今から少し先の未来ー。
その世界では
”自分の身体に不満を持つ者同士”が
”身体を交換する相手を探す”…
そんな”入れ活”が、当たり前のように行われていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーおはようございます~」
とある事務所にやってきた若い女性が、
周囲の同僚に挨拶をするー。
それほど大きな事務所ではなく、
ごく普通の、のんびりとした雰囲気の事務所だー。
「ーーおはよう」
この事務所の責任者の男、川田 幸則(かわだ ゆきのり)が、
笑顔でそう返事をすると、
「今日も4件”入れ替わり”相談があるからー、よろしく」と、
たった今、入って来た女性社員に対して笑顔で言い放ったー
「あ、はいー、わかりましたー」
彼女ー、羽村 涼子(はむら りょうこ)は、
入社3年目の若手女性社員ー。
彼女はーーー
”入れ替わり相談所”に勤務する入れ替わり相談員だったー。
2257年ー。
この時代では、人同士が身体を入れ替える”入れ替わり”が
当たり前のように行われていたー。
人間と、人間の中身を入れ替えるー。
そんな、ファンタジーのようなことが、
本当に”可能”になったのだー
入れ替わりが実現したのは、今から100年以上も前ー。
最初は色々騒がれたし、法律の壁や、色々な課題が山積みだったー。
しかし、数々の法整備や、ルールの取り決めなどが行われた結果ー
”互いに同意を得た上での入れ替わり”は合法となり、
入れ替わった後に相手の身体で生きていくことについても、
法律でしっかりと整備され、
”入れ替わり”が当たり前のように存在する世界になったー。
時は流れー、2257年の現代では、
自分の身体に不満を持つ者ー、
自分の人生に不満を持つ者ー、
色々な人々が、”婚活”ならぬ、”入れ活”に励む日々を送っていたー。
結婚するために、結婚相手を探すために色々するのが”婚活”ー。
他人と入れ替わるために”入れ替わり相手”を探すのが”入れ活”だー。
そして、
入れ活をする人間が当たり前のように存在するこの時代では、
当然のことながら、それを生かしたビジネスをする会社も現れていたー。
それが”入れ替わり相談所”だー。
今では多数の会社が入れ替わり相談業務に参入していて、
涼子が勤務しているこの会社も、
入れ替わり相談所を展開する会社の一つだー。
「ーー僕…僕…!美少女になってエロイことをしたいんです!」
100キロは超えていそうな巨体な男がそう叫ぶー。
「ーな、なるほどー」
涼子は、本日の最初の仕事ー
入れ替わり相談所の会員の男から、話を聞いていたー。
”う~ん…”
涼子は、笑顔を浮かべながらも、
その男のほうを見つめるー。
男女問わず、ぽっちゃりした人間が好きな人はいるー。
だが、この男ほどに太ってしまっているとー、
正直、”入れ活”ではフリになるー。
これまで、入れ替わり相談所で相談員をやってきて、
それはよく、理解しているー。
その上ー、
”この人、お風呂入ってないのかなー?”と、思うぐらいに
この男は、清潔感に無頓着だったー
”正直ー…きっついなぁ…”
涼子は心の中でそう呟くー。
”きつい”とは、
”入れ替わり相手とのマッチング”の話だー。
婚活と同じように、”入れ活”も、やはり過酷な世界ー。
婚活をしても、なかなか相手が見つからない人がいるようにー、
入れ活をしても、なかなか”入れ替わりに同意してくれる相手”は見つからないー
同意のない入れ替わりはこの世界では犯罪であり、
入れ替わりは必ず双方の同意がなければ通常、行うことはできないー。
「ーーこの方は、どうでしょうかー?」
”誰でもいいからとにかく男になりたい”と、希望している
女性会員の写真を提示する涼子ー
「ーは~?なんだこの子ー?
ゾンビですか?」
巨体の男が、ふーふー言いながら笑うー。
「ー(この人、理想だけは高いんだよなぁ…)」
涼子は内心で呆れながらそう呟くー。
「僕は、美少女としか入れ替わりません!
それも、お金持ち希望です!」
男が叫ぶー。
正直、”鏡を見ろよ”と言ってやりたい気持ちが
涼子の中にはあったものの、
笑顔で「なかなかマッチングは難しいかもしれませんね~」と、
だけ答えるー。
”お前が美少女だったら、お前みたいなやつと入れ替わりたいと思うのか?”と、
問うてやりたい気持ちになりながら、涼子は男の話をしばらく聞き、
そのまま相談は終了になったー
「おつかれさま~!」
同僚の女性社員・美月(みつき)が笑いながら言うー。
「ーあ~…あの人、ホント、理想だけは高くて」
涼子が愚痴るようにして微笑むと、
「ーーまぁ、それだとなかなか相手も見つからないよね~」と、
美月が言葉を口にするー。
入れ替わる相手がロボットなら、理想が高くても問題はないだろうー。
しかし、相手は人間。
相手も意思を持つ存在である以上、
他人から”この人と入れ替わりたい”と思ってもらわなければ
”入れ活”は上手くは行かないー。
「ーまぁ、結局、婚活も入れ活も何か秀でた部分がないと
なかなか相手が見つからないのよねー」
美月がそう言うと、
涼子は「美月は元々イケメンだったんでしょ?」と、笑うー。
「ーーう~ん まぁ、自分では早く女の子になりたくて
仕方がなかったけど」
美月のそんな言葉に、涼子が美月の姿を見つめながら微笑むー
同僚の美月は”入れ活”で入れ替わった人物ー
つまりは、中身は”生まれた時の美月”とは違うー。
小さい頃から”おしゃれ”や”メイク”に強い興味がありー、
どうしても”女”になりたくて、両親に相談ー
”親の同意を得て”入れ活をしたのだー。
イケメンイケメンー
なんていくら言われても彼の心は満たされることはなかったー。
しかし、今は違うー。
元々の美月と入れ活でマッチングして、
入れ替わることに成功ー、
今はこうして”美月”としておしゃれもメイクも楽しむ日々を送っているー。
「ー元々はスポーツ好きの子だったんだっけ?」
涼子が言うと、美月は「うん。そうー。だから、お互いちょうどよかったの」と、頷くー
”今の美月”の中身の男は
おしゃれやメイクを楽しみたくて、女になりたかったー
”元の美月”は、スポーツが大好きで、
”もっと運動能力の高い身体がいい”ー…つまり、男になりたかったー
その結果、高校生同士での”入れ替わりマッチング”が実現ー。
こうしてお互いに入れ替わったのだー
「ーー相手の人と連絡って取ったりするの?」
涼子がそういえば、という感じで聞くと、
美月は「ほとんど取らないけど、少し前に話した時は元気そうだったー」と、笑うー。
”入れ替わり相手”ー
男になった元の美月は、今はスポーツインストラクターとして働いているらしいー
「ーーお互い幸せそうでよかったー」
涼子が笑うー。
この世界では”入れ活”経験者はたくさんいるし、
入れ替わりを経験して、入れ替わって生きている人間はたくさんいる。
だから、そこに偏見はないし、”当たり前”のように、
こうして日常の中でも存在しているー
「さ~お仕事お仕事!」
美月がそう言うと、涼子も「わたしもあと3件、相談があるんだった」と、
時計を確認してから、
そのまま仕事へと戻って行ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーはいー
これで、入れ替わりご成約ですー
おめでとうございます」
涼子が微笑むー。
担当していた利用者の”入れ替わり”が合意に至ったー
これで、晴れてお互いに”入れ替わり”することができるー。
「ーーいやぁ、本当によかったー」
片方は40代の資産家の男ー。
「ーーーありがとうございましたー」
もう片方は、明らかに病んでいる感じの雰囲気の20代の女性ー。
この女性は小さい頃からいじめに遭い、
何度も何度も自殺未遂を繰り返した子でー、
”とにかくお金持ちになって、人と関わらずに暮らしたい”という
理由で入れ活を開始ー、
一方の資産家の男は”可愛い子になって、コスプレを楽しみたい”というー
目的で入れ活を開始ー
利害の一致から、互いに入れ替わり合意に至ったー
(お金があると、おじさんでも可愛い子と入れ替われるケースは多いよね)
涼子は心の中でそう思いながら
”入れ替わり”を実際に行うための手続きを開始するー。
入れ替わり相談所は、
入れ活をしている人たちのサポートや、
マッチングの支援を行う他、
こうしてお互いに入れ替わり合意に至ったあとは、
合意の確認書類の作成の代行、
そして、入れ替わりセンターの予約を取るところまで、サポートする。
”入れ替わり”はどこでも行うことができるわけではなく、
行政が運営する”入れ替わりセンター”で、入れ替わり薬と装置を用いて行うー。
誰でも、自由に入れ替わりを行うことができれば
世の中は無法地帯になってしまうため、
こうして、しっかりと管理されているー。
「ーーーーーー」
相談を1件を終えて、相談室からデスクに戻った涼子ー。
上司の幸則が、事務仕事をしながらテレビを見つめているー。
とー
言っても、この時代のテレビは既に”物体”としては存在せずー、
小さな小型の球体から、立体映像を映し出す形式に変わっていて、
”どんな大型の映像”を映し出しても、大型テレビを設置した時のように
場所を取らないものに変わっているー。
「ーー”また”入れ替わりの事件ですか?」
涼子が言うと、幸則は「あぁ、そうみたいだね」と、頷いたー
何か新しいモノが社会に定着すれば
それを利用した”犯罪”も起きるー
”入れ替わり”もそうで、相手の同意もなしに、
正規のルートではない方法で手に入れた”入れ替わり薬”を用い、
強引に相手の身体を奪うー、
そんな”違法入れ替わり”が、一部で行われているー。
当然これは、この世界では違法で、
発覚すれば逮捕されるし、
最終的に逮捕されれば、入れ替わりセンターで強制的に元に戻されるー。
ただしー…
実際には”違法入れ替わり”を行った人間全てが逮捕されているわけではなく、
”そのまま野放しになっている”人間も多数いる、と言われているー。
「ーーーまぁ~…違法入れ替わりを0にするのは難しいだろうな」
幸則がそう呟くー。
”犯罪”が無くならないのと同じ。
入れ替わりが当たり前のように定着したこの世界では、
違法入れ替わりも、なくなることはないだろうー。
「ーーーこういうのがあると、どんどんルールも厳しくなっていくんですよね」
涼子がそう言いながら、再び次の相談の時間が近付き、
相談室の方に向かうー。
相手は、入れ替わり合意間近の女性二人ー。
二人は、自分の胸に不満があるようで、
片方は”貧乳”を気にしていて、
もう片方は”大きいと不便で、もう疲れたー”と、同性同士での
入れ替わりを希望していたー。
”入れ替わり”の相手は異性に留まらず、
同性でも可能でー、
女性同士の入れ替わり、男性同士の入れ替わりも可能となっているー。
この相談所で受ける相談の割合は、
男女の入れ替わりが6割、女性同士が3割、男性同士が1割、という
割合だー。
”あ~…でも、もう少しでわたし、スタイル抜群の身体になれるなんて
最高です!”
興奮した様子で言う女性ー。
もう片方の女性は、苦笑いしながらー
”ー胸が大きすぎるともう、面倒でー”と、
言葉を口にするー
この二人とはオンラインで相談をしながら、話を進めているー。
涼子は、
「ーでは、書類が揃いましたら正式な合意ということで、
話を進めますので、宜しくお願いします」と、
二人の話をまとめて、少し雑談をすると、そのまま相談を終えたー。
最近の仕事も順調ー。
先日も数件の”入れ替わり合意”を達成したし、
今の二人も間もなく正式に”入れ替わり合意”となるだろうー。
だがー
厄介な利用者もいるー。
「ーーー早く、入れ替わり相手を見つけて下さいー
でないと、俺ー…自殺しますよ!
もうこんな人生嫌なんですからー!」
厄介な利用者の一人、津田(つだ)という男は、
今日もそう叫んだー。
「ーーですが、入れ替わりは、相手もいらっしゃるので、相手の意思も…」
涼子がそう説明するも、
津田は「ーだったら死んでやる!」と、机を叩いたー
”あ~もう、あんたみたいな客、面倒臭い”
涼子は内心でそう呟きながらも、
ニコニコと笑みを浮かべながら
「死んだら入れ替われませんし、諦めないでください!」と、
励ましの言葉を投げかけるー
”あ~ーー…帰りたい”
優秀な成績を誇りながらも、面倒な利用者に遭遇すると
いつも内心でこう思っている涼子は、
今日も心の中で愚痴を呟きながら、仕事を続けるのだったー。
②へ続く
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コメント
”婚活”…ではなく”入れ活”が、当たり前のように
行われている未来のお話ですネ~!
入れ替わり相談所…☆
実際にあったら、今のお仕事をしつつ、
そこでもちょっと働いてみたいデス~笑
コメント
無名さんは入れ替わり相談所で働いてみたいんですねっ!
無名さんが入れ替わり相談所で働いてたら相談に行きます笑笑
ありがとうございます~☆
色々な人の入れ替わりに触れることができるお仕事…!
とっても素敵なのデス…!