<入れ替わり>時代は入れ活②~仕事~

”入れ替わり”が当たり前のように行われている時代ー。

しかし、”互いに同意”をし、入れ替わり同意書にサインをしなければ
入れ替わりをすることはできないー。

入れ替わり相手を見つけるための”入れ活”ー
そして、それを支援する”入れ替わり相談所”の日々は、
今日も続いていたー

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”そっかー、そっちも仕事が順調なようでよかった”

涼子の彼氏、聖人(まさと)が
安心した様子でそう呟くー。

「愛里(あいり)ちゃんの入れ替わり、もうすぐだったよね?」
涼子が、スマホを手にそう確認すると、
”あぁ、色々バタバタしててなかなか会えなくてごめんなー。
 来週の土曜日に、愛里、入れ替わるからー
 そしたらある程度時間も取れるようになると思う”
と、彼氏の聖人はそう答えたー。

愛里、とは彼氏・聖人の妹で、
現在、入れ替わりを希望しているー。

先日、相手との入れ替わり合意に至り、
来週には入れ替わりを控えているー。

聖人の妹・愛里が入れ替わりを希望した理由はー
”持病”ー
生まれつき、持病を持っていて、
命に関わるようなものではないものの、
それで辛い思いをしてきた愛里は、
数年前から入れ替わり相手を探していて、
ようやく入れ替わりに同意することができたのだったー。

”でもまさか、妹が弟になるなんて思わなかったよ”
聖人が苦笑いしながら言うー。

妹・愛里の入れ替わり相手は、20代後半の男でー、
”愛里の病気を理解した上で、入れ替わりに同意”したー。

相手の男は健康状態にも問題なく、
これまでの経歴も特に申し分はなかったー。

”まぁ、難病の妹と入れ替わりたいって男には
 俺は良い感情を抱けないけどー”

聖人は少し不満そうに言葉を口にしたー。

愛里は、正直かわいいー。
相手の男は容姿も経歴も、健康状態にも問題がないー。
自分の人生に何の不満もなさそうな人間が
難病の相手と入れ替わろうとするのであれば
”何か”理由があるはずだー。

愛里は金持ちでもなんでもないー。
恐らくはー…

それを考えるだけで、聖人はぎゅっと心が痛むような気持ちになるー。

けれどー、
それでも、妹は”健康で少し年上なだけの身体が手に入る”
ことに喜んでいたし、兄の聖人も、渋々それを認めざるを得なかったー

「ーまぁ、でも、身体は変わっても、
 愛里ちゃんは愛里ちゃんでしょ?」

涼子がそう言うと、聖人は
”ははー、もちろん。愛里のことはこれからも大事にするよ”
と、言葉を口にしたー。

「ーあ、じゃあ、そろそろわたし、仕事行かなくちゃー」
涼子がそう言いながら電話を切ろうとすると、
聖人も”わかったー。無理はするなよ”と、
優しく言葉を口にしたー。

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”あのー。
 僕を馬鹿にしてます?”

相談所にやってきた男が言うー。

よく来る巨体の男だー。
今日も100キロを超えるであろう巨体に、
清潔感もまるで気にしていない風貌の男、春山 熊次郎(はるやま くまじろう)が、
言葉を口にしたー。

「僕は、美少女でお金持ちとしか入れ替わらない!
 22歳!?ババアですよね
 相談員さんは、僕を舐めてるんですか?」

熊次郎の言葉に、
”22歳でババアなのかよ”と、涼子は内心で毒づきながらも
「申し訳ございません」と、穏やかな口調で謝罪するー

接客業は、時に理不尽なことも多いー。

熊次郎は、
全然イケメンではないし、
清潔感への配慮も全くないー。
容姿に恵まれなくても、清潔感は演出できるー。
だが、それをするつもりすらないのか、服にはいつも”ふけ”が乗っているし、
髪もボサボサで、鼻毛も鼻から飛び出しているー。

容姿がどうあれ、鼻毛は切れるだろうし、
髪も整えることはできるし、ふけもどうにかできるー。
だが、この男はそれもしないで、高い理想だけをぶつけてくるー。

その上、性格はねじ曲がっているし、
職業はニート。
本人は”株式会社 熊次郎警備”などと名乗っていて、
自宅の警備をしているらしいが、
当然、起業なんかしていないし、それを世の中ではニートと言うー。

さらに、プロフィールに”エロイことをしたい”と素直に書いていて
”この文章は修正して下さい”と指摘しても、
聞き入れようとしないー

つまりは、どうしようもない奴なのだ。

「この子とか、エロくないですか?
 入れ替わりさせて下さい」

「ーですから、相手の同意を得ることができないと、入れ替わりはー」

「それをどうにかするのが、アンタの仕事だろうが!」

”いやだから鏡を見ろよー”
涼子は、内心でキレながらも、ニコニコしながら
”接客”を続けー、
ようやく熊次郎との話をつけることができたー。

「ー大変だね」
同僚の美月が苦笑いするー。

「ーーもう、最悪ー」
うんざりしながら、涼子がそう言うと、
「今日はまだ予定色々入ってるしー」と、次の予定に向かうー。

この日の2番目の相談はー
”男性同士の入れ替わり”ペアだったー。

「ーいいですよ。僕、早く死にたいんで」
20代前半の若い男が言うー。

「ーいやぁ…本当にー本当に、なんかすまないねー」
60代の男が言うー。

二人が入れ替わり合意に至った理由は
20代前半の男が”早く死にたいから高齢者と入れ替わりたい”
60代後半の男が”まだ生きたいからとにかく若返りたい”というもので、
互いに、異性と入れ替わることは色々と面倒臭いから希望しない、
というものだったー

「ー安心してくださいー
 僕、自殺はしませんからー
 頂いた身体で、ちゃんと最後までは生きます」

この若い男は”自殺はしない。けど死にたい”との考えを持っている男で、
高齢者と入れ替われば、自殺せずに、短い人生を送って死ねるー、と
そう考えたことで、入れ替わりを希望した様子だったー

”変わった理由で入れ替わる人もいるんだなぁ”と、
いつも思いながら、同意書類の作成を終えて、
この二人の”入れ替わりセンター”の予約手続きも終えるー。

続いて3組目は、兄妹ー…。

このペアは、男女の入れ替わりで、
兄と妹の入れ替わりだったー。

兄の方は”女になりたい”と思っていて、
女装趣味がありー、
妹の方は”女に生まれたくなかった”と、小さい頃から
髪を短くして、男のような振る舞いを続けているー

それで”いっそのこと、兄貴と身体交換しちゃおうよ”ということに
なったようで、兄妹の入れ替わりとなったー。

ただ、”入れ替わり”は、同意書の作成や
入れ替わりセンターの予約など、色々個人でやるのは面倒な部分もあるため、
お互いに既に同意していても、
入れ替わり相談所を利用するケースはあるー。

この二人もそうだったー。

「ーいやぁー…もうすぐたっぷりおしゃれを楽しめると考えるとー
 ワクワクしますね」

兄の方が言うー。

「ーー僕も、夢みたいだよー
 本当に男になれるなんて」

妹の方がそう呟くー。
”女”でいることが余程嫌なのだろうー。
中性的な雰囲気で、一人称も”僕”を使っているー。

望んだ二人が、入れ替われるのであればそれは幸せなことだー。

”出たー”
4番目の入れ替わり相談ー。

涼子は思わずため息をついたー。

”早く入れ替わり相手が見つからないと、俺は死ぬぞ!”

厄介な利用者・津田だー。

「ーーなぁ、まだ見つからないのかよー?
 もう俺、首釣るよ?」

津田がいつもの調子でそう言い放つー

「ーーすみませんー
 ですが、入れ替わりは”相手”がいないとー」

「ー相手が見つからねぇってことは
 俺はよほどゴミってことだー。
 ゴミはゴミ箱に。
 俺は死ぬぞ?死んでやるぞ?」

そんなことを言い放つ津田に対し、
穏やかな口調で慰めながらも、
涼子は
”熊と津田のセットとか、アンハッピーセットすぎるでしょ”と、
心の中で毒づきながらー
”3大厄介な利用者”のうち、二人が同じ日に来たことにため息をつくー。

「ーー俺の入れ替わり相手が見つからなかったら、
 俺はお前を道連れに、死んでやる!」

叫ぶ津田ー。

「ーーーー津田さんー落ち着いて下さい」
流石に困惑して来る涼子ー。

こんな振る舞いをするような人では、
入れ替わり相手も見つからないー。

自分自身を顧みない”モンスター”が
相談所で働いていると、よくやって来るー。

しかし、そんな”モンスター”相手でも、
とにかく、対応しなくてはいけないー。

ようやく津田が帰ったと思ったら
今度は最近会員になったばかりのおばさんがやって来るー

「ー若い娘と入れ替わりたいの」
そのおばさんは言うー。

「ーこんなに綺麗なわたしが、これ以上歳を取るなんて
 耐えられなぁ~い…
 この身体を早くガキに押し付けて、わたしはまた若い身体を手に入れるの!」

50代後半のー、
自分の老いを受け入れることができていないように見えるおばさんが
そう叫ぶー。

「ーなんなら、あんたの身体でもいいのよ」
おばさんは、涼子に対してそう言い放つー

「申し訳ありません。わたしは入れ替わりの予定がないもので」

”入れ替わり”はお互いの同意が必要なこの世界ー。
相手が同意していなければ、それは”違法入れ替わり”と、なってしまうー

「ーーふ~ん 残念ー
 だったら早く若い子、探してよ」
おばさんはそう言い放つー。

”ーーーーこの人と入れ替わりたい人なんて、いるのかなぁ…”

涼子は、おばさんのほうをチラッと見つめるー。

とてもおしゃれな感じだが、年相応に綺麗ー…
と、いうよりかは、若い子が着るような服装や
アクセサリーを身に着けているー。

きっと、若い頃はとても可愛かったのだろうー。
今は、自分の変化を受け入れきれていないように見えるー。

”年収も少ないしー、持病もあるかぁ……
 入れ活では不利な要素が多いなぁ…”

涼子は、そう思いながら、
条件が合いそうな会員をパソコンで確認するー。

「ーーぶっ…!」
ふと、涼子は、引っかかった会員の顔写真を見て噴き出したー。

”高校時代の同級生”が表示されたのだー

しかも、その子は50歳以上の同性と入れ替わりを希望しているー。

「ーどうかしたの?」
おばさんが不思議そうにそう呟くー

「あ、いえー」

入れ替わり相談所で働いていると、
時々”入れ活”をしている知り合いと偶然遭遇することもあるー。

以前、高校時代に片思いをしていた男子が、
ツインテールが似合う子と入れ替わりたい!と、相談に来たこともあるし、
色々な出会いがあるー。

”はぁ、今日はなんだか色々疲れたー”

そんなことを思いながら、涼子はこの日、1日の相談を終えたー。

「お疲れ様」
同僚の美月が苦笑いするー。

「ー今日は凄かったねー。
 熊さんと、津田さんだもんねー
 厄介そうなおばさんも着てたし」

美月がそう言うと、
「ーーも~、熊さんか津田さんの担当どっちか引き受けてよ~」と、
愚痴をこぼすように言う涼子ー。

「やだよ~わたしだって、
 ”仙人”と”リチャード”だけでお腹いっぱいなんだから」

美月がそう言うと、涼子は「まぁ…みんな大変だよね」と、
事務所にいる他の相談員たちを見つめるー。

もちろん、利用者の大半は”最低限の常識”は持っているし、
良い人もたくさんいるー。
けれど、時々すごいのが現れるー。

”仙人”は、仙人のように髪が伸び、
見るからに汚れているホームレスのような男だー。
もし本当にホームレスなら、それはそれで仕方ないのだが、
彼の場合”家も金もあるのに”お風呂に半年以上入っていないー。
本人曰く”何もかもが面倒臭い”とのことで、
入れ替わりを希望している理由は、
”金持ちの美少女と入れ替わって、何もせずにのんびり暮らしたい”
という理由のようだー。
当然、そんな仙人と入れ替わりたい金持ちの美少女など
100年待ってもマッチングしないだろう。

”リチャード”は、自称詐欺師だ。
イケメンなのだが、”美人の身体を犯罪に使いたい”と言っており、
どう考えても、そのまま通すことは出来ないー。
わざとなのか天然なのか、正直者すぎて、
入れ替わり相手を相談するわけにはいかないー。
本当に犯罪に加担するような入れ替わりを紹介してしまったら、
相談員である美月が困るー

「ーーあ、そうそう、わたし、明日はお休み貰ってるから、
 明日、相談の予約入っている”仙人”のこともよろしくね」

美月が笑うー。

美月は”入れ替わり”経験者だー。
入れ替わる前に美月と親友だった子と、今も仲良しらしくー、
”美月の中身はもう違う人”と、理解しながらも、
”新しい美月”として仲良くなっているらしいー。

「ーふふふー
 仕方ないでしょ?前から”女同士”で旅行する予定だったんだからー」

美月が笑うー。
美月の中身は”男”なのだが、今ではすっかり女を満喫しているし、
涼子も、普通に同性として接しているー。

美月自身も、男のような振る舞いは一切しないし、
イヤらしさも全く感じないー。

「ーー旅行はいいけどー…
 ”仙人”をわたしに押し付けるな~!!」
涼子は、美月をぽこぽこ叩きながら、そう愚痴を口にしたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「はぁ~…明日は仙人ー」

そんな風に思いながら涼子が
帰り道を一人、歩くー。

「ーーーーーー」
そんな涼子の姿を少し離れた場所から見つめる人影に、
涼子は気づいていなかったー…

③へ続く

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コメント

入れ替わり相談所で働くのは、
大変なことも多そうですネ~!☆

次回が最終回…☆!
どんな結末を迎えるのか、ぜひ見届けて下さい~☆!

今日もありがとうございました~!

コメント

  1. TSマニア より:

    無名さん入れ替わり相談所の職員さんも大変ですよ汗

    無名さんも職員として働いたらやりがいもある分、厄介な登録者の対応大変ですよ汗

    自分は無名さんを困らせ過ぎないように気をつけます( *´艸`)笑

    明日はいよいよ最終話、涼子の運命は…

    • 無名 より:

      いつもありがとうございます~!☆

      私も接客対応をしたことがあるので、
      相談所ともなればもっと大変なのは想像できちゃいます~笑
      恐ろしいデス…☆!

      最終回の内容は…
      ふふふ…☆