”自分の魂”を他人に憑依させるリングー。
その力で、手始めに妹をー、
続けてクラスの憧れの子を”俺”にしたー。
しかしー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーおいおいおいーやめとけって!
最近、お前、調子に乗りすぎだって!」
陸斗が、彼女の愛優美に対して言い放つー。
愛優美は、男遊びを繰り返しー、
最近では学校の外の男とまで遊びまくっているー
「ーいやいやいや、だって気持ちは分かるだろ?
俺が杉森さんなんだぜ? 俺が愛優美なんだぜ!?
ヤリまくりたくなる気持ち、分かるだろ?」
愛優美が興奮した様子でそう言い放つー。
「い、いやーわかる!わかるけど!
でも、これ以上やりたい放題するのはやべぇって!」
陸斗がそう言い放つと、
愛優美は「いや、お前も”杉森 愛優美”になってみれば分かるって!」と
ニヤニヤと笑うー。
「ーーこの身体、すっげぇゾクゾクするんだよー…!
ヤッてる時ー、男じゃ味わないぐらい滅茶苦茶興奮するんだよー!
”俺”とヤルだけじゃ足りねぇー
男とヤッてヤッてやりまくるんだよ!」
愛優美のそんな言葉にー
陸斗は”俺の好きな杉森さんじゃなくなってしまったー”と、
悲しささえ覚えるー
キスすることができてー、彼女になってくれてー、
童貞を卒業できてー、
本当に最高だったー
でもー、
”俺の好きな杉森さん”じゃなくなってしまったー。
クラスでも悪評が立ち始めていてー
”杉森 愛優美”であって”杉森 愛優美”でなくなってしまっているー。
けれどー
”俺”も、杉森さんに憑依した立場ならー
やっぱり、性欲に溺れる気がするー…。
陸斗はそう思いながら寂しそうに表情を歪めたー
そしてーー
その様子を影から見つめていた女子生徒の存在に気付かぬままー
陸斗は愛優美と別れて、教室に戻るのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
妹の真桜の方も、厄介だー。
SNSで自分の過激なコスプレや、ギリギリの写真を投稿しまくった挙句、炎上しー
言い逃れのために”お兄ちゃんのせい”にしてきたのだー
「ー俺の性格、”俺”なんだから知ってるだろ?」
真桜が言い放つー。
「ーーいや、分かってるよー
俺だってたぶん、お前と同じことをしたと思うー。」
「へへへー
そうそうー。俺は何でも人のせいにする人間だからな」
ドヤ顔で言う真桜ー。
「ドヤ顔すんなよー…
本体を苦しめるなんて、”俺”の癖に酷いじゃないか」
陸斗がそう言うと、真桜は
「ーいやいや、俺は”俺が本体”だと思ってるし」
と、笑うー。
「ーーーー」
生意気な妹だったー。
でも、今の妹は、もう妹じゃないー。
もう一度、生意気な妹と話したいー
そんな風に、少しだけ思ってしまったー
「あ、”俺”!、今、本当の真桜と話したいとか思ってたんだろ?」
真桜がニヤニヤと笑うー
「え?な、なんで分かるんだよー!?」
陸斗が恥ずかしそうに言うと、
真桜は「分かるさー”俺”の考えてることぐらいー。”俺”なんだから」と、
言葉を口にしたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
「ーどういうこと?」
クラスの女子生徒ー…
愛優美の友達だった、樹里(じゅり)という子に呼び出された
陸斗は問い詰められていたー
「ーき、聞き間違えだよー何かの」
陸斗がそう言うと、樹里は「聞き間違えじゃない!確かに聞いたから!」と
声を荒げるー。
「ー愛優美ちゃんに、何をしたのー?
愛優美ちゃん、”俺”とか言ってたしー、
あんたも何か知ってる様子だった!」
樹里はー
先日の”陸斗と愛優美”の会話を聞いてしまったのだー。
”愛優美ちゃんが変わってしまったのは、コイツのせい”
そう思った樹里は、陸斗を呼び出し、直接問い詰めていたのだー
「ー妹さんのことでも、あんた、ネットで炎上してたよねー?」
不快そうに樹里が言うー。
あくまでもとぼける陸斗ー。
しかし、樹里は怒りの形相で言い放つー。
「愛優美ちゃんに何かしたなら、わたしは絶対にあんたを許さないし
絶対にあんたを懲らしめるからー」
とー。
陸斗は焦りながら「お、俺はー…俺は何もー」と、
言葉を呟くー。
このままだと”憑依”のことがバレてしまうー。
そんなことになればー
最悪”逮捕”とかされたりするのではないかー
そんな恐怖に支配された陸斗は
ポケットの中に入っていた”憑依リング”を指にはめたー。
そしてーー
「ーーー」
鉄砲のような形を作りー、それを樹里に放ったーーー
「ーーーぁ」
樹里がビクッと震えるー
冷や汗をかきながら陸斗が樹里のほうを見ると、
樹里は笑みを浮かべながら
「えへへへ…”俺”にしちまえば、問題ねぇー
なぁ、”俺”」
と、陸斗に対して語り掛けて来たー。
「ーーい、今…何してたんだお前ー!?」
「ーー!?!?!?!?」
樹里を”俺”にした直後ー
横から声が聞こえるー。
そこにはクラスメイトの男子が立っていたー。
「ーー!!!!」
”見られた”
陸斗は半分パニックになって、さらに自分の魂の分身を放ちー、
その男子生徒も”俺”にしたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーおいおいおいおいおい…」
半月後ー。
陸斗は、呆然としながら
テレビを見つめていたー。
”昨夜、遺体で発見されたのはー、
高校2年生の杉森 愛優美さんと判明しましたー
警察はネットを通じて知り合った男性、斎藤容疑者(29)を
殺人の疑いで逮捕しー”
「ーーー…嘘だろー…」
陸斗は、その言葉を絞り出すのが、やっとだったー。
陸斗の分身に憑依された愛優美が、死んだー。
愛優美の身体があまりにも気持ちよすぎて、愛優美は
ネットで知り合った男とも手当たり次第に、行為を繰り返しー、
最後にはトラブルになり、その命を奪われてしまったのだー
「ーーあ~~~あ~~…嘘だろー?」
妹の真桜も、苦笑いしながらテレビを見つめるー。
「ーー…お、お前もー…
す、杉森さんに憑依した俺みたくなるなよー?」
陸斗が震えながら言うと、
真桜は「しないしないーだって死んだらエロイことできないじゃん?」と、
笑いながら、言葉を口にしたー。
「ーーー……」
陸斗の震えは、しばらくの間、止まらなかったー。
それもそのはずー。
”自分のせいで”愛優美は死んでしまったのだからー。
「ーーー…ねぇ、大丈夫ー?」
母親からも心配される陸斗ー。
”愛優美が陸斗の彼女”だと知っている母親は、
愛優美の死のニュースを見て、
色々なことを聞いて来たー。
だがー、”憑依”がバレることを恐れた陸斗はー
反射的に、”母親”にも自分の分身を憑依させてしまったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ある日ー、帰宅すると、
妹の真桜と、母親が二人で抱き合ってキスをしていたー。
”俺”になった母親は家事をほとんどしなくなったー
多少はするのだが、
”かなり”いい加減だー。
まぁ、”俺”ならそうなるかー、と思いつつ
家の環境はどんどん悪くなっていったー。
「ーなぁ、お前は”母さん”なんだからちょっとは
母さんらしくしろよ!」
ある日ー
妹の真桜が、母親に対してそんなことを言い始めたー
「はぁ?俺だってどうせなら若い身体の方が良かったし!
母さんより、真桜の身体の方が絶対いいよなぁー」
母親がそんな反論をするー。
見るに堪えない言い争いー。
しかもーーー
異変に気付いた”父親”にまで分身を憑依させてしまい、
”俺だって働きたくない!”と言い始めて
もはや家庭は崩壊寸前だったー
「ーーーーー…大丈夫か?”俺”」
死んだ愛優美に代わりー、
今の陸斗には新しい彼女がいるー。
その相手は、樹里。
愛優美の友人だった女子で、分身に憑依された愛優美と陸斗の
会話を目撃し、問い詰めた際に、陸斗に分身を憑依させられた子だー。
「ーーーーーあぁ」
陸斗は疲れ果てた様子でそう呟いたー。
樹里は笑いながら
「樹里の身体で気持ちよくしてやろうか?」と、自分を指差すー。
だがー、陸斗は「いい」と、だけ答えたー。
「ーーおい!”俺”!
先輩に紹介してもらった男と遊んでたらそいつが
ストーカー化しちゃったからさ、
分身憑依させて黙らせてくれよ!」
妹の真桜が言うー。
結局ー、真桜も”愛優美”と同じように暴走しー、
男と遊び回っているようだー。
陸斗は言われるがままに
ストーカー化したという男に”憑依リング”で分身を憑依させるー。
「ーー頼むー。こいつの元カレがしつこいんだー」
今度は、樹里が頼み込んでくるー。
陸斗は”分身”を、樹里の元カレに憑依させ、
樹里の元カレを黙らせたー。
「ーなぁなぁ、”俺”の高校に可愛い子がいるんだけどー
こいつも彼女にしたいなぁ、なんてー」
真桜が笑いながら言うー。
真桜の通っている高校にどうやら可愛い子がいるようだー。
陸斗は死人のような目をしながら、
言われるがままに、真桜と共にその子の家に行きー、
その子も”俺”にしたーーー
だがーー
陸斗は、その場で口を開いたまま、座り込んでしまったー
「おいおい、どうしたんだよ?俺ー」
真桜が笑うー。
たった今、”俺”にされた真桜の友人の女子も
「はははー。なんだなんだ?」と、笑うー。
だが、陸斗は口から涎を垂らすと、
その場で意味不明なうめき声をあげたままー
まともな返事をしなくなってしまったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー”魂”を分けすぎたみたいだー」
妹の真桜が、そう言いながら、他の”俺”に事情を説明すると、
集まっていた”陸斗の分身”に憑依された人々が笑うー。
妹の真桜に、両親、現在の彼女となった樹里に、
真桜の友人の女子、樹里の元カレ、その他数名ー。
陸斗の分身に憑依されて、陸斗そのものになってしまった
者たちが、その場に集まり、”陸斗”の異変について
話し合っていたー。
うめき声をあげる陸斗ー。
そういえば、少し前から陸斗は妙に元気がない感じだったし、
最後はずっと、ぼーっとしている状態だったー
”自分の魂”を分けすぎて、
本体が薄れた結果ー、常に虚ろ目な、そんな状態になってしまったのだー
「俺、説明書読まねぇからな」
樹里が、笑いながら憑依リングの説明書を見つめるー。
そこにはちゃんと
”本製品による憑依は、自身の魂を分割する方法で憑依を行うため、
利用には細心の注意を払うようにしてください”と、書かれていたー。
その下には、”使用を繰り返すと、自分自身に甚大な影響を及ぼす可能性もある”
とー。
「ーーははは、やっちまったなぁ、俺」
妹の真桜が、涎を垂らしながら虚ろな目で笑っている
”陸斗”に声をかけるー。
「ーでもまぁ、さ、
コイツは”本体面”してたけど、可愛い身体を手に入れた
俺たちの方が優秀だし?」
樹里がドヤ顔で言うと、真桜は「確かに」と微笑むー。
陸斗の父親に憑依させられた分身はどこか不満そうに
「俺も女の子に憑依したかったなぁ」と、呟くー。
「ーははは、確かにー
お前は若さも失っておっさんだし、貧乏くじを引いたな!」
真桜の友達の女子が笑いながら言うー
「くっそー!俺に真桜の身体をよこせ!」
「ーいやだね!真桜とヤラせてやるからそれで我慢しろ!」
真桜が笑いながら言うと、
樹里は「おいおいー!父親と娘の身体でヤルのはまずいぞ!」と
ゲラゲラと笑ったー。
”本体”が廃人のようになってしまっても、分身たちは
お構いなしー。
それが、陸斗という人間だー。
何でも自分本位で、
自分の欲望が優先されるー。
そして、後先を考えないー。
そんな人間が、陸斗だー。
分身たちは、本体が廃人になってしまったことを気にも留めずー、
本体をゴミのように突き飛ばして”憑依リング”を奪うー。
リングを手にした真桜は
「これからは俺が使うぜー」と笑みを浮かべながら
他の分身たちに言い放ったー。
しかしー、
その後、真桜は悪い男たちと付き合い始めて
やがて、気づいた時には警察のお世話になっていてー、
憑依リングを真桜から受け継いだ樹里は、
本体と同じように、リングを使いすぎて”廃人”になったー。
陸斗の母親は男遊びを繰り返した挙句失踪ー、
陸斗の父親は、会社で働くことに耐え切れなくなり、自殺ー。
真桜の友人の女子生徒は、危険な夜遊びを繰り返した挙句、
変死体となって発見されたー。
陸斗の分身に憑依された者たちはー、
皆ー、欲望に負けて、悲惨は結末を、それぞれ迎えたのだったー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
本体がもうちょっと思慮深い人間だったら、
上手く、”自分”を増やして楽園のような
生活を送れたかもしれませんネ~!☆
今日もお読み下さり、ありがとうございました~!
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