”天才の俺が、あえてドジとして振る舞っているー”
その、理由は何なのかー。
話せば、長くなるー。
でも、俺は妹として、
あえて”ドジっ娘”な振る舞いを続けなくちゃいけないー。
俺が、ドジとして振る舞う理由ー。
それはーーー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※こちらは、2023年12月に果実ろあ様(@fruitsfantasia)の
「兄妹&姉弟入れ替わり合同」の参加作品として私が書いた作品デス~!
自由に公開していい期間を迎えたので、
憑依空間にも載せておきます~!☆
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーふぎゃっ!」
教室の扉を開けずにそのまま教室に入ろうとして
扉に激突する少女ー。
「ーびゃっ!?!?」
体育の授業中に、ボールで躓いて盛大に転倒する少女ー。
「ーふぇぇぇぇっ!?」
昼休みに、食べようとしていたパンを床に落として悲鳴を上げる少女ー。
そんな、彼女を見て
近くにいた友達の千里(ちさと)は、
戸惑いの表情を浮かべたー。
「ーだ、だ、だ、大丈夫ー?」
千里のそんな言葉に、
朝からドジばかりを繰り返している少女ー、
北村 梨乃(きたむら りの)は笑いながら答えたー
「えへへへー…わたしってばドジばっかりー」
とー。
「ーーえ~…いつもそこまで酷くないでしょ~?
確かに梨乃はドジだけどさ~」
千里が半分、呆れたような笑みを浮かべながら
そう言葉を口にすると、
梨乃は、「あ、あはははははは!」と、
誤魔化すように笑いながら目を逸らしたー
そしてーー
少し千里から身体を離して、千里とは反対側を向くと
「どうしてー、どうして俺がこんなことをー!」
と、不満そうに呟いたー
”天才の俺が、どうしてこんなドジなことをしなくちゃいけないんだー!”
心の中でそう叫びながらー。
ーーこんなことになってしまった理由ー
その発端は”前日”まで遡るー
「ーーーー梨乃…おい、梨乃!」
梨乃の兄・北村 辰治(きたむら たつはる)が、
呆れ顔で、セットしたスマホのアラームを止めて
寝息を立てている梨乃の身体を揺さぶるー。
「ーーん… ん~…あと45分ー」
梨乃がそんな言葉を口にすると、
辰治は「また寝坊だぞー」と、呆れ顔で笑うー。
「ーー……って、えぇっ!?」
少し間を置いて、寝ぼけていた梨乃がガバッと起き上がると、
「ー全くー、梨乃はホントに寝坊するの好きだなぁ」
と、辰治は笑うー。
「も~~~!そんなに寝坊してないもん!」
梨乃はそう言いながら頬を膨らませるー
”いや、一昨日も寝坊してたじゃんー”
心の中でそんな風に思いながらも、辰治は
苦笑いしながら慌てて朝の支度を始める
梨乃のほうを見つめたー。
この日も”朝”までは、
良くも悪くも、いつも通りー。
だがーーー…
”それ”は、起きたー。
辰治は大学、梨乃は高校での1日を終えて
二人とも帰宅するー。
そんなタイミングで、
「あ~~~~!!!!学校に下着忘れたぁ!」
帰宅した梨乃がそう叫ぶー。
「ーーいやいやいや、普通忘れねぇだろー」
辰治が、思わずそんな風にツッコミを入れると、
”ん?じゃあ、ってことは今、つけてないのか?”
と、頭の中で考えながらも、それを指摘するのは
悪いような気がして、何も言わずにそのままそれ以上は言わなかったー。
「ねぇねぇどうしようお兄ちゃん!」
梨乃が、困惑した表情を辰治に向けて来るー。
「どうしようって言われてもなぁ…
まぁ、盗まれるような場所に置いてないなら、
明日、回収すればいいんじゃないか?」
辰治がそう言うと、
梨乃は少し考えてから「ーお兄ちゃん、取ってきて♡」と、
甘えた口調でお願いしてくるー
「いやいやいやいやいや」
辰治は首を横に振ると、
梨乃は「お兄ちゃん、何でもできる天才でしょ?おねがい!」と、
言葉を続けたー。
ドジな梨乃とは対照的に、
辰治は”天才”と言うのにふさわしいタイプの男子大学生で、
成績も優秀、スポーツもできるし、手も器用で、しかも容姿にも
恵まれているイケメンー。
自身家なところはあるけれど、人に嫌味を言うようなタイプではなく、
ちゃんと気配りもできるために、友達も多いー。
そんな、兄だったー。
「ーーーいやいやいやいやー
天才でも、妹の下着を回収するために、妹の高校に侵入するのは無理だろ」
辰治は、そんな言葉を口にすると、
「も~…けち~!」と、梨乃は頬を振らませながら、
しばらくむすっとしていたもののー、
「もういいもん!」と、言いながら
そのまま階段を上って、自分の部屋に向かおうとするー。
「ーーはぁ」
ため息をつく辰治ー。
「拗ねちゃったかー」
ドジで子供っぽいー。
それが、妹の梨乃だー。
だが、どこか憎めない部分もあり、
兄の辰治も、妹の梨乃に振り回されつつも、
梨乃のことを可愛がっているー。
「ーー仕方ない」
少し面倒臭そうにしながらも立ち上がると、
拗ねた梨乃に声を掛けに行こうと、階段を上り始めるー。
”とりあえず、コンビニでアイスでも買ってやるかー”
まるで子供に対するような扱いだがー、
”対・梨乃”では、それが正しいー。
いつもと同じように
”ほら、アイスでもお菓子でも買ってやるからー”とでも
声を掛ければ、梨乃は目を輝かせて”えっ!?ほんと~!?”と
飛びついてくるー。
そんな子なのだー。
がー、階段を上っている途中ー
突然、梨乃が階段の上から顔を出して、
「あっ!お兄ちゃんお兄ちゃん!下着!あった!鞄の中にー!」と、叫んだー
「ーーへー?なんだよ、忘れたんじゃなかったのかよー」
”おいおいおいおいー”と、
内心でツッコミを入れながら、辰治が次の言葉を発しようとしたその時だったー
「って、わぁぁぁ!?」
階段の上の部分から足を踏み外した梨乃が、
階段を上っている途中だった辰治の方めがけて転がって来てー…
「ーうっうわっ!?おいっ!?」
そう叫ぶと同時に、上から落ちて来た梨乃と接触ー、
そのまま辰治も巻き込まれて、階段の下まで転落してしまったー。
「ーーーー…ん…」
階段の下で目を覚まし、意識を失っていたことに気付いた辰治は、
すぐに妹の梨乃の身を案じるー。
「ーり、梨乃ー大丈夫か!? ーーーえ?」
そこで、辰治は言葉を止めたー。
”2つのこと”に驚きを隠せなかったー。
まず一つは、
”自分の口から出た声がまるで別人のような声だったこと”
そして、もう一つはー、
目の前に倒れているのが、”梨乃”ではなく、”自分”であったことー
「ーな、な、な、な、なんだこれ!?!?!?!?」
”梨乃の声”で、そう叫びながら、自分の手を見つめる辰治ー。
そこには、自分の手ではなく、梨乃の手ー。
しかも、自分が”女子高生”の制服を身に着けているー。
「ーー!?!?!?!?!?!?」
思わずドキッとしてしまう辰治ー。
そう、辰治は”梨乃の身体”になってしまっていたのだったー。
そうなれば、当然ー…
”ま、まさかー”
そう思いながら、「梨乃…?梨乃だよな?」と、
不安そうに、”倒れたままの辰治”に呼びかけるー。
幸い、二人とも階段から落ちた際に大けがをしたり
するようなことはなかったようで、
”辰治”も、問題なく目を覚ましたー。
がーー…
「ーーーえっ…!?わ、わたしがもう一人ー…!?!?!?
は…は…は、はじめまして!!!」
と、辰治(梨乃)は、そんな言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それがー、昨日の出来事ー。
そして、今日ー…
辰治は”梨乃”の身体で、梨乃のフリをして
学校にやってきていたのだー。
”辰治になった梨乃”は、とりあえず今日は
大学が休みだったため、家に待機して貰っているー
妹の梨乃とどうするか相談した際に、
”お兄ちゃんなら、完璧にわたしのフリ、できるでしょ!”
などと、勝手に決めつけられてしまいー、
こうして、梨乃になった辰治は、梨乃として
高校に来ることになってしまったのだ。
しかしー、
流石に”天才”な、辰治と言えど、
100%梨乃の再現をするのは難しいー。
ましてやドジで天然な梨乃の真似をするー…
つまり、”突然奇妙な行動をすることのある”
ある意味で、予測不能な行動の多い”梨乃”を再現するのは、
辰治のような人間からしてみれば、特に難しいのだー。
「ーに、しても、梨乃のやつー、
普通、”わたしの身体で変なことされちゃう”とか、
心配するもんじゃないのかー?」
廊下を歩きながら、
そんな言葉を口にする梨乃(辰治)ー。
いくら、兄妹仲が良いとは言え、
こんなにもあっさり、監視もなしに自由にされると、
ちょっと戸惑うー。
「ーーまぁ、梨乃の身体で変なことはしないけどさー」
梨乃(辰治)がそう呟きながら、
トイレに入ろうとすると、
友達の千里が「ちょっ!?なにやってんの!?」と、
慌てた様子で声を掛けて来たー
「ーーえ?」
梨乃(辰治)が困惑しながら振り返ると、
千里は「え!?じゃないでしょ!?そこ、男子トイレ!」と、
顔を赤らめながら言うー。
「ーあっ」
梨乃(辰治)は”やべっー、さっきは間違えなかったのにー”と、
心の中でそう呟きながら、
咄嗟に「えへへー間違えちゃった~ わたしってばドジ!」と、
笑いながら言葉を口にするー。
「ーーー…ね、熱でもあるの?
今日、なんか変じゃない?」
千里にそんな言葉を投げかけられてしまう
梨乃(辰治)ー。
「ーーーえ、え、え~~!ほら、わ、わたしっていつもドジだから!」
梨乃(辰治)が咄嗟にそんな風に誤魔化そうとするも、
千里は、疑いの眼差しを梨乃(辰治)に向けるー。
「え…な、なにその目…?」
梨乃(辰治)が困惑しながら、そう言葉を発すると、
千里は「じーっ…」と、言葉を口にしながら、
梨乃(辰治)をさらに見つめるー。
「そ、そ、そんなに見つめないでよ~
いくらわたしが可愛いからって えへへ」
梨乃(辰治)は照れくさそうにそんな言葉を口にするー。
妹のことを”可愛い”を思われているのは、
兄として悪い気分ではなかったー
がーー
「ーーー…ねぇ、やっぱ変だよー、今日の梨乃…」
千里のそんな言葉に、
梨乃(辰治)は「ギクゥ!」と、言葉を口にしてしまうー。
「ーいつも、ドジって言われると
”そんなことないもん!”ってムキになるのにー、
今日は何故か、”わたしってばドジ~”とか、
自分からドジとか言っちゃってるしー…
それに、梨乃が自分で自分のこと可愛いなんて
言ってるのも、初めて見たしー…」
千里がそう言うと、
梨乃(辰治)は「た、た、確かにー」と、
納得したような表情を浮かべるー。
「ーた、確かにってー……
ーーー……え?なに?梨乃じゃないの?」
千里は、梨乃(辰治)の言動から
”なにかがおかしい”と思いつつ、そんな言葉を口にするー。
「ーえ、え~…えっとー、
り、梨乃であることは確かなんだけどー…
梨乃であって、梨乃じゃないというかー」
梨乃(辰治)が、そう言葉を口にすると、
千里は「は? え?なに?双子の妹?」と、
困惑の表情を浮かべるー。
”双子の妹ー…そうきたか”と、思いながらも
”まぁ、入れ替わっちゃった!なんて話より現実的って言えばそうだよな”と、
納得しながら、
「あ~いや、そういうことでもなくてー」と、
言葉を口にすると、
千里は「ま、まさか、梨乃の中の別人格!?」と、叫ぶー。
「ーべ、別人格?」
梨乃(辰治)が困惑すると、
千里は「ほら!二重人格とかそういうやつ!」と、そう言葉を口にするー
「い、いやー、
そ、そのー実は…わたし…いや、というか、俺ー、
梨乃の兄の辰治でー…」
梨乃(辰治)がそう言葉を口にすると、
「ーり、り、梨乃のお兄さん!?」と、千里が声を上げるー。
妹・梨乃の親友である千里とは、辰治も面識があるー。
家に遊びに来ている時に、何度か話をしたこともあり、
千里の側も辰治のことを覚えているのだろうー。
「ーーい、妹に女装して妹の学校にー!?」
”信じられない”と、いう表情で驚く千里ー。
「い、いや、いや、そういうことでもないんだ!
信じられないと思うけどー、か、身体が入れ替わってー」
梨乃(辰治)がそう言葉を口にすると、
千里は、梨乃(辰治)の額を突然触って来たー
「熱はないみたいねー」
そう言い放つ千里に対し、梨乃(辰治)は「だ、だからー…!」と、
何とか信じてもらおうと、”放課後に家に来てくれれば分かる”と、
そう言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーお兄ちゃん!結局バレちゃったの~?
お兄ちゃんってばドジ~!」
辰治(梨乃)が笑いながら、茶化すようにして言葉を口にするー。
「ーど、どんなに天才でも、入れ替わりとか普通、経験しないし!」
梨乃(辰治)がそう言うと、
辰治(梨乃)は「ーーあ、千里ちゃん!わたしが梨乃だよ!今はわたしがお兄ちゃん!」と、
少しドヤ顔をしながら言うー。
そんな様子を見た千里は
「ーーこの作られていないナチュラルな感じのドジっぽい雰囲気ー…
うん、間違いないー。梨乃ねー」
と、納得した様子で頷くー。
「ーえ?なになに?ドジっぽいって誰のこと?」
辰治(梨乃)が、そんな風に反応していると、
梨乃(辰治)は苦笑いしながら、
「ーこれで、信じて貰えたかなー?」と、
千里に言葉を口にするー。
「ーーあ、はいー。
まさか本当に中身がお兄さんだったなんてー
失礼しましたー」
千里がペコリと頭を下げると、
「あはは!わたしに敬語で喋ってる千里ちゃん面白い~!」と、
笑いながら辰治(梨乃)が指を指したー。
「も~~~」
千里はそう言いながらも、
「それで、元に戻る方法は分かってないの?」と、
辰治(梨乃)の方に向かって確認すると、
辰治(梨乃)は「う~ん…全然ー」と、元に戻る方法は分からない、
ということを口にしたー。
「ーそもそも、朝起きたらこうなっててー、
何で入れ替わっちゃったのかも分からなくてー」
梨乃(辰治)が、そう口を挟むと、
千里は何度か頷きながらー、
「ー昨日から、ということは寝て起きても、その状態のままだったってことですよね?」と、
梨乃(辰治)に対してそう言葉を口にするー。
「ーーあぁ…俺も元に戻ってればいいなって思ってたんだけどー…
結果はこの通りでー」
梨乃(辰治)がそう言うと、
辰治(梨乃)は「わたしの声で”俺”って言われるとやっぱ違和感がすごいなぁ…」と、
横で感心したような言葉を口にするー。
「ーーか、感心してる場合じゃないだろ?」
梨乃(辰治)が戸惑いながらそう言うと、
「ーえへへ…ごめ~ん!」と、辰治(梨乃)は笑いながら
言葉を口にしたー。
梨乃、辰治、梨乃の親友の千里の三人で色々話し合うー。
「ーーーでも、ぶつかったら入れ替わったってことは
またぶつかったりすれば元に戻るんじゃないですか?」
千里が、梨乃(辰治)に対してそう言うと、
「もちろん、それは試したけどー」と、昨日試したことを
一通り、千里に伝えるー。
当然、梨乃と辰治も入れ替わった状態を前に、
何もしなかったわけではないー。
”元に戻れるかもしれない方法”を色々試したのだー。
「ーーーう~ん…そうだなぁ~」
千里は、梨乃(辰治)が書いたメモを見つめながら、
そう言葉を口にすると、
「あ!…まだ試していない、元に戻れそうなこと思いついた!」と、
今度は、辰治(梨乃)のほうを見つめるー。
「ーーーえ?え?なになに?」
辰治(梨乃)が、目を輝かせながらそう言うと、
「ー二人でー… キス!」と、二人を順番に指さしながら
そう言葉を口にする千里ー。
「ーーえぇぇぇぇっ!?お兄ちゃんと!?」
辰治(梨乃)が顔を真っ赤にしながら声を上げると、
「い、いやいやいやいや、それは流石にー!」と、
梨乃(辰治)が声を上げるー。
「しかも、今の状況じゃ、”俺とキスするみたい”で、
耐えがたいんだけど…!」
と、そんな言葉も付け加えるー。
「ーあとは~
二人でもう一度階段から落っこちてみるとか!」
「ーーいやいや、今度こそマジで怪我しそうなんだけど!」
梨乃(辰治)が叫ぶー。
なおも千里は続けるー。
「ーあとは、二人で、身体を交わらせーー」
「ーうああああああああ!ストップ!ストップ!」
梨乃(辰治)が、慌てて千里の”暴走”を止めると、
「と、と、とにかく、やれることからやってみよう」と、
梨乃(辰治)がそんな言葉を口にするー。
「ーーーえへへ!じゃあ、”わたし”と早速キスしてみよ~!」
辰治(梨乃)は、何故か”自分自身の身体”とキスすることに
乗り気な様子で、張り切ってそう声を上げると、
梨乃(辰治)は逆に、苦笑いしながらー
「な、なんか楽しそうだなー…」と、呟くー。
”まぁ…梨乃がOKなら、試してみる価値はあるかー
確かに元に戻れそうな気はするし”
そんなことを思いつつ、梨乃(辰治)は
”自分”に顔を近づけていくー
「お、オェッー」
梨乃(辰治)は思わずそんな声を上げるー。
”自分の顔”は嫌いじゃないし、
世間的にはイケメンと呼ばれる類ではあるものの、
辰治に”男とキスする趣味”はないし、
ましてや”自分自身”とキスする趣味などないー。
どうしても、自分の顔が近付いてくると、
そういう嫌悪感のような感情が上回ってしまうー。
「ーーやっぱ、わたしってば可愛いー!」
逆に、辰治(梨乃)は嬉しそうにそんな言葉を口にすると、
逃げようとしていた梨乃(辰治)に向かって
「逃げちゃだめ~!」と、そのまま強引にキスをしたー
「ーうぉぉぉぉぇ…」
梨乃(辰治)は、自分とキスをしたことに、
うめき声を上げるー。
「ーーー戻ってないー」
そんな様子を見ていた友人の千里はそう呟くと、
「ーじゃあ、次はー!」と、二人を見つめながら笑ったー
次はー
”階段からもう一度転がり落ちることー”
「ーー不思議な現象が起きちゃったときは、
やっぱりもう一度”おなじこと”を試してみるのが一番よね」
千里が得意気な表情で言うと、
辰治(梨乃)は「わぁ…確かにそうだね!千里ちゃん、頭いいー!」と、
無邪気な表情で笑うー
「ーいやいや、誰でも思いつくだろー」
梨乃(辰治)が思わずそんなツッコミを入れると、
千里は「ーえ~…じゃあ、何で試してないんですか?」と、
不思議そうに言葉を口にしたー。
「ーいや、だって、大怪我するかもしれないしー」
梨乃(辰治)が、心配そうに辰治(梨乃)のほうを見つめつつ、
そんな言葉を口にするー。
「ーーーー」
辰治(梨乃)も、最初はそんな言葉に頷くー。
しかし、そんな二人を見た千里は
「でも、このままじゃ梨乃も、お兄さんも、元に戻れないかも
しれないんですよ?」と、心配そうに、そう言い放つー。
「ーーーーーー」
それでも、困惑とした表情を浮かべる梨乃(辰治)ー
「梨乃の顔で真剣に考え事されてると、何だか違和感がすごいですね」
千里は苦笑いしながら、場を少し和ませようと
そう言葉を口にすると、
横にいた辰治(梨乃)が口を開いたー
「お兄ちゃん、やっぱりやってみよ」
とー。
「ーえ?」
梨乃(辰治)が少し表情を歪めるー
”何を”するというのかー。
「ーー…元に戻れるとしたら、わたしも
”同じ状況”を作り出すことだと思うー。
だからー…」
「ーーもう一度、階段から落ちるってことか?」
梨乃(辰治)が心配そうに言葉を口にするー。
辰治(梨乃)は、その言葉に真剣な表情で頷くー。
どうやら、本気で階段から”転落”することを
試してみるつもりのようだー。
「ーーーーーー」
梨乃(辰治)も真剣な表情で考えるー。
確かに、このままずっとこうしているわけにもいかない、というのも
また事実だー。
辰治にとっても、梨乃にとっても、
お互い相手の身体で過ごせば過ごすほど、
色々な問題が起きて来ると思うし、
今後の人生にも影響が出て来ると思うー。
そしてー、もしも…
もしも、何か月、何年も元に戻れなかった場合ー
”ー俺たちは相手の身体で生きていくしかなくなるー…”
梨乃(辰治)は内心でそんなことを考えるー。
入れ替わりなどということを実際に経験したのは
当然初めてだー。
しかし、辰治は頭の中で色々な計算を繰り返しー、
あることを思うー。
それは、”入れ替わりが長期化すれば、仮に元に戻るチャンスがあっても、
もう、簡単に元の生活に戻ることができなくなる”と、いうことだー。
長く過ごせば、辰治は女性として、
梨乃は男性としての振る舞いを自然に身に着けていくだろうー。
そして、辰治は”梨乃”として人生を進め、
その中で色々な人間関係を作ったり、色々なつながりを作っていくー。
梨乃もまた、同じだー。
入れ替わった状態で過ごせば過ごすほど、
”元に戻れなく”なっていきー、
もしも元に戻るチャンスを手にしても、
”元に戻ることで失うモノ”がたくさん生まれてしまうかもしれないー。
「入れ替わりを長期化させるわけにはいかない、かー」
梨乃(辰治)はそう呟くと、「試してみようー。できる限りのことは」と、
辰治(梨乃)と、心配そうに成り行きを見守る千里に対して言い放ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
階段まで移動した二人は、
”できるだけ当時の状況”を思い出しながら、
できる限り同じ状況を作り出そうとしていたー。
元に戻れるとすれば、確かに”同じこと”をしてみるのが
一番良いのだろうとは思う。
しかし、階段から転落する、なんて危険なことを
何度も何度も試すわけにはいかない。
やるのであれば、1回で決めたい。
それで、元に戻れればいいし、
元に戻れなかったにせよ、
”この方法では元に戻れないみたいだ”という確信が欲しかったー。
だから、中途半端にではなく、徹底的に
辰治と梨乃が入れ替わった時の状況を再現しようとするー。
「えっとー、俺が梨乃だからー、
俺が階段を踏み外して上から落っこちればいいんだよなー」
梨乃(辰治)が当時を思い出しながら言うと、
辰治(梨乃)は「うん!お兄ちゃんが落ちて!」と、笑うー。
「ーーおいおい、なんかサイコパスっぽい笑顔だなー」
梨乃(辰治)は苦笑いしながら言うと、
辰治(梨乃)は「そんなんじゃないもん~!」と笑うー。
梨乃(辰治)と、辰治(梨乃)は、お互いに緊張をほぐそうと、
入れ替わった時の状況を確実に再現するため、
真剣に話し合うー。
「ーーー(梨乃も、お兄さんも、元に戻れるといいねー…)」
千里は、二人の様子を見つめながらそんな風に思うー。
千里からしても、”ドジじゃない梨乃”は、何だかやっぱり梨乃じゃないしー、
ドジな梨乃の兄は、やっぱり違和感があるー。
梨乃の親友として、二人には元に戻って欲しいと、
心の底から願っていたー。
「よし、じゃあ、やろうー」
梨乃(辰治)が話し合いを終えて、そう言葉を口にすると、
辰治(梨乃)は静かに頷いたー。
ドキドキとしながら、梨乃(辰治)は階段の下を見渡すー。
”わざと”階段の上から転がり落ちるということには勇気もいるしー、
下にいる辰治(梨乃)ー…
梨乃のことも心配だー。
けれどー、そんな梨乃(辰治)の不安を見透かしたかのように、
辰治(梨乃)は少しだけ微笑んだー。
「ーお兄ちゃんには、やっぱりドジっ娘は似合わないよー
お兄ちゃんは、天才なんだから!」
辰治(梨乃)が、緊張をほぐそうと、
”早く元に戻ろ!”と、笑うー。
「ーわたしもこの身体だと、常に神経張っちゃってー、ダメー。
やっぱりわたしはドジがいい!」
辰治(梨乃)が階段の下からそう呟くと、
梨乃(辰治)は、少しだけ笑いながら
「ーははー、自分で”ドジがいい”なんて…」と、
そう微笑んだー。
そして、意を決して静かに頷くと、
梨乃(辰治)は、わざと、あの時梨乃が転倒した時と同じような形を作りー、
そのまま、階段から転がり落ちたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「えへへへ…ごめ~ん、うっかりしてた」
”天才の俺が、あえてドジとして振る舞っているー”
全ては、”梨乃”のためー。
あれから、半年ー。
辰治は、今も”梨乃”の身体で”梨乃”として
振る舞い続けていたー。
「ーーーきゃ~~~!虫!虫!こっち来ないで!ひゃ~~~!」
教室に入って来た虫に怯えて見せる梨乃(辰治)ー
梨乃は、虫が苦手だったー。
辰治自身は”全然”大丈夫なのだが、
梨乃として振る舞うために”あえて”虫に驚いて見せるー。
教室から逃げ出した梨乃(辰治)は、
誰もいないことを確認してため息をつくと、
急に真顔になって、非常階段のある外に出て、
一人ため息をつくー。
「ーーー今日も、お疲れ様ー」
ふと、声がして梨乃(辰治)がビクッとして振り返るとー、
「あぁ、なんだー…千里ちゃんかー」と、
笑みを浮かべるー。
「ーーもう、いいんじゃないですかー?」
千里は、そんな言葉を口にするー。
「ーーーー」
梨乃(辰治)は、そんな言葉に、非常階段からの景色を
真っすぐと見つめるー。
「ーー…もう、半年ー……
梨乃は、きっと、このままー」
千里は、それだけ言うと、梨乃(辰治)は
少しだけ微笑みながら首を横に振ったー。
「ーー”まだ”半年だよー」
とー。
「ーーえ?」
千里が少しだけ不思議そうな表情を浮かべると、
梨乃(辰治)は笑ったー
「まだ、半年ー。
時間はたっぷりあるー。
1年後かもしれないし、5年後かもしれないし、10年後かもしれないー。
でもーーー
もしも、梨乃が戻ってきて、”元に戻れるその日”が来た時のためにー、
俺は”梨乃”として振る舞い続けるよー」
そんな言葉を聞いて、千里は少しだけ笑うと、
「ーーーそうですね」と、言葉を口にするー。
あのあとー…
”入れ替わった状況”を再現して、
梨乃(辰治)が階段から転落ー、
下にいた辰治(梨乃)とぶつかったー。
がー、二人の身体は元に戻ることはなく、
しかもー…辰治(梨乃)は、頭を打って、
昏睡状態に陥ってしまったー。
幸い、命は助かったものの、病院の先生によれば
”いつ目を覚ますかは分からない”とのことだったー。
そして、そのまま半年が経過してしまったー。
けれどー、
梨乃(辰治)は、いつか必ず辰治(梨乃)が目を覚ますと信じてー、
そして、辰治(梨乃)が目を覚ましたその時は、
今度こそ元に戻れると信じて、
”梨乃がいつでも、梨乃として生活を再開できるよう”、
こうして”あえてドジな振る舞い”を続けているー。
「ーーわたしも、親友として諦めちゃだめですねー
それに、梨乃がああなってしまったのは、
わたしにも責任がありますからー」
千里は、”階段からもう一度転落すること”を提案したことに、
強い責任を感じていたー。
今でこそ普通に生活しているものの、
当初は本当に落ち込んでいて、酷い状態だったー。
「ーーーありがとなー。梨乃もきっと喜ぶよー
そんな風に思ってくれる親友がいてー」
非常階段に座っていた梨乃(辰治)はそう呟くと
「さて、とー」と、立ち上がるー。
「ーーーまた、ドジになるかー」
梨乃(辰治)が笑いながら言うと、
千里も、少しだけ切なそうにー、けれども明るく微笑んだー。
いつの日か、必ず梨乃は目覚めるー。
そして、いつの日か、必ず元に戻ることができるー。
いつ、そんな日が来るのかは、今はまだ分からないけれどー…
だからー、
”俺はあえてドジとして振る舞い続ける”ー
梨乃が目覚めて、元の身体に戻れたその時ー、
梨乃がすぐに”元通り”の生活を取り戻すことができるようにー。
「ーーひ~~~~~!?!?!?
まだ虫がいるぅ~~!?」
梨乃(辰治)は、教室に戻ると同時に、
”本当は怖くもない虫”を見て、
”梨乃”として悲鳴を上げたー。
いつか必ず奇跡は起きるー。
そう、信じてー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ーーどのぐらい、
時が経っただろうかー。
奇跡は、起きたー。
病室で、
ゆっくり目を覚ます辰治(梨乃)ー。
「ーーーー!!!」
ちょうど、”いつ目を覚ますか分からない”妹のお見舞いに来ていた
梨乃(辰治)は、驚いて目を見開くー。
「ーーー」
ぼーっとした様子で、辰治(梨乃)が、梨乃(辰治)を見つめるとー、
辰治(梨乃)は「え…わたし、また寝坊ー?」と、
寝ぼけた様子で言葉を口にしたー。
そんな言葉を聞いて、
梨乃(辰治)は、目から涙をこぼしながら
嬉しそうに微笑んだー。
”梨乃”として長い間生きて来てー、
涙腺が脆くなったのかもしれないー。
そしてーー
”前と同じように”言ったー。
「ー全くー、梨乃はホントに寝坊するの好きだなぁ」
とー。
その言葉を聞いて、
辰治(梨乃)はクスッと笑うと
”いつもの”返事をしたー
「も~~~!そんなに寝坊してないもん!」
とーーーー
そんなやり取りに、静かに微笑んだ梨乃(辰治)は、
穏やかな口調で
「おはようー」
と、そう言葉を口にしたー。
さぁ、元に戻ろうー。
今度こそー。
おわり
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コメント
「兄妹&姉弟入れ替わり合同」に参加させた頂いた際の
作品でした~!☆!
この企画自体が半年前なので、結構前に書いた作品ですネ~!
私も読み直してましたが、懐かい気持ちになりました…★笑
今回初めての皆様も
読んだことある皆様も、お読み下さりありがとうございました~!
コメント
自然で天然なドジっ娘ってある意味、才能ですよネ!笑
天才の人がドジっ娘を演じるのはムリですネ!★
ドジっ娘が天才を演じるのは不可能に近いですネ(-_-;)汗
あっ!?☆
無名さん下着を忘れた時は教えてくださいネ!☆
自分が無名さんのカラダと入れ替わって下着取りに行ってきますネ☆\(^o^)/☆笑
無名さんは自分のカラダで小説の更新などしてくださいネ笑
まず下着忘れる人っていないですよネ(*´艸`)笑
幼い子供とかですよネ!☆
感想ありがとうございます~!☆
流石に下着を忘れちゃうことは
ないのデス…
ない…なかったと思います~★笑