<入れ替わり>続・時代は入れ活~第2章~

入れ替わり相手を探す”入れ活”が、
当たり前のように行われている時代ー。

入れ替わり相談所には、
懐かしい人物が姿を現していたー。

しかし…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーび、病気ー?」
美月が不安そうに言うと、
涼子(津田)は、笑みを浮かべながら頷いたー。

「そうー。まぁ、この3年ー、遊びまくってきたから、
 そのツケが回って来たのねー」

涼子(津田)は、ニヤニヤしながらそう言葉を口にするー。

確かに、顔色はあまり良くなく、
お世辞にも”体調がいい”ようには見えないー。

「ーーーー」
所長の幸則も戸惑った様子だー。

「ーーだからー、”入れ活”しにきたのー」
そう呟く涼子(津田)ー

「ーーそ、それはどういうー」
美月がそう言うと、
涼子(津田)は「この身体を捨てようと思ってー」と、
笑みを浮かべながら言うー。

「正直、毎日毎日体調も悪いしー、
 もう限界ー。

 まぁ、治療を続ければ回復できるかもしれないから、
 死にはしないしー
 このエロイ身体ならー…
 
 いや、失礼ー
 わたしの身体なら、”入れ活”でも、需要はあるんじゃない?

 辛くてもわたしみたいな美人には需要、あるでしょ?」

涼子(津田)のそんな言葉に、
”涼子”の入れ替わりを知らない美月と所長の幸則は戸惑うー。

「ーーで、でも、羽村さんー
 本当にー、いいのかい?」
所長の幸則は戸惑いながら言うー。

「ーーえぇ。もう、この身体では十分遊んだので」
涼子(津田)の物言いに少し不安を感じる二人ー。

そんな涼子(津田)の振る舞いを見て、
美月が口を開くー。

「ーー涼子ー…あのさー…
 ”自分の身体を捨てる”ってことがどういうことか、ちゃんと分かってる?」

美月はそう言葉を口にするー。

美月の中身は”別人”ー。
美月の”中の男”は、かつて入れ活をして、
元々の身体の持ち主と入れ替わって、今、美月として生きているー。

相手も、自分も、
それぞれ異性になりたいという夢を持っていたため
お互いに後悔はないー。

けれど、入れ替わった直後は、
”自分の身体”ではない身体で生きることに不安を感じたり、
辛いと思ったりすることもあったー。

「ーーー」
元に戻りたいわけではないー。

それでも、”美月”の中の人は、時々自分の身体が恋しくなることはあるー。

「ーー思ってる以上にー、
 自分の身体を捨てるってことは、重い決断だよ?」

美月がそう言うと、
入れ替わり相談所の面々も、神妙な表情でそれを見守るー。

”美月の中の人が別人”であることは所長の幸則も含めて
全員が知っているー。
就職時からそうだったし、この世界では当たり前のことであるため、
そこに何か文句を言う人間はいないー。

しかし、だからこそその言葉に説得力があったー。
”入れ活”で、入れ替わりを体験している今の美月ー。

その美月が、そう言っているのだからー、
”入れ替わり”にもやはり覚悟は必要なのだろうー。

美月と、その相手のように
”お互いに望んで、お互いに理想の人生を手に入れた”者同士であっても、
やっぱり複雑に感じるような部分はあるのだー。

「ーーー…ふふー」
涼子(津田)は笑うー。

「ーでも、美月はこんなに苦しい病気になったこと、ないでしょ?」
涼子(津田)は不敵な笑みを浮かべるー。

「ーーそれはそうだけどー
 でも、治療をすれば回復できるかもしれないんでしょ?
 さっき、自分でそう言ってたよねー?
 だったら、それを試してみてからでもー」

美月がそう言うと、
涼子(津田)は「そこまでする価値は”わたしの身体”にはもうないの!」と、
そう言い放つと、
「ーーとにかく、マッチングする相手を見つけてー。
 わたしはもう、この身体には未練はないからー」と、
そう言葉を口にしたー。

「ーー……涼子ー」
美月は、少し困惑した様子で涼子(津田)を見つめるー。

入れ替わり相談員の同期でもある美月と涼子ー。
少なくとも、以前の涼子はこんな性格じゃなかったー。

そうー、3年前、同居をし始めた頃から
涼子の様子がおかしくなったー。

同居中も何度もトラブルになったし、
同居を解消してからも、遊び歩いていたなんて、
前の涼子からは想像もつかないー。

「ーーー」
美月は少しだけ表情を歪めながらも、
「ー”友達”としては警告したからねー?
 あとは”相談員”として、相談は受けるけど」と、
少し不満そうに言葉を口にしたー。

「ーーーーー…ーーふん、不満そうな顔ー」
涼子(津田)は少しだけ不愉快そうに言うと、
「ーーそうだー美月と入れ替わりたいなぁ」と、
ニヤニヤと笑みを浮かべるー。

「ーその”身体”、結構わたし、好きだしー。
 どう?」

涼子(津田)の言葉に、
美月は表情を歪めながら
「こ、この身体は本当の”美月”から譲ってもらった大事な身体だから
 誰にも渡さないよ!」と、自分の身体を守るような仕草をしながら、
涼子(津田)のほうを見つめるー。

「ーーあははー冗談冗談」
涼子(津田)はそう言うと、
「あ、そうだー!できればマッチング相手”女”がいいなー」と、
そんな言葉を付け加えたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅した美月は、再会した涼子のことを思い出しながら、
困惑の表情を浮かべていたー。

「ーーーーー涼子…あんなだったかなー…」
同期である涼子のことは良く知っているー。

同居してから解消するまでの間も強い違和感は感じていたものの、
今日の”自分の身体を適当に捨てようとする”涼子を見て、
美月はさらに強い違和感を抱いていたー。

「ーーー……ーーー」
美月は、しばらく考えていたものの答えは見つからずに
大きくため息をついたー。

人は変わるー。
それだけのこと、と言われればそれまでだー。

けれどー…
なんだか、何かが引っ掛かるー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「所長ー。涼子の”記録”参照できますかー?」
美月がそう言葉を口にするー

「ーうん?できるけど、どうしてだい?」
所長の幸則が少し不思議そうに言うと、
美月は「ちょっと引っかかるところがあるんですー」と、頭を下げるー。

”記録の参照”とは、
入れ替わり相談所や、行政の特定の機関など、
”必要”になった際に個人個人の”入れ替わり記録”を確認できるシステムだー。

美月は”涼子”に強い違和感を感じー、
中身が入れ替わっている可能性を、考え始めていたー。

その確認のために”記録の参照”をしようとしているー。

「ーーー分かったー。
 じゃあ、お昼ごろまでにデータを確認できるようにしておくから、
 それでいいかな?」
所長の幸則の言葉に、美月は「ありがとうございますー」と、
そう言葉を口にすると、”今日の入れ替わり相談”を受けるべく、
予約のお客さんが待つ部屋へと向かったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「本当に、ありがとうございましたー」

”どうしてもメイドとして働きたい”
そんな夢を持つ40代のおじさん・宮下 宗平(みやした そうへい)
が嬉しそうに頭を下げるー。

今日、この男性はマッチングが晴れて成立したのだったー。

「ーふふふ、宮下さんが頑張ったからですよー」
美月は、”マッチング成立”に、一安心しながら、
相手の写真を見つめるー。

入れ替わり相手は女子大生ー。
かなり可愛らしい雰囲気だが、彼女は
”働きたくない” ”金持ちと入れ替わりたい”と言っていて、
その結果ー、この宮下という40代男性とのマッチングが成立したー。

彼は、若い頃から投資で大成功を収め、
そのお金で多数の不動産を所有ー、
今では一生遊んで暮らせるほどの不労所得を持っているー。

入れ替わり相手となった女子大生も、最初は宗平との入れ替わりを
迷っていた様子だったものの、
”40代になってでも一生遊んで暮らせるほうがいい”と、
最終的に宗平との入れ替わりに納得ー、
マッチングが成立したー。

「ーこれで、僕もメイドになれるんですねー」
メイドカフェで働くことが夢だった宗平は穏やかに笑うー。

「ーーはいー。おめでとうございます!
 可愛いメイドさんになってくださいね」

美月が嬉しそうにそんな言葉を口にするー。

美月自身、かつて”入れ活”で、入れ替わりを経験した身ー。
自分自身も、入れ替わりのマッチングが成立した時には
本当に嬉しかったー。

だからこそ、”ちゃんとした利用者”の入れ替わりマッチング成立は
本当に嬉しいー。

「ーーあ、もしもお店が決まったら教えてください
 わたしも遊びに行きますからー」
美月がそう言うと、宗平は「ホントですか?」と、嬉しそうにするー。

「ー本当に、ありがとうございましたー」
宗平の言葉に、美月は「ここからが本番ですよー」と、笑いながら、
合意確認資料の作成や、入れ替わりセンターの予約手続きなどの
処理を行っていくー。

”入れ替わり相談所”はあくまでマッチングが成立するところまでの
サポートで、
実際に”入れ替わり”を行うのは
行政管轄の入れ替わりセンターだ。

入れ替わり相談所は、そのセンターを利用するために
必要な書類の作成と、予約の部分までを
サポートするー

宗平の手続きを終えると、美月は次の”相談”の時間を確認して、
そのまま相談室の一つに向かうー。

「ーあらあら、マッチングおめでとうー。
 わたしはもう今日も2件、成立してるけどね」

エリート相談員・園香の言葉に、
美月は少しムッとしながら、
「田倉さんはすごいですね~!さすがです」と、笑顔を振りまくー。

園香は「ーー美月ちゃんはもうちょっと”効率よく”やらなくちゃ」
と、そんな言葉を口にするー。

その言葉に、美月は
「アドバイスありがとうございますぅ~」と、そう返しながら
「ーあ、でも田倉さんー、”親身になってくれない”って
 前に利用者さんがボヤいてましたよ」と、
そう嫌味を返すと、
園香はクスクスと笑いながら
「ークレーマーは多いからねー」と、それだけ言葉を口にして
そのまま事務所の方に戻って行ったー。

”べーっ!”
美月は、園香が去って行った部屋の方に
そんな仕草をすると、
「ー気を取り直して、次、次ー」と、
”次の相談者”が待つ部屋へと向かったー。

「ーーーよろしくお願いします」
美月が、丁寧に頭を下げながら
やってきた相談者ー、木村 修平(きむら しゅうへい)の方を見つめるー。

「ーーまずは、入れ替わりの相談のために
 いくつか、確認させていただきますね~」
美月がいつものように、そう言葉を口にすると、
修平は「ーーー美月」と、そう言葉を口にしたー。

「ーはい?」
美月は少し不思議そうに、修平の方を見つめるー。

いきなり下の名前で呼ばれて
少し戸惑いながら、修平の方を見つめる美月ー。

名札には苗字しか書かれていないために、
”美月”という名前をどうして知っているのかという疑問も残るー。

がー、その男は笑顔で言葉を口にしたー。

「ーはは、やっぱり美月だー。
 ほら、俺だよー。木村! 木村修平だよ!」

嬉しそうにそう言い放つ修平ー。

そんな言葉に、美月は戸惑いながら言葉を口にするー。

「ーーあ、あの、すみませんー…
 わ、わたしとどこかでー?」
美月がそう言うと、
修平は「ほら、高1の時、バイト先でー」と、そう言葉を口にしたー

”高1”ー
”美月”と、今の美月の中身である男は
お互い”高2”の時に入れ替わっているー。

つまり、高1の時の知り合いということは
”入れ替わる前の元々の美月”の知り合いなのだろうー。

「ーーあ……な、なるほど」
美月がそう言葉を口にすると、
「ーーすみません。わたし、”入れ替わり”で、中身が変わってましてー」と、
そんな言葉を口にするー。

入れ替わりはこの世界では当たり前のように存在する事柄ー。
美月は、美月本人と自分自身が高2の時に入れ替わったことを告げると、
修平は少し驚いた様子で
「ーそ、それは知らなかったー…失礼しましたー」と、頭を下げたー。

「ーいえ。すみませんー驚かせちゃってー」
美月はそう言うと、修平は今一度頭を下げるー。

「ーーーーー」
そして、少し間を空けてから、
修平は静かに口を開いたー。

「ー実は俺、美月の”元カレ”なんですー」
とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

事務所では、所長の幸則が
元職員である涼子の”入れ替わり記録の参照”を終えていたー。

”入れ替わり記録:なし”

そう画面に表示されているー。

幸則はこの未来の世界でのパソコンにあたる、
宙に浮かぶ画面を操作しながら、
さらに情報の確認を進めるー。

”血液検査歴 最終日2257年9月”

「ーーー」
幸則は、画面の端の日付を見つめるー。

今は2260年だー。

入れ替わった人間は”血液検査”で、ある成分が検出されるー。
人体に有害なものではなく、入れ替わりを証明するものとして
”そうなるように”なっているー。

「ーーー毎年の健康診断を3年前から受けていないのかー」
幸則は表情を歪めるー。

”違法入れ替わり”でも、血液に変化が生じるー。
そのため、違法入れ替わりをした人間の中には
健康診断を避ける人間もいるー。

「ーーーーー」
幸則は、涼子が急に豹変した時期と、
検査を受けなくなった時期が一致していることに
少し、不安そうな表情を浮かべながら
小さくため息をついたー。

<第3章>へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

物語はあと2話続きます~!
どんな展開が待っているのか、
ぜひ次回も見届けて下さいネ~!

今日もありがとうございました~!

コメント