<他者変身>この力は大切な”玉の緒-いのち-”を護るために②

怪しげな二人組に狙われる少女…
彼女を助けるため、
海斗は、”変身能力”を使って
二人組を攪乱すべく、走り出したー…!

☆本日(4/27)の通常更新はこの1個前に行っています!
 通常の更新を見たい場合は、この1個前を見て下さいネ~!
 こちらは通常の更新とは別に作った合作(新作)デス!☆

※果実ろあ様(@fruitsfantasia)との
リレー形式合作デス。
内容は一切打ち合わせなしで、
数百文字程度ずつで交代交代で書いた作品になります!
(※誰が書いているか、担当箇所ごとに表記しています (例 ②無名 など)

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⑪果実ろあ

「……ん、んむぅ」

頻りに瞼を擦りながら、少女――来瑠は目を覚ます。
そして上体を起こし、薄く開いた瞳で部屋内を見渡した。

「……あれ、かいと……?」

つい寝落ちしてしまう前までは、近くにいたはずの海斗の姿がなくなっている。
それほど広い家でもないが、別にこの部屋ひとつしかないというわけでもない。
きっと他の部屋にいるのだろうと思い、色々な部屋に行って海斗を探し回った。

しかし、どこにもいない。
トイレにも、風呂にも。

「わたしを置いて、どこか出かけちゃってるのかな……」

思わず呟く。
ずっと一人で、海斗にだってつい先ほど知り合ったばかりだというのに、何だか無性に寂しかった。

とぼとぼと歩き、半ば無意識に玄関へと辿り着く。
そこでとあるものが視界に映り込み、来瑠は驚愕に目を見開く。

「こ、これって……」

そう。海斗に連れられたときには普通だったはずの扉が、無残なまでに破壊されていたのである。
ただ壊れたとか、そのような問題ではない。
これが意味することはつまり、何者かに襲撃されたということ。

「かいと……!」

もしその考えが正しかったなら、今頃海斗はあの二人に追われているのかもしれない。
他でもない、来瑠を守るために。

来瑠は奥歯を噛み締め、駆け出す。
どこへ行ったのか、正確な位置など分からない。
たとえそれでも、このまま放っておいたら海斗が危ない気がして。

夜道を走る。ただ無我夢中に。
わたしを置いて、勝手にいなくならないで。まだ、無事でいて。
そう、強く強く願いながら。

 

⑫無名

”くそっ”

来瑠の姿に変身して、
怪しげな二人の男から逃げようとしていた海斗は
少し歯ぎしりをしたー。

あいつら二人を撒くことなど、簡単なはずだったー。

しかし、幼い少年風の男も、
威圧感のある男の方も、想像以上に”早い”ー。

特に威圧感のある男は、歩いているだけのように見えるのに
みるみると距離を詰めて来るー。

それにー

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」

海斗の「模写する外見(アピアランス・コピー)」は、
変身した相手の身体能力を含め、コピーする。

記憶など、コピーできない要素も当然あるものの、
基本的な身体能力は、その相手の姿に依存するのだー。

そのためー、
海斗の予想以上に”体力がない”ことは想定外だったー。

”変身を解除して俺の姿に戻ればー、
あいつらから逃げ切ることは多分、できるー”

来瑠の姿で、髪を揺らしながら必死に走る海斗。

しかしー、
変身をここで解除すれば、再度、来瑠の姿になるためには
本人の近くに行かなくてはいけないし、
奴らに”能力”のことを教えることになるー。

それに、”今追いかけているのが俺だと”分かってしまったら
奴らはすぐにでも家の方に戻るかもしれないー。

”何とかするしかないかー”

来瑠の姿のままー、必死に住宅街を走るー。
夜も遅いせいかー、このあたりに人通りはほとんどないー。

”時間を稼ぎながら、人混みのある方に向かえば
あいつらだって、何もできないはずー”

まさか、繁華街で通行人を虐殺し始めるようなことは
流石にしないはずだー。

この先の繁華街があるところまで逃げてー、
奴ら二人の目から逃れー、
そして、家に舞い戻るー。

そうするしかないー。

だがーー

「ーー遊びは終わりだー」
生気のない男の方が、機械のような形状の右腕から
ワイヤーのようなものを放ってくるー。

「ーくっ!?」
来瑠の姿をした海斗は、なんとかそれを避けようとしたー。

だがー、歩幅も何もかも違う、来瑠の姿では
それを避け着ることが出来ずー、
その場に転倒してしまうー

「ーーやるじゃん!」
幼い少年の方が笑いながら近づいてくるー。

「ーーうおおおおおおっ!」
来瑠の姿をした海斗は、必死に幼い少年の方に、
蹴りを放つー

自分の身体よりも、身軽なこの姿を生かして、
なんとかこの場を切り抜けようとするー。

しかしー
幼い少年は、軽々と流れるような動きでそれを回避するー。

お構いなしにそれを無視して、再び逃げようとする海斗ー

けれど、今度は生気のない体格の良い男が目の前に立ちはだかるー。

「邪魔だ!」
飛び跳ねて、顔面に蹴りを叩きつけようとするー。

ガッー!

しかし、鈍い金属のような音がして、
海斗は目を見開いたー

”義手”ー
こっちの男の右腕は義手のようだー。

それに軽々と攻撃を防がれた挙句、
ワイヤーのようなものが周囲に展開してー、
来瑠の姿をしたまま、海斗は路上に叩きつけられたー。

「ー残念ー。鬼ごっこは終わりだよ」
少年の方が笑みを浮かべるー。

「ー無駄な抵抗はよせー。
お前の”力”が我々には必要なのだ」
生気のない男の方が、倒れた海斗を見下ろしながら呟くー

”くそっー…”
来瑠の姿のまま、舌打ちをすると
絶体絶命の海斗は、表情を歪めたー。

 

⑬果実ろあ

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

走る。奔る。
夜道を、きょろきょろと辺りを見回しながら。
自分の体力がないことなど、到底分かりきっている。
だが、たとえそれでも、足を止めてなどいられなかった。

「かいと、どこに行ったの……?」

時間が経てば経つほど、焦りが募っていく。
早くしなければ、海斗が危ないかもしれないというのに。

どうして、自分はもっと速く走れないのか。
どうして、自分はこんなにもすぐ疲れてしまうのか。
どうして、あのとき眠ったりなんかしてしまったのか。
どうして、もっと海斗が行きそうな場所を思い浮かんでくれないのか。

そんな、あらゆる「どうして」が次々と浮かび、目尻に涙さえ溜まってしまう。
お願いだから、早く見つかって――。

――と。不意に、話し声が耳に飛び込んできた。

壁の陰に身を隠し、こっそりと様子を窺う。
そこには、二人の男と、一人の女の姿があった。

地面に倒れている少女を見下ろす二人の男には、当然見覚えがある。
見紛うはずもない。ずっと来瑠を追い回していた、紅河と黒河だ。
だが、もう一人の女も、違った意味でよく知っている。

そう。それは他でもない、来瑠自身だったのだから。

「どういう、こと……?」

思わず呟く。
当然、来瑠は自分だ。もう一人、全く同じ人間がいるだなんて有り得るわけがない。
でも自分を追いかけていたはずのあの二人が、あの少女を狙っているということは、やはりあの少女も間違いなく来瑠で――。

頭が混乱しそうになっていると、とある考えが頭に浮かぶ。
どうしてかは分からない。どうやってなのかも分からない。
でも、もしかしたらあれは海斗なのではないかと。
来瑠になりすますことで、自分を守ってくれたのではないかと。

馬鹿げた話かもしれないが。理由や根拠など全くの不明だが。今の来瑠には、そうだとしか思えなかったのである。
もし本当にそうなのだとしたら、このままではまずいことになる。
見た感じ、とても優勢だとは言えない。

辺りを見回す。
何か、この場を切り抜けられる方法がないか。
しかし、こんな状況で、こんな場所で、そんな都合のいいものがあるわけもなかった。

であれば、仕方がない。
上手くいく保証などどこにもないが、他に妙案も思い浮かんでくれないためやるしかない。

来瑠は思いっきり息を吸い込む。
そして、大きな叫び声とともに吐き出した。

「おまわりさぁぁぁんっ! こっち、こっちに襲われてる子がいます……!!」

当然、嘘だ。
しかしそれでも、紅河と黒河の注意を引くのには充分だった。

 

⑭無名

「あれれれれ…?何で来瑠が二人いるのー?」
首を傾げる紅河ー。

「ー……」
黒河は、動揺一つ見せずに呟くー。

「ー二人だろうが、三人だろうが関係ない。
どちらかが本物で、どちらかが偽物なら
両方連れ去って、偽物は処分するだけだ」

黒河の言葉に、
赤河は「オッケー」と、笑いながら
本物の来瑠のほうを見つめたー

”ーーー来瑠…見られちゃったかー”

まさか来瑠が助けに来るとは思わなかったー

けどーー
これでーー

”たった今到着した”本物のほうを見ている
二人の男ー

その背後で、海斗は”模写する外見(アピアランス・コピー)”を解除したー。

「ーーーうらァ!」
背後から、紅河の方に強烈な蹴りをお見舞いするー

「なっ!?」
吹き飛ばされながら驚きの表情を浮かべるー

「か、かいとーーー…!」
来瑠は”やっぱり海斗だった”と、思いながら
声を上げるー。

赤河が「お前…どこから…!?」と、驚いているのを横目に
黒河は無言で海斗の方に向かってくるー

「ーあんたの姿を、借りるぜー」
海斗が再び能力を発動したー

能力を知られたからには、
もう遠慮する必要はないー

”黒河”の姿に変身して、
その体格で、赤河と本物の黒河を圧倒するー

「ーーっっ…!」

黒河の姿をした海斗が、黒河に強烈なタックルを食らわせるーーー

吹き飛ばされた黒河はー
自分の義手が破損しているのに気付き、
表情を歪めたー

「ーーくそっ!だったらー、こっちもー」

赤河は、
自分の能力ー”不可視の領域(クラールハイト)”を
発動しようとするー

しかしーーー

「よせ!」
黒河がそれを制したー

気付けば、パトカーのサイレンの音が聞こえ始めているー。

「ー俺の能力があれば、”いつでも”
チャンスはあるー
ここは撤退だー」

黒河がそう呟くと、
赤河は「チッ」と舌打ちをしながらー
そのまま二人は、闇に溶け込むようにして姿を消したー

「はぁ…はぁ…」
変身を解除してその場で息を吐き出す海斗ー

「かいとー…」
安堵の表情を浮かべながら近づいて来た来瑠は、
自分を守ってくれた海斗に、改めて
感謝の言葉を口にしたー。

 

⑮果実ろあ

「い……つつ」

と。海斗が無事だったことに来瑠が安堵した瞬間、海斗が痛みに顔を歪めた。
よほど痛むのか、なかなか歩くことすら困難のようだ。

「だ、大丈夫? かいと」

「ああ、大丈夫だ。帰ろう、来瑠」

心配して問う来瑠に、海斗は心配かけさせまいと無理に笑顔を作って答える。
だが、来瑠にだってお見通しだった。
その言葉が、真実ではないことくらいは。

だから、来瑠は勢いよく海斗の服を捲る。
大きな背中に、見ているだけで痛々しく感じるほどの傷が刻まれていた。
先ほど路上に叩きつけられたときに、強く背中を打ったせいだろう。

「こ、これ……」

「あ、おい! そんなに心配しなくても大丈夫だ。別にこれくらい、ちょっと休んでれば――」

「だめ」

来瑠は一切引かない。
海斗の目を見据え、いつもよりも強い口調で海斗の言葉を遮る。
思わず気圧されそうになってしまっていると、来瑠は海斗の背中の傷口に手を翳す。
そして――。

「――玉の緒(テラスポース)」

静かにそう呟いた瞬間、傷がみるみるうちに小さくなっていき。
ほんの数秒程度で、元の綺麗な肌へと戻った。

「お、お前、それ……」

「どう? 痛みはもうない?」

来瑠に問われ、海斗ははっとする。
傷口が消えただけでなく、身体中の痛みが全て完全に消え去っていたのだ。
まるで、魔法のように。

だが、魔法としか形容できないような力のことを、海斗も知っていた。
否――身に覚えがあった。
そう。自分の”模写する外見(アピアランス・コピー)”と同じだ。

「もしかして、来瑠……」

「こうなったらもう、隠してはいられない、よね……。家、行こ? ちゃんと、話すから」

海斗はゆっくりと頷く。
二人で肩を並べ、帰路についた。

 

⑯無名

「そうだったのかー」
海斗は頷くー。

二人はお互いに普通の人間ではあり得ない”力”を持っていたー。

そう、二人は
数年前、壊滅した”夢見町”と呼ばれる町の生き残りだった。

そんなに規模の大きな町ではなかったけれど、
それでも、町の人間全員を認識しているほど、
小さい町でもなかったー。

そのため、お互いに面識はなかったものの、
海斗も来瑠も、数年前に壊滅した夢見町の事故で、
生き延び、こうして”能力”を身に着けたのだー。

未知の化学物質の研究を行っていた研究所の
大規模な事故ー。

それにより、あの町は壊滅、
住人のほとんどが死に絶えたー。

「ーーじゃあ…来瑠のお父さんとお母さんもー?」
海斗が聞くと、来瑠は静かに頷いたー

「そっかー。大変だったんだなー」

海斗もそうー。
あの事故で、両親も、妹も命を落としたー。

自分はたまたま学校帰りで寄り道をしていて
”研究施設”からある程度離れた場所にいたー。

そのため、化学物質の爆発事故が起きた際には
”ある程度”その爆発の中心地から距離があり、
こうして助かったのだー。

「ーーーー」

来瑠のことを放っておけないのはー
何となく、死んだ妹のことを重ねてしまうから、
なのかもしれないー。

「ーーー…俺の能力はー
他人に変身する能力ー。
変身対象は周囲の一定距離にいる人間じゃないといけないけど、
1回変身すれば、解除するまではその姿でいられるー。」

海斗がそう説明すると、
来瑠は「すごい…」と、感心しながらも
自分の”治療”の力を説明したー

「ーあの二人は
黒河と、紅河ー…
あの二人はー”事故を起こした研究施設”の研究員だった二人で、
わたしのこの力を狙ってるのー」

来瑠がそう言うと、
海斗は「なんで、来瑠の力を?」と、首を傾げるー

「どうしても、助けたい人がいるみたいー」
来瑠はそれだけ呟くー。

だが、彼女もそれ以上は知らない様子だったー。

「ーーーー」
あの二人が”助けたい人”を来瑠の能力で治療すればー、
命を狙われることはなくなるのではないだろうかー。

海斗は一瞬そんなことを考えるー。

しかし、未知の化学物質の影響で身に着けたこの力は
”使えば使うほど”寿命を蝕むー

それにー
何か、他にも理由があるのかもしれないー。

海斗はそんな風に思いながら
「ーー来瑠のことは、俺が必ず守るよー、約束する」と、
優しい言葉をかけるー

そんな言葉に、来瑠は安心した様子で
嬉しそうに頷くのだったー。

 

⑰果実ろあ

窓から、眩しい光が差し込む。
重たい瞼をこじ開け、視界に入ってきたのは――。

「……おはよ」

海斗の顔を覗き込む、来瑠の顔だった。
海斗が目を覚ましたことに気づき、来瑠の口元に笑みが浮かぶ。

「お、おはよ。早いな、来瑠」

言いながら、枕元に置いてあったスマートフォンで時間を確認する。
現在は、まだ午前の七時を過ぎたところだ。
海斗自身もなかなか早起きをしたほうなのに、それよりも早く来瑠は起きていたことになる。

「ん。早く起きるのは得意だから。それよりかいと、朝ごはんできてる」

「え……? 作ってくれたのか?」

「まあ……上手くはないかもしれないけど、お礼もかねて」

海斗はベッドから起き上がり、来瑠とともにリビングへ。
すると、テーブルの上には見ているだけで食欲がそそられるような朝食たちが並んでいた。
白米に目玉焼きに味噌汁。典型的な、絵に描いたような朝食だが、視界に入れた瞬間に海斗の腹から気の抜けた音が響き渡った。

が、しかし。
明らかに、量が異なっていたのである。
二人分のため、当然朝食も同じものとはなっているのだが……片方は一般的な量なのに比べ、もう片方は少なくとも三倍以上あった。

「じゃあ、食べよっか。かいと」

「待って、お前そんなに食べんの?」

「そうだよ? かいとも食べたかった?」

「いやそうじゃなくて……! いい、いい。俺の分まで増やそうとしなくていい!」

海斗のほうのお茶碗に更に白米を盛ろうとしている来瑠を、慌てて制止する。
深く溜め息を漏らし、そういえば……と昨日のことを思い出す。
確かに家に連れてきたときも、びっくりするほど大量に食べていた。
それほど太っているわけでもないのに、一体その華奢な身体のどこに入っているというのか。

治癒能力があることは聞かされたが、こっちのほうが凄まじい能力なのではなかろうか……と海斗は嘆息しながら。
来瑠の作ってくれた朝食に、舌鼓を打つのだった。

 

⑱無名

朝食を食べ終えると、来瑠が後片付けをしようとしたのを止めて、
海斗が「片付けぐらいは俺がやるよ」と、
使った食器類を洗い始めたー

”ーーー…ここにいれば、奴らはまた来るー”
海斗は、食器を洗いながらそう考えるー。

”俺の能力も知られてしまったし、
今度は同じ手はもう使えないだろうー”

どうすれば、この子を守れるだろうかー。
そもそも、この子はどうやって今まで暮らしてきたのかー。

「ーーそういえば、来瑠は今まではどこにー?」

親はあの事故で亡くなっていると聞いたー。
だが、流石にこの子一人だけで、今まで生きて来たー
と、いうことでもないだろうー。

「わたしはー…」

来瑠は、海斗の質問に答えるー

あの事故が起きたあと、
事故で親を失った子供たちが集まる施設が
各地に何か所か作られていて、
来瑠も、その施設の一つで、他の子供たちと共に過ごしていたのだと言うー。

確かに海斗もそんな施設の存在は聞いたことがあるー。

海斗自身はあの事故で家族を失ったあと、親戚のおじさんの元に
引き取られて高校卒業まではそこで過ごしたため、
その施設を直接見たことはないけれどー。

「でもー…あの二人に狙われ始めてー
そこにいたら迷惑をかけちゃうと思ったからー…」

来瑠は、その施設を飛び出し、一人、行く場所もないまま
彷徨っていたところ、海斗と出会ったのだと、そう説明したー。

「そうだったのかー」
海斗がそう言い放つと、来瑠は少しして立ち上がったー。

「それじゃ…かいと、本当にありがとうー」
そう、寂しそうに微笑みながらー

「え…?」
海斗は少し驚くー

「ここにいると、かいとも巻き込んじゃうからー
だからーーー…」

来瑠はそう言うと、
「かいとに助けて貰えてうれしかったー。
本当に、ありがとうー」と、頭を下げて
そのまま立ち去って行こうとするー。

だがーー、
海斗は、そんな来瑠の腕を優しく掴んだー

「かいと…?」
不思議そうに振り返る来瑠

海斗は、そんな来瑠に向かって、優しい笑顔を浮かべながら
静かに、口を開いたー。

 

⑲果実ろあ

「何言ってんだよ。お前を家に連れてきたときから、巻き込まれることなんてとっくに覚悟済みだ。今更、そんなこと気にしてんじゃねえよ」

「で、でも……」

海斗の言葉に、来瑠はそれでも陰りのある表情で俯く。
当然だ。今、来瑠の身に降りかかっている事態は、下手をすると命の危機に関わるようなもの。
自分だけであればともかく、いくら同じ出身とはいえ、元々全くの無関係だった人までそのような目に遭ってほしくはないのだ。

だけど、そんな来瑠の心情とは裏腹に。
海斗は更に言う。来瑠の顔をまっすぐ見据え、優しい声色で。

「それに、約束しただろ。来瑠のことは、絶対に守るって。それともお前は、俺を口先だけの嘘つきにするつもりか?」

「そ、そんなこと……。本当に、いいの? 何があるか、分かんないよ」

「当たり前だ。それが、友達ってもんだ。それが、家族ってもんだろ」

来瑠は、驚愕に目を見開く。
目尻が熱い。気がつけば、来瑠の視界がぼやけ始めていた。

友達。家族。
そう呼べる存在は、今よりもっと幼い頃に全て失くした。
それ以来、ずっとほしかったものだったのかもしれない。
自分自身でさえ、きっと気づかないうちに。

来瑠の頬を、透明な雫が伝う。
そして――海斗に勢いよく抱きつき、胸に顔を押しつけた。
まるで、泣き顔を見られないようにしているかのように。

「ありがとう……ぱぱ」

「……おい、せめてお兄ちゃんだろ」

「お兄ちゃんって呼ばれたかったの……?」

「やめろ、そういうことじゃない! 呼び方はいつも通りでいいから!」

そうして、どちらからともなく笑い出す。
海斗は、強く強く心の中で誓った。
この笑顔は、もう絶対に失わせたりしない、と。

 

⑳無名

”わたしたち、血は繋がってなくても家族だからね”

”二人のことは、わたしが守るからー。
だって、わたしはお姉ちゃんだもんー”

幸せだったー。
たとえ、本当の親の顔を知らなくても。
たとえ、生まれた直後に捨てられた捨て子だったとしてもー。

紅河と、黒河は、生まれてすぐに捨てられたー。
同じ親から生まれたのか、それとも違う親から生まれたのか。
それは、分からないー。

そんな彼らを拾ってくれたのは、幼い少女だった。

少女は、研究者である両親を説得し、
黒河と紅河の二人は、その家で家族同然の扱いを受け、育ったー

その少女の両親は仕事で留守にしがちだったため、
二人は、その少女ー…白夜(びゃくや)のことを
”白夜お姉ちゃん”と呼び、慕っていたー。

その絆は、二人が大きくなっても変わらずー
高校生になっても、本当の姉と弟のように育ったー。

けれどー
数年前ー
”あの事故”が起きたー。

白夜の両親も働いていた研究所で
研究中の未知の化学物質が漏れ出しー、
爆発ー、煙が街中を襲ったー。

「ーーーなんだ、あの煙ー!」

当時、紅河と黒河ー、そして白夜は外にいたー。

迫りくる煙から、できるだけ離れようとしたー。

けれどーーー
逃げきれなかったー。

その時だったー。

「ーーー」
二人が姉と慕う白夜が、二人に覆いかぶさるようにして、
二人を守ったー

「び、白夜お姉ちゃんー?」
紅河が驚いて言うー。

「ーだ、だめだよ!お姉ちゃん、死んじゃうよ!」
何の煙かは分からないー
でも、そんな気がしたー。

黒河も「やめるんだ!」と、叫ぶー。

それでもー、白夜は二人に覆いかぶさるようになったままー

”二人のことは、わたしが守るって約束したでしょー?
だって、わたしはお姉ちゃんだもんー”

白夜は、静かに、そう微笑んだー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

ピッー…

寝たきりのーー
ミイラのような状態の見るも無残な
”装置で生かされているだけ”の人物の前に、
黒河が立っていたー。

「ーーー大丈夫か?」
紅河が背後からやってきて声をかけるー。

「あぁ、問題ないー。義手は交換した」
海斗に破壊された義手の交換を終えた黒河がそう言うと、
紅河は”見るも無残な状態で横たわる人物”を見つめて呟いたー

「白夜お姉ちゃんーー
今度は僕たちが、お姉ちゃんのこと、守るよー」

紅河が悲しそうにその手を握るー。
生気のない、その手をー。

「ーーーーー」

あの事故で身に着けた能力は使えば使うほど、使用者の命を蝕む。
恐らく、来瑠が、白夜を治療するためにその力を使えば、
来瑠は、死ぬー。

だからこそ、来瑠に”お願いします”と平和的に頭を下げることは出来ない。
力ずくで、あの力を白夜に使わせるしかないー。

「ーーあんなやつ、どうなろうと知ったものかー
僕は、白夜お姉ちゃんさえ帰ってくればいいんだー!」

紅河がそう言い放つと、黒河は静かに頷いたー。

「彼女のためなら、他に何もいらないー」

たった一人のために、
全てを捨てる覚悟はできているー。

”白夜お姉ちゃん”は
きっとまた笑ってくれるー。

そう、信じてー。

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

昨日に引き続き、リレー合作の第2弾でした~!★

”何らかの事故などで大切な人を復活させようとしている”
ぐらいしか事前には決まっていない状態で
スタートしたリレー合作ですが、
意外と上手くまとまっていく(?)のは書いていて不思議な気持ちでした~!★

能力や、過去の出来事なども明らかになり、
物語は加速していきます~!

明日もぜひ、楽しんでくださいネ~!

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