異世界の姫に憑依されてしまった彼女。
そのワガママな振る舞いに疲弊していく中、
彼は何とか、彼女を元に戻すための方法を
探っていくー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”この世界とは別に”ゼリアス王国”なる異世界が
存在していて、その世界の姫が
希海に憑依してしまった”
”希海の中に、自分を異世界の姫だと思い込んでいる
別人格が生まれてしまって
その人格が希海のことを支配している”
”希海の演技”
「ーーーーー」
輝夫は、3つの説をメモしながら、険しい表情を浮かべていたー。
流石に、半月以上も希海が”わたしはエミリーよ!”なんてことを
するとは思えないし、輝夫も疑ってはいない。
ただ、”可能性”を考える上では、
あらゆる可能性は考えなくてはいけない。
しかし、やはりどう考えても
希海に”わたしはエミリーなの!”と、半月以上も言い続けて
大学まで休むメリットは何もないー。
唯一あるとすれば、希海本人が
”異世界の姫に乗っ取られてしまったフリをし続ければ、
輝夫がずっとわたしをいつか助けられると思って
永遠に養い続けてくれるかもしれない”とでも、考えたのなら
希海本人にもメリットはあるかもしれないー。
ただ、希海はそんな性格じゃないし、
そんなことをしたら、永遠に素の自分を出せなくなる。
友達とも今まで通り絡むこともできなくなるし、
流石にそれはないー。
「ーーー」
輝夫は”希海の演技”である可能性はほぼ排除しながら、
残りの2つを考えるー
”異世界の姫が希海に憑依している”
あるいは”希海の中に自分を異世界の姫だと思い込んだ別人格が生まれた”
この2つならー…
当初は”憑依”の方を考えてはいたものの、
現実的にあり得るなら、別人格…
つまり、希海の中に”わたしはエミリー!”と思い込んでいる人格が
生まれてしまったー、
そんな状況の方が可能性としてはあるのではないか、とそう考え始めた輝夫。
「ー異世界なんて現実的にあるとは思えないし、
異世界から憑依してくるなんて、さらにあり得ないしなー…」
どっちも、なかなか現実的には想像できないけれど、
”二重人格”の方であればまだその可能性はあるような、
そんな気がした輝夫は”やっぱり、いずれにせよ病院に連れて行った方がいい”と、
そう判断するー。
輝夫は、希海の部屋をノックすると、
すっかりゴージャスな装飾が施されて、別人の部屋のような状態になった
希海の部屋を困惑した様子で見つめながら
その中へと入っていくー。
「ーあら、何か用?」
希海が高飛車なオーラを隠そうともせずに言う。
「ーー希海。”元に戻る方法”が分かるかもしれないー。
だから、病院に行こう」
輝夫がそう言い放つと、希海はうんざりとした様子で、
「いい加減にしなさいー。わたしはエミリーよ」と、
不満そうにそう言葉を口にするー。
「ーい、いい加減にするのは君だ!
その身体は”希海”のものなんだから、
希海って呼んだっていいだろ?」
希海に憑依したエミリーの横暴な態度に不満を募らせていた
輝夫は、そう言葉を漏らすと、
希海は不愉快そうに「わたしは、あなたなんかに命令されないから」と、
そう言葉を口にするー。
「ー大体、あなたにわたしに指図する資格があると思ってるの?」
希海は腕組みをしながらそう呟くー。
「王宮の兵士も、騎士も、メイドも、大臣も、
みんなわたしの言いなりなのに、
もちろんー、王国の民たちも。
あなたも、少しは見習ったらどう?」
希海はなおも偉そうな振る舞いをしながら言う。
「ーーー…”ゼリアス王国”なんて、君の妄想だー」
輝夫は、”希海”を支配しているエミリーに揺さぶりを
掛ける意味でもそんな言葉を口にすると、
希海は「なんですって!?」と、不満そうに叫ぶー。
「ーゼリアス王国とやらがあるって言うなら
俺にも見せてくれよ!
それに君がいつも名前を呼んでるカイルとかいうやつも
どうせ君の妄想なんだ!」
輝夫がそう叫ぶと、
希海は「なんですって~!?!?」と、
怒りの形相を浮かべるー。
「ーー何がエミリーだ!いい加減にしてくれ!
早く、希海を返してくれ!」
輝夫がそう言うと、希海は
「ーーあんたーー…元に戻ったら絶対にお父様に言いつけてやるから!」と、
そう叫ぶー。
「ーーははっ!”お父様”なんてのも君の妄想だろ!」
輝夫がそう声を上げると、
そのまま”希海”との口論に発展してしまうー。
希海と喧嘩したことなど、一度もなかったのに
まるで希海と喧嘩したような気分になってしまいー、
輝夫は部屋に戻った後も頭を抱えるー。
このままじゃ、希海本人は何も悪くないのにー、
”恐らく”身体を乗っ取られているだけなのに
希海のことまで嫌いになってしまうー。
輝夫はそう思いながら、希海の親に連絡を入れると、
意を決して”希海の状況”を説明したー。
万引きの件は上手く誤魔化してはおいたものの、
もう、輝夫一人で抱え込むのは限界だ。
輝夫はそう思い、全てを打ち明けると
希海の母親も心底動揺したような反応を見せると同時に、
”病院に連れて行く”ことに賛同してくれたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー触らないで!無礼者!」
病院でも、エミリーを名乗る希海は
横暴な態度を取り続けたー。
「ー国王の娘であるわたしをいつまで待たせるつもり!?」
希海が腕組みをしながら、受付にクレームを入れているー。
「おい!希海!!」
輝夫が希海を慌てて止めようとするも、
「ー邪魔よ!」と、突き飛ばされてしまい、
盛大に壁に激突してしまうー。
「ーー他の患者様もいらっしゃいますのでー」
病院のスタッフが困惑した様子で、
怒り狂う希海に対応しているー。
希海の高圧的な態度に、怒りの形相ー。
”こんなの、希海じゃない”と、そう思ってしまうぐらいに
その姿は別人のように見えてしまったー。
「ふん!!こんな無礼な病院ー
話にならないわ」
希海はそう言葉を口にすると病院から立ち去ってしまうー。
輝夫は病院のスタッフと、周囲にいた利用者たちに
平謝りをすることしかできず、
困惑した表情を浮かべるのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「どうして、勝手なことするんだ!」
帰宅した輝夫がそう叫ぶと、
希海は「ーうるさいわね!!!あんたもわたしに敬意を払いなさいよ!」と、
そう反論するー。
「ーー希海をー…!希海を返せ!!」
輝夫がそう叫ぶと、希海は「ーわたしだって好きでこんな状態に
なってるんじゃないわよ!」と、怒りを露わにしてから、
「ーやっぱりカイルじゃないと話にならない!カイルを呼んで!」と、
希海がそう叫ぶー。
「か、カイルなんていない!!お前の妄想だ!」
輝夫は、”エミリー”の世話役であるカイルなど存在しないと、
そう言い放つー。
すると、希海は悔しそうに目に涙を浮かべながら
「もうあんたには頼らないー!」と、そう言葉を口にして、
そのまま立ち去ろうとするー。
「希海!」
輝夫は希海の手を掴むも、希海は輝夫を乱暴に振り払って、
輝夫は勢いよく転倒してしまうー。
「この役立たず!」
希海にそう罵られても、
輝夫は転倒した際に腕が変な方向に曲がってしまった激痛に耐えながら
「希海ー」と、そう叫ぶー。
が、希海は玄関にあったモノを輝夫に向かって
投げつけると、「あんたなんて死罪にしてやるんだから!」と
そう叫んでそのまま姿を消してしまったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「マジかよー。何があったんだよー?」
翌日ー
家に”お見舞い”にやってきてくれた輝夫の親友・孝信が
困惑の表情を浮かべながら、そう言葉を口にしたー。
輝夫は困惑した表情を浮かべたまま、
これまでの出来事を口にすると、
「ーーで、その結果がこれだよ」と、
骨折してしまった自分を自虐的に笑いながら
輝夫はそう言葉を口にしたー。
「ーー…い、いや、でも、森藤さんはどうするんだよー?」
家を出て、姿を消したままの希海のことを
心配そうに言葉を口にする孝信。
すると、輝夫は悲しそうに
「俺だって、どうにかしてあげたいー」と、そんな言葉を口にするー。
ただ、輝夫は同時に疲れ切った表情を浮かべながら
「でも、もう、どうすることもできないんだー。どうすることもー」と、
そんな言葉を付け加えるー。
「ーーー…お前ー…」
孝信は、輝夫がすっかりと精神的にも参ってしまっている様子を
見つめながら困惑した表情を浮かべると、
「ーー……俺にできることはもうないと思う」と、輝夫はそう言葉を吐き出すー。
「ー希海が、二重人格でも、
それだけなら俺は気にしないし、
ずっと一緒にいたかったー
でもー…希海の中のもう一人の子が
それを望まないとなると、俺はー…」
輝夫は、もうできることはやった、と、
心底疲れた様子で呟くー。
希海の身に起きていることは”二重人格”などではないー。
しかし、輝夫はすっかりそうだと決め込んでしまっていて、
希海が豹変してから今までの、希海に振り回される期間で、
すっかりと疲れ果ててしまっていたー。
希海のことは今でも好きだし、大事にしたいとは思っている。
ただ、”希海の姿・声・身体”をした別の存在に
振り回され続けて、
輝夫は希海が好きなのに、希海の姿を見ると怖いと感じるぐらいに
希海そのものがトラウマになってしまっていたー。
「ーーー…そ、それじゃー、も、森藤さんと別れるってことかよー?」
親友の孝信は戸惑った様子でそう言葉を口にするー。
輝夫は、孝信の方を見返すと
自虐的に笑いながら、
「俺は、弱い人間だなー…一番つらいのは希海だと分かっているのにー、
きっと、希海本人は助けを求めているのにー、
助けてあげることができなかったー」と、
そんな言葉を口にするのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
異世界ーー
希海に憑依してしまった姫・エミリーがいたという
その世界ー
”ゼリアス王国”は本当に存在していたー。
「ーーしかし、姫様はどこにー?」
ゼリアス王国の王宮では、心配そうに家臣たちがそう言葉を口にしているー。
国王もため息を吐き出すー。
がー、そんな様子を余所にエミリーの世話役でもあった男・カイルは
笑みを浮かべていたー。
”姫様の横暴な態度は目に余ったー。
みんな、口には出さないが、姫様がいなくなって
ホッとしてるだろうよー”
カイルは内心でそう思いながら笑みを浮かべるー。
「ーー今頃、姫様は別の世界で元気にー…
いやー…もしかしたら既に死んでるかもしれんな」
カイルはそう言葉を口にすると、
静かにその場を立ち去っていくー。
異世界でもワガママ放題だったエミリー。
そんなエミリーを見かねたカイルは
闇の魔術師と手を組み、エミリーを異世界へと
葬り去ったー。
その結果、偶然、エミリーの魂が
この世界からすれば異世界の希海に入り込んでしまって、
憑依してしまったー。
憑依された希海本人や、
希海の彼氏であった輝夫からすれば、
全く自分たちとは無関係の事柄に巻き込まれてしまっただけの災難ー。
しかし、希海のことを諦めてしまった輝夫も、
エミリーに憑依されてしまった希海自身も、
そのことを知ることはなかったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
1年後ー。
輝夫は大学で、いつものような1日を送っていたー。
もう、希海の姿が大学にはないー。
輝夫はあれから、”俺は大事な人を救えなかった”と
自責の念に駆られて、
新しい彼女を作ろうとはしなかったー。
”俺は、大事な人に何かあっても守れない”と、
それなら、最初からもう誰も好きにならない方がいい、と
そんな考えにたどり着いてしまったようだったー
「ーーそういや、ちょうど去年の今頃だったかー?」
親友の孝信が、ふと希海のことを口にすると、
輝夫は「ーー…そうだなー」と、苦笑いするー。
1年も経過して、ある程度は立ち直っていたものの、
”もう彼女は作らないよ”と、輝夫は、
ずっとそれを引きずっている様子だったー。
「今頃、どうしてるんだろうなー?」
孝信がそう言葉を口にすると、
輝夫は少しだけ複雑そうな表情を浮かべながら、
”連絡がないということはー、きっと今もあの人格にー”と、
そんなことを思うのだったー。
いつの日か、正気を取り戻した希海が
連絡してきてくれるー…
そんなことをほんのわずかだけ期待しつつも、
輝夫は自分の弱さに苦笑いしながら、
悲しそうに「ーもう、忘れるよ」と、そう言葉を口にするのだった。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
円満解決…にはなりませんでした~!
最後まで憑依にも気付くことが出来ず、
勘違いしたままの結末に…!
もし、真実にたどり着いていれば、
また行動も違ったかもですネ~!
お読み下さり、ありがとうございました~!☆
★作品一覧★
コメント