<MC>二度と戻らないその笑顔②~後悔~(完)

優等生の姉に対する劣等感から、
姉を不真面目にしてやろうと、”洗脳”してしまった弟ー。

しかし、姉の変貌を前に
彼は戸惑い、次第に自分の行動を後悔し始めて…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー姉さん、ヤバすぎだろー…
 あそこまで効果が出るなんてーー」

直哉は、慌てて自分の部屋に戻ると、
”洗脳”の力を持つイヤホンを引き出しから取り出すー。

”ちょっと不真面目になって、ちょっと日常が滅茶苦茶になってくれればいい”
そんな風に思っていたー。

が、想像以上に効果が出てしまって、
直哉は驚き、慌てていたー。

バタン!

隣の部屋ー…
姉・愛優美の部屋の扉が勢いよく閉まる音が聞こえて
直哉は思わずビクッとしてしまうー。

姉・愛優美がイライラを隠さず、
部屋に戻って来たのだー。

普段、絶対に”扉を乱暴に閉めてイライラを周囲に振りまく”なんてことはしない
姉・愛優美の行動に、直哉は思わず驚くー。

少しだけー
”いつもの姉さんと全然違う”振る舞いにドキッともしたものの、
それでも、これ以上はまずい、とそんな風に焦り、
イヤホンを手にすると、慌てて”修正プログラム”を入れる方法を
説明書で確認しながら、”修正プログラム”をイヤホンの中に入れた。

これで、”音”を聞かせることによって
姉・愛優美の洗脳を解除することができるー。

「よしーこれでいいんだなー」
直哉は説明書を読みながらそう呟くー。

不真面目な直哉が”説明書”などというものを読んだのは
久しぶりかもしれないー。

皮肉にも、自分が洗脳してしまった姉を元に戻すために
”真面目に説明を読む”という久しぶりの行動をすることに
なってしまった直哉ー。

いよいよ準備が完了すると、直哉は隣の部屋ー…
姉の愛優美がいる部屋に向かって歩き出したー。

意を決して部屋の扉をノックする直哉ー。

「ね、姉さんー少し話がー」
直哉が緊張した様子で言うー。

がー

”はー?わたしは話すことなんてないんだけど”
と、そんな返事が返って来たー。

同じ顔、同じ身体、同じ声のはずなのにー、
威圧されてしまう直哉ー。

だが、それでも直哉は
「ね、姉さんの”機嫌を直すため”に
 いいものを持ってきたからさー」と、それだけ言葉を口にして、
部屋の扉を開けたー。

「ーーー…入るなって言ったでしょ!」
愛優美が怒りの形相で声を上げるー。

いつも、学校から帰って来ると勉強していた愛優美ー。
しかし今日はスマホをいじってだらしない格好をしていたー。

「ーー…ま、まぁまぁ…姉さんー
 ーー…今日、妙にイライラしてるからさー」
直哉が戸惑いながら言うー。

あくまでも”洗脳した”ということを言うつもりはなくー、
”このイヤホンの音を聞かせたら姉さんの機嫌が直ったー
 めでたしめでたし”で、この件は終わりにするつもりだったー。

「ーーいちいちうっさいなー」
愛優美は悪態をつきながらそう言うと、
睨むようにして直哉を見つめたー。

いつもなら、穏やかに笑いながら「どうかしたの?」なんて
聞いてくるような姉に睨まれているこの状況に、
直哉は”洗脳”の力の強さを感じー、
少しゾクゾクとすると同時に、”このままじゃいけない”と、
改めてそんな風にも思うー。

”とにかく、姉さんを元に戻さないとー
 いつもの姉さんはウザいけどー、
 流石にこんな姉さんは見たくねぇ”

そう思いつつ、
「ーこれさ、リラックスできる曲なんだけどー」
と、”人を洗脳する力を持つ”イヤホンを姉の愛優美に差し出すー。

愛優美は不愉快そうにしながらも
「何それ」と、だけ言うと、
直哉はすぐに「どんなにイライラしてても、この曲聞くとさ、
マジで気持ちが落ち着くんだよ」と、そう説明するー。

「俺もイライラしてる時とか、よく世話になってるからー」
直哉がそう言うと、愛優美は「わたし、別にイライラしてないんだけど」と、
不満そうに言い放つー。

「ーーーーい、いや、でも、”いつもと全然違う”じゃんー?」
直哉が気まずそうな表情をしてそう言い放つー。

今の”姉さん”が、”いつものわたしと違う”ことを
認識できているかどうか、イマイチよく分からなかったものの、
そう言い放つと、愛優美は何度か頷きながら
イヤホンを手にしたー。

”ホッ”ー
直哉は内心で安堵のため息を吐き出すと、
「ーー姉さんもきっと、その曲を聞けばリラックスできるからさー」と、
笑いながらそう言葉を口にしたー。

がー…
その時だったー

「えっ……」

姉・愛優美が突然、イヤホンを思いっきり引っ張って、
それを引きちぎると、そのまま耳に入れる部分を床に叩きつけて
何度も何度も踏みつけ始めたー

「ちょっ!?!?ね、姉さんー!?な、何するんだよ!?!?」
直哉は顔を真っ赤にしてそう叫ぶー。

「ーーわたしがイライラしてるとか、そうやって決めつけてる感じー
 マジでウザい!」

愛優美はそれだけ言うと、ボロボロになったイヤホンを再び手に取り、
「な~にが、”俺の聞いてる曲”だ!
 あんたの聞いてる音楽なんか、興味ないから!」と、
愛優美は怒り狂った形相で叫ぶー。

「ーーや、やめろって!」
直哉は慌てて、愛優美からイヤホンを取り上げようとするー。

しかしー

「触らないで!!」
愛優美はそう言うと、直哉を突き飛ばして、
イヤホンを滅茶苦茶に破壊していくー。

愛優美に突き飛ばされたことー、
そして、”人を洗脳するイヤホン”が完全に壊されてしまったことに
絶望しながら、その光景を見つめる直哉ー。

「ーーさっさとそのガラクタ持って出てって!」
愛優美は壊れたイヤホンを直哉に投げつけると、
直哉は震えながら「ね、姉さんー!」と、声を上げるー。

「ー出てけ!!!」
愛優美にさらに強い口調で言われて、直哉は
あまりの豹変ぶりに驚きながら、逃げるようにして
自分の部屋の方に向かって走ったー。

部屋に戻ると、「くそくそくそっ!」と声を上げながら、
スマホを手にするー。

愛優美に破壊されてしまったイヤホンはもう使えないー。
が、このまま姉の愛優美を放置しておくわけにもいかず、
直哉は慌ててもう一度イヤホンを購入しようとしたー。

正直、かなり高いし、お金の問題も頭を抱えるー。
しかし、それでも、趣味のものを全部売り払ってでも
お金をかき集めて”姉さんを元に戻さないと”と、
そう思っていたー。

「ーーまさか、こんなに効くなんてー…くそっ!」
さらに不満を口にする直哉ー。

けれど、自分で仕掛けてしまったことだという
うしろめたさも感じながら、
人を洗脳するイヤホンの販売サイトを開くー。

しかしーーー

”404 Not Found”

「ーーは?」
直哉は表情を歪めるー。

人を洗脳するイヤホンの販売サイトにアクセスしたはずが、
スマホに表示されたのは、エラーを示す画面だったのだー。

「ーチッ、読み込み失敗かーふざけんなよ」
直哉は不満そうにそう呟くと、
スマホの更新ボタンを押して、もう一度
人を洗脳するイヤホンの販売サイトの中に入るー。

”404 Not Found”

けれどー
何度やっても、表示されるのは、
ページが見つからないことを意味するエラー表示ばかりー。

「お、おいっ…ふ、ふざけんなよ!」
何度も何度も何度も、人を洗脳するイヤホンの販売サイトに
アクセスしようと、それを繰り返す直哉ー。

だがー、
ついに、404 Not Foundが繰り返し表示されるだけで
人を洗脳するイヤホンの販売サイトに入り込むことは
できずー、直哉は呆然とすることしかできなかったー。

サイトはー、何らかの理由であのあと、
既に閉鎖されてしまっていたのだー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーうるさいなぁー
 さっさと死んで」

母・郁恵に対して、
そんな言葉を言い放つ愛優美ー。

髪は金髪に変わり、ギャルのように
メイクをしている姉・愛優美の姿を横目に、
弟の直哉は表情を曇らせるー。

愛優美は完全に不真面目になってしまい、
攻撃的になってしまったー。

直哉が自分で”設定”して洗脳したこととは言え、
あまりの変貌ぶりに直哉は心を痛めていたー。

”くそっー……なんなんだよー…”
直哉は、悲しそうにしている母・郁恵の方を見つめながら、
心の中でそう呟くー。

”あんなに真面目で優しかったのに、
 こんな風になりやがってー”
直哉は、金髪の髪を揺らしながら部屋に戻っていく姉・愛優美の
後ろ姿を見つめるー。

もちろん、自分が悪いのは分かっているー。
が、”洗脳”とはここまで凄い効力を発揮するものなのかと、
思わずにはいられなかったー。

自分のしてることにブレーキを掛けることはできないものなのかと、
そんな風に思ってしまったー。

「ーーでも、あの姉さんがこんなになっちゃうってことは
 やっぱりー…”された側”は自分の意思じゃ逆らえないってことなんだよなー…」
表情を暗くしながらそう呟く直哉ー。

直哉は、ここ数日迷っていた”あること”を実行しようと、
ゆっくりと立ち上がるー。

姉・愛優美に壊されてしまった人を洗脳するイヤホンを
修理しようとしたものの、それもできなかったー。
そして、購入サイトも閉鎖されたままー。

こうなったら、”最後の手段”を使うしかないー。

そう思いつつ、直哉は姉・愛優美の部屋をノックするー。

”入らないで!”
愛優美が中からそう言葉を口にするー。

が、それを無視して直哉が部屋に入ると、
「入るなって言っただろ!」と、愛優美が本を投げつけて来たー。

部屋の中も、もはや別人のようになっていて、
荒れ果てているー。

煙草の箱まで置かれているのを見て、直哉は表情を歪めると、
「姉さん、聞いてくれー」と、そう言葉を口にするー。

「ーーあんたの話なんか、聞きたくない!
 どうせ下らないことしか言わないんだから」
愛優美はそれだけ言うと、部屋から直哉を追い出そうとするー。

がー、直哉は叫んだー

「姉さんー…今の姉さんは、”洗脳”されてるんだ!」
とー。

「は?」
愛優美が不愉快そうに表情を歪めるー。

「ーーあんた何言ってんの?」
”頭おかしいんじゃない?”と言わんばかりの表情で
睨んでくる愛優美ー。

しかし、臆することなく直哉は叫ぶー。

「ーー俺がーー俺が姉さんを”洗脳”したんだー!」
とー。

「ーーーは????」
愛優美がさらに不快そうに表情を歪めるー。

本当は”打ち明ける”つもりなどなかったー。
打ち明ければ自分が恨まれるだろうし、
親からも何を言われるか分からないー。
もしかしたら、逮捕かもー。

そんなことを思いつつも、それでももう、
姉・愛優美の暴走を見過ごせなかったー。

「姉さん、”今までの自分”のことは分かってるよなー!?
 急に不真面目になったことも、自分で理解してるよなー!?

 それはー、俺のせいなんだ!」

直哉は、それだけ言うと、”人を洗脳するイヤホン”の空箱と説明書を
愛優美の方に差し出したー。

「これでー…これで姉さんを洗脳したんだー…
 本当に、本当に、ごめんー」

とー。

「~~~~~~~~~~…」
愛優美は驚いた様子でそれを見つめていたものの、
しばらくして、口を開いたー

「ーーあんた、馬鹿じゃないの?」
とー。

「ーーえ…」
直哉が驚いて愛優美を見つめると、
「ーわたしは、真面目に勉強してるのが馬鹿らしくなっただけー
 ”自分で”決めたのー」
と、愛優美が冷たい口調で言い放つー。

「い、いや…ち、ちがっ…違うんだよ姉さんー」
直哉は驚きながらも言葉を口にするー。

「ー今までの姉さんのことを思い出してくれよ!
 ”急に馬鹿らしくなる”なんておかしいだろ!?
 それは俺がー!」

直哉は”自分が洗脳したんだ”と、改めて説明するー。

だがーー

「ーちゃんと、今までのことも覚えてるー。
 でも、馬鹿らしくなったのー

 今までだって、わたしは我慢して優等生ごっこしてただけなんだからー」

愛優美は、決して”洗脳されたこと”も認めずー、
”これはわたしの意思”だと、そう思い込んで、そう言い放ったー

「ーそんな…」
直哉は呆然とするー。

”優秀なお姉ちゃん”が演技だったなんてことはあり得ないー。
”洗脳”が、そこまで強力だったとは思わなかったー。

絶望の表情を浮かべる直哉ー。

そんな直哉を見て、愛優美は見下すように笑うと、
「ー今日は彼氏の家で寝るからー。じゃ」と、それだけ言いながら
立ち去っていくー。

「ーーーー姉さんーー」
一人残された直哉は、
もう、あの優しい笑顔を見ることはできないのだと、
そう感じて、悔しそうに涙をこぼすのだったー。

おわり

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コメント

取り返しのつかない結末になってしまいましたネ~…!

身近な人を操る(?)時には
慎重に…なのデス(笑)

お読み下さりありがとうございました~!!

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