ある日、当たり前のような日常に
違和感を感じた彼女ー。
仕事に夢中だった彼女の中の不安は
次第に強まっていくー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーあ、それはわたしがやります!」
寧々は、今日も熱心に仕事こなしていたー。
既に、”残業”の時間帯に突入しているものの、
寧々はイヤな顔一つせず、
寧ろ嬉しそうに働いていたー。
「ー倉岡さんは、ホント、2年目とは思えないぐらいに優秀だなぁ」と、
部長の安本が、そんな言葉を口にするー。
「ーーふふ、ありがとうございます~」
寧々は、そう言いながら
仕事を続けるー。
この部署の人間は、ほとんどが独身だー。
仕事熱心な人間が多く、みんな、自分の意思で会社に残り
仕事をするようなメンバーが多いー。
もちろん、会社はそれを”強制”はしていないー。
”自分の意思で”働いているのだー。
「ククーーー」
安本部長が、左目を赤く光らせて部署内を見つめるー。
”本当に、優秀な駒たちー”
右目は虚ろな目になった状態で、安本部長は
そう言葉を口にすると、
赤く光らせた目で部署内の社員たちの様子を再び見つめ始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーー」
高級なレストランで、足を組みながら
一人、ワインを口に運ぶー。
”駒”の目を通して社員たちの様子を確認したその人物は
少しだけ笑みを浮かべるー。
父は、愚かだったー。
社員は家族などと、言い放ちー、
会社の経営よりも社員たちのことを何よりも大事にし、
その結果、会社を危機に晒したー。
でも、自分は違うー。
父のように、愚かではない。
社員など、”駒”に過ぎないー。
駒をより駒らしくするための手段が”洗脳”ー
”本人たちも幸せを感じながら働いているー”
”会社の経営も、安定して今もなお成長しているー”
”社員の周囲の人間を傷つけるわけでもないー”
「ーーメリットだらけーふふ」
その人物は笑みを浮かべると、
高級レストランの窓から見える夜景を眺めながら
再びワインを口へと運んだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰宅した寧々は、ため息をつくー。
「ーーー……」
何もない、家の中を見つめると、
ふと、寂しそうな表情を浮かべるー。
何よりも”仕事”を選んだー。
それが、”わたし”の人生のはずー。
それなのに、何故だか最近は虚しさのようなものを感じるー。
どうしてーー…?
寧々は、そう思いながら
言葉には言い表し難い”違和感”を払しょくしようと首を横に振るー。
すぐに、仕事に対する”喜び”が、また頭の中にいっぱいに
膨れ上がるー。
会社で働くことは楽しい、と脳が無理矢理寧々に理解させようとするー。
頭がズキッと痛むー。
寧々は表情を歪めながら、
「ーわたしは、仕事があればそれでいいの」と、
自分に言い聞かせるように言葉を吐き出すー。
だがー、
何故だろうー。
仕事に対する不安ー
人生に対する不安が急速に膨れ上がっていったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー今日の予定はー?」
梶井社長が美人秘書の麗奈に対してそう言葉を口にするー。
「ーーはい、今日の予定はー」
他の企業の重役との会食や、雑誌の取材など、
色々な予定を口にしていく麗奈ー。
廊下を歩きながら梶井社長は、
全ての確認を終えると、
「ーふむ。わかったー」と、そう言葉を口にしながら頷くー。
「ーーーーー」
そんな、梶井社長の背後を歩く秘書の麗奈は、
左目を赤く光らせるとー
少しだけ笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーどうしたの?浮かない顔してー?」
先輩の輪島 由紀子が心配そうに言葉を口にするー。
「あー、あははー…先輩ー」
寧々は、少し頭を触りながら、
「最近、なんだかモヤモヤして」と、そう言葉を口にするー。
「悩み事?悩み事なら、昼休みに相談に乗ってあげようか?」
由紀子がそう言葉を口にするー。
先輩の由紀子は、とても面倒見の良い先輩女性ー。
30代独身の彼女は、年上・年下関係なく、慕われているー。
「ーーーーえぇ…?いいんですかー?じゃあ…お言葉に甘えてー」
寧々は少しだけ笑いながらそう言葉を口にすると、
由紀子は「じゃあ、お昼に社員食堂でー」と、言いながら
立ち去っていくー。
由紀子は、基本的に残業はせず、
”寧々”とは違う働き方をしているー。
寧々と同じ部署に所属している先輩であるものの、
何か別の仕事を任されているらしく、
姿を消すことも多いー。
「ーーーーー」
安本部長は、そんな寧々の方を見つめながら、
表情を曇らせるー。
安本部長もーーー
当然”駒”に過ぎないー。
寧々と同じようにゴーグルを用いて”洗脳”されていてー、
会社のために、その人生を喜んで捧げているー。
元々、”洗脳される前”から妻とは離婚していて、
独身であったために”駒”としては使いやすい素材であったのも確かだー。
「ーーー」
”左目”を赤く光らせる安本部長ー。
”目”が赤く光るのはーーー
”支配者”が遠隔で、洗脳した人間の目を通して、
”様子を見ている”証ー。
安本部長の目に映る光景を”この会社の支配者”は、
いつでも確認することができるのだー。
いいや、安本部長だけではないー。
洗脳済みの人間”すべて”の視界を確認しようと思えば
いつでも確認することができるー。
”ーーーー”
少し様子のおかしい”寧々”の様子を安本部長の目を通じて
確認しながら、その者は少しだけ表情を歪めたー。
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昼休みー。
寧々は、先輩の由紀子に悩みを相談していたー。
「ーなんか…そのー
漠然としたことしか言えないんですけどー…
最近、わたしの人生、これで良かったのかな?って
悩むことがあってー
なんかこうー…よく分からないけど、違和感を感じるんですー
今のままでいいのかって」
寧々がそう言うと、
由紀子は「そっか~寧々ちゃんもそんな風に思うことがあるんだね~」と、
少し意外そうに言葉を口にするー。
「ーー今の仕事に不満とか、あるわけじゃないよね?」
確認するかのようにそう言葉を口にする由紀子ー
「え?あ、そ、それはないです!
だってわたし、仕事が恋人みたいなものですしー」
寧々が笑いながら言うと、
由紀子は「あははー。わたしもー」と、頷くー。
洗脳された寧々は、仕事一筋でこれまで頑張って来たー。
今も、その想いは変わらないー。
だがー、何かー
”強い違和感”を感じるー。
”わたしの人生”であるはずなのに
”誰かに作られた人生”であるかのようなー。
「ーーーそういう時は、たくさん仕事をして、気を紛らわせるのが
一番いいんじゃないかな?」
由紀子はそう言葉を口にすると、
寧々は「ーそれもそうかもしれませんねー」と、
頷くー。
「ーそうだ、今度部長にお願いして
寧々ちゃんにまた新しいプロジェクトに参加できるように、
してあげる!」
思いついたかのように由紀子が言うー。
「ーえぇ?ホントですか!?」
嬉しそうに笑う寧々ー。
「ーうんうん。だから、悩まないで!
お仕事お仕事!」
由紀子が嬉しそうにそう言うと、寧々も「はい!ありがとうございますー」と、
嬉しそうにそう言葉を口にしたー。
昼休みの終わりの時間になり、
寧々は今一度お礼の言葉を口にしながら立ち去っていくー。
その場に一人残された由紀子は、
スマホを手にすると、
「ーー”倉岡 寧々さん”もう一度、”処理”をー」
と、そう誰かに対して言葉を口にしたー。
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部署に戻った寧々は、安本部長に呼び出されたー。
「ーー君には、また新しいプロジェクトに参加して貰おうと思ってねー」
そう言葉を口にした安本部長は、
”ゴーグル”のようなものを取り出すー。
「プロジェクトの概要を説明するから、
これをつけてくれー」
安本部長の言葉に、寧々は強い不安を覚えたー。
”それをつけてはいけない”
そんな気がしたー。
がーー、すぐにそんな不安は”強引に”消えていくー。
寧々は、プロジェクトの説明をされると信じ込んで、
ゴーグルのようなものを身に着けるとーーー
「ーーぁ…」
再びー、”洗脳”されたー。
洗脳が弱まっているー
そう危惧した会社側が、再び寧々を洗脳したのだー。
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駅を歩いていた寧々は、頭痛を感じながら
表情を歪めるー。
「ーーー寧々…?」
が、ふと聞き覚えのある声が聞こえて、
寧々が振り返ると、
そこには寧々の”元カレ”である、
田本 祐樹(たもと ゆうき)の姿があったー。
「ーーー…ゆ、祐樹ー」
寧々が少しだけ困惑した表情を浮かべながら、
その名前を呼ぶー。
寧々が入社して”洗脳”されたあと、疎遠になり
別れた彼氏だー。
それまでは、社会人になってから3年目ぐらいになったら
結婚するー…
そんな約束までしていた相手ー。
「ーーー…最近は、どう?」
祐樹が少しだけ寂しそうに笑いながら言うと、
寧々は「うんー。仕事は順調ー。毎日楽しいよー」と、微笑むー。
洗脳されて彼氏を捨てた寧々ー。
しかし、”会社”は”極端な豹変”をしないように洗脳しているためー、
彼氏の祐樹も、まさか”彼女が洗脳された”などとは夢にも思っておらずー、
仕事に夢中になって次第に疎遠になって、別れるー…という
結末を辿ってしまったー。
「ーーーーーー」
そんな様子を、物陰から後輩の女性社員が見つめているー。
その左目は赤く光りー、
”会社の主”が、寧々のことを監視しているー。
「ーーーーー」
完全に支配されているその後輩の女性は、
まるでロボットのように二人のことをさりげなく監視しながらー、
様子を見つめるー。
そんなことに気付かず、二人は会話を続けるー。
「ーーーーー」
寧々は思うー
”どうしてわたしは祐樹と別れちゃったんだろうー”
とー。
あんなに好きだったのにー。
祐樹と別れてもう1年半ー。
今までそんなこと思ったことなかったのにー、
何故だか違和感を感じるー。
そんな様子を寧々の後輩女性社員を
”遠隔操作”で一時的に完全に支配して
寧々たちを監視している”会社の主”は、表情を歪めたー。
”迷いー”
寧々の表情から迷いを感じるー
今日、”追加”で洗脳したはずだー。
それなのに、何故ー?
険しい表情を浮かべるー。
”何故だか”
最近、寧々の洗脳にわずかな”揺らぎ”を感じたー。
実際に会社内で本人も、”日常に違和感”を感じているような
そんな素振りを見せていたー。
だからこそー、”追加”で洗脳を行ったー。
それなのに、その効果が見られないー。
”何故ー?”
決して、”洗脳”の質が落ちたわけではないー。
数日前にも、中途で採用した社員に洗脳を施し、
完璧な効果を確認することができているー。
がー、何故だかここ最近、寧々だけ様子がおかしいー。
”ーーー…”
優秀な社員を手放すわけにはいかないー。
会社にとって、社員は”駒”ー。
大事な大事な、”働きアリ”なのだからー。
そんな風に思いながら、寧々の後輩女性社員の”目”を通して
”会社の主”は、寧々たちの監視を続けるー。
がー
その時だったー
「ーーー」
元カレである祐樹と話をしていた寧々が、
表情を歪めるー。
「ーどうした?」
祐樹が困惑した表情を浮かべるー。
頭を押さえながら寧々は表情を歪めるー。
「ー最近、ちょっと頭痛がー」
寧々がそう言いかけると、
調子悪そうに、駅のホーム内にある椅子に座り込むー
「だ、大丈夫かー?」
祐樹が戸惑いながら言うと、
寧々は頭を押さえながら「大丈夫ー。すぐ落ち着くからー」と、
そう言葉を口にするー。
しかしー、寧々の顔色はますます悪くなりー、
「ーーあ、ごめんー。ちょっと、帰るねー」と、
そう言葉を口にして立ち上がった直後ー、
寧々はその場に倒れ込んでしまったー
「ーえっ!?ちょ!?おいっ!」
祐樹は、慌てた様子で倒れた寧々に駆け寄ると、
すぐに駆けつけてきた駅員に、
「ーき、救急車をお願いしますー」と、そう言葉を口にしたー。
その騒動を少し離れた場所から見つめながら、
後輩の女性社員は今一度目を赤く光らせると、
戸惑うような表情を浮かべたー。
③へ続く
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次回が最終回デス~!
次回は、
どうして違和感を感じ始めたのかなどなど、
色々な秘密も明かされます~~!☆!
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