<憑依>双子のはずだったふたり③~想い~(完)

一つの身体を二人で使っている状態の双子の姉弟ー。

しかし、使っている身体は姉のものー。

姉に憑依した状態の彼は、”あること”を決断していたー。

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高校生活2年目の終わりも近付いていたある日のことー。

帰宅すると、”姉さんー少し大事な話が”と、
弟の瑛太がそう言葉を口にしたー。

「ー話?うんー、わかったー。
 じゃあ、手とか洗ったら部屋でゆっくり話そ?」

梨花がそんな返事をして部屋に向かうと、
瑛太は”うんー”と、だけ返事をするー。

最近の瑛太は何やら”ぼーっとしている”ことが多く
”内側”にいる時に話しかけても反応が薄いことが多いー。

そんな様子を、梨花も心配していたー。
そんな中での”大事な話”ー。
少し不安になりながら、梨花は部屋に戻ると、
「それで、話って?」と、
鏡の方を見つめながら言葉を口にしたー。

”ーーーうんー。実は僕さー…”
瑛太の意識がそう言葉を口にすると、
少し間を置いてから、言葉を続けたー。

”ー僕ー…最近、意識が薄れてる気がするんだー…”
瑛太の言葉に、梨花は「え?」と、困惑の表情を浮かべるー。

”なんて言うかなー…
 説明しにくいけど、だんだん、姉さんに溶け込んで言っているというかー…
 僕が僕だという自覚がなくなっていってるっていうかー”

梨花の中で瑛太がそんな言葉を口にすると、
梨花は少しだけ溜息をつきながら、
「ーー瑛太ーちょっと変わってー」と、突然身体の主導権を、
瑛太に渡して、梨花が奥に引っ込んだー

「ーわっ!?」
急に交代されたためにビクンと震えて
バランスを崩した梨花になった瑛太は
鏡の方を見ると、
「な、なんだよ姉さん~急に交代するなよ~?」と、
それだけ言葉を口にするー。

”ーーーーごめんごめんー
 それで…ーー?”

話の続きを促してくる梨花の意識ー。

重すぎる話を受け止めるのに”内側”の方が
落ち着くことができるからだろうかー。
梨花は奥に引っ込んで、そう言葉を続けたー。

「ーーうん。僕さー…
 たぶんー……そのー」
”梨花”の身体で、鏡の梨花の方を見つめるー。

二人は、”真剣な話”をするときには部屋の鏡の前に座って、
こうして”相手が目の前にいるような感覚”で話をすることが多いー。

「ーーー僕、そう遠くないうちに消えちゃうのかもー」
瑛太は、梨花の身体でそんな言葉を口にしたー。

”えぇっ…そ、そんなー…”
梨花の意識が驚いたような言葉を口にするー。

”ーだ、大丈夫だよ瑛太ー
 気のせい気のせいー。
 今になって、急に瑛太が消える理由なんてないでしょー?
 これからも一緒にー”

梨花の意識がそう言うと、
瑛太は梨花の身体で、「僕には分かるんだー…!」と、
悲しそうに声を上げたー。

”僕はーー…だんだん姉さんの中からー
 消え始めてるー。
 だから…そのーーー残された時間は少ないかもー”

”梨花”の身体で瑛太は鏡から目を逸らしながら、
申し訳なさそうに言うー。

”ーーー……瑛太ー”
梨花はそう言うと、少しだけ寂しそうな表情をしながら
”わたしは…わたしは瑛太にずっと一緒にいてほしい”と、
そう言葉を口にするー。

「姉さんー…ごめんー
 やっぱり僕は生まれた時に死んでるんだしー、
 こうして、姉さんの身体で今まで過ごして来れただけでも
 幸せだったよー」

瑛太は梨花の身体で俯きながらそう言うと、

「大丈夫ー。僕はとても幸せだったよー。
 だってー、本当なら”0”だったはずの人生が、こんなー
 15年以上、続いたんだからー」

と、そんな言葉を続けたー。

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残された時間を精一杯楽しみたいー。

そんな瑛太の願いを叶えるべく、
梨花は色々なことをしてくれたー

遊園地にも足を運んだー。

「ーー姉さん…他の人から見たら、
 一人で遊園地に来てるみたいになっちゃってるよ」

”梨花”の身体で苦笑いしながら言うと、
”わたしたちは、一人で二人だからいいのー”と、笑うー。

”あ、そうだー。観覧車に乗ろ!あの中なら
 二人で周囲を気にせず、お話しできるでしょ?”

梨花の意識のそんな言葉に、瑛太は「そうだねー」と
頷くと、そのまま観覧車の方に向かったー。

そしてー、観覧車の順番が回ってくると、
中に入ってひと息つく二人ー。

観覧車の窓に反射した”姉さん”の姿を見て、
”姉さん、ホント、どんどん可愛くなっていくなぁ”と、
苦笑いする瑛太ー。

”それでー…調子は大丈夫?”
梨花の意識が内側からそう言葉を発するー。

瑛太は梨花の身体で、「ーうん。でも、”もうすぐ”かなー」と、
そう言葉を口にするー。

「ー大丈夫。怖くないー
 それに、姉さんがこんな風に色々楽しませてくれてるからー、
 未練も残すことなく、旅立てそうだよ」

梨花の身体で瑛太がそう言うと、
梨花の意識は寂しそうに表情を曇らせたー。

「ーーはは…そんな風にならないでよ?
 姉さんが幸せにしててくれれば、それだけで僕は満足だからー。

 あ、それとー
 久島先輩のこと好きだよね?
 もうすぐ先輩も卒業だしーー僕は消えるから、遠慮しないで
 告白していいからねー?

 あと、進路も僕に気を遣わずに、姉さんが
 好きなところを選んで」

梨花の身体で、瑛太は伝えたいことを一気に口にするかのように
そう呟くと、満足そうに笑みを浮かべたー

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そしてーー
”その日”はやってきたー。

”ーーーー…姉さんーーーお別れみたいだー”

ある日ー
家に帰宅すると、瑛太の意識がそう呟いたー。

「ーー瑛太ーーー」
梨花が寂しそうに呟くと、
瑛太は”ー今までありがとうー。姉さんー”と、
そう心の中で満足そうに言葉を口にするー。

”ーーさようならーー”
瑛太はそれだけ口にすると、
心の中から”気配”が消えたー。

「ーーーーー…」
梨花は、弟の瑛太が自分の中から消えたことに、
心底寂しそうな表情を浮かべるー。

”ーーーーーーーーーーーーーー”

がーーー
瑛太はーーー
”消えて”いなかったー。

”姉さんーー僕はーいつでも姉さんを見守ってるからー”

瑛太はーー
”消えたフリ”をしていたー。

”僕がいるから、姉さんは好きな人が出来ても告白しないようにしている”
”僕がいるから、姉さんは進路でも僕を気遣っている”

そんな風に察した瑛太は、”消えたフリ”をすることで、
”姉さんの幸せ”を願ったー。

”僕がいなくなったと思えば、姉さんもきっとー、前に進んでくれるー”
そう、信じてー。

瑛太は気配を消し、姉の梨花の身体の中に憑依した状態で、
”2度と姉さんに語り掛けること”をせず、
そして、2度と身体の主導権を握ることもせず、
ただ、姉である梨花の幸せを願う道を選んだのだったー。

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「ーーーー」
それから数日後ー。

梨花は、生徒会役員として3年生の卒業式に出席して、
よく話をしていた久島先輩を見つけると、
体育館から出てきたタイミングで
「先輩!今までありがとうございました!頑張ってくださいね!」と、
そう声をかけたー。

「ーーははは、ありがとうー。頑張るよ」
久島先輩はそれだけ言うと、穏やかに笑いながら
そのまま立ち去って行ったー。

「ーーー」
梨花は結局、久島先輩に告白することなく、
久島先輩を見送ったのだったー。

「ーー梨花、よかったの?」
友達の菜緒が、告白しなかった梨花にそう言葉を掛けるー。

がー、梨花は少しだけ笑いながら
「前から言ってるでしょ?そういうのじゃないってー」と、答えたー。

そう、梨花は久島先輩に対して
本当に恋愛感情はなく、
ただ”先輩後輩として信頼していた”だけだったー。

梨花は、決して瑛太に遠慮していたのではなく、
”本当に恋愛感情があまり湧かない”だけで、
恋愛感情がもしも芽生えるようなことがあれば
瑛太に相談するつもりでいたー。

瑛太が思っていたようなー”遠慮”をしていたわけではなくー、
瑛太の勘違いだったのだー。

(”瑛太ってばー…、わたしが遠慮してるとか思ってたんだろうな~…”)
梨花はそんなことを思いながら、
少しだけ溜息をつくと、卒業式の片づけの手伝いを行い、
そのまま家に帰宅したー。

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帰宅した梨花は、母親と会話を交わしてから
自分の部屋に向かうー。

”ーーー”
瑛太は、そんな様子を”姉さん”に悟られないように
ほぼ休眠状態に入りながらも、
微かに見つめていたー。

”ーーー…こうしていれば、僕は姉さんのジャマをしてしまうことはないー”
消えたフリをするー、そんな道を選んだ瑛太ー。

瑛太は、満足そうに微笑みながら、
しばらく眠りにつこうと、休む姿勢に入るー。
本当に消えてしまうことはできないし、
その方法は分からないため、
しばらく休眠状態に入るつもりだー。

元々、自分が生まれた時に死んだ人間ー
それが、高校生になるまで姉の身体に宿り、
色々なことを経験できただけでも、
瑛太は満足だったー。

”頑張ってね、姉さんー”

そう呟くと、瑛太は梨花の心の中で
静かに眠りについたー。

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーー

「ーーーぇ」

「ーーねぇ、聞いてる?」

「ーーそろそろもう満足でしょ?」

そんな声が聞こえるー。

”休眠”状態に入ろうとしていた瑛太が
”?”と、梨花の中で目を開けると、
梨花が言葉を発したー。

「ーー消えたフリをしてさようならー、とかさー
 そういうの、わたし、いらないんだけどー…」

梨花の言葉に、瑛太は”!?”と、梨花の心の中で驚くー。

”ーーーー…い、いけないいけないー。
 僕はもう消えたんだー。うん、消えたー”
心の中で自分に言い聞かせる瑛太ー。

うっかり、返事をしそうになったー。
瑛太は”僕はもういません”と言わんばかりに
沈黙を続けるー。

だがーー

「ーー消えたフリをして、めでたしめでたし、
 みたいなの、わたし、望んでないよー?

 瑛太、いるんでしょ?

 わたしが、久島先輩に告白しなかったのは、
 瑛太が思ってるような理由じゃないよー?
 本当にわたし、恋愛感情が薄いだけだし、
 進路のことも、二人で話し合って決めればいいでしょ?

 わたし、迷惑なんて思ってないし
 瑛太のせいで、なんて一度も思ったことないよ?」

と、梨花は言葉を続けたー。

姉の梨花は”瑛太が消えること”なんて望んでいなかったー。
”途中からそうなった人間なら、色々不便に感じるところもあったかもしれないー。
しかし、梨花は小さい頃からずっと瑛太と一緒だったー。
梨花にとってはそれが当たり前ー。

むしろ、瑛太がいなくなったら
梨花からすれば”大事な家族がいなくなってしまったような”
そんな悲しみさえ覚えるー。

「ーー瑛太も、わたしのこと思ってそうしようとしてるのは分かるからー
 だから、しばらく乗ってあげてたけど、
 もういいでしょ?

 ーーいるなら返事をして?」

梨花の言葉に、瑛太はなおも沈黙を続けるー。

”僕は、姉さんのために消えるって決めたんだー”
とー。

しかしーーー

「ー瑛太!怒るよ!」
普段は怒らない梨花がそう言葉を口にしたー。

「ーいるなら、返事をしてよー」
悲しそうな梨花の言葉に、瑛太はついに意を決して
”ーーー…ね、姉さんー”と、
そう言葉を口にしたー。

梨花は目に涙を浮かべながら「よかったー」と、
言葉を吐き出すと、
「ーーそういうこと、もうしないでー」と、
そんな言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”ーーそれにしても、姉さん、何で僕がまだいるって
 分かったの?”

瑛太がそう言うと、
梨花は「分かるよー。そのぐらい。ずっと一緒だったんだしー」と
そう呟いたー。

決定的だったのは、鏡の前で話をしたときー。

梨花によれば”瑛太”は嘘をつくときに
”自分の姿”を見ないのだというー。

”ーーあはは…姉さんは何でもお見通しかー”
苦笑いする瑛太ー。

梨花も、安堵の表情で少しだけ笑うと、
「ーー…じゃ、次の授業は”数学”だからよろしくね」と、
そう言葉を口にすると、
瑛太は”オッケー!僕に任せて”と、そう言いながら
梨花と交代してー、
梨花の身体の主導権を握ると、
「ーーさ、今日も頑張ろうー」と、一人そう言葉を口にしながら
教室へと向かうのだったー…

おわり

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コメント

最終回でした~!☆

消えたフリをしてめでたしめでたし…パターンは
何度か書いた気がするので
今回は「消えちゃだめ!」パターン(?)の結末でした~!☆!

二人はこの先も上手くやっていくことができそうですネ~!

お読み下さりありがとうございました~!☆

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