたー。
大好きだった美優の仇に対する、怒りー。
「ーもういい」
健介が陽太郎を止めると、
「ーー辛いなー。でも、もう終わりにしよう」と、
彼女を失った辛さに理解を示す言葉を口にした上で、
ゆっくりと殺虫剤を取り上げたー。
「ーー父さんー…俺ー」
陽太郎が悲しそうに呟くと、
「ー守れなかった、などと気負い過ぎるなー。
人間に変身する虫が相手だー…
少なくとも、お前のせいじゃない」と、
美優が”喰われて”しまったのは、陽太郎のせいではない、
と、そんな言葉を口にするのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
健介の助手だった女性・弓香は、
健介から託された”研究データが保管されている場所”に
仲間を引き連れてやってきていたー。
弓香の”本物”は既に喰われていて、
人間に変身する虫がすり替わっていたー。
弓香は、健介を騙し、博士の研究データを全て入手するべく、
仲間を引き連れてここにやってきていたのだー。
がー
「ーーー!?」
弓香と、仲間の”虫”たちが施設に入ると同時に、
施設が封鎖されて、
この虫たちに効く殺虫剤の噴射が始まるー
「ーな、どうして…!?」
弓香に変身している虫が、驚きの声を上げると、
事前に録音された博士の声が聞こえて来たー。
”本物の瀬田さんはもういないことには気づいていたー。
残念だが、その場所には私の研究データはないー。
瀬田さんの仇だ。消えたまえ”
健介の声と共に、弓香たちに殺虫剤が襲い掛かるー。
弓香の偽物たちは、
一人残らず、一網打尽にされたのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
1か月後ー
彼女であった美優の墓参りを終えた陽太郎は
父・健介の元を訪れたー。
「陽太郎かー。どうした?」
健介が言うと、
陽太郎は意を決して健介を見つめるー。
そしてーー
「ー俺にも、奴らから人々を守る研究を手伝わせてほしい」と、
力強くそう言葉を口にするー。
そんな息子の言葉に、健介は穏やかに笑うと、
「あぁ、陽太郎がいれば、これほど頼もしいことはない」と、
そんな言葉を返すのだったー。
”虫”には大打撃を与えたー
だが、まだ全滅したわけではない。
これからも、戦い続くー。
おわり
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コメント
”人間に変身する虫”との戦いの
お話でした~~!★
こんな力を持つ虫が出て来てしまったら
厄介ですネ~…!
お読み下さり、ありがとうございました~~!!
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