”未来”のお話ー。
自分の身体に不満を持つ者同士が同意した上で
身体を入れ替える”入れ活”ー。
それが、当たり前のように行われている世界の物語…。
※時代は入れ活の続編デス!
先に↑本編をお読み下さい~!☆
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2260年ー。
今から100年以上も前に、この世界では
”入れ替わり”が実現していたー。
そしてー、
いつしかその技術は人々の生活に
当たり前のように溶け込み、存在するようになっていたー。
自分の人生に不満を持つ者ー、
自分の容姿や性別に不満を持つ者がー、
他人と入れ替わるー。
この世界では、”お互いに同意”すれば
同意の上で身体を交換することができ、
入れ替わり相手を探すための活動を”入れ活”と呼んでいたー。
入れ替わり相手を探す”入れ替わり相談所”なるものも
各地に出来上がり、
そこでは、”結婚相談所で婚活をする人々”のように、
”入れ替わりを目指す人々が、入れ活”を行っていたー。
「おはようございます~」
そんな、入れ替わり相談所に勤務する女性・美月(みつき)は
いつものように自分の勤務先である入れ替わり相談所に
やってくると、そんな言葉を口にしたー。
”美月”は自身も入れ替わり経験者ー。
つまり、身体は”美月”だが、中身は別の人間でー、
男だー。
しかし、今ではすっかり”美月”としての振る舞いを身に着けていて、
女性として普通に生活をしているー。
この事務所の所長である川田 幸則(かわだ ゆきのり)は、
「おはようー」と、穏やかに笑うと、
少し間を置いてから、美月を見つめながら
言葉を続けたー。
「ー”羽村さん”のこと、あまり無理しちゃだめだよ」
幸則がそう言葉を口にすると、
美月は苦笑いしたー。
3年前ー。
この相談所には羽村 涼子(はむら りょうこ)という名の
若手の女性社員がいたー。
しかし、彼女はこの入れ替わり相談所の利用者である、津田(つだ)という男に
強引に身体を入れ替えられてしまい、
その直後”安楽死”させるための注射を投与されて、
涼子は津田の身体のまま、既に死亡してしまっていたー。
がー、涼子の中身が”津田”という男に変わったことには
周囲の誰も気付かず、
美月は、その後、涼子(津田)から熱烈なアプローチを受けて、
親密な関係に発展ー、
一時的に同居もしていたー。
けれどー、それもわずかな間しか続かず、
涼子(津田)は、次第に美月に対して横暴な態度を
見せるようになり、
やがて、涼子(津田)は、ある日姿を消して
そのまま、帰って来なくなったー。
それからは、涼子(津田)は職場にも姿を現さなくなり、
”入れ替わったこと”を知らない美月は
戸惑っていたー。
「ーーはいー…
でも、今も信じられなくてー」
美月がそう言うと、所長の幸則は少し寂しそうに
「確かにねー。あんなに一生懸命働いてくれてたのに」と、
”涼子”のことを思い出しながら言葉を口にしたー。
「ーーまぁ、気を取り直して今日も頑張ろう」
幸則がそう言うと、美月も「は~い!」と頷くー。
”違法入れ替わり”の犠牲になった同僚の”涼子”ー
その身に起きた”真実”を、所長も美月も知らないままだったー。
それでも、美月たちの日常はそのまま流れていくー。
「ーーーゲッー」
美月は、ふと今日の予約を確認するー
”熊さん”と”仙人”と”リチャード”ー。
この入れ替わり相談所の常連で、
3年前、涼子がまだ勤務していたその頃から
ずっとここに通っている
”迷惑な常連客”たちだー。
三人とも自分の問題を自覚していないからかー、
3年が経過した今でも入れ替わり相手は見つからず、
”入れ活”を続けているー。
最初に”仙人”がやってくるー。
髪が伸び切って、見るからにホームレスのような雰囲気の男ー。
しかも、相変わらず悪臭もすごいー。
「ー金持ちの美少女と、いつになったらマッチングできるんですかね?」
不満そうに呟く”仙人”ー。
「ーーあ、あはははー…
ま、まずはですねー…”見た目”ですかねー
そこまで髪が伸びていると、やっぱりちょっとー
あと、お風呂入ってます?」
美月が改めてそう言葉を口にすると、
”仙人”は、「ーありのままのわしを受け入れてくれるお金持ちの美少女と
入れ替わりたいんだけどなぁ」と、そう言葉を口にするー
”いねぇよ”
”元男”でもある美月は内心でそう呟くと、
「ーーあははー、見つかるといいですねー」と、そう言葉を口にするー。
自分も”美月”と入れ替わった”元男”であるからこそ分かるー。
”入れ活”は、一方通行では成立しないー。
自分自身と相手、入れ替わることでお互いが”何らかの得をする”
状態でないと入れ替わりは成立しないのだー。
「ーあんな”仙人”と入れ替わりたい人なんていないでしょ」
美月は、うんざりした様子でため息をつくと、
次に、”自称詐欺師”の利用者・リチャードがやってきたー。
”入れ替わった相手を犯罪に使いたい”と、そう言っていて、
流石にそれを通すわけにはいかないー。
”ダメ”と何度も言っているのに、
それでも繰り返し入れ替わり相談所にやってくるリチャードに対し、
「ーーはぁ…詐欺のために身体を使うなんて言われて
入れ替わりたいと思う人がいると思いますか?」と、
美月はうんざりした様子で言葉を口にするー。
「はははー、それもそうなのですけどねー」
リチャードを名乗る男は笑うー。
美月はー、いや、入れ替わり相談所の人間は
涼子がこの入れ替わり相談所を去ってから
あることに気付いていたー。
”リチャード”は詐欺師などではないー。
いや、入れ替わり願望もないー。
彼は、”美月”を困らせて
楽しんでいるのだー。
「ーーーーーはぁ」
リチャードとの相談を終えて、いったん事務所の方に戻って来る美月ー。
「はははーお疲れ様」
所長の幸則が苦笑いしながら、
自販機で購入しておいたジュースを美月に手渡すー。
「ありがとうございますー」
美月は少しだけ救われたような表情をしながら
そう言葉を口にすると、
宙に浮く画面のようなものを確認するー。
”この時代”でのスマホのような役割を果たすものを
見つめながら、美月は
「午後は熊さんかぁ~…」と、一人で呟くー。
”熊さん”とは、涼子が入れ替わり相談所に所属していた頃から
この相談所に通っている
”迷惑利用者”の一人ー。
春山 熊次郎(はるやま くまじろう)ー
100キロを超える巨漢で、しかも性格難ー。
清潔性にも欠けるー。
それなのに本人は”美少女としか入れ替わらない”と、
美少女とのマッチングを希望しており、
以前、涼子が22歳の女性を紹介したところ、
”22歳?ババアですよね?”などとキレられてしまったー。
「ーあはははー
美月ちゃんってば、そんなこと言ってるから
いつまでも一人前になれないのよー?」
別の入れ替わり相談所からやってきたエリート相談員・
田倉 園香(たくら そのか)が、そう言葉を口にするー。
園香は、涼子が退職後に、別の入れ替わり相談所から
転職してきたエリートだ。
がー、自分の入れ替わり相談員としての
キャリアに異常なまでの固執を見せていて
他人を見下す癖があるー。
「ーーじ、じゃあ、田倉さんが熊さんの
入れ替わりを成立させてくださいよ!」
不満そうに言う美月ー。
園香は「お断りよー。わたしのキャリアに傷がつくわ」と、
そのまま立ち去っていくー。
「あはははー可哀想にー」
横にいた男性相談員・藤木 勝平(ふじき かっぺい)は
苦笑いしながらそう言葉を口にすると、
美月は「ふ、藤木さんも笑ってないでたまにはー」と、
”熊次郎”の担当をたまには変わってほしい、とそう言葉を口にするー。
しかし、勝平は「僕は自分の担当以外の仕事しないんで~」と、
そう言いながら逃げていくー。
「ーーも~~~」
美月は、頬を膨らませながらそう言うと、勝平は
美月の方を振り返りながら、
「っていうか、美月さんって中身男ですよね?」と、
そう言葉を口にするー。
美月はさらにむすっとしながら
「男だったら、何か問題でもー?」と、そう言い返すー
「いえー、でも、中身男の人なのにそういう反応
なんだか可愛いなってー」
勝平がそんなことを言うー。
勝平も、涼子がいなくなってから入社した若手の相談員で、
時々天然なのか、変な発言をするー。
「ー可愛いと思うなら、熊さんの相談たまには変わってくれても」
美月がそう言うと、勝平は「それとこれとは別です」と、
そう言いながら立ち去って行ったー。
「はぁ~~~」
美月は気が乗らない様子で、そのまま”熊次郎”の
予約時間が近付いてきたことを確認し、
相談が行われる部屋へと向かったー…
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「ーはぁ?ブスすぎるだろ」
相変わらず失礼な熊次郎が、
”マッチング相手の候補”として美月が挙げた
女性に対してそう言い放つー。
相手が入れ替わりを承諾するとは思えないが、
この会員の女性は”ホントに誰でもいいからとっとと入れ替わりたい”と
言っていて、しかもその年齢は20歳ー。
以前、22歳をババアと言い放った熊次郎でも納得するかもしれないー。
そう思ったのだー。
がーーー
「ーはい?」
美月が表情を歪めるー。
熊次郎に候補として挙げた”入れ活”女性は
かなり可愛らしい子に見えるー。
「ーーーはい?じゃなくて、ブスだって言ってるんだよ」
熊次郎がそう言うと、
「それに胸も貧乳だし」と、そう言葉を付け加えるー。
”ーー何なのこの人ー
理想高すぎでしょー…”
美月はドン引きしながら、熊次郎を見つめていると、
熊次郎は「まぁ、アンタがブスだから分からないのかもしれないけど」
と、そう言葉を口にするー。
美月は決してブスではないー。
世間的にはかなり可愛い方であるはずだし、
美月自身、自惚れたりすることはないものの、
自分のことを綺麗だとは思っているー…。
元々、美月の”中の人”は、おしゃれに興味があって
入れ替わったのだし、身なりも綺麗にしているー。
カチンとしながら、美月は
「春山様が希望するような相手はなかなかいませんね~…」と、
そう言葉を口にすると、
「ーお前、それでも相談員かよー。無能だなぁ」と、
言葉の暴力を浴びせて来たー。
美月は何度か頷くと、
「申し訳ございませんでしたー。では次回から別の担当にー」と、
担当を変えようとするー。
正直もう、”熊さん”と関わりたくないー。
そう思いつつ、チャンスだと思った美月はそう言葉を口にしたー
”お客様”からの希望なら担当を変えるしかないからだー
しかしーー
「僕の担当はお前だろ!僕から逃げるのか?
最後まで責任持てよ!」
熊次郎が喚くー。
”はぁ~…”
美月は、逃げることすら許されずに大きくため息をついたー。
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そんな、入れ替わり相談所での日々を送っていた
美月は、ある日”予約なし”で訪れた客の顔を見て
「えっ!?」と、声を上げたー。
「ーーふふー 皆さんお久しぶりですー」
その来客はー、入れ替わり相談所に以前勤務していた涼子だったー。
「ーーり、涼子ー!?」
美月が声を上げると、
涼子は「突然姿を消してごめんね」と、そう言葉を口にするー。
前とは違って、妙に色っぽい雰囲気の涼子を前に、
戸惑う美月ー。
「ーー今日は”入れ活”の相談で伺いましたー」
涼子が笑みを浮かべるー。
所長の幸則は「ちょうど今は予約もあまり入ってない時間帯だし、
こちらで」と、特別に奥の方に案内すると、涼子は「どうもー」と、
笑みを浮かべながら、奥に入ってきたー。
涼子と所長の幸則、そして美月が同じテーブルに座り、
”入れ替わり相談”を始めるー。
「ーーーそれで、入れ活の相談って?」
美月が口を開くと、
涼子は「ふふー…”この身体”を捨てたくて」と、
笑みを浮かべながら言ったー。
「ーーえ?」
戸惑う美月ー。
”涼子”が3年前ー、
”津田”という、毎回のように”入れ替わり相手が見つからなければ死んでやる”と
叫んでいた男に身体を奪われていることには、誰も気づいていないー。
3年前のあの日ー、
津田によって”違法入れ替わり”で身体を奪われた涼子は、
もうこの世にいないー。
津田は”入れ替わった直後に涼子を殺すため”に、
あえて、”死んでやる!”と毎日叫んでいたのだー。
”自殺した”としても、不自然ではないようにー。
「ーーー…それはまたどうしてー?」
所長の幸則が言うと、
涼子(津田)は笑みを浮かべたー
「ー遊んでばっかりいたら、この身体ー…
ううんー、わたし、病気になっちゃってー」
クスッと笑う涼子(津田)ー
その言葉に、美月と所長の幸則は困惑の表情を浮かべたー。
<第2章>へ続く
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コメント
「時代は入れ活」の続編デス~!☆
前作から3年後の物語を描いています~!☆
私も、今回続編を書くにあたって前作を読み直しましたが
懐かしい気持ちでした~!☆笑
次回もぜひ楽しんでくださいネ~!
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