<他者変身>この力は大切な”玉の緒-いのち-”を護るために①

ある日ー、
謎の男に追われている少女と出会った男子大学生はー、
とあるトラブルに巻き込まれていくー…!

☆本日(4/26)の通常更新はこの1個前に行っています!
通常の更新を見たい場合は、この1個前を見て下さいネ~!
こちらは通常の更新とは別に作った合作(新作)デス!☆

※果実ろあ様(@fruitsfantasia)との
リレー形式合作デス。
内容は一切打ち合わせなしで、
数百文字程度ずつで交代交代で書いた作品になります!
(※誰が書いているか、担当箇所ごとに表記しています (例 ②無名 など)

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①果実夢想

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

真っ暗な雨空の下、三つの足音と荒い吐息のみが響いていた。
一体、どれだけの時間そうしていたのか。もはや、今となっては分からない。

疲労は凄まじいほどに積み重なり、気を抜いてしまえばすぐにでも倒れてしまいそうだ。
だけど、そうするわけにはいかない。
強く奥歯を噛み締め、ただ無我夢中に、一心不乱に足を動かし続けた。

「……撒けた、かな……?」

人気のない路地裏。
物陰に身を隠し、様子を窺いながら呟く。
まだ油断はできないが、奴らの姿が近くに見えなくなったことに安堵で胸を撫で下ろす。

「ん、ふぅ……早く、ここから離れないと……」

立ち上がり、再び歩き出す。
いつまでもこの近くにいれば、またいつ見つかってしまうか分からないから。

だが、そう思って足を踏み出した途端。
ぐぅ~……と、気の抜けた音が、辺りに響き渡る。
他でもない、自分のお腹から。

ずっと何も食べていなかったし、何時間も走って疲れたことで、空腹や喉の渇きが今になって訴え始めた。
それも、一旦は何とか逃げ延びることができ、安心したからだろう。
しかしこんなところで食べるものなんかあるわけがないし、お金なんてものも一銭たりとも持ってきてはいない。

「……もっと、遠くに……あいつらが来れないような、場所に……」

自身の腹部を押さえながら、ゆっくりと足を前に前に動かす。
その足取りは重く、視界は既にぼやけていた。
でもそれは、そう長くは続かなかった。

「ぁ……っ」

不意に足が躓き、その場に勢いよく転倒する。
擦りむいた手も足も、痛みが襲う。

たとえそれでも、いつもであればすぐに起き上がってまた歩き出していたことだろう。
なのに、その程度のことすら叶わなかった。
ただ、何もないそこに縋るかのように、手を伸ばすこと以外には。

「はぁ、ぁ……わたし、は……こんな、ところで――」

絞り出した言葉も、最後まで紡ぐことはできず。
静かに、呆気なく、その意識は闇の中へと落ちていった。

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②無名

雨空の元、
二人組の男が何かを探すようにして歩いていたー。

一人は、片目に大きな傷を負っている男ー。
傷のある方の目は、既に”何も見えていない”ことが、
第3者からでもすぐに分かるようなー
そんな痛々しい状態になっているー。

しかし、その男はそんな痛々しい外見からは
想像もつかないぐらいに、笑みを浮かべながら
楽しそうに雨の中、路地裏を歩いていたー。

「来瑠(くるる)ちゃんは、どこに行ったのかねぇ?」

少年のようにあどけない笑みを浮かべながらー、
もう一人の男に語り掛ける傷の男ー。

そんな彼の横で佇んでいる男は
まるで死人(しびと)のように生気がなく
表情一つ感じさせないー。

雨粒が顔に当たっても、
全く動じる様子もなく静かに周囲を見渡すー。

「ーー…紅河(こうが)お前はあっちをー
俺はこちらを探すー」

片目に傷のある男のことをそう呼ぶと、
紅河が「相手は小娘とは言え、油断はするなよ、黒河(こくが)」と、
笑みを浮かべながら、生気のない男の方に声をかけるー。

「ーーーお前もな」
黒河は短くそう応じると、そのまま静かに歩き出すー。

雨の降りしきる路地裏で、二手に分かれ、
二人組の男たちは、”逃げ出した少女”を探し始めるー。

そうー、
我々には必要なのだ。

あの小娘の持つ”力”がー。

 

③果実ろあ

「……何も入ってねえ」

夜も更けた頃。
男――海斗は冷蔵庫の中を覗き込んでは、溜め息混じりに呟いた。
就寝する前に小腹が空いてしまったため、何かお腹を満たせるものを食べようと思ったところ、特に食べられるものが冷蔵庫の中には残っていなかったのである。

「しょうがない。こんな時間だけど、買いに行くか」

後頭部を掻きながら玄関へ向かい、靴を履き替える。
そしてドアを開けた瞬間、大粒の雨が地面を突いていることに気づいた。

「雨か……なんか、嫌な天気だな」

ぼやき、玄関に置いてある傘を手に取って差す。
そして、コンビニへと歩を進めた。

それから、およそ数十分程度。
片手にコンビニの袋、片手に傘を差した海斗がコンビニを後にする。
帰路につきながら、横目で袋を見やり、深々と吐息。

「……ちょっと、買いすぎちまったか。ま、あっても困るもんじゃないか」

そう、苦笑を漏らした瞬間――。
すぐ近くの路地裏から、何やら奇妙な物音のようなものが聞こえた気がして、思わずそちらへ顔を向ける。

「……何だ? 何かいんのか?」

いつもであれば大して気にせず、そのまま家へ直行していただろう。
しかし、このときだけはなぜか、妙に気になって仕方がなかったのだ。
ここを通り過ぎてしまえば、きっといつか後悔することになる、と。
そう、自分の本能が叫んでいるような気がして。

ゆっくり、ゆっくりと路地裏へ足を踏み入れていく。
もしかしたらヤバいやつがいるのかもしれない……と、未だかつてないほどに警戒しながら。

心臓が早鐘を打つ。
ごくり、と唾を飲み込む。

やがて、海斗の目の前に現れたのは――。

「……お、女……?」

そう。まだ幼いであろう少女が、地面に倒れていた。
血が出ていたり怪我をしていたりはないように見えるものの、ぴくりとも動いていないことから意識がないのであろうことは分かった。

「おい、大丈夫か。こんなとこで、何があった?」

慌てて駆け寄り、抱き起こす。
意識がないのなら返事する余裕もないだろうと、期待など到底していなかったが。
少女の口が小さく開き、短い言葉を紡いだ。

「……お、おな、か……すい、た……」

「……は?」

その言葉に呼応するかのように、少女の腹部から間抜けな音が響き渡る。
どうやら、お腹が空いたというのは本当らしい。
まさか、強すぎる空腹のあまり倒れてしまったとでもいうのか。

「……はぁ」

海斗は、本日何度目かの溜め息を深く深く吐き出した。

 

④無名

ため息をつきながらも、海斗は
倒れている少女をそのままにしておくこともできず、
”仕方ないなー”と、少女に何か食べ物を分け与えようと、
たった今コンビニで購入したサンドイッチを
手渡そうと袋の中を確認するー

”これで今日の晩御飯は、寂しくなるなー”

海斗は一人暮らしの男子大学生。
そのため、倒れている少女を連れて行くことはー…
できるのだが、
それをしてしまうと、今の時代”誘拐”だとか、
色々と言われかねないー。

それに、この子からしてみても、
いきなり”見知らぬ男の家”に連れていかれるのは
怖いだろうー。

そう考えて、少女を路地の壁際に寄りかからせると、
海斗はサンドイッチを袋から取り出したー。

だがーー
その時だったー

重苦しい足音が路地裏に響き渡るー。

ドスッ、ドスッ、と嫌な感じの足音だー。

(誰か来るのかー?)
そんなことを思いながらも、路地裏と言えど、
人が来ることは別に珍しいことではないため、
海斗はそのまま、サンドイッチを少女に手渡そうとしたー。

しかしーーー

「た…たすけて…」
少女が怯えた表情で海斗にそう囁くー。

酷く、弱弱しい様子でー。

「え…?」
海斗は首を傾げるも、すぐに”近付いてくる足音”と
何か関係があることを悟ると、
すぐ近くに大きなゴミ箱があることに気付いて、
「ーこ、ここに隠れてろ」と、少女をゴミ箱の中に移動させるー

「ご…ゴミ箱ー…」
不満そうな顔をしたものの、命には代えられないー。

少女はそのままゴミ箱の中に隠れて身を潜めたー。

やがてー
海斗は路地裏の壁によりかかり、
何食わぬ顔でサンドイッチを食べながらー
その足音の主がやってくるのを待ったー。

「ーーーー」
やってきたのはー生気のない目つきの
明らかにヤバそうな男ー

”殺人マシーン”とでも言ってしまうのが
しっくり来るような男ー
黒河だったー。

紅河と別行動を取っていた彼が、
”目当ての少女”のすぐ側までやってきたのだー。

「ーーーーどけ」
黒河は、重苦しい声でそう言い放つー

かなりの威圧感ー
ビリビリと来るーー

「ーーあぁ、すみませんー」
サンドイッチを食べながらわざとらしく道を開ける海斗ー。

黒河は、それ以上、海斗に興味を示さず、
重い足音を立てながら、そのまま遠ざかっていくーーー

しばらく様子を見てから、サンドイッチを食べ終えると、
海斗は「もう出てきていいぞー」と、
ゴミ箱に隠れている少女に対して、言葉を投げかけたのだったー。

 

⑤果実ろあ

キョロキョロと必要以上に警戒しながら、ゴミ箱から少女が出てくる。
そしてもう追っ手がいないことが分かると、露骨なまでにほっと胸を撫で下ろす。
しかし、海斗は同じような反応を示すことなどできるはずもなかった。
ただ脳内に浮かんだ疑問符を放置することもできず、少女に問いかける。

「今の、誰なんだ? あの人から逃げてるのか?」

「……」

少女は、海斗の質問にも俯いて押し黙るのみ。
誰にだって、言いにくい秘密なんてものはひとつやふたつくらい持っているものだ。
特に、今知り合ったばかりのどこの誰かも分からない男になど。

だから、気にはなっても話せないのならそれ以上の追及はしない。
海斗は後頭部をぼりぼりと掻きながら。

「……じゃあな。もう夜も遅いから、気をつけて帰れよ」

それだけを言い、少女の横を通り過ぎる――が。
その直後にがしっと手首を掴まれ、思わず足を止める。
後ろを振り向けば、少女が唇を引き結びながら海斗を上目遣いで見つめていた。

少女の力なんて、それほど強い力ではなくとも振り払うことは容易にできるだろう。
でも、できなかった。しようとも思えなかった。
少なくとも、今の海斗には。
何だか、泣きそうな瞳をしていたから。

「……お、お願い。わたしを……匿って」

先ほどの、少女を探していたと思しき男性の姿が脳裏に浮かぶ。
目の前の少女の様子から察するに、きっと並々ならぬ事情があるのだろうことは簡単に想像ができてしまった。

もしそれが、命に関わることだったなら。
そして自分が見放したせいで、この少女が更なる危機に晒されてしまったら。
そんな考えが次々と浮かび、拒む言葉を口から出せずにいた。
本当は、そんなことに巻き込まれたくなんてないはずなのに。

「……俺の家、こっちだから」

そうして、歩き出す。
少女はぱあっと瞳を輝かせ、小走りで海斗について行った。

 

⑥無名

もぐもぐもぐ…
もぐもぐもぐもぐ…

「ーーーーー…」
海斗は、唖然とした表情を浮かべながら
その少女の姿を見つめていたー。

ヤバそうな男をやり過ごした際にサンドイッチは
食べてしまったため、一緒に買ったデザートとお菓子を
食べさせてあげたところー、
彼女は、その華奢な見た目からは想像もできないほどに
嬉しそうにそれらを食べ始めたー

もぐもぐもぐもぐもぐー

「ーーー(よほど、腹が減ってたんだろうな)」
海斗はそんな風に思いながら、
少女の事情を心配しながらも、
ひとまず”食べ終わる”までは待つことにしたー。

やがて、少女はコンビニで買った
デザートもお菓子も平らげると
「ーーーおかわりっ!」と、元気よく声を上げたー

「ーーはっ!?はぁ!?お、おかわり!?」
海斗が少し驚いた様子で言うと、
「一人暮らしの男子大学生の家に食べ物がいっぱいあると思うかー?」と、
小声でぶつぶつ言いながら、冷蔵庫の中身を確認するー

「ーーーーーー」
冷蔵庫の中にあるのは、
納豆、うずらの卵の水煮、それと卵豆腐に、飲み物ー…

冷凍庫には、冷凍食品のチキンライスやらラーメンが入っているが、
この子が喜んで食べそうなものはーー

「あ…」
海斗は、冷蔵庫の奥に、ずいぶん前に購入した
みかんの缶詰が入っているのを見つけて
それを取り出すー。

流石は缶詰。
賞味期限はまだまだ大丈夫であることを確認して
それを冷蔵庫から取り出すと、
「ーーこんなんで良ければ…」と、少し不安そうに
それを少女に見せるー。

「お、おいしそう…!」
目をキラキラ輝かせる少女ー。

海斗はため息をつきながらも、缶詰を開けて、
適当な皿にそれを移すとー、
少女は「いただきます」と、礼儀正しく言葉を口にしてから、
今度は缶詰のみかんを嬉しそうに食べ始めたー

そんな光景を、少しため息をつきながらも、
微笑ましそうに見つめる海斗ー。

がー、
あれだけ大量にあったみかんがみるみるうちに減っていきー、
やがて、少女はみかんの缶詰を一人で完食してしまったー

「おいおいおいおいー…すごいなー」

海斗が呆れ半分、感心半分という感じでそう呟くと、
少女はとても嬉しそうに微笑んだー

「ーーーーそうだー、名前はー?
あそこで、何をしていたんだ?
そろそろ、聞かせてくれないかー?」

海斗はようやく本題を切り出すと、
少女は「ー来瑠(くるる)ー」と、自分の名前を口にしたー。

 

⑦果実ろあ

来瑠と名乗った少女は、満足したのか自身のお腹をぽんぽんと叩く。

そんな様子に、海斗は思わず口角が上がるのを感じていると、不意に来瑠は海斗のほうへ視線を移して口を開いた。

「……こんなに美味しいものを、いっぱい食べさせてくれてありがとう。助けてくれたし、あなたがいい人でよかった」

そう言って、来瑠は満面の笑みを浮かべる。

まるで太陽のような眩さを覚える表情に、海斗はつい見惚れ、頬が朱に染まってしまう。

だがすぐさま首を左右に振り、ずっと気になっていたことを訊ねてみることにした。

「それで、来瑠は何であんなとこに倒れてたんだよ。誰かに探されてたみたいだけど、見つかっちゃまずいことがあるのか? もしかして、家出とか?」

「ううん、そうじゃないの」

海斗の素朴な問いに、来瑠は俯いては表情に翳りが生じる。

海斗は首を傾げ、訝しみながらも次の言葉を待つ。

しかし、よほど言いにくいことなのか唇を引き結んでなかなか口を開こうとしなかった。

やがてこちらを向き直り、口を開いた来瑠は。

海斗の問いとは関係のない、言葉を紡いだ。

「……ね、ねえ。あなたの名前は、なんて言うの?」

「俺? 海斗だよ」

「かいと! えへへ、ありがとう、かいと」

再び可愛らしい笑顔を向けた来瑠に、海斗は照れ臭くなって目を逸らし、後頭部を掻いた。
もちろん気にならないと言えば嘘になるし、どうせ匿うにしても事情を聞いてからにしたいところではあったが。
でも本人が話したくない、話しにくいことなら、無理に聞き出すのも何だか気が引けた。

だから海斗は、それ以上の追及はしない。
いずれ話してくれるそのときまで、のんびり待つことにしたのだった。

 

⑧無名

「ーー来瑠ちゃんに逃げられちゃったねぇ」
片目に傷のある、まるで少年のような男・紅河が、
もう一人の死人のように生気のない男・黒河に軽い調子で語り掛けるー。

「ーー案ずるな」
黒河はそう言うと、輝きを失っている不気味な瞳を
赤く光らせるー。

「ーーおっ!いいねいいねー」
紅河は、公園のベンチに座って、足をぱたぱたとさせながら笑うー。

まるで子供のような容姿に、子供のような態度だがー、
彼の年齢は20を超えているー。

「ーーーーーー」
黒河は無表情のままー
目を赤く光らせつつーー
夜の公園に、何か立体映像のようなものを映し出し始めるー。

人間では、あり得ないその”能力”は、
かつての”事故”の生き残りたちが得た異質な力ー。

数年前ー
とある研究施設で大事故が起きたー。
その街一帯は、その事故で壊滅ー
その研究所から未知の化学物質が漏れ出しー、
ほとんどの人間はその事故で死んだ。

だが、生き残った者たちもいたー。

それが黒河と紅河ーー

それに…来瑠ー。

その事故で生き残った人間たちの多くは
”未知の化学物質の影響”で、普通の人間ではあり得ない
”特殊能力”を身に着けたー

しかし、その能力は”未知の化学物質”が漏れ出したことにより
身に着けた”禁忌の力”

それ故に、使用する度に、使用者の命を削り、
蝕んでいくー。

そのため、黒河も今まで、この能力を使わなかったー。
しかし来瑠を見失ってしまった以上は仕方がないー。

「ー我々にはあの娘の”能力”が必要だー」

黒河の赤く光る目から映し出された立体映像ー。
そこには、”現在の来瑠”の様子が映し出されているー

”このガキー”
黒河は、来瑠が”裏路地ですれ違ったサンドイッチを食べてた学生”の家に
いることを、立体映像から読み取り、舌打ちをするー

「へへー…場所は分かったなー」
紅河は嬉しそうにそう呟くと、ベンチから立ち上がって笑みを浮かべるー。

そして、紅河と黒河は夜の街を歩きだしたー。
来瑠を匿っている海斗の家を目指してー。

 

⑨果実ろあ

「……すぅ」

たくさん食べて眠くなったのか、来瑠は心地の良い寝息をたてて眠っている。
満腹になったこともそうだが、やはり男たちから逃げるために走ったことで疲れていたのだろう。
無理もない。
海斗は短く息を吐き、風邪をひいてしまわないよう毛布をかけてあげた。

とはいえ、それは海斗だって同じ。
来瑠ほどではないにしろ、海斗も今日は色々とあった。

当然のことではあるが、こんな幼い女の子を家に匿うなんて初めてだ。
本当にこれでよかったのかと、どうしても思わざるを得ない。
だがあんな風に懇願されては、見放すことなど到底できるわけもなかったのだ。

来瑠の寝顔を眺めながらそんなことを考えていると、海斗にも睡魔が襲ってくる。
本日はもう休もうかと、その場に横になった瞬間――。

ピンポーン。

静かな部屋に、インターホンの音が鳴り響く。
傾けていた身体を起こし、海斗は訝しむ。

「こんな時間に、一体誰だ……?」

一瞬、無視しようかとも思ったが、もし何度もインターホンを鳴らされてしまえば眠りにつける気がしなかったし、来瑠を起こしてしまう可能性だってある。
それは避けようと、海斗は立ち上がり、玄関へと向かう。

扉を開ける前に、扉の小さな穴から様子を窺う。
家の前に立っていたのは、どうやら二人の男のようだった。
一人は背が低く、まるで中学生の少年のよう。
しかしもう一人は、生憎と背が高いためこの覗き穴からでは顔を見ることはできなかった。

でも、海斗にこんな知り合いはいない。
なのに、一体何の用なのか。
上手く言い表せることのできない不安が、靄のように海斗の胸中を覆う。

そんなことを考えている間にも、再度インターホンが鳴る。
仕方なく、海斗はゆっくりと扉を開けた。

「おっ、やっと出た。ねえ、何で隠してるの?」

幼い少年のほう――紅河は、無邪気な笑顔で問う。
いきなり意味が分からず首を傾げる海斗は、隣に立つ男の顔を見て絶句する。

この男は、間違いない。
あのとき、来瑠を探していた男だ。
ということは、この家に来た理由はつまり――。

「……あまり時間をかけるつもりはない。大人しく、来瑠を渡せ」

戸惑う海斗に、黒河は淡々とした口調でそう言ったのだった。

 

⑩無名

少年のような風貌の男と、生気のない体格の良い男ー。

海斗は、それなりに運動神経の良い方だとは思うー。

でもーー…

”あの子を守りながら、こいつらを撃退するのはー
無理そうだなー”

悔しいが、この二人をどうにかするのは難しいー。

幼い少年のように見える方は力づくで突破できるかもしれないー。
だが、先ほど一度すれ違っている体格の良い男の方は、
明らかに力づくで撃退できる感じはしないー

それにーーー
幼い少年のほうも、自身に満ち溢れた表情を浮かべているー。

”自分が絶対に反撃されない”と確信している表情だー。

こっちの男も、油断ならないー

「ーーーーー」
海斗はまだ寝ている様子の来瑠がいるほうを見つめるー。

玄関からはその姿は確認できないが、
動いている様子がないため、眠っているのだろうー。

よほど、疲れていたようだー。

「ーーねぇ、早く渡した方がいいよー
今だったら命だけは助けてあげるからー」

少年の方が言うー。

こいつらに、どんな事情があるかは知らない。
そもそも、来瑠のこともまだほとんど知らない。
実は来瑠の方が”悪い”可能性だってあるー。

けれどー…
”あの子は守ってあげないといけない”

そんな、気がしたー。

「ー5秒待つ。
ここで死ぬか、道を開けて来瑠を渡すか、選べ」

体格の良い男の方が、そう言い放つー

ビリビリ来るー。
かなりの威圧感だー。

カウントを始める男ー。
その言葉には少しの揺らぎも感じないー。

5秒ー
このまま立ちはだかっていれば、海斗は殺されるー。
そう、確信できるほどの威圧感だー。

「ーーーへ……」

だがー、
海斗は笑ったー

今までの人生で、命なんて賭けたことはないー

でもー

”ー俺には、小さい頃の”事故”で得た力があるからなー”
海斗は笑うー。

海斗もーーー
この男たち、
黒河と紅河が巻き込まれた”事故”に巻き込まれた生き残りー。

しかし、お互いにそのことは知らないー。
海斗は、”この二人もそう”だと知らないし、
二人も”海斗がそう”だとは知らないー。

海斗は、突然玄関の扉を思いっきり閉めたーーー

二人の男は、すぐに玄関を破るだろうー。
だが、それでいいー

数秒あれば、十分ー

「模写する外見(アピアランス・コピー)」

”俺の能力ーーー
役に立つ時が来るなんてな”

海斗の能力ー
それは、”一定距離内にいる人間の姿に自由に変身できる”能力ー。

一度変身さえしてしまえば、あとは距離が離れてもその姿を維持できるー。

海斗が、来瑠の姿に変身するー。

その直後ー
玄関の扉が破壊されー

二人の男が表情を歪めたー…。

玄関に立っていたのが来瑠だったからだー

「み~つけた」
幼い少年の方が笑うー。

「ーーーーー」
体格の良い男の方が無表情で迫って来るー。

”さすがに今の物音で、あの子も目を覚ますだろうなー”
海斗はそう思いつつも、
来瑠の姿のまま、少年の方に突進するとー
そのまま玄関の外に飛び出しー、街の方に逃げ出したー

「ーーくそっ!待て!」
幼い少年の方が叫ぶー

”よしー”
海斗は、来瑠の姿で逃げながら
二人が追ってきていることを確認すると、笑みを浮かべるー。

あの子を一人にするのは心配だけど、
こうして家から引き離すことができればー。

海斗はそう思いながら来瑠の姿で、
二人を家から引き離しつつー、どこかで上手く逃げ切り、
その後、家に戻って来瑠と合流しようと、街を駆け抜け始めたー。

②へ続く

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コメント

果実ろあ様とのリレー形式の合作はこれで2回目ですネ~!

前作同様に、最初に決めたのは
登場人物と、本当に基本的な部分なだけで、
後は勢いで書いていますが、
不思議と、ちゃんとした物語に仕上がっていくのデス…

明日も通常の更新と、合作の更新、両方を行うので、
楽しみにしていて下さいネ~!

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