<憑依>おじさんリベンジ③~復讐の果て~(完)

復讐のために憑依を使う男。

美人局に引っかかって、地獄を見た彼は、
その10人に逆に地獄を見せようと、憑依を続けるー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー」
自宅で、ホワイトボードに貼り付けた10人の写真を
見つめる幸助ー

写真は、それぞれのSNSなどから入手したー。

既に6人には罰がつけられているー。

「ーーふざけやがってー」
ギリッと、唇を噛む幸助ー。

幸助は、まもなく40歳ー。
これまで、それなりに無難な人生を送って来たー。
何も法律に触れるようなことは今まで一度もしてこなかったし、
恐らくあの日、美人局に引っかかるようなことがなければ、
こういった行為に走ることもなかっただろうし、
それなりに”普通”の人生を、そのまま終えたはずだったー。

あの日ー、梨奈が美人局ではなく、普通の女性であれば
普通に食事だけ済ませて、幸助は普通に帰宅して、
次の日も普通に出勤していたのだろうー。

だが、梨奈は悪女で、幸助は梨奈の仲間の9人に
散々痛めつけられたー。
ネット上に情けない姿まで晒されて、
挙句の果てに住所まで突き止めるようなやつも現れたー。

幸助の人生は、色々な意味で壊れてしまったー。

浩明、健一、萌奈、梨奈ー。残りは4人。

「ーあの女は逃げたみたいだがー、
 まぁ…あいつは最後だー」

梨奈のことを思い出しながら幸助は笑うー。

実は既に”昨日”梨奈が逃げ出そうとしていることに気付いた幸助は
梨奈に一度憑依しているー。

梨奈の身体で、梨奈のスマホの中に追跡アプリを
”自ら”ダウンロードして、すぐに梨奈を解放したー。

”どこへ逃げようとも”梨奈の居場所を追跡するためだー。

梨奈自身は電車で移動中だったからか、単に寝落ちしたぐらいにしか
思っていない様子だったし、ちょうどいいー。

「お前は最後ー。
 まずはお前以外の3人に生き地獄を味合わせてやるぞー」

・・・・・・・・・・・・・・・・

その日の夜ー

「ちょ…ちょっと!何してんの!?!?!?」
悲鳴を上げる萌奈ー。

”魔女”の異名を持ち、男を誘惑することに快感を覚える
スタイル抜群の彼女だったが、
そんな面影を感じられないほどに、萌奈は困惑していたー。

「ーへへへへへへー”復讐”だよー」
いつもガムを噛んでいる茶髪の彼氏・浩明は
ガムを吐き捨てると、片目から血を流しながら
笑みを浮かべていたー

「ーーただ死なせるだけじゃ、大した復讐にはならないー
 地獄とか、天国とかさ、そういうのがあるのかは知らないけど、
 俺は、そういうの、ないと思ってるんだー。
 死んだら人間は等しく土にかえるー。それだけだー

 だから、憑依して死なせちまったらー…
 ”怖い”のは一瞬だけだろ?
 それじゃあ、つまらないー」

浩明の言葉に、萌奈は「な、何言ってんのよ!」と、叫ぶー。

そして、すぐに救急車を呼ぼうとするも、
突然、浩明がその場に倒れ込んだー

「ひっ…!?浩明?!」
呆然とする萌奈ー。

浩明の身体から、幸助が抜け出したのだー。

そしてー
今度は萌奈に憑依する浩明ー。

「ーくくくく…お前もボロボロにしてやるー」
萌奈は邪悪な笑みを浮かべると、
自分の耳を見つめて、ニヤリと笑みを浮かべたー。

萌奈に憑依ー
浩明に憑依ー
萌奈に憑依ー
浩明に憑依ーーー

それを繰り返すー。
二人はもはや、何をされているのかも分からないままー
気付けば、病院にいたー。

「ーーう…な、なんだ…何も見えない…!なんだよこれ…!」
意識を取り戻した浩明は、悲鳴を上げるー。

憑依された浩明は、自分の目を傷つけてー
さらには、アソコを切断した状態で発見されたー。

重症の状態ー。
だが、死んではいないー。

「ーーおい!何だよ…おいっ!うあああああああ!」
視力を完全に失った浩明が悲鳴を上げるー。

一方の萌奈は、目は見える状態で目を覚ましたー

だが、音が何も聞こえないー。
耳のあたりには包帯が巻かれていてー
さらには、腕は見るも無残な状態になっていてー
医師は筆談で”残念ながら手はもう使えない”と、萌奈に伝えたー。

さらにはー
顔には、医師から”永遠に消えない火傷の傷”を負ったことを知らされー、
自分の美貌に自信を持っていた萌奈は、
”自分では聞こえない”悲鳴を上げて、泣き叫んだー

”ーー殺すなんて生ぬるいー。
 俺の復讐は”生き地獄”だー。”

幸助はそう囁くと、
そのまま自分の身体に戻り”梨奈”の居場所を確認するー

隣町のビジネスホテルに宿泊しているようだー。

”身を隠しているつもりかー
 まぁ、そろそろ身体を壊してやったあの二人のことも
 知るだろうし、もっとビビるんだろうなー”

だが、奴は最後だー。
その前に、梨奈の彼氏である赤い髪の男にも復讐を済ませておこうー。

幸助は、そんな風に呟くと、静かに笑みを浮かべたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おい…なんなんだよコレ…!
 おいっ!!!!」

数日後ー
梨奈の彼氏で、赤い髪の男・健一は悲鳴を上げていたー。

”いつの間にか”
莫大な借金を抱えていて、裏社会組織から”金を盗み出した”
そんな状況になっていたー。

このあたり一帯を支配する裏社会組織・銀狼(ぎんろう)の
構成員に追い回される健一は、悲鳴を上げるー。

”俺たちからパクッて、ただで済むと思うなよ”
”借金共々、返してもらうからな!”

”中途半端なワル”である健一とは違い
”本職のワル”たちである銀狼ー。

銀狼の構成員に追いかけ回されながら、
健一は、泣きべそをかき始めるー。

「どうして…どうしてこんなことに…!
 誰か、誰か助けてくれぇ!」

”憑依”で裏社会の連中から
狙われる状況を作り出した幸助は、
無様な健一の姿を見て、笑みを浮かべたー

そのうち、銀狼の構成員らに殺されるかもしれないが
そんなことは知ったことではない。

そして、ついに残りは”梨奈”一人になったー。

だがーーー
自分の身体に戻った幸助は、「えっ!?」と、
表情を歪めたーー

家の中にーーー
見覚えのある女がいつの間にか
入り込んでいたのだー

「ーおはよ」
梨奈が不気味な笑みを浮かべるー。

「ー!?!?!?」
幸助が驚くと同時に、梨奈は幸助の首を絞めて来たー

「がっ…!?!?!?」
幸助は、何をすることもできないまま、
梨奈に首を絞められてしまうー。

咄嗟に、力づくで梨奈を振りほどこうとしたー。

がー、手も足も動かないー

「ーー!!!」
いつの間にか、縛られているー。

「ーやっぱり、あんただったんだー」
梨奈が笑うー。

「ーーわたしの彼氏も、友達も、みんな滅茶苦茶にしたのー
 あんただったんだ!」

ホワイトボードのほうを見つめながら梨奈が言い放つー

幸助は「な…なんでーここがわかった!?」と、
苦しそうに叫び声を上げるー。

「なんでって?」
クスッと笑う梨奈ー。

「だって、あんたー
 あの日、わたしたちにネットに晒されてから、
 ネットで住所も晒されてたじゃない?
 だから、ここに来るのは簡単だったのーふふ」

梨奈の言葉に、幸助は「くそっ!」と、叫ぶー。

梨奈は逃げ出そうとしていたのではなく、
幸助を殺そうとー…あるいは痛めつけようとここに
やってきていたのだー

「ーー約束通り、美味しいデザートのあるお店ーー
 案内してあげるー」

梨奈が狂気に満ちた笑みを浮かべながら言うー。

あの日、幸助は梨奈から
”美味しいデザートのあるお店に”と、誘われて
ボコボコにされたことを思い出すー。

梨奈はその時の言葉を皮肉を込めて言いながら
今一度、笑ったー。

「美味しいスイーツのあるお店は、天国にあるのー!
 ふふっ…
 だから、行ってらっしゃい」

梨奈はそう言うと、幸助の首を絞める手に、さらに力を籠めるー。

だがー
幸助は、苦しみながらもニヤッと笑ったー

”馬鹿かこの女ー
 まぁ、俺の力が”憑依”などとは、夢にも思ってないんだろうなー”

内心でほくそ笑む幸助ー。

”幸助が身体に戻って来る前に、幸助の身体を殺されていたら”
大変だったー。
だが、梨奈は幸助が目を覚ますまで、何故か律儀に待っていたー。

”俺のことを寝ているとでも思ってたのかー?
 それとも、憑依のことを理解しているのかー?”

梨奈が”抜け殻”状態の幸助を始末しなかった理由は分からないー。
しかし、少なくとも”幸助の力”のことを、ハッキリとは理解できていないと見たー。

なぜならー
”幸助の憑依”を正しく理解していればー、
幸助が帰ってくるまで待つなんて、馬鹿な真似はしないはずだからだー。

”無駄だー…!”
幸助はそう思いながら、幽体離脱をするー

幸助の身体がぐったりするのを見て、
梨奈は幸助が死んだと思ったのか、笑いながら「ざ…ざまあみろ!」と叫ぶー。

既に9人の仲間が死んだり、人生を破滅に追いやられたりして、
梨奈は正気を失いかけているのか、その場に座り込んで笑い出すー。

しかしー
幸助は死んではいなかったー…

「くくくくくく……俺はここにいるんだなぁ…これが」
幸助はそう呟きながら、梨奈の真後ろで笑みを浮かべるー。

当然、梨奈には”幽体離脱”した状態の幸助の姿は見えていないし、
幽体離脱した幸助の言葉は聞こえていないー。

「ーーーさぁて、お前のことはどうしてやろうかー」
幸助はそう呟くと、静かに笑みを浮かべたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー」

「ーーーーーーーー!!!!」

梨奈が目を覚ますー。

「あ、あれ…わ、わたし…?」

”あのおっさんを殺したはず”だったのにー
そのあと、急に意識が飛んで、

それでー……?

「ーーーーー!!!!!!」
梨奈が表情を歪めるー。

そこにはー
”倉山 梨奈”と書かれた身分証が置かれていたー

「は…?な、なにこれー?」
その身分証は、間違いなく梨奈のもので、
梨奈の顔写真つき、とても偽造されたものとは思えないー

だが、”倉山”は梨奈の苗字ではないー。
梨奈がたった今、殺したはずの”おっさん”の苗字だー。

「ーーふ…ふざけないでー」
梨奈が怒りの形相で呟くー。
こんなやつの姓を名乗らされるなんて、あり得ないー。

「ーー…!」
ふと、周囲を見渡すー。

そこはー、
梨奈の家ではなく、梨奈からすれば憎き男ー、幸助の家だったー。

幸助の命を奪ったあと、寝てしまったのだろうかー。

そんな風に思って、ふと、梨奈の身分証明書の横に
もう1枚、書類が置かれていたー。

その書類には
”婚姻届”と書かれているー。

日付は、数か月前ー。

「ーーー…!?!?」
梨奈が表情を歪めるー

そこには、梨奈の名前と、幸助の名前が書かれているー

「ーーえ…」
ふと、カレンダーを見ると”2か月”経過しているー

梨奈が困惑しながら後ろを振り返るとー
そこには、幸助の姿があったー

「ーーー!!!!」
梨奈が思わず軽く悲鳴を上げるー

「あ、あんた…なんでー」
梨奈が呆然としながら言うと、幸助は笑みを浮かべたー

「ーおはようー。
 俺の妻になった気分はどうだ?」

「ーつ…つ…妻!?」
梨奈が呆然として叫ぶー

「あぁ、そうさー。
 お前に憑依して、お前の身体と俺の身体を交互に使いながらー
 婚姻届を提出してー
 俺とお前は”結婚”したのさー」

そう言いながら”婚姻届”を提出しに行った際の”憑依された梨奈”の
自撮りを見せ付けるー。

「ーー…は…? な…なにそれー…?」
梨奈は震えるー

幸助はあのあと、梨奈に憑依して
梨奈の身体と自分の身体を行き来しながら、
”勝手に婚姻届”を提出して、梨奈と結婚したー

身分証も、勝手に結婚後のものに作り替えたー。

梨奈の身体から抜けている最中も、
梨奈を失神させたままにしておく方法も、見つけたー。

幸助は梨奈と自分の身体を行き来しながら
”一人二役夫婦”として、生活しているー

「ー俺をあざ笑った復讐だー
 お前は永遠に俺の妻でー
 これから、俺の子供も出産してもらうからなー」

「ーーな…な…何を…言ってー…?」
梨奈は怯えた表情を浮かべるー

「ーお前は一生解放しないー
 俺の”妻”として、永遠に俺に尽くすんだ」

幸助が憎しみに満ちた表情で梨奈を見つめるー

逃げ出そうとする梨奈ー。

しかし、幸助は笑いながら言い放ったー

「次は”妊娠してお腹が大きくなったころ”に
 一度意識を戻してやるよー

 それまで、おやすみー」

その言葉と共に、梨奈の意識は途切れたー。

復讐は、終わったー。
梨奈に憑依した幸助は、鏡を見つめるとニヤッと
笑みを浮かべて、満足そうに”2つ目の俺の身体”となった梨奈の身体で、
そのまま外へと出かけていくのだったー。

そんな、幸助の家の表札には、
”倉山 幸助” ”倉山 梨奈”と、
”夫婦そろって”名前が刻まれていたー

おわり

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コメント

復讐の完結…★!

復讐の果てに一緒に破滅するエンドも候補にありましたが
今回は復讐をきっちり完遂するエンドにしました~!

…書き終えて思ったのですが
あんまりおじさん要素がなかったですネ~!
(若い男の人でも大丈夫そうでした笑)

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    梨奈は自分達を滅茶苦茶にしてる犯人を特定するとこまでは、よかったですが、相手が憑依能力を持ってることを理解してなかったのが、致命的な敗因になりましたね。

    一人二役の夫婦になる結末は予想外でした。
    予想では一番憎い梨奈の身体で新しい人生を送る展開になりそうだと思ってたので。

    それにしても、いくら復讐のためとはいえ、自分で目を潰したりして自傷してるとこに憑依人の凄まじい狂気を感じますね~。他人の身体とはいえ、憑依中に自傷すれば、当然、憑依人もその痛みを味わうことになるでしょうし。正気なら、普通とても出来ませんよね。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!

      最後の結末は、今回はあまり見ない結末になるように
      色々考えてこうなりました~!★

      憑依人の彼は、強い憎しみに支配されているので、
      痛みお構いなしで(どうせ憑依から抜け出せば痛みもすぐに消えるし…みたいな考えで)
      凶行に走っていました~!★!

  2. 匿名 より:

    妊娠してお腹が大きくなったころに、意識を戻した梨奈がどんな反応を見せるのか、とても気になりますね〜!

    いつかこの続きの話をやる予定はないのでしょうか?

    あと、人生を壊された他の被害者達のその後も気になります!
    余りの惨状に、精神崩壊で廃人状態になってるような被害者もいそうですよね。

    • 無名 より:

      ありがとうございます~~!★!!

      被害者たちのその後も少し描こうとしたのですが
      今回はテンポの都合上、割愛しました~!

      でも、そのうち後日談を描くのは面白そうですネ…!