<皮>カワノツジギリ①~辻斬り~

江戸時代ー

とある町ではここのところ、無差別に人を斬る
”辻斬り”行為が続出していたー。

しかし、その犯人は若い男であることもあれば
女であることもあって、地域は混乱していくー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ー最近、この辺は辻斬りが出ているようなので
 お気をつけて」

店主がそう言葉を口にすると、
近所で便利屋として働いている男は
「へへっー。ま、人相書きも既に広まってるし
 奉行所に捕まるのも時間の問題でしょ」と、
軽い口調でそう言葉を返すと、
店主の男は「新五郎(しんごろう)さんー、油断は禁物ですぜー?
じきに捕まるだろうけど、まだ捕まってないんだからー。」を、
そう言葉を口にするー。

「へへへー、まぁ、もし姿を現したらオイラがひっとらえてやるよ」
便利屋・新五郎はふざけた口調でそう言うと、
店主は心配そうに「新五郎さんが死んじまったら、うちの常連客
一人減るんだから、勘弁して下さいよ?」と、
冗談めいた口調で言葉を返すー。

「へいへいー。ご忠告どうも。じゃ、また」
新五郎はそれだけ言葉を口にすると、
”今日もちょいと飲み過ぎたな”と、そう思いながら
夜の街を歩き始めるー。

江戸時代ー。
この時代には”辻斬り”と呼ばれる者たちがいたー。

主に、夜の時間帯に
刀を用いて無差別に人を斬る行為に及ぶ者たちのことだー。

その目的は人によって様々ではあるものの、
いずれにしても、斬られる方からすれば
たまったものではないー。

「ーーしかし、人なんか斬って楽しいのかねぇー。
 奉行所に捕まりゃおしまいだってのに物好きなことでー」

便利屋の男・新五郎はそんな言葉を口にしながら、
ゆっくりと夜の街を歩くー。

「ーーー!」
新五郎が少し表情を歪めるー。

ちょうど、反対側からこの辺りに住む町娘だろうかー。
女が姿を現したのだー。

さっき、店主に”辻斬り”の話をされたせいで、
一瞬身構えてしまったー。

”我ながら情けねぇー。辻斬りなんかにビビってんのかー?”
新五郎は自分自身にそんな言葉を投げかけつつ、
ため息を吐き出すと、
反対側から歩いて来る人物が、女だったからか
特に警戒せず再び歩き出したー。

辻斬りは壮年の男で、人相書きも既に出回っているー。
顔さえ分かれば、逃げ足の速い新五郎は
その辻斬りの男を見かけた瞬間に猛ダッシュして
逃げることもできるし、
逃げ切るだけの自信もあったー。

昔から、仲間内でも逃げ足にだけは定評があるー。

そんなことを思いつつ、新五郎は反対側から
現れた女とすれ違うー。

がー…
すれ違った瞬間に新五郎は”あること”に気付いてしまったー。

すれ違った女が、
その見た目に不釣り合いな”剣”を携えていたのだー。

「ーっ!?」
女が剣を携えているのに気付いた新五郎は、一瞬のうちに警戒するー。

がーーー

「ーーククククー血だーー…血を見せろ」
新五郎が、女の剣に気付くと同時に、
女は剣に手をかけながらそう言葉を口にしたー。

「ーーひっ!?な、なんだおまーーー」
新五郎がそこまで言いかけると同時に、
ただの町娘のような姿をしているその女の見た目からは
想像もつかないような素早い動きで、
女は剣を抜きー、そして、新五郎に斬撃を加えたー。

「ーーぁ… ひっ…ひぃっ!?」
血を流しながら新五郎が慌てて逃げ始めると、
女はゲラゲラと笑いながら言ったー。

「ー気持ちいいー…最高の時間だ♡」
興奮した様子で返り血を浴びている女ー。

腕を斬られてしまった新五郎は無我夢中で逃げるー。
逃げ足には自信があるー。

なんとかー
なんとか逃げきればー…

しかしー

「ーーふふふふふー
 お前の血をもっともっと味わいたいー。

 お前の血を浴びたいー
 嗅ぎたいー感じたいー、舐めたいー

 ひひひひひひっ!」

背後から狂った女の声が聞こえるー。

そしてー、女はその見た目からは
あり得ないほどの速度で、
逃げる新五郎に迫って来ると、
狂ったように目を見開きながら
新五郎に向かって刀を振りつけたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「そ、そ、そんなー新五郎さんー」
昨夜、新五郎が最後に立ち寄った食事処の店主が
困惑した様子で新五郎の遺体を見つめるー。

「ーお前、この男と知り合いかー?」
そう言葉を口にするのは奉行所の同心の一人、
中川 蔵之介(なかがわ くらのすけ)ー。

この地域の奉行所に努めていて、
地域の住人からの信頼も厚い人物だー。

”奉行所”とは、この頃の時代の
治安を維持したりする警察のような存在で、
”同心”とはそこに努めている現代では警察官のような存在だー。

「ーあ、あぁ、中川さまー
 えぇ、よくうちの店に来てくれていた便利屋の方でしてー」」
店主がそう言葉を口にすると、
同心・蔵之介は「ーそうかーそれは残念だったな」と、
そう言葉を返すー。

その上で「昨日、何か変わったことはなかったか?
あったら教えてほしい」と、そう言葉を口にすると、
店主は「ちょうど、店を出る前に辻斬りの話をしてー、
”気を付けて”って言葉を交わしたんですー
まさか、それがこんなことになるとはー」と、
心底落ち込んだ様子で言葉を口にしながら
首を横に振ったー。

「ーーーー…」
そこに、「おい、中川」と、
別の同心がやって来るー。

蔵之介の上司にあたる同心・荒木 雄之進(あらき ゆうのしん)だー。

「ーー荒木さんーどうかされましたか?」
蔵之介がそう返事をすると、
雄之進は「向こうで別の死体が見つかった」と、
そう言葉を口にするー。

「ーーまたですか。
 ー同じ辻斬りの仕業ですかね」
蔵之介はそう言いながら、雄之進と共に
すぐ近くで見つかったという”別の遺体”がある現場へと
向かっていくー。

すると、そこにはーー
”女”が横たわっていたー。

「ーーまさか女子まで手を掛けるとはー」
蔵之介が心底呆れた様子でそう言葉を口にするー。

しかし、上司の雄之進は首を横に振ると、
「ーいや、この者は斬られてはいないー」と、
そう言葉を口にするー。

それと同時にー、
「身体が、着物のような状態になっていてなー…
 足がおかしな方向に曲がっていたり、
 内臓にも異常が生じてるー」
と、雄之進はそう説明したー。

「ーそれは一体?」
蔵之介がそう聞き返すと、
雄之進は「分からぬ」と、首を横に振りつつ、
「ーただー」と、険しい表情を浮かべたー。

「ーまるで、自分の肉体の限界を超えて身体を動かして、
 身体が壊れたかのようだー、と、先生は言っていたよー」と、
先程、医者の男に見て貰ったところそういう見立てだったと、
雄之進は口にしたー。

「ーーーー」

人間は、無意識のうちに”自分の身体の限界”を脳が理解しているー。
だから、自分の身体の限界を超えた動きをしようとすると、
自然と身体は自制するし、
それでも無理をしようとすれば身体が痛みを発したり、
強烈な疲労に襲われたり、
あるいは意識を失ったりすることで、
結果的に、その肉体を守っているー。

がーーー
この女はそういった人間の本能的なものを無視して
自分の身体が”壊れる”まで、限界を超えた動きをしたようだー。

「ーーー…辻斬りから逃げようとしてそうなったってことはー?」
蔵之介がそう確認するも、
雄之進は「ーーそうかもしれんがー」と、
奇妙な遺体となって発見された女を見つめながら険しい表情を浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その夜も”辻斬り”が出現したー。

しかし、その辻斬りは手配されている男ではなくー、
昨日、新五郎を襲撃した女でもなくー、
老人だったー。

「ーークククー血だー」
刀を手にした老人が、笑みを浮かべながら
”ターゲット”を追い回すー。

「ーや、や、やめろっ!来るな!」
狙われていたのはー、昨日斬られた新五郎が
最後に立ち寄っていた店の店主ー。

「ーーー血を浴びさせろー。嗅がせろー。飲ませろー!」
刀を握った老人はそう言葉を口にすると、
老人とは思えない速さで走りー、店主を追いつめるー。

店主は怯えたような表情を浮かべながらも、
老人の足が変な音を立てながら、
さらには激しく息切れして、口からは血のようなものを
流していることに気付くー

「ちょ、ちょっと、あんたー」
店主は困惑の表情を浮かべるー。

すると老人は刀を握りしめたまま、
ニヤッと邪悪な笑みを浮かべるー。

「ー”どうせ”俺の身体ではないー」
とー。

「ーな、なんだとー…!?」
店主は驚いたような表情を浮かべながら、
その老人のほうを見つめるー。

がー、その時だったー

「ーあなた!何があったの!?」
店主の妻である女が奥から騒ぎを
聞きつけてやってきてしまうー。

「!」
店主の男は、ハッとした表情を浮かべると、
「さや!来るな!」と、そう叫んだー。

その直後、”辻斬り”の老人が持つ刀が
店主の男を容赦なく斬りつけるー。

「ぐぁっぁ…!」
斬られた店主の男は血を噴き出しながら
その場に倒れ込むー。

しかし、斬られたはずの店主だけではなく、
斬った側である老人までその場に倒れ込んでしまうと、
「ぐ…ふふふふふー血だー…」と、ニヤニヤしながら
ゾンビのように這いずって、店主の身体から
流れた血の方に向かっていくー。

”老人”の身体で無理に刀を力強く振ったため、
激痛が走り、さらには身体が壊れたー。

しかし、”辻斬り”の男は、
”痛み”も大好きだったー。
”自分の身体”で味わう痛みは”嫌い”だー。
けれど、”他人の身体”で味わう痛みは何よりも
至福の痛みだった。

どんなに強い痛みが走っても、
自分自身には危険は及ばないし、
最悪、どうしても痛みに耐えきれなくなった時には、
着ている皮を脱ぎ捨てれば良いだけの話だー。

だからこそ”他人の身体”を使って辻斬り行為を
繰り返している彼にとって、
”他人の身体で味わう痛み”は、
至福の瞬間だったー。

地面に這いつくばったまま、
床に流れた店主の血を舐め始める老人ー。

そんな光景を見て、悲鳴を上げながら
その場にへなへなと座り込んでしまう店主の妻ー。

そんな姿を前に老人はニヤニヤと立ち上がると、
「ーこの身体はもうダメだー。」と、
自分が今使っている身体、”老人”の身体を指差すー。

そして、ガクガクと震える店主の妻を見つめると、
指についた血を舐めながら、
老人は自分の後頭部のあたりに手を掛けたー。

”老人”の皮を少しずつ脱ぎながら、
男はニヤッと笑うー。

「俺はなー。
 血が大好きなんだー。」

そう語りながら、老人の皮を脱ぎ捨て、
床に放り投げると、
「ーーこの刀で人を斬る瞬間、
 この刀で着られた人間から深紅の血が噴き出す瞬間ー
 その返り血を浴びる瞬間ー」
と、興奮した様子で自分の大好きな”血”について語り出すー。

「ー俺に斬られた人間が絶望の表情を浮かべながら
 少しずつ、少しずつ弱っていく瞬間ッーー…!」

男はそこまで言うと、
「うははははははははっ!」と、狂ったように笑いながら
怯えた店主の妻のほうを見つめるー。

「クククー、そんな顔をするなー。
 けど、人斬りを続けていればこのご時世だー。
 すぐに人相書きが出回るし、
 奉行所も黙っちゃいない」

辻斬りの男は、そう言葉を口にすると
「だが」と、急に冷静な表情を浮かべてから
店主の妻のほうを見つめる。

「他人の身体を使って辻斬りを繰り返せば、どうだ?
 奉行所の同心共も俺にたどり着くことはできない。
 世間では俺に身体を乗っ取られた被害者が、加害者扱いされて
 俺のことには誰も気づかないー。

 そうなりゃ、どうだ?
 ー俺は人を斬り放題ってわけだ!うはははははっ!」

男は、狂ったように笑うと
やがて、店主の女のほうを見つめてから笑った。

「次はー、お前が辻斬りになるんだよー」
とー。

その言葉と同時に、男は不気味な小刀を取り出すと、
その刀で店主の妻の後頭部を切り裂いたーー

”血”も出ずに”皮”になっていく女ー。

”辻斬り”の男は、また新たな身体を手に入れて、
その場から立ち去っていくのだったー…

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

人を皮にする力を悪用して
辻斬り行為を繰り返している辻斬り…

なかなか手ごわいですネ~…!

続きはまた明日デス~!!
今日もありがとうございました~!★!

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