仕事熱心で、文句ひとつ言わずに
残業もこなす彼女。
しかし、ある日彼女は”得体の知れない違和感”を
感じ始める。
その違和感の正体とは…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー倉岡(くらおか)さんは、
いつも仕事熱心で助かるよー」
上司の安本 忠則(やすもと ただのり)が、
そんな言葉を口にするー。
とても穏やかな性格の持ち主で、
彼女たちが勤務する部署の部長を務めているー。
「ーーいえー。わたしなんてまだまだ全然ー」
苦笑いしながらも、上司に褒められたことを少し
嬉しそうにする女性社員ー。
入社2年目を迎えた倉岡 寧々(くらおか ねね)は、
いつも仕事熱心で、真面目な仕事ぶりから、
上司たちからも高く評価をされていたー。
「ーははは、そんな謙遜しなくてもいいさー。
もう、倉岡さんはうちの部署にとっては
なくてはならない存在だからねー」
安本部長がそう言葉を口にすると、
「ーあ、あははー…これからも期待に添えられるように頑張ります!」と、
寧々はそんな言葉を口にしながら、自分の座席へと戻って行ったー。
「ーー企画も無事に通って、よかったねー」
座席に戻ると、入社時から世話になっている先輩・輪島 由紀子(わじま ゆきこ)が、
そんな言葉を掛けて来るー。
「ーはい!先輩のアドバイスのおかげです」
寧々がお礼の言葉を口にすると、
由紀子は「ーふふー。どういたしまして」と、少し嬉しそうに
そんな言葉を口にしたー。
由紀子は30代独身の女性社員ー。
とても面倒見がよく、後輩たちからも慕われているー。
仕事一筋、という感じのOLだー。
一方の寧々も、残業も進んでこなすタイプで、
”わたし、仕事以外に趣味がなくてー”などと、よく自虐的に
笑っているー。
先輩の由紀子からは”わたしみたいに仕事が恋人になっちゃうよ~?”
などと揶揄われているものの、寧々も”それはそれで楽しそうです~”などと
そんな風にいつも言っているー。
この会社では、仕事熱心で真面目な社員がたくさん揃っていて、
社員同士もとても仲が良いー。
また、残業を”強制”するようなこともなく
社員たちの満足度もとても高い会社だー。
寧々も、そんな会社で働くことができていることを
とても幸せに感じていたー。
がーそんなある日ー。
帰宅した寧々が、仕事を持ち帰ってノートパソコンで
作業をしていたその時だったー。
「ーーーーー!?」
キーボードを入力していた手を突然止めた寧々は
少しだけ表情を歪めたー。
「ーーーー……ーーー」
寧々は表情を歪めたまま、
得体の知れない違和感に襲われたー。
”わたしの人生”が、まるで第3者の視点から見ているような、
”わたしのものじゃないような”そんな、不思議な感覚に一瞬、襲われたのだー。
”本当のわたしの人生”じゃなくて、
まるで何かを変えられてしまったようなー
言葉には言い表しがたい、不気味な違和感ー
「ーーーーー」
”まるで”仕事をするためだけに存在しているかのような
殺風景な部屋を見渡しながら、
深呼吸をすると、ようやく気持ちが落ち着いてきた寧々は
”今の、何だったんだろうー?”と、思いながら
再び仕事を再開するー。
寧々には、友達はいないー。恋人もいないー。
かつては、恋人がいたものの仕事が忙しくて
あまり会う機会を確保できない状況が続き、
自然消滅してしまっているー。
とは言え、寧々は特に現状に不満はないー。
会社に友達と言えるような子もいるし、
会社のために成果を上げられることはとても嬉しいー。
プライベートの趣味はないけれどー、
仕事が大きな生きがいになっているー。
「ーーーーよし、これで終わり」
寧々は持ち帰った仕事を終わらせると、
「ふ~」と、ため息をつきながら
少し遅めの晩御飯の支度を始めるー。
どんなに仕事が忙しても、
寧々はしっかりと三食、栄養バランスや美容も考えた
食事をとるようにしているー。
”健康”は仕事をする上でもとても役に立つ資本だー。
そして、”容姿”も場合によっては武器になるー。
彼女は、それをよく理解しているのだー。
今日も、健康的な食事を済ませると
寧々は、会社の人とスマホで少しだけやり取りを
してから、そのまま眠りについたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
寧々は”夢”を見たー。
友達と一緒にカラオケに行く夢ー。
好きなアーティストのライブに行く夢ー。
彼氏と一緒にデートを楽しむ夢ー。
社会人になって3年ぐらいしたら結婚しようと約束した夢ー。
そんな夢をー。
そしてーーーー
”ー大丈夫。何も怖くないわー”
会社の先輩・輪島 由紀子からそう言葉を口にされながら
何かVR映像を見るためのゴーグルのようなものを手渡される夢ー。
「ーー!!!!!!!!」
そこで、寧々は目を覚ましたー
「ーーー…はぁ…はぁ…はぁ」
序盤は楽しい夢だったー。
いいやー、仕事と比べれば退屈だけれども、
なんだか、”忘れていた喜び”ー
そんな、夢に思えたー。
けれど、後半の場面ー。
輪島先輩から、ゴーグルのようなものを渡される場面には
何故だか、とても強い恐怖を感じたー。
恐怖なんて感じるような要素はなかったように思えるけれど、
何故だか身体が恐怖を感じてしまっていたー。
「ーー…夢は夢ー。
今日も頑張ろっ!」
寧々はそう言葉を口にすると、会社に向かう準備を始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーー」
寧々たちが勤務する会社の社長は、
笑みを浮かべながら美人秘書・麗奈(れいな)から報告を受けていたー。
「ははは、ありがとうー。
”蟻”たちのおかげで、今月も上々だなー」
今月の収益を確認しながら、
梶井(かじい)社長は、笑みを浮かべるー。
「ーはい。先月始まった新規プロジェクトも、
順調に進んでいるようです」
秘書の麗奈が言うと、梶井社長は笑みを浮かべながら頷いたー。
「ーーー……」
イスから立ち上がり、窓の外を見つめるー。
この会社は”急成長”を遂げているー。
元々ー”先代社長”の時には経営危機に陥っている会社だったが
”ある手段”を使うことで、ここまで経営を立て直したー。
その、ある手段はーー
”洗脳”だったー。
「ーーー」
”力”を得た人間は、愚かな道に走りやすいー。
”人を操る力”
それを手に入れた者は、何故だか、極端なことをしやすいー。
本人の人格を無視した行動・振る舞いに走らせたりー
周囲から見て”豹変した”と思われるような言動を取らせたりー、
過激な服装に着替えさせて欲望を満たしたりー…
確かに、それらは物語としては”映えるー”
しかし、結果的にそれらは破滅を招くー。
”洗脳”が周囲にも知れわたるからだー。
がーーー
”我が社”はそんな失敗はしないー。
社員たちは”蟻”ー。
既に我が社の社員は洗脳済みの”駒”たちー。
しかしー、
決して”極端におかしな行動”を取らせたりはしないー。
それがー、”洗脳”の最も有効的な活用方法なのだからー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーおはようございます~!」
寧々は、今日も会社にやってくると、
早速楽しそうに座席について仕事を始めるー。
「ーーおはよ」
面倒見の良い先輩・輪島 由紀子がやってくると、
いつものように挨拶を交わすー。
「あ、先輩ーおはようございます」
寧々はそう言いながら、”わずかに”表情を曇らせるー。
そんな寧々のわずかな変化を見逃さなかった由紀子は
「どうかしたの?」と、少し心配そうに言葉を口にするー。
「ーあ、いえー
昨日、なんだか急に”不安”になっちゃってー…」
寧々が苦笑いしながらそう言うと、由紀子は「不安?」と
聞き返すー。
「ーーーう~ん…自分でもよく分からないんですけど、
なんかー…”今のわたし”に疑問を感じるというかー
ーーよく分からない不安を感じたんですー」
寧々のその言葉に、
由紀子は少しだけ表情を曇らせるー。
”ーーーーー”
そんな会話を見つめながら
部長の安本 忠則は少しだけ目を細めながらー、
静かにため息をついたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”最近、無理しすぎじゃないか?”
”ーーー寧々、大丈夫ー?”
元カレの言葉が聞こえるー。
友達だった子の声が聞こえるー。
かつてー…
寧々には友達がたくさんいたー。
彼氏もいたー。
しかし、今の寧々にはいないー。
就職後、仕事に夢中になって、
友達や彼氏との時間よりも仕事を優先するようになって、
次第に疎遠となったのだー。
が、当の寧々もそれを気にする様子はなく、
そのまま、彼氏とも友達とも疎遠になってしまったー。
何か、酷いことを言ったわけではないし、
直接的な裏切り行為をしたわけでもないー。
ただ、フェードアウトしてしまったような、
そんな感じだー。
「ーーーー」
帰宅して、健康を維持するために栄養を意識したものばかりを食べて
”自分が美味しいと感じること”や”食事を楽しむこと”は
一切度外視した晩御飯を済ませるー。
惜しみなく、自分の給料を美容や健康のためー、
そして、仕事のためにつぎ込んでいく寧々ー。
寧々の家は、殺風景だー。
かつては、寧々の好きなものや、小物類が
色々と並んでいたー。
けれどー、今の寧々にはそれがないー。
まるで、プライベートが存在しないかのように、
寧々は仕事を中心に動いていたー。
”仕事が好きだからー”
そうーーー
思い込まされてー。
「ーーうん、うん、わたしは大丈夫ー
元気にやってるよー。
うんーお母さんも身体に気を付けてねー」
食事を終えると、寧々は、実家の母親とスマホで
通話をしながら、そう言葉を口にしたー。
寧々はー
会社に”洗脳”されているー。
けれどー
周囲からすれば”仕事熱心になりすぎている”と思われるぐらいで、
”過剰におかしな行動は取らない”ー
だからこそ、
この会社の”洗脳”は厄介だー。
元の人間の人格を無視した行動を取らせればー
明らかに悪堕ちしたような行動を取らせればー
当然、周囲も異変に気付くー。
しかし、この会社の”洗脳”は違うー。
極端におかしな行動は決してとらせないー。
「ーーあははー、お正月はまた帰るから、安心して」
寧々は、そう言葉を口にしながら
母親との通話を終えると、
そのままスマホを机に置いてから呟くー。
「ーーー………明日も仕事だから、もう今日は寝なくちゃ!」
寧々は”最低限のこと”以外何もしないままー
ただ、”明日の仕事で最高のパフォーマンスを引き出せるように”
それだけを考えて、眠りについたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”大丈夫、怖くないわー”
入社してから数日後ー。
寧々は、先輩の輪島 由紀子から
VR映像を見るゴーグルのようなものを渡されたー。
「ーーこ、これは何ですかー?」
寧々が少し戸惑いながら言うと、
先輩の由紀子は微笑むー。
「ーーほら、今、VRっていうやつあるでしょ?
最新の技術を使って、社内の設備を紹介したりするの」
由紀子が笑いながら言うー。
「ーーあ~わたし、VR映像って見たことないんですよ~」
警戒を解いた寧々はそう言いながら微笑むー。
その様子を、少し離れた場所にいた当時から部長だった
安本部長が見つめているー。
そんな中、寧々は先輩の由紀子に言われた通り、
ゴーグルのようなものを身に着けてしまうー。
そしてーー
「ぁ…っ…!」
寧々がビクッと震えるー。
”これより、社員洗脳プログラムをインストールします”
そんな表示がゴーグルに表示されているー。
「えっ…」
寧々が一瞬、驚くと同時にビクン、と寧々の身体が震えてー、
寧々は口を半開きにしたまま、
そのまま意思のない人形のように、椅子に座ったまま
何度か痙攣したり、うめき声を上げたりし始めたー
「ーークククククー」
先輩の由紀子が嬉しそうにその様子を見つめるー。
寧々はー、入社数日後のこの日ー
会社に忠実な社員へと、洗脳されてしまったのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おはようございます~!」
そしてー、入社2年目を迎えた今まで、
会社の忠実な駒として寧々は
働き続けてきたー。
がーーー
「ーーー」
ズキッと痛む頭を押さえながら寧々は表情を歪めるー。
「ーーなに、この感覚ー?」
”違和感”が膨らんでいくー。
寧々は、表情を歪めながら
”得体の知れない違和感”を再び感じるのだったー。
②へ続く
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コメント
会社に洗脳されちゃった系(?)のお話デス~!!
一見すると普通に見える状態なのが、
厄介ですネ~…★!
続きはまた明日デス~!☆

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