ある日から”謎の違和感”を感じ始めた彼女ー。
社員たちを”駒”や”蟻”に例えて、
意のままに操る会社ー。
違和感を感じ始めた彼女の運命はー…?
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「ーーーーーー」
寧々は、病室の外を見つめていたー。
目から涙が溢れるー。
「どうして、わたしはー…」
寧々は”後悔”の念に押しつぶされそうになっていたー。
彼氏の祐樹をー、
そして友達を、
数多くの大切な人たちと疎遠になってしまったー。
仕事に夢中になって、何もかもを捨てたー。
「ーーーどうしてー…」
寧々は目に涙を浮かべるー。
何故、”あそこまで”会社に尽くしてしまったのかー。
どうかしていたー。
もちろん、仕事は真面目にやるつもりだったし、
そうしていたー。
けれど、”途中から”何かがおかしくなったー。
そうーーー
輪島先輩から言われて、あの”ゴーグル”を付けた時からー、
会社の仕事が楽しくて楽しくて楽しくてー
それ以外、考えられなくなったー。
「ーーあれは…」
寧々がそう考えていると、そこに元カレの祐樹がやってきたー。
「ーー祐樹ー」
寧々は目に涙を浮かべながら、
「ーごめんなさいー」と、そう言葉を口にしたー。
「ーーー…ははー。どうしたんだよ急にー。
とにかく、無事でよかったー」
祐樹が笑いながら言うと、
寧々は「わたしー…仕事ばっかりに夢中になってー」と、
泣きながら言うー。
「ーはははー仕方ないさーー。
仕事を選ぶのも、プライベートを選ぶのも、寧々の自由だろ?
俺が強制することじゃないー」
祐樹が、穏やかにそう言うと、
寧々は「違うのー」と、そう言葉を口にするー。
「ーー?」
祐樹が少し表情を曇らせるー。
すると、寧々は言ったー。
「ーー入社してからのわたしー…
わたしなのに、わたしじゃなくなってたー」
とー。
「ーーー…それは、どういうー?」
祐樹が戸惑いながら、言葉を吐き出すー。
すると寧々は、”今までのこと”を口にし始めたー
まるで、何かに取り憑かれたようなー
”わたしがわたしでなかった”今までのことをー。
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「ーーー脳出血ー」
寧々が倒れた原因は、脳出血だったー。
倒れる数日前からその兆候が出ていて、
寧々は頭痛に悩んでいたー。
そしてー、
”洗脳”の効力が薄れたのはそれが原因だったー。
脳出血に伴う、何らかの脳の作用で、
洗脳の効力が薄れー、
倒れたことにより、完全にそれが解けてしまったー。
”追加”で洗脳を試みたものの、効果が得られなかったのも
そのせいー。
脳出血によって”普通ではない状態”になっていた脳には
洗脳の効果が十分に発揮されなかったのだー。
「ーーそんなことがあるなんてー」
報告を受けた”会社の主”は、表情を歪めると、
その対応を頭の中で考え始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「う……嘘だろー…?
か、会社に何かされたってことかー?」
元カレの祐樹が言うと、
寧々は「うんー…」と頷くー。
「ーー変なゴーグルみたいのをつけられてーそれでー…」
寧々が悲しそうに言うと、
祐樹は呆然とした様子で病室の窓の外を見つめるー。
「信じられないと思うけどー…
わたし、祐樹と別れたいなんて思ったことなかったしー…
祐樹とーーー…
約束、守りたかったー」
社会人3年目ぐらいに結婚しようという約束ー。
寧々にとっては、本当に嬉しいことだったー。
でも、それを自ら壊してしまったー。
「ね、寧々ー…」
祐樹が戸惑いながら寧々を落ち着かせるー。
病院に運ばれたのが、すぐだったため、
命に別状はなく、幸い、後遺症もほとんど残らない状況だった寧々ー。
しかし、とは言っても寧々はまだ病み上がりだー。
「ーーーそうだー。何か飲み物買ってくるよ」
寧々が落ち着いたタイミングで、そう言葉を口にして、
祐樹は病室の外に出るー。
”ーごめんねー。わたし、仕事に集中したいのー。”
入社して半年ぐらいの時だっただろうかー。
祐樹は、寧々にそう言われたー。
”急に、こんなに仕事にのめり込むなんて”と、
少し疑問には思ったものの、
”それ以上”におかしいところはなかったしー、
祐樹はショックを受けながらも”寧々の選択だから”と
それを受け入れたー。
だがー、それがもし、寧々本人の意思じゃなかったとしたらー?
祐樹がそう思いながら廊下を歩いていると、
綺麗な雰囲気の女性とすれ違ったー。
少し違和感を感じて振り返ると、
その女性が寧々の病室に入っていくー。
”病院の関係者ではない”
祐樹は、なんとなく嫌な予感を感じて、
そのまま病室の方に引き返すー。
するとーー
バッグから”ゴーグル”のようなものを手に、
それを寧々に無理矢理つけようとする女の姿が見えたー
「おいっ!」
病室の扉を開けて叫ぶ祐樹ー。
女はあわてた様子で振り返ると、
そのまま逃げ出そうとするー。
がー、祐樹はその女を取り押さえると、
「どういうつもりだ!」と、怒りの形相で言葉を口にしたー。
「ーーそ、その人ー…社長のー…秘書の人ー」
寧々が怯えた様子で言うー。
「なに?」
祐樹がそう言いながら、寧々の勤務先の会社の社長の秘書である麗奈の
ほうを見つめると、
麗奈は「ーは、放しなさい!」と、そう言葉を口にするー。
「ーふざけるな!寧々に何をするつもりだったー!?言え!」
祐樹がそう言葉を口にすると、
美人秘書の麗奈は「ーあんたなんかに話す言葉はない!」と、そう言葉を口にしながら
祐樹を振り払うー。
「おいっ!」
そして、麗奈はゴーグルのようなものを回収すると、
あわててそのまま病室から逃げ去ってしまったー。
「ーくっー」
祐樹は、そう言葉を口にすると、心配そうに寧々の方に駆け寄ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
退院後ー。
寧々は、元カレの祐樹と共に、”会社”を訪れていたー。
「ーーー…はははー…
何の根拠もない憶測でそんなことー」
社長の梶井が笑うー。
祐樹は、退院した寧々と共に、寧々の勤務先の会社に
”謎のゴーグルの件”を問い詰めていたー。
「ーー”麗奈”なんて秘書は、うちには存在しないよー。
何かの勘違いじゃないのかね?」
祐樹が寧々の入院中に、寧々に”なにか”をしに来た
秘書の麗奈のことを問い詰めると、
梶井社長は”そんな人物はうちにはいない”と、そう言葉を口にしたー。
”ーー既に口封じでもしたのかー?”
祐樹はそう思いながら、梶井社長を見つめるー。
寧々は涙目で「社長!あれは何なんですかー?わたし、
あれをつけてからー、わたしがわたしじゃなくなってー」と、
そんな言葉を口にするー。
「ーーー寧々から聞いた話の通りならー
あなたたちがやってることは”洗脳”だー。」
祐樹がそう言うと、
寧々は、梶井社長に対して「他のみんなもーわたしと同じなんですかー?」と、
そう言葉を口にしたー。
寧々はーーー
悲しそうに言うー。
寧々の1年後に入社した新入社員たちも”同じ”だったー。
あのゴーグルのようなものを通して”研修”と称して何かをされていたー。
いやー、それだけじゃないー
”ーーこれ、つけてみてー。
うんー。研修用の映像をVRで見れるの!”
寧々自身ーーー
”後輩”にそれを”つけるように”言ったー。
”わたしも、加担させられていたー”
寧々はそんなことに酷く心を痛めていたー。
梶井社長は、寧々の方を見つめると、
突然ー”目”を赤く光らせたー。
「ーだったら、どうだって言うんだー?
会社の社員は、みんな”蟻”だー。
会社のために洗脳し、会社のために働かせるー
それが、何だって言うんだね?」
梶井社長は本性を現すー。
「ーーお、お前ー…!」
寧々の元カレ・祐樹が表情を歪めると、
社長室の入口の方から声がしたー。
「ーまさか、”脳出血”が起きると洗脳が薄れるなんてねー。
今まで洗脳した人間が脳出血になったことがなかったから
気付かなかったわー」
その言葉に、振り返る寧々と祐樹ー。
そこにはー
寧々の先輩であり、社員たちから慕われている
輪島 由紀子の姿があったー。
いつもの落ち着いた感じとは違いー、
化粧をした高飛車なー、まるで女社長のような雰囲気で
部屋に入って来るー。
「ーせ、先輩ーーー
め、目を覚ましてください!」
寧々がそう叫ぶと、
突然、由紀子は笑い始めるー。
「ーーふふふふーー
ははははははははっ!
目を覚ますー?
ごめんねー…寧々ちゃんー
わたしは”正気”なのー
この会社で”唯一”ねー」
由紀子がそう言うと、
寧々と祐樹は困惑の表情を浮かべるー。
そしてーー、
二人の方を見つめると、社長室の奥にいた
梶井社長に「調べなさい」と、寧々・祐樹の二人を
調べるように命じたー。
「ーはい」
梶井社長はそう言葉を口にしながら、
寧々と祐樹を調べるー。
祐樹は、表情を歪めるー。
会社に直接乗り込んできたのはー
”洗脳”に関する決定的証拠を録音するためだったー。
がー、由紀子はそれを織り込み済みだったのだー。
「ーーーふんーやっぱりねー」
スマホを没収した由紀子は録音を停止させるー。
そしてーー
悔しそうにしている祐樹の方を見るとー、
「ーーー”まだ”ーーありそうね?」と、
由紀子は邪悪な笑みを浮かべたー。
「調べなさいー」
梶井社長にもう一度そう伝えるとー、
祐樹のポケットから、ボイスレコーダーが見つかったー。
「ーーーぐ…」
祐樹が、表情を歪めるー。
「ーーそ、そんなー…」
寧々が心底慌てた様子を見せるー。
さらに梶井社長は祐樹らを調べてー、
何もないことを確認するとー、
笑みを浮かべながら言葉を口にしたー。
「ーこの会社はねー
わたしの父の会社なのー。
両親が離婚して、わたしは母親側に引き取られたから
前の社長と名字は違うんだけど、ねー。
父は理想ばっかり追い求めて
会社の経営はズタズター。
だから、わたしが会社を引き継いでー
”王国”に作り替えたのー。
社員たちを”洗脳”してねー
社員は”蟻”ー
情なんていらないー。」
由紀子はそこまで言うと、
「ーー素晴らしいでしょ?
周囲から異変を悟られない程度に、
こうして社員を駒にするー…
会社経営の理想形だと思わない?」
と、笑みを浮かべながら口にするー。
”梶井社長”は、父の代に専務だった男を洗脳して
社長に仕立て上げただけのお飾りー。
「ーー”トップ”って目立つからねー。
裏から支配するぐらいがちょうどいいのー。
だからわたしは、普段から”みんなに好かれる優しい先輩”として、
フツーにオフィスにいたのー。
まぁ、みんながわたしを慕ってるのも
”そうなるように”みんなに刻んだからだけどー」
由紀子はそう言うと、
「ーせ、先輩ー」と、悲しそうに声を上げる寧々を
見つめながら、笑みを浮かべたー。
「ーーふふー
悲しむ必要はないわー」
そう言うと、由紀子は”赤いライト”を、寧々に照らしたー
「ーー! ね、寧々!?」
祐樹がそう叫ぶと、寧々はビクッと震えてー
「ーー先輩ー」と、笑みを浮かべるー。
「ーふふ、寧々ちゃんー
”ストーカーの元カレ”が会社に乗り込んで来たけど、どうする?」
”また”寧々を洗脳した由紀子が笑いながら言うと、
寧々は「ーー…ゆ、祐樹ー!会社にまで乗り込んで来て、何のつもり!?」と、
そう叫ぶー。
「ーち…ちがっ… ね、寧々!しっかりしろ!」
祐樹がそう返すー。
しかしーーー
由紀子は笑みを浮かべながら
「ー安心なさいー。あんたも社員にしてあげる」と、
そう言いながら、”即興”で洗脳するためのライトを祐樹にも照らしたー。
「ーーーふふふふふー」
洗脳を終えた二人を見つめながら笑う由紀子ー。
「ーーわざわざ乗り込んで来てくれて助かったわー
じゃ、”社長”
この二人のことはよろしくねー」
由紀子がそう言いながら、部屋から立ち去ろうとしたその時だったー。
「ーーー……こ、これはーーー!?」
梶井社長が声を上げるー。
その尋常じゃない驚き方に、由紀子も振り返ると、
梶井社長が慌てた様子で
「ーーな、なんだこれはーー」と、
パソコンを見つめるー。
「ーーーな、何よ!?」
由紀子がそう言いながら、
パソコンの画面を確認するとー、
”社長室”の様子がネット上で生中継されていたー。
「ーー!?!?!?!?!?」
由紀子は目を見開くー。
”コメント欄”に”この会社やばくね?”
”洗脳ってマジ?”のようなコメントが大量に並び始めるー。
「ーーなーーーー」
由紀子が振り返るーーー
そしてーーー
社長室の入口付近の棚に”小さなカメラ”が置かれていることに気付くー。
その映像をリアルタイムで配信できるように、祐樹は
事前にセットした上で、社長室に入った直後に
どさくさに紛れてそれを設置しておいたのだー。
祐樹が持っていたスマホや、ボイスレコーダーは最初から囮ーーー
本命は、これだーーー
映像さえライブ配信してしまえば、
例え自分たちが”洗脳”されても、必ず誰かに助けてもらえるー。
そう、踏んでの行動だったー
「ーーーあんたたちー…!なんてことをー!」
由紀子が、洗脳済みの寧々と祐樹を睨みつけるー。
「ーーも、申し訳ありませんー…
…ゆ、祐樹ー…!何でこんなことするの!?ねぇ!!」
既に再び洗脳された寧々がそう叫ぶー。
「ーーえ… お、俺ーーな、なんでー!?」
洗脳された祐樹も、自分の行動に戸惑うー。
がー、これでいいー。
会社に問い合わせが殺到しー、
由紀子は二人に構っている暇はなくなり、
対応に追われ始めるー。
程なくして警察が駆け付け、
会社中は大混乱に陥りー、
由紀子は逮捕ー…
警察から洗脳を解除する方法を問い詰められて自白ー、
社員たちも、寧々も祐樹も、正気に戻るのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーいやぁ、マジでヤバかったな…アレ」
”洗脳”を短時間とは言え、経験した祐樹は言うー
「ー洗脳されてる自覚も持てなかったもんなー」
祐樹はそう呟くと、
寧々は「うんーー…わたし、ずっと仕事が楽しくて仕方がなくなってたしー…」
と、悲しそうに呟いたー。
「ーーでも、よかったー。
他の社員の人たちも正気に戻ったみたいだし、
上手く行って良かったよー」
祐樹は”自らも一時的に洗脳される”リスクまで冒して
寧々と共に会社の悪事を暴くことに成功したー。
会社の悪事を暴くには、あれぐらい危険を冒さないといけなかった、
ということもあったしー、
”自分自身が一時的に洗脳される”ことで、
寧々が本当に洗脳されていたのか、寧々がどんな苦しい思いをしたのか、
それを確かめたいという気持ちもあったー。
「ーーー…ごめんねー…
もう、彼女でもないわたしのために、こんなに力になってもらっちゃってー」
寧々がそう言うと、少しだけ目に涙を浮かべるー。
洗脳されていたとは言え、大事な彼氏と別れてしまったー。
そのことは、もう消せないー。
しかしー
祐樹は少しだけ笑いながら「いや」と、首を横に振ったー。
「ーーー俺たち”まだ”別れてないだろ?」
祐樹のその言葉に、寧々は「え?」と、涙目のまま
祐樹の方を見るー。
「ー俺と別れようって言ったのは”洗脳されてた”時だろ?
あれは、寧々だけど、寧々じゃないー。
俺は”寧々”には別れを告げられてないー」
祐樹は、そう言うと、
”正気の寧々には振られてないからさー”と、笑いながら
寧々の方を見つめたー。
「ーー”寧々”も別れたいなら、俺はちゃんとそれを受け入れるし、
そうじゃないならーー今からでもまた、二人でやっていけると思うんだ」
祐樹は言うー。
祐樹は、”洗脳された寧々”と疎遠になってからも、
彼女はいない状態が続いていたー。
寧々がその気なら、まだ、やり直せるー。
「ーーーーー祐樹ー」
寧々は嬉しそうに微笑むと、静かに頷きながら、
「ーーこんなわたしでよければー」と、
祐樹に感謝の言葉を口にしながらー
嬉しそうに涙を流したー。
「ーーははは、泣くなよー。
俺は、寧々がいいんだー」
祐樹はそう言うと、寧々を優しく慰めながら
「ーまた、一緒に頑張ろう」と、そう言葉を口にしたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
最終回でした~~!☆
緩やかな洗脳も、
最後には失敗に終わって、
社員たちは無事に解放される結末になりました…★!
でも、会社はつぶれてしまったので、
まずは就職活動をしなくちゃですネ~笑
お読み下さりありがとうございました~!☆
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