卒業式当日ー、
何故か校長先生から呼び出された彼女は、
卒業式が終わったあとに、校長室へと向かうー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「卒業、おめでとうー」
卒業式ー。
同級生たちが、卒業証書を受け取っていく中ー、
今日、卒業を迎える生徒の一人、峯坂 皐月(みねさか さつき)は、
穏やかな表情でそれを見守っていたー。
複雑な家庭環境の中で育ちー
中学生時代はかなり荒れた生活を送っていた皐月ー。
しかしー皐月は高校入学と共に自分の生活態度を改めー、
名門高校に入学ー
今日、こうして卒業の時を迎えていたー。
元々”荒れた生活を送っていた”とは言え、
頭だけは良くー、
”設備が整っている”ことなどを理由に、
この高校への進学を選んだ皐月ー。
しかし、入学後は実際に素行を改めー
3年間、優等生として他の生徒の模範になるような生活を送り、
今日、無事に卒業を迎えたのだったー。
「ーーー峯坂さんー」
そんな皐月が、卒業式を終えて教室に戻ると
担任の先生から声を掛けられるー
「あ、はいー」
皐月が、普段と同じように丁寧に応じると、
担任の先生が「このあと、校長先生が校長室に来てほしいって」と、
言葉を口にしたー。
担任の先生は40代ぐらいの女性教師で、
皐月のこともとても高く評価してくれていたー。
「ーーー校長先生が?」
皐月は少し首を傾げるー。
怒られるようなことは全くしていないしー
学校の外で何か迷惑行為をしたような覚えもないー
校長先生から呼び出されるような思い当たることは全くないー
あるとすればー
何か改めて表彰されるーとか…そのぐらいだろうかー。
しかし、それなら卒業式の最中の、表彰のところで
言われているだろうし、その可能性も低いー
皐月が少し困惑した表情を浮かべていると、
担任の先生は「わたしにもちょっとよく分からないんだけどー」と、
担任の先生自体も事情を知らない、というようなことを口にしたー。
とは言えー、
断る理由はないー
教室での最後の話が終わり、解散となるー
クラスメイトたちとしばらく雑談を繰り広げた後にー
校長室へと向かい、校長室をノックするー。
”どうぞ”
中から校長先生の声が聞こえて、
皐月が「失礼します」と、丁寧に言葉を口にして
そのまま校長室に入室すると、
50代後半の男性の校長が「急に呼び出してすまないねー」と、
言葉を口にしたー。
一瞬、何か変なことをされるのではないかと、皐月は
そんな警戒心を覚えてしまったものの、
すぐに”それもない”と、頭の中で思うー。
校長先生は、この学校の評判を何よりも気にしていてー
そのような問題を起こすことなど、
絶対にありえないタイプの人間だからだー。
すぐに皐月が、少し不安そうに
「あの…お話ってー」と、言葉を口にするー
すると、校長先生はイスに座り、
皐月にも反対側の椅子に座るよう、促したー。
「君がこの学校に入学してきたときは、心底驚いたよー」
校長先生は、ある意味感心した、というような様子で
3年前のことを思い出しながらそう呟くー
「ーあ、あはははー…なんだか、お騒がせして申し訳ありませんでしたー」
皐月が苦笑いを浮かべながら言うー。
確かに、中学時代までの自分は自分でも”クズ”だったと思えるぐらいには
ワルでー、そんな自分がこの名門校の受験を突破してしまったー、というのは
心底驚いただろうー。
当時、面接のときだけは猫を被りー、
成績自体は”悪さはしているけど元々優秀”だったため、
内申点が低い皐月も、ギリギリこの高校に受かったのだー。
そして、入学直後”本性”を露わにした皐月は
大問題となりー、
”改心”したー。
「ーー3年間ー
”うちに”在籍している間、問題を起こすことなく
卒業してくれて、本当によかったー」
それだけ言うと、校長先生は、ペンライトのようなものを
机から取り出したー。
「ーーー……?」
皐月が首を傾げると、校長先生はそれを皐月の両側に当てるー。
別に、眩しいライトではなかったが、
その行動の”意味”は皐月には理解できなかったー
「うん。これでいいー」
校長先生はボソッと呟くと、
カレンダーを見つめながらーー”うん”と、もう一度呟くと、
「ーー悪かったね。話は以上だ。これからも、頑張りなさい」と校長先生は
静かに言葉を口にしたー
「あ…え??も、もういいんですか?」
皐月が首を傾げるー。
”何のために呼ばれたのか”
ますます意味が分からないー。
しかし、校長先生は「毎年、こういう風に何人かー…
そう、特に問題を起こした子を呼んで、話をしてるんだ」と、笑いながら言うだけで
それ以上は説明しなかったー
入学したばかりの頃に問題を起こしたことを今一度、
心底申し訳なさそうに謝罪すると、皐月はそのまま校長室を出て
校舎の外に向かって歩き出したー
「ーーーーーー」
校長室に一人残された校長先生は、
ペンライトの横に表示されている小さな数字を見つめるー。
そして、カレンダーを見ながら今一度何かを計算するー
”ーー4月1日になったらーもう君は”我々の生徒”ではないー
後は好きにしたまえー”
4月1日になればー
彼女は”元に”戻るー
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4月1日ー
朝、目を覚ました皐月は呆然としていたー。
あまりに”恐ろしい事実”を知ってしまったからだー
「え……う、うそ…?」
ここ3年間ーずっと穏やかだった皐月の表情が歪むー
「はぁ…???? は…???? え???
はぁ…???」
怒りに満ちた表情を浮かべながら何度も何度も
不満の言葉を口にする皐月ー
それもそのはずー
皐月は、高校生の間ずっとー
”洗脳”されていたのだからー
「は…… 何なの…?
これが…あたし…?」
優しい笑顔を浮かべているクラス写真が机に飾られているのを見て、
苛立つ皐月ー
もちろん”この写真を撮影した時のこと”は覚えているー
だがーー
「うああああああああああああ!!!!」
皐月は怒り狂ってその写真をビリビリに破り捨てるー。
綺麗な黒髪の、穏やかな服装の自分の姿がー
鏡に映り、皐月の怒りはさらに膨れ上がっていくー
「あ、あたしー…何でこんな格好してー…
ふ……ふっざけんな!!!」
皐月は鏡の中の自分にも苛立つー
「ーーー………」
怒りの形相で髪をぐしゃぐしゃにすると、
身なりを整えてから、
今日、初日を迎えるはずだった大学には向かわずに、
そのまま皐月は高校に向かって歩き出したー
”3年ぶりに正気を取り戻した皐月”には、
我慢ならなかったー
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バン!!!!
校長室の扉が乱暴に開くー。
派手なスカートに派手なメイクでやってきた皐月ー
3月に卒業した時とは”まるで別人”ー
だが、校長は驚かなかったー
「ーどうやら”正気”に戻ったようだね」
校長先生の言葉に、皐月は怒りの形相で
「あたしに何をした!」と叫ぶー
”高校生”だった皐月が先生にこんな口の利き方をすることは
一度もなかったー。
だが、今の皐月は躊躇いもなく、校長先生に
敵意を剥き出しにし、乱暴な言葉を投げかけているー。
「ーー”洗脳”」
校長先生はそう呟いたー
「せ、洗脳…?」
思わず表情を歪める皐月ー
「そう、君のような落ちこぼれが何の間違えかー
我々のような名門高校に入学してしまったー
だが、落ちこぼれを野放しにしておいたら
わが校の名誉に傷がつくかもしれないー
だからー
君を”洗脳”して優等生にしたー。
3年間、君は実にいい子で過ごしてくれたよー」
校長先生が笑うー。
入学直後、早速クラスメイトと喧嘩をした皐月は、
校長によって”洗脳”され、それ以降、
”自分の意志で改心した”と思い込んで優等生として
振る舞ってきたのだー。
「ーーだが、今日を持って、君はうちの生徒じゃなくなったー
在籍は3月31日までだ。
もう君は”無関係の不良女”だー」
校長先生が見下すようにして言うー。
「テメェ…!」
皐月が怒りの形相で叫ぶと、
「そんな言葉遣い…やはりきみは落ちこぼれだな」と、笑みを浮かべる
校長先生ー。
「ーーーあ、あたしを…くそっ!あたしの3年間を返せ!」
皐月が怒りの形相で叫ぶー。
”3年間”自分が何をしていたのかはハッキリと覚えているー。
”昨日までは”何の疑問も抱かなかったー
だがー、今日”洗脳”が解けて初めて分かったー
高校生活3年間の自分は、”自分の意志で過ごした3年間ではなかった”
ということにー
「ーー君みたいな落ちこぼれが優等生になれたんだー
素晴らしいことじゃないかー。
それを君は、自ら壊すのか?」
校長が笑うー。
「ーふ…ふざけんな…!こんなの…こんなのあたしじゃない!」
行事の際に撮影して、家で飾っていたクラス写真を
校長先生の机に叩きつけながら怒りの形相で叫ぶー。
「ーーそれは、君だよー
今の君なんかよりも、はるかに優秀なー、ね」
校長先生の言葉に、皐月はさらに怒りを膨らませていくー。
「ーーこの特殊なライトを使えばー、人を洗脳することなんて
たやすいー。
まぁ、”数には限りがある”しー、
1本あたり一人しか洗脳できないからー
いつも、君みたいな落ちこぼれが我が校に入学してきたときだけ使ってー
卒業したら、いつも洗脳を解除しているがねー」
校長先生がそれだけ言うと、皐月は校長先生の胸倉を乱暴に掴んだー
涙目で「ふざけんな」と、叫びー、
校長を睨むー。
「ーー我が校の名誉のためー
それに、君のためでもあるんだよー。
3年間ー君は立派な優等生になったー。
自分が何をしてたかも、覚えてるはずだー。
それなのに、また君は”落ちこぼれ”に戻るのかい?」
校長がなおも笑いながら言うー。
「ーけ、警察にいいつけてやる!」
皐月がそう叫ぶー。
しかし、校長は首を横に振ったー
”校長先生に洗脳されました、なんて誰が信じると思う?”とー。
「ー今までにも、君の前に”4人”、我が校に入学してきた落ちこぼれを
洗脳したことがあるがー、
みんな、正気に戻ったあとも自分の変化を受け入れて
今は4人とも真面目にやっているよ」
校長がそれだけ言うと、皐月は「ざけんじゃねぇ!」と叫びながら
校長を蹴り飛ばしたー
「あたしの生き方はあたしが決める!
あんたなんかに…あんたなんかに決められてたまるか!
あたしの人生をー返しやがれ!」
怒り狂う皐月ー
だが、校長先生はため息をつくと、
「このペンライトー、1本いくらすると思ってるんだよー」と
不満そうに小声で呟いたー。
”1本あたり一人しか洗脳できない”
卒業後に”洗脳を解除している”のはそのためー。
卒業後も皐月を洗脳し続けることは出来るが、
それをすれば”その1本のペン”は、皐月のために永遠に使い続けることになるー。
「ーーあたしを弄びやがって!
ふざけんな…!ふざけんなよっ!」
3年間ー
”優等生”に無理やりさせられた皐月は怒りが収まらずに
校長に対して怒鳴り散らすー。
しかしー
校長は笑みを浮かべたー
「ー”やめておきなさい”」
と、力強く言うー。
「これが、最後の警告だー」
とー。
「ふ、ふざけんな!人を洗脳してー、
何が最後の警告だよ!
あたし…あたし………!」
怒り狂って言葉すら失う皐月ー
「ー優等生の君の方がずっとよかったー
今の君はー”クズ”だー」
校長が見下すようにそう言うと、
皐月は怒りの叫び声をあげながら校長を殴ろうとしたー
がーー
「ーーー!!!!」
ペンライトを皐月に向ける校長ー
「やっぱり、君はバカだねー
流石は落ちこぼれだー。
君を今まで洗脳してきた私ならー
”またいつでも君を洗脳できる”
そのぐらいのことも、分からなかったのかね?」
校長が言うと、皐月は虚ろな目になって
その場に立ち尽くしたー
「さぁ、また真面目な君に戻りなさい」
校長がそう言うと、皐月はとたんに顔から怒りを消して
「はい…」と呟くー
「それとー…
君のせいで、このペンライト1本はー今後君のためにずっと
使い続けなくてはならないー」
校長は不快そうに呟くー。
皐月が大人しく”卒業”しててくれれば、
そんなことにはならなかったのにー、と思いつつー。
「ーーだから、君にはその分、これからは
私にたっぷりご奉仕してもらうよー
私のメイドとしてー」
校長先生がイヤらしい笑みを浮かべると、
皐月は「はい…ごしゅじんさま」と、校長先生の前に
跪いたー
にやりと笑みを浮かべる校長ー
この後ー
皐月はすぐに実家を出て、一人暮らしを始める、という名目でー
校長の家に住み着き、そこから大学に通うようになったのだというー。
おわり
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コメント
ギリギリ卒業式シーズン(?)に、
卒業モノをひとつ、作ってみました~!
1話完結のシンプルなお話ですが、
楽しんでいただければ嬉しいデス~!
ありがとうございました~!
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