彼は、念願の憑依薬を手に入れたー。
24時間だけ憑依することができるその憑依薬ー。
バイトで貯めたお金を全て使って手に入れたそれで、
彼は欲望の時間を楽しもうとしたもののー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーマジかー」
同じ大学に通う友人の三好 翔太(みよし しょうた)が
驚いたような表情で”それ”を見つめるー。
翔太のそんな反応を見ながら、
彼ー…澤野 元哉(さわの もとや)は、
嬉しそうに笑みを浮かべたー。
「ーへへへー驚いたかー。
これが”念願の”憑依薬だぜー?」
元哉のその言葉に、翔太はゴクリと唾を飲み込むー
「ーーーで、でも、それ何百万もしたやつだろー?
マ、マジで買ったのかー?」
翔太のその言葉に、元哉は「あぁ」と笑みを浮かべながら
「バイトで貯めたお金、全部使い果たしたけどなー」と、
そう言葉を口にしたー。
「ーー24時間だけ”憑依”できる、とか、書かれてたやつだろー…?
絶対、そんなことあり得ないしー、
仮に本当に憑依できたとしても、24時間だけだろー?
たった24時間だけのために何年もバイトで貯めたお金を
全部消費するとか、あり得ねぇー」
困惑の表情の浮かべる翔太。
しかし、そんな翔太を前に、元哉は「いいんだよー
この先、死ぬまでずっと忘れない最高の思い出を作れるんだから」と、
そう言葉を口にしながら、笑みを浮かべたー。
「ーーー…で?仮に憑依できるとしたら
誰に憑依するんだよー?」
翔太が呆れ顔でそう言うと、元哉は「憑依相手はもう決めてあるさー」と、
ニヤニヤしながらそう言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日の朝ー。
「へへー」
ニヤッと笑みを浮かべる元哉は、
早速憑依薬を手に、それを飲み干したー。
彼の狙いはー、
同じ大学に通う女子大生・静香(しずか)ー
金崎 静香(かなざき しずか)とは、
高校時代から同じ学校で、
時々話す間柄だー。
とても可愛らしく、人気もあるため、
元哉からすれば”雲の上のような存在”の子であるものの、
”この憑依薬”があれば、24時間ー、
静香を好きにすることができるのだー。
「ーーー…へへへへー今日から明日の朝まで、
金崎さんは俺のものだー」
元哉はニヤニヤしながら、幽体離脱した状態で、
静香の家へと向かうー。
すると、静香はちょうど家を出て、
どこかに向かおうとしていたー。
ちなみに、住所を知っているのは
大学に入ってから、一度、大学帰りに遭遇したことがあり、
その時に話をしながら帰った際に知っただけで、元哉がストーカーであるわけではない。
「ーーへへへへー…じゃあ、さっそくー
金崎さんーお邪魔しま~す」
ニヤニヤしながら、元哉がそう言葉を口にして、
自分の霊体を、静香の身体に重ねると、
静香が「うっ…」と声を上げて、ビクッと震えたー。
その直後ー、霊体ではなく”人間”としての感覚が
戻ってきて、元哉は自分が静香に憑依することができたことを
確信するー。
自分の手とは異なる、静香の手を見つめながら、
それを動かすー。
他人の手を勝手に動かした最初の瞬間ー
それを噛みしめるように、手を開いたり、閉じたりを繰り返すと、
「ホントにー、金崎さんの身体が俺の思い通りに動くー」と、
静香の声で嬉しそうにそう言葉を口にしたー。
がー、次の瞬間ー
「ーーいてっ」
静香はそう言葉を口にすると、苦しそうに表情を歪めたー。
それもそのはずー…
何だか妙に”喉が痛い”のだー。
唾を飲み込むだけで走る激痛ー。
「いっ…な、なんだこれ!?」
静香の声でそう言葉を口にする元哉ー。
それと同時に、身体が妙に重くて、
強い悪寒と倦怠感、さらには関節痛を感じ始めるー。
静香の身体に憑依して、自分の霊体が
静香の身体に馴染むと同時に、
妙な感覚が一度に襲い掛かって来たー。
とにかく、体調が悪いー。
とてつもなく、体調が悪いー。
「ーーい…いやいやー…な、なんだこれー…」
静香は表情を歪めながら、
”憑依の喜び”も吹っ飛ぶぐらいの体調の悪さに気付くー。
一瞬、”憑依”してしまったことで、
静香の身体がおかしな反応を示しているのではないかと
心配したものの、
すぐに、”熱”があることの気付くー。
「ーー…うわっ…なんだー…す、すごい熱ー」
静香は表情を歪めながら、一旦、家の方に引き返していこうとするー。
お楽しみをするにせよ、何にせよ、
とりあえずまずは家に入りたいー。
どこに出かけるつもりだったのかは知らないものの、
家を出てすぐの静香の身体で、すぐに家に戻り、
静香はうんざりとした様子で声を上げたー。
「くそっーなんだよこれー…調子わるっ…」
静香ははぁはぁ言いながら、部屋の中で寝転ぶと、
ふと、病院の診察券が鞄から零れ落ちたのに気づいたー。
「ーーー…病院、行こうとしてたのかー」
そう呟きながら、静香のスマホを見つめるー。
そこには、昨夜、夜間救急で病院を訪れて
インフルエンザと診断され、今日、改めて通常の診察を
受けることになっていたー、という記録が残されていたー。
「あ~~~…なるほど…
インフルエンザかー」
静香に憑依した元哉は、呆然とした表情を浮かべながら
そう言葉を口にすると、
しばらく間を置いてからもう一度、
「ーインフルエンザかー…」と、がっくりした様子で
そう言葉を口にしたー。
静香は、昨夜のうちに熱が出て
夜間救急の診察を受けて、インフルエンザの診断をされて
さっき、外に出て来たのは、予約していた病院に
足を運ぶためだったのだろうー。
そうとは知らずに、静香に憑依してしまった元哉は、
表情を歪めるー。
「ぐ…じ、冗談じゃないぞー…
あ、あの憑依薬、いくらしたと思ってるんだー」
静香の声で、不満そうに言葉を口にする元哉ー。
バイトで一生懸命貯め続けたお金で買った
”24時間だけ”憑依することができる憑依薬ー。
一度憑依したら、24時間後まではその身体から
抜け出すことはできないし、
憑依したあとに”やっぱりやめた!”は、できないー。
「ーーくそっ!インフルエンザだと知ってたら憑依しなかったのにー」
そう言葉を口にしながらも、
「と、とにかく、金崎さんの身体で俺は楽しむんだ!」と、
ムキになって、胸を触り始めるー。
「えへっ…へへへー…」
生まれて初めて味わう感触に、思わず笑みを浮かべる
静香に憑依し元哉ー。
がー、そのすぐ後にー、
ガクッと身体をぐったりさせてー、
「ーーあぁぁ…寒いー、痛ぇ…」と、
静香に憑依して胸を揉む快感よりも
”インフルエンザの苦痛”が勝って、がっくりとその場に
だらしない姿で倒れ込むー。
「ーーーーーくそっ…マジかーーー…
このままじゃー、俺が汗水流して働いたのが無駄にー…」
静香は不満そうに呟くー。
憑依で最高の24時間を楽しむために、
今までバイトで稼いだほぼ全額を使ってしまったー。
だが、このままではそれが全て無駄になるー。
”24時間、インフルエンザ体験”をするために、
バイトを頑張ってきたわけじゃないー
「ーーーぁぁぁぁ…くそっー」
イライラしながら立ち上がった静香は、
そのまま”お着替え”を楽しもうとするー。
しかしー、上着を脱いだだけで物凄い寒さを感じて、
布団にくるまってぶるぶるとしてしまう静香ー。
「くそくそくそっ…よりによってなんでインフルにー…」
静香がインフルエンザになってしまったタイミングの悪さに
不満を感じながらも、”このままじゃ本当に憑依薬の無駄遣いになっちまう”と、
バッ、と時計を見つめるー。
こうなったら、サッサと病院に行って解熱剤を貰って、
サッサと一度寝て、残り12時間ぐらいになってもいいから
憑依を楽しもうと、計画を変更することを心の中で決めるー。
がー、既に静香が予約していた病院の
診察時間は過ぎてしまっていることに気付き、
静香に憑依している元哉は戸惑いの表情を浮かべるー。
「ーーーーく、くそっ…ーまぁ、別に病院はそこだけじゃないしー」
そう思って、受診できる病院を探そうとするも、
さらに体調は悪化して、”これ、病院で待つのもきついぞー?”と、
そう思った静香は、仕方がなく、家の中から
風邪薬を探して、それを服用したー。
「ー頼むー。ちょっとは効いてくれー…
せっかく金崎さんに憑依したのに、
このまま1日が終わったら、俺は何のためにバイトしてきたんだー」
そう思いつつ、布団に潜りこむ静香ー。
しかし、悪寒も倦怠感も強くー、
関節痛にも襲われた静香は表情を歪めながら苦しむ
「ーあぁ…くそっー、エロイこといっぱいしたかったのに、
何で俺はインフルで苦しんでるんだー」
”静香の声”で喋ることができているにも関わらず、
そのことに喜び暇もないほどの苦痛ー。
「あ~~~くそっ…
金崎さんのインフル、強烈すぎるだろー」
不満そうにそう言葉を口にしながら、
ようやく、だんだんと眠気が勝って
そのまま眠りについた静香は、
時々、寝苦しそうに動きながらも、
睡眠タイムに突入していくー。
やがてーー
「ーーーー!!!!!」
静香がガバッと起き上がると、
既にーー
深夜になっていたー。
「ーあぁくそっ!寝過ぎた!
もうあと6時間もねぇ!」
憑依してから24時間で、
この憑依薬は自動で”憑依”の時間が終わるー。
残り6時間を切った状態になっていることに気付き、
「冗談じゃねぇ」と、そう言葉を口にすると、
そのまま服を脱ぎ捨てて”お楽しみ”を始めようとするー。
がー、下着姿になった時点で、
あまりの寒さに震えて、そのまま布団に潜りこんでしまうー。
「あぁぁぁ…くっそー…
思ったより長く寝ちまったから、もう風邪薬の効果も切れてるー」
そう呟きながら、布団を被ったまま移動して、
とりあえず顔を洗うー。
それでも、悪寒は収まらず、
鏡に映る静香の顔は、
いつも見る静香とは別人のようにげっそりとしていたー。
目は充血しているし、
髪はボサボサー、
顔色も良くないー。
「ーーぐぬぬぬ…こ、このままじゃホントに何もできないまま
憑依の時間が終わっちまうー。」
そう言葉を口にしながら、静香は
「くそっ!!立て!立つんだ!」と、静香の身体に言い聞かせるようにして
叫びながら、
無理矢理、”お楽しみ”を始めようとするー。
けれどー、
インフルエンザで辛い時に、
自分の身体で楽しもうとしても、そう簡単に楽しめるものではないー。
それは、女も男も同じことー。
こんな体調不良では、胸を触ろうと、
アソコをいじろうと、そう簡単に気持ちよくなることなどできないー。
「ーーーぁぁぁ…くそっ…」
倦怠感が勝り、静香はその場に倒れ込むと、
そのまま眠るようにして意識を失ってしまったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー!?!?!?!?!?」
自分の身体で目を覚ました元哉はガバッと
起き上がると、表情を歪めたー。
”く、くそっー…結局、ほとんど何もできなかったー”
元哉は、不満に満ちた表情を浮かべるー。
バイトで貯め続けたお金を全て使って
購入したというのに、
ほとんど何もできなかったー
いや、むしろ、インフルエンザの苦痛を24時間、
静香の代わりに肩代わりしてしまったようなもので、
”最悪”というほかなかったー。
「ーあ~~~~くそっ!くそっ!くそっ!
どうしてこんな目にー!」
元哉は怒りの表情でそう叫ぶー。
と、言っても静香は悪くないし、
販売業者を責めるのも間違っているー。
誰にも怒りをぶつけられないことを理解しているからこそ、
どこにぶつけていいのか分からない怒りを
こうして発散することしかできなかったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーそういや、金崎さんはー?」
翌日ー
大学に足を運んだ元哉は、静香の姿が見えないことが気になって
親友の翔太にそう言葉を口にするー。
「ーーん~?あれ?知らねぇのか?」
翔太は立ち止まると、そう言葉を口にしながら元哉を見つめる。
「え?」
元哉が少し不安そうに、首を傾げると
翔太は言ったー。
「金崎さん、インフルエンザの熱で、自宅で倒れてて
緊急搬送されたってー。
今も意識不明だとかなんとかー」
翔太のその言葉に、
元哉は「ー!!」と、青ざめるー。
インフルエンザの静香に憑依して、
無理をしたせいかもしれないー。
いや、そもそもインフルエンザのような体調不良の状態で
”憑依”されたこと自体が身体に大きな負担になったのかもしれないー。
「ーどうした?顔色悪いぞ?」
翔太のその言葉に、元哉は「あ、いやー…」と、
それだけ言葉を振り絞ると、
それ以上は何も言えずに、只々その場に立ち尽くしたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
インフルエンザの季節…★
皆様も(風邪なども含めて)気を付けて下さいネ~!
お読み下さりありがとうございました~!☆!
コメント
憑依した側もされた側も誰も得しない最悪な結末になってしまいましたね。
特に悪意はなかったとはいえ、下手したら静香はこのまま助からないかもしれませんし。
ところで、もしインフルエンザのウイルスと憑依薬や風邪薬とかで妙な化学変化が起こって、時間切れになっても抜け出せなくなって、一生そのまま静香として生きるしかなくなるみたいな展開になっても面白そうだった気がしませんか?
感想ありがとうございます~!!
憑依されたせいで、何か影響が残ったり
助からなかったりしたら災難ですネ~!
抜け出せなくなってしまってそのまま…★
ノロウイルスVS憑依~ みたいな話で書けるかもですネ~!笑