<他者変身>この力は大切な”玉の緒-いのち-”を護るために③

怪しげな二人組を退けた海斗…。

束の間の平穏な時を来瑠と共に過ごすもののー、
そう長く、その時間は続かなかった…!

☆本日(4/28)の通常更新はこの1個前に行っています!
通常の更新を見たい場合は、この1個前を見て下さいネ~!
こちらは通常の更新とは別に作った合作(新作)デス!☆

※果実ろあ様(@fruitsfantasia)との
リレー形式合作デス。
内容は一切打ち合わせなしで、
数百文字程度ずつで交代交代で書いた作品になります!
(※誰が書いているか、担当箇所ごとに表記しています (例 ②無名 など)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

㉑果実ろあ

「……」

少年――否。少年に見える男、紅河は自身の手のひらを見つめる。
ごくりと唾を飲み込み、手を閉じる。
そして、ちらっと背後にいる黒河を一瞥。
白夜お姉ちゃんを見ている黒河の瞳は、紅河にはどこか悲しげに見えた。

黒河のことは、もちろん大事な仲間で家族だと思っている。
それ以外の有象無象に対してはどうなろうと知ったことではない紅河も、家族に対しては別だ。
できるだけ傷ついてほしくないし、できることならずっと何事もなく幸せでいてほしいと願っている。
そう。たとえ、どんな犠牲が出たとしても。

「……ごめん、黒河」

小さく、呟く。
黒河には聞こえない声で。
そして――。

「……不可視の領域(クラールハイト)」

そう口にした瞬間、紅河の姿は透明になって消えた。
紅河の能力――不可視の領域(クラールハイト)。
自身の周囲、半径三メートル以内に肉眼では目視できない結界を展開する能力だ。
その結界内に入っている人やものを透明にし、結界の外からでは見えなくしてしまう。

再度、黒河の様子を窺う。
反応はない。やはり、紅河が能力を使っていることに一切気づいていないようだ。

それを確認したのち、紅河は歩き出す。
他でもない――奴のいるところへ。

「僕が一人で、終わらせるよ」

最後にそう言って、目を伏せた。

 

㉒無名

「ーーーーーー」
黒河は一人、彼女のことを見つめていたー。

最愛の人であり、姉でもあり、母でもあった
その存在をー。

何よりも大切な彼女、白夜を必ず死の淵から救い出すー。
そのためには100人だろうが、1000人だろうが、
この世界を滅ぼそうとも構わないー。

表情一つ変えずに、黒河は
闇の武器商人・銀城 零なる男から仕入れた義手を見つめるー。

銀城なる男は、銀色のシルクハットを被った怪しげな男だが、
その素性に興味はないー。

ただ、優秀な武器が入ればそれでいいー。

先日、海斗に破壊された義手よりもさらに改良されたこの義手があればー
例え、戦うことになっても”敗北”はあり得ないー。

「ーーーー…紅河」
黒河は、紅河の気配が感じられないことに気付くー。

だがー
それでも彼は動じることなく、微動だにせずに、静かに目を閉じたー

今は、ただ時を待つのみー。

最愛の人が復活するその時を、ただ、ひたすらにー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お兄ちゃん!」

来瑠が笑いながら海斗のことを呼ぶー

「ーーーー」
海斗は洗濯物を取り込みながら、苦笑いするー
ずっと一人暮らしをしていた海斗は、
こういったこともお手のものだー。

「ーーー…な、なんか照れくさいなぁー
”かいと”でいいのにー」

海斗が笑いながら言うと、
来瑠は「じゃあ、ぱぱ」と、言い換えるー

「ーえぇっ!?またそっちに戻るのかよ!?」
海斗はそう反応しながらも、
”小さい頃から、ひとりぼっちなんだもんなー”と、
心の中で呟くー

”父”も”兄”もいなくて寂しいのかもしれないー。

そう思うと、好きなように呼ばせてあげてもいい気がするー

「ーまったくー…まぁ、来瑠の好きなように呼んでいいけどさー」

そんな風に言いながら、
海斗は「あ」と、ふとあることを思い出すー。

色々あって忘れていたが、
明日からまた大学に行かなければいけないー。

海斗は大学生だー。
この数日はちょうど休みだったから良いものの、
普段、学校をさぼるわけにはいかないー

「ー俺、明日からまた大学に行かないといけないんだけどさー」
来瑠に”留守番”できるかどうか、確認しようとする海斗ー。

ただ、奴らがまた来る可能性もある以上、何らかの対策も
必要だろうしー、いろいろ話し合う必要があるー。

そんなことを考えているとー

「えっ!?!?!?!?!?!?」
と、突然来瑠が声をあげたー

「えっ!?」
海斗が驚いて同じ反応をすると、
来瑠は驚いた様子で、海斗のほうを見つめながら言い放ったー

「かいと、大学生だったのー?」

「ーーえ、い、言わなかったっけー?」

海斗は思わずそんな反応をすると、
来瑠は少し恥ずかしそうにこう呟いたー

「ぱぱー…とっくにお仕事してる人だと思ってたー」

「ーーーえぇ……
い、いやー俺まだ、大学生でー」

海斗が苦笑いしながらそう答えると、
”老け顔に見られたこと、ないんだどけなぁ”と、
心の中で笑いながらー

”あぁ、それで「ぱぱ」って言われたのかー”

と、心の中で妙に納得するのだったー

 

㉓果実ろあ

「……なあ来瑠、どっか行きたいところとかあるか?」

「行きたいところ?」

突然の海斗の問いに、来瑠は訝しみ首を傾げる。
海斗のその質問は、もちろん考えがあってのことだ。

「ああ。その、来瑠にだって息抜きみたいなのがあったほうがいいだろ。ずっと気を張ってばかりじゃ疲れるしな」

「……!」

海斗は照れ臭そうに目を逸らすが、来瑠はそんなこと一切気にならなかった。
先ほどの質問は、そうやって気を遣ってくれたことによるものだと分かったから。
そしてその言葉の真意を察し、既に瞳をぱあっと輝かせる。

「まあ、明日からは大学があるから……できるだけ早めに時間を作って、行きたいところに連れて行ってやるよ」

「ほ、ほんと!? えへへ、どこがいいかなぁ~」

嬉しいという感情を、表情や身体でこれ以上ないほどに表し、来瑠は行きたいところを思い浮かべる。
今までに、どこかへ遊びに行った経験など皆無にも等しい。
そのため、次から次へと候補が挙がった。

「海も行きたいし、ゲームセンターとかカラオケとかにも行ってみたいし……あ、おっきな画面で映画も見たい!」

「……はは。それ全部行けるかは分からないけど、まあそれまで考えといてくれよ」

「うん!」

来瑠は満面の笑みで頷く。
何だか本当に妹ができたみたいで、海斗が微笑ましく感じた。

ただ、今海斗の胸中を満たすのはその幸せな気持ちだけではない。
そうやって来瑠と二人で楽しむためにも、あの二人との問題をできるだけ早急に片付けなくてはいけないだろう。

このとき、海斗も来瑠も全く気づかなかった。
もう既に、二人が思っているよりも早くに。
すぐ近くに、脅威が迫ってきていることを――。

 

㉔無名

「ーーおやすみ、かいと」

夜も遅くなり、来瑠が海斗にそう言葉をかけるー。

「あぁ、おやすみー」
海斗が穏やかな笑みを浮かべながらそう返事を返すと、
よほど疲れていたのか、来瑠はすぐに
穏やかな寝息を立て始めたー。

そんな様子を確認し、
そっと、仕切りを立てて、海斗はキッチンの方に向かうー。

海斗は大学生ー。
一人暮らしをしているとは言え、
狭いアパート暮らしが限界だ。

本当は、個室を用意してあげたかったけれど、
一部屋とトイレ、お風呂、というこのアパートでは
それはできないー。

即興で仕切りを用意して、とりあえずこうして
過ごしているー。

”ーーーさて…”
海斗は、明日の大学の準備と、寝る前の準備を終えたら
俺も寝るかなー、と、思いながら
その支度を始めたー。

しかしーーー

”不可視の領域(クラールハイト)”ーー

既に、紅河がこの場所にやってきていたー。

少年のような容姿を持つ紅河ー
その”容姿”は、あの事故による後遺症だー。

そして、そんな彼の能力ー

結界内の人やモノを透明にしー、
結界の外からは見えなくする能力ー。

「ーーー」
紅河は”結界”で、自分の姿を透明にした上でー、
海斗の部屋の扉を透明にしー、
いともたやすくその中に侵入したー。

”急に扉が透明”になれば気付かれるー。

それ故に、海斗が扉のほうを見ていないタイミングで
中に侵入した紅河ー。

侵入を終えると、すぐに扉を元に戻しー、
自分の姿だけを透明にしたままー、
ゆっくり、ゆっくりと来瑠の元に向かうー。

”白夜お姉ちゃんを助けるためにー
お前が必要なんだー”

紅河は、寝ている来瑠を見つめながら
そう呟くと、来瑠の姿を透明にしてー、
そのまま抱きかかえて、運び始めるー。

”結界”の範囲は半径3m以内であれば自在に調節できるしー、
透明にするモノ・しないモノもコントロールができるー

この能力があればー、
来瑠を連れだすことなどー
たやすいことー。

紅河は、自分と来瑠を透明にしてー、
そのまま玄関の方に向かうー。

玄関の扉をまた、透明にしー…
そのまま、外へと出るー。

海斗のすぐそばを通ってー…。

「さてとー…」
海斗は、寝る支度を終えて、
ソファーに寝転ぶ前に、
来瑠の様子を確認するー。

だがー

「ーーーく…来瑠!?!?!?」
海斗は驚くー

布団だけがその場に残されていて、
来瑠の姿が消えているー

”仕切り”で見えないようにしていたことが
仇になったー

「来瑠…!? おいっ!? 来瑠!?」

しかし、返事はないー。

奴らが来ることは警戒していたー

しかし、誰も入って来た様子はないし、
誰も出て行った様子はないー。

「ーーくそっ!」
海斗はすぐに、”何らかの能力”によるものだと悟るー。

あの少年みたいなやつかー、
それとも生気のない男の方かー。

どちらの能力かは分からないー。

だがー、
考えている暇はない。

海斗はすぐに家を飛び出し、来瑠を助けるため、走り始めたー。

 

㉕果実ろあ

走る。
辺りを見回す。
駆ける。
来瑠の名を叫ぶ。

近所迷惑も厭わず、ひたすらに来瑠を探して街の中を駆け回っていた。
しかし、残念ながら来瑠の姿はどこにもない。

「……くそ」

海斗は悔しさに強く歯噛みし、拳を壁に叩きつける。
痛い。拳も、心も。
絶対に守ると誓ったはずなのに、その結果がこれだ。
どうして少しでも目を離してしまったのかと、自分の行動に対して後悔の念に苛まれる。

そうだ。海斗や来瑠が能力を持っているのと同じように、あの二人だって何かしらの能力を使用して接触してくるのは容易に想像できたはずだ。
であれば、たとえ家の中であっても約束された安全なんかあるわけがないのに。

「来瑠……どこだ。一体、どこに……」

自分自身に苛立ち、髪をくしゃくしゃと乱暴に掻き毟る。
だが、そんなことをしていても何の意味もない。
一刻も早く、どうにかして見つけ出さなくては。

「……ん?」

――と。不意に、視界の端に奇妙なものが映り込んだ。
特に何か意味があって見たわけではない。
ふと、偶然そこに目が止まっただけだ。

それは――車の通行などのために設置されている、カーブミラー。
そこに、有り得ない姿が見えたのだ。

「……なるほど。そういう、ことか」

得心がいき、ニヤリと笑む。
どういう仕組みなのかは分からないが、そういうことなら話は早い。

海斗は地を蹴り、その何もない場所を目がけて。
勢いよく、体当たりをした。

 

㉖無名

”読み”は当たったー

「ーーぐあっ!」
”何もないはず”のその場所に体当たりした海斗ー。
その結果、その場所からうめき声が聞こえてー
紅河が姿を現したー。

「お…お前っ…」
紅河が表情を歪めるー。

”透明にしたもの同士”であれば、
先程の扉のようにすり抜けることもできるー。

しかしー
”透明ではない物体”からの接触や衝撃には対応できないー。

”不可視の領域(クラールハイト)”も決して、無敵ではないー。

”その辺にいる”ということさえ分かってしまえばー
攻略することもできるのだー。

「ーーーーー来瑠」
紅河がダメージを受けたからだろうかー。

透明になっていた来瑠の姿もまた、
その場に姿を現しー、海斗は慌てて駆け寄ったー

「来瑠!」
海斗がそう言いながら、彼女を抱き起すと、
「かいと…」と、彼女は安心した様子で微笑むー。

「ーーー……邪魔をするなー…
僕には、僕たちにはそいつが必要なんだー…!」

紅河が、目に涙をうっすら浮かべながら叫ぶー

「ーー僕たちから…お姉ちゃんを奪うなっ…!」
憎しみに満ちた目で、紅河が海斗のほうを睨みつけるー

「ーーーーー……」
その言葉の意味は分からないー。

だが、この幼い少年風の男と、もう一人の男も
”あの街”の生き残りなのであればー、
何か辛い過去があるのかもしれないー。

「お前たちにも、何か事情があるのかもしれないー。
でも、こんな風にいきなり攻撃的なことをされたら
こっちだって容赦できないー。

何か理由があるなら教えてくれー。
”お姉ちゃんを奪うな”とはどういう意味なんだ?」

海斗がそう言い放つと、
紅河は少しだけきょとんとした表情を浮かべながらも
歯ぎしりをしたー

「言ったところでーーー
無駄なんだよー」

とー。

そうー
”白夜お姉ちゃん”は、普通の怪我人とは違うー。
あまりにも重度なー
生きているのが奇跡な状態ー。

そんな”白夜お姉ちゃん”を治療すればー
来瑠は、死ぬー。

”お姉ちゃんのために死んでください”なんてお願いしても、
来瑠が首を縦に振るわけなどないのだー。

「ーーー全てはー、白夜お姉ちゃんのためにーーー!」
怒りの形相で、紅河がそう言い放つと、
「僕の能力を甘く見るなー」と、言いながら、
これまで以上の強大な力を放ち始めたー。

”不可視の存在(ノット・イグジスト)ー”

目を血走らせながらそう宣言するとー
突然、海斗の姿が薄れ始めたー

「ーーこの能力は、対象物の存在を
”この世から完全に消す”能力ー

さっきみたいな能力じゃないー!
お前みたいないらないやつは、
この世界から、消えるんだー!」

紅河が叫ぶー。

これはーーー
紅河の”奥の手”ー
黒河も知らない必殺の能力ー。

ただしーーー
紅河自身もかなりの”生命力”を消費するー…。

「なっー…!」
海斗の姿がどんどん透明になっていくー

「ー姿だけじゃないー!
お前が存在していた記憶もっ…!

この世界から、全部全部消えるんだー!

僕たちの邪魔をするお前なんて…
消えちゃえ…!!!!!」

紅河の言葉に、海斗は慌てて紅河に突進しようとするー。

しかしー

「不可視の領域(クラールハイト)ッッ!!」

紅河は姿を消しー、
海斗が”完全に消滅するまでの時間”を稼ごうとするー

「か、かいと!」
来瑠が叫ぶー

”自分が消えてしまうー”
そんな危機を前に、それでも海斗は「俺はいいから逃げろ!」と叫ぶー。

「で、できないよ、そんなこと!」
来瑠が叫び返すー。

”不可視の存在(ノット・イグジスト)”
によってこのままだと海斗は消えるー。

”不可視の領域(クラールハイト)”
によって、倒すべき紅河の姿は見えないー。

「ど、どうすればー」
来瑠は困惑した表情で、周囲を見つめたー。

 

㉗果実ろあ

紅河が発動させた”不可視の存在(ノット・イグジスト)”は、紅河の奥の手だ。
つまり、それほどまでに今この瞬間に賭けているということに他ならない。
たとえここで、自分自身の人生に終わりを迎えようとも。

決して、紅河の能力だけふたつある、というわけではない。
紅河も黒河も来瑠も海斗も、みな有する能力はひとつ。
では、どうして”不可視の領域(クラールハイト)”に加えて”不可視の存在(ノット・イグジスト)”まで使えるのか。

それは、端的に言って能力の応用、もしくは派生に過ぎない。
能力と称するより、技と呼んだほうが適切かもしれない。
姉を救い出すという強い執念が、長い期間を経て紅河の中に蓄積された憎悪や後悔などが。
彼の能力に、変化をもたらしたのだ。

「かいと……かいと……!」

自分がこの状況で何ができるのかも分からず、来瑠はただ涙を流して名を叫ぶ。
嫌だ。こんなところで、海斗と別れたくなんてない。海斗に消えてほしくなんてない。海斗のことを、忘れたくなんてない。
なのに、無慈悲にも海斗の姿は消えていく。

どうして、自分はこんなに無力なのか。
海斗は命をかけて自分を守ってくれようとしているのに、どうして自分は海斗に何も返すことができないのか。
そういった自責の念に苛まれては、涙となって溢れていく。

「やだ、やだよ……!」

一緒に遊びに行くって。行きたいところに連れて行ってくれるって、約束したのに。
来瑠は、強く願う。強く想う。強く念じる。
海斗のいない世界なんて、嫌だ。来瑠自身の命なんていいから、海斗の存在を奪わないで――。

「な……何だよ、それ」

自分の姿を消している紅河は、思わず驚愕に眉を顰める。
それは無理もないことだった。
なぜなら、ちゃんと消したはずの海斗の姿が、はっきりと元に戻っていたのだから。
来瑠の全身に纏う淡い光に、包まれて。

「ちっ……お前も、なのかよ……ッ!」

憤怒のあまり叫び、その拍子に紅河は姿を現してしまう。
だが、そんなことを気にしている余裕など疾うになかった。

目の前で起こっている光景には、紅河も身に覚えがある。
だからこそ、どうしてそうなっているのかがすぐに察してしまった。
かつての自分のように――強い執念によって、能力に変化が生じたのだと。

 

㉘無名

「どこまでも…どこまでも、僕の邪魔をしてー!」

来瑠の想いの強さがそこまでだとは、予想外だったー。
まさか、”更なる力”を発揮してしまうとはー。

「ーーー来瑠、無理しちゃだめだー」
海斗は、来瑠の身を案じて、
そんな声を来瑠にかけているー。

”能力の使用”は、命を削るー。
それは海斗もよく理解しているからだー。

「大丈夫だよーかいと…
かいとがいなくなっちゃうことの方が、わたし、怖いもんー」

そんな言葉を返す来瑠ー。

二人を見つめながら紅河は悔しそうに歯ぎしりをするー。

”ーーーー”
しかし、悔しそうにしながらも紅河は冷静に現在の状況を
分析していたー。

その容姿と、感情的な言動から、
直情的なタイプと思われがちだがー
頭の回転は速いー。

消えたはずの海斗が復活したのは、
来瑠の能力が変異したことによるものー。

恐らくは”治療”効果の上位互換のような効果だー。

今の状態なら、もしかすると、死者ですら
蘇らせることができるかもしれないー。

”来瑠を殺しちゃうわけにはいかないー
白夜お姉ちゃんを助けるためには
あの力は必要ー。

でもーーー”

海斗のほうを見つめる紅河ー。

来瑠の能力が変異したということはー、
どんなに海斗を倒そうとしても、
海斗を”治療”されてしまうー。

そして、その都度、来瑠の命は縮んでいくー。

それはつまりー
”海斗だけを葬ること”はできないということー。

「ーーー…待てよー?」
紅河はふと、先ほどの光景を思い出すー。

”不可視の存在(ノット・イグジスト)”により
一度は完全に消えたはずの海斗ー。

しかし、その海斗を、来瑠は助けたー。
その能力によってー。

来瑠の「玉の緒(テラスポース)」は元々
怪我などを治療する能力だと聞いているー。

それ故に、あんな状態の白夜お姉ちゃんを治療すれば、
来瑠の身体が持たない、と、そう黒河は言っていたー。

けれど、今、紅河が海斗を追いつめたことにより、
その力は変異ー、大幅に強化されたように見えるー

”存在が消えかけていた海斗”を復活させたー。

今までの彼女の能力では不可能なことをやってのけてもー
来瑠は今のところ、そんなに命を削った感じには見えないー。

変異した今の彼女の能力ならー、
もしかしたらー
白夜お姉ちゃんも、来瑠が命を落とすことなく、
そのまま治療ができるかもしれないー。

それならば、これ以上戦う必要もないー。

そう判断した、紅河は
戦闘態勢を解いて、海斗と来瑠を見つめたー

「ねぇ…その力ー」
紅河の言葉に、
海斗と来瑠が少し戸惑いの表情を浮かべるー。

「ーその力で、僕たちのお姉ちゃんを、助けてくれないかなー…?」
紅河がそう言い放ったー。

予想外の言葉に、海斗と来瑠は目を見合わせながら、
しばらく考えていたものの、
来瑠の方が「話だけは聞いてみようよー」と提案し、
海斗もそれに頷きー、そのまま紅河の話を聞くことにしたー。

 

㉙果実ろあ

二人に悟られないよう、紅河は内心でほっと胸を撫で下ろす。
紅河だって、決して戦闘狂などではない。
戦わずに解決できるのであれば、それに越したことはないのだ。

「僕たちには、白夜っていうお姉ちゃんがいる」

そうして、紅河は静かに語り出す。
紅河や黒河には、大好きで大切な姉がいること。
その姉は、もう動けない身体になってしまっていること。
だから、来瑠の力を貸してほしいということなどを。

紅河の話を聞きながら、海斗も来瑠も口を挟んだりはせず耳を傾け続ける。
今までは話を聞けるような状況でもなかったし、ただ逃げたり抵抗する程度しかできなかった二人も、ようやく事情を知れて嬉しいような悲しいような複雑な気分に苛まれていた。
もちろん、話を聞けたことはよかった。
しかしその内容が、あまりに悲惨で思わず同情してしまうようなものだったから。

「そうか……あの事故で」

海斗は得心がいき、独り言を漏らす。
紅河の話は、決して他人事ではなかった。

「たぶん、今のを見た感じだと命を落とすようなことはないはずだよ。だから、僕たちのところに来てくれないか」

紅河は言う。
追い詰められているかのような。縋るかのような。焦っているかのような。
そんな表情で。

海斗は思案を巡らせる。
もし来瑠の命に関わるようなことなのであれば、当然行かせるわけにはいかない。
でも先ほどの能力は、一番近くで見た。
今の来瑠の様子も、一番近くで見ている。

確かに、紅河の言っていることもあながち間違いではないような気がしたのだ。
ふと、隣に立つ来瑠の顔色を窺う。
彼女は何も言わず、ただゆっくりと頷きを返した。

「……分かった。でもひとつだけ、条件がある」

「……条件?」

「俺も、一緒に行く。来瑠を一人にはできないからな」

紅河は無意識に口角が上がる。
まさか、こうもあっさりと承諾してもらえるとは思っていなかった。
そして海斗たちに背中を向け、答えた。

「ああ、それでいいよ」

 

㉚無名

「ーーーーー」
紅河に連れられてやってきたのは、
研究所のような場所だったー。

「ーーーー…ここに、僕たちのお姉ちゃんとー、
黒河がいるー」

紅河がそう言うと、
海斗と来瑠は緊張したような表情を浮かべるー。

”罠ではない保証など、ないー”

相手の懐に飛び込む、ということはー
チャンスでもあり、ピンチでもあるー。

もちろん、来瑠の身に何事もなく、
彼ら二人の”お姉ちゃん”を治療することができれば
それが一番いいー。

「ーーー…黒河…
僕と、もう一人、男がいただろ?」

歩きながら紅河は言葉を口にするー。

「ーーあぁ」
海斗が返事をしながらー、
来瑠のほうを向くと何か、言葉を口にするー

”大丈夫か?”とか、”無理はするなよ”とか、
そんな内容だー。

紅河はそれは気にせず、そのまま歩き続けるー。

「ーあいつは、僕と一緒に白夜お姉ちゃんに拾われて、
お姉ちゃんと一緒に育ったんだー。

だから、僕にとっては兄弟みたいな存在なんだー」

紅河はそこまで言うと、
少しだけ寂しそうに表情を歪めたー。

黒河は変わってしまったー。
あの事故以降、生気のない死人のような男になってしまいー、
感情をまるで感じさせないー。

”ーーーーーーー”

紅河は、目をそっと閉じるー。

楽しそうに笑う白夜お姉ちゃんとー、
嬉しそうに話をする自分と黒河ー

また、あんな笑顔を取り戻すことができるのだろうかー。

そのためならー”手段”は択ばないー。
何を犠牲にしようともー

黒河は”感情”を、失いー
紅河は”肉体の成長が止まった”ー。

二人はお姉ちゃん以外にも、人として色々なものを失っているー

「ーーこの先にお姉ちゃんがいるー
お願いだからー…
助けてほしいー」

紅河はそう言って扉を開くー。

扉の奥には、たくさんの装置に繋がれたベッドのようなものに
横たわっているー、無残な状態の女性ー。
そして、その女性を、入口から背を向けるようにして
黒河が立って見つめていたー。

「ーー黒河」
紅河が声をかけると、黒河は振り返ったー。

海斗と来瑠がいることに、表情一つ変えずに
「ーーようこそ」と、だけ呟く黒河ー

「ーーーーー」

海斗と来瑠は目を見合わせるー

ここに来るまでの廊下で、
紅河が話をしている間にー
”大丈夫か?” ”無理はするなよー?”など、
普通の会話に織り交ぜながら
小声である相談をしたー

”来瑠ー
もしも”罠”だったら、お前だけでも逃げるんだー”

”えー?”

”ーーー俺の「模写する外見(アピアランス・コピー)」はー
こういう使い方もできるー”

そう言うと、海斗は、来瑠の方に手を向けて、
来瑠の姿を海斗の姿に変身させー、
続けて自分の姿を来瑠の姿に変えたーー

紅河には気付かれていないー。

海斗の姿をした来瑠と、
来瑠の姿をした海斗ー。

二人が、紅河と黒河のほうを見つめると、
黒河は静かに口を開いたー。

④へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

いよいよ明日が最終回デス~!

明日も通常の更新とこの合作、
2本立ての更新でお送りするので
ぜひ楽しんでくださいネ~!

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