入れ替わり相手を探す”入れ活”が
当たり前のように行われている時代ー。
そこで働く彼女の元に
やってきたのはー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「俺、美月の”元カレ”なんですー」
入れ替わり相談所にやってきた男・修平がそう言葉を口にすると、
美月は表情を歪めたー。
「ーあはは…そうだったんですねー…
なんだかすみませんー」
美月は少し気まずそうにそう言うと、修平は「いえー」と、だけ言葉を口にしながら、
「ーー少し懐かしい気持ちになっちゃいましたけどー、
俺の方こそ、入れ替わっている可能性を考えずに、失礼しましたー」と、
礼儀正しくそんな言葉を口にしたー。
それ以降は、”普通に”入れ替わりの相談を続ける二人ー。
がーーー
修平の相談が終わり、修平が帰ったあと、
美月は自分の手を見つめながら表情を曇らせたー。
「ーー…手が震えてるー…」
美月は、まるで何かに怯えるかのように手が小刻みに震えているのに気づくー。
それに、手汗もびっしょりだー。
「ーーーふぅ」
手を洗いながら、美月は呟くー。
”いい彼氏じゃなかったってことねー”
とー。
”入れ替わった後”も、元の身体の持ち主が”強いトラウマ”や”恐怖”を
抱いていたものに遭遇すると、身体がわずかに反応することがあるー。
その現象が”美月の身体”にも起きたのだー。
”あの人が帰るまで、ずっとだったからー…
きっと、何かイヤなことがあったんだろうな…”
美月は、そう思いながらも、
事務所の方に戻ると、
所長の幸則が言葉を口にしたー。
「ーーー”入れ替わり記録”はなかったよー」
とー。
今日、相談を始める前に、美月は
所長の幸則に元同期である”涼子”の入れ替わり記録の参照を
お願いしておいたー。
しかし、幸則が調べた結果、
入れ替わり記録は残されていなかったー。
「ーーーーそうですかー…」
美月は少し安心した様子でそう言葉を口にすると、
幸則は「ただー」と、少し困惑した様子で言葉を続けたー。
「涼子ちゃん、うちを辞めてから、
一度も”血液検査”を受けてないみたいなんだー。
健康診断を受けた記録もない」
幸則がそう言うと、美月は表情を曇らせたー。
入れ替わりを経験したことのある人間は
”血液中”にある反応が現れるー。
健康上には全く影響のない反応だが、
それで、入れ替わり経験者かどうか、判断することができるー。
もちろん、入れ替わった回数までは血液からは分からないものの
その身体が”一度でも入れ替わりを経験しているかどうか”は
血液から分かるのだー。
”涼子”の入れ替わり回数は少なくとも、”記録上”は”0”ー
つまり、”本来であれば”血液には何の反応もないはずだー。
だがーー
もしも”違法入れ替わり”によって中身が入れ替わっているのだとすればー、
”血液に反応が出る”ー。
このことを知らずに、”違法入れ替わり”で身体を奪った人間が
普通に健康診断を受けて、
”入れ替わり歴”から、違法入れ替わりが発覚するケースも稀にあるー。
涼子が3年前から健康診断を受けた記録がない、ということはー…。
「ーー…違法入れ替わりの可能性も否定できない、ってことですかー?」
美月がそう言うと、
所長の幸則は頷くー。
「ーー健康診断を避けてるということは
”何か知られたくないこと”があるからだと思うんだー。
まぁ、もちろん、ただ単に彼女が面倒臭がってるだけの可能性もあるけどー」
幸則はそう呟くー。
だがー、美月は思うー。
”涼子は、健康のこと結構気にしてた気がするー
その涼子が三年間も健康診断を受けてないなんてー”
そう思いながら、美月は「ありがとうございます」と、
言葉を口にすると、
そのまま自分の机に戻って、事務仕事を始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・
「ーーあ、もしもしー、涼子?
わたしだけどー」
一時的に同居していた頃とは、連絡先は変わっていたものの、
”入れ替わり相談所”にやってきた際の記載を元に、
涼子に連絡を取った美月ー。
”ーふふ、どうしたの?こんな時間にー”
涼子(津田)が、そんな言葉を口にするー。
「ーー今日ねー、
”相談所”としての仕事で、これまでの入れ替わり歴とは確認してたんだけどー」
美月はそう言うと、
「涼子、ここ3年、健康診断受けてないんだねー?」と、
探るような言葉を口にしたー。
”あははー、その結果がこれだよー
身体、ボロボロになっちゃって”
涼子(津田)はそう言うと、
”早く健康な身体が欲しいのー。この見た目なら病気でも需要はあるでしょ?”
と、再び、入れ替わり相談所に来た際に言っていた言葉を口にしたー。
がー
美月は呟くー。
「ー”血液検査”ー受けたくないの?」
と。
かなり踏み込んだ探りを入れる美月ー。
”ーー何が言いたいの?”
涼子(津田)が不満そうに呟くー。
「ーーー…涼子のこと、みんな心配してるのー。
涼子ーーー
ちゃんと、”中身”も涼子だよねー?」
美月がそう確認すると、
涼子(津田)は、”クスッ”と、笑ったー。
”ーーーもちろんー”
とー。
”違法入れ替わり”は、調べることはできないー。
もう、”本物の涼子”は、この世にいないー。
そんなこと、分かりっこないのだー。
「ーーーーーーうん。信じるー」
美月はそれだけ言うと、言葉を続けるー。
「ーそれと、涼子ー
”入れ替わりのマッチング”数件あったから
相談所にまた顔を出してくれる?」
美月の言葉に、涼子(津田)は”ふふー。流石わたしの身体ー”と、
満足そうに言葉を口にすると、
”ー明後日って空いてる?”と、涼子(津田)が確認してきたー。
「ーうん。空いてるよー」
美月は電話をしながら、眼前にモニターのようなものを表示させるー。
この時代の”スマホ”にあたるものは、
もはや”物理的”には存在しないー。
いつでもどこでも”起動”できるのだー。
「ーえ~っと、明後日は15時と17時が空いてるけど、
どっちがいい?」
美月の言葉に、涼子(津田)は”じゃあ17時で”と、そう言葉を口にしたー。
「ーうん。じゃあ待ってるー」
美月はそれだけ言うと、軽く挨拶を交わして
通話を終了したー。
「ーーーー」
美月は表情を曇らせるー。
”マッチング”など、まだしていないー。
いくら”涼子”の身体でも病気持ちが引っ掛かっていることー、
そして、”できれば女性”を指定していることで、
マッチング相手が見つからない状態だったー。
涼子(津田)の言う通り、
”病魔に侵された身体”であっても、
男性まで相手を広げれば
”それでも女の身体が欲しい”という層は一定数存在するー。
が、涼子(津田)は”まずは同性から探して”と指定していたために
マッチングすることができていないー。
それなのに、嘘をついた理由は一つー。
”ーーー涼子ー…”
美月は、今、涼子(津田)と改めて話をして確信したー。
”涼子の中身は、きっともう、涼子ではないー”
とー。
だからこそ、涼子を入れ替わり相談所に呼び寄せたのだー。
「ーーー…涼子ー…今、どこにいるの?」
仮に”違法入れ替わり”により身体を奪われているのだとしたら、
本物の涼子は今、どこにいるのだろうかー。
そんな不安を抱きながら、美月は静かに歩き出したー。
「ーーーーーーーーーーーーー」
そんな、美月の後ろ姿を物陰から見つめている男がいたー。
「ー俺は、”美月”の中身じゃなくてー見た目が好きなんだー」
その男はー、今日、入れ替わり相談所を訪れた
”美月の元カレ”・修平。
「ーー中身が変わってても、俺には関係ないよー。ふふー」
修平は、美月の後ろ姿を見つめながら
そう言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
美月は、入れ替わり相談所に出勤すると、
所長の幸則に、涼子のことを相談したー。
「涼子、やっぱり”違法入れ替わり”の被害に遭ってる気がするんです」
美月がそう言葉を口にすると、
幸則は「そっかー」と、戸惑いの表情を浮かべるー。
3年前ー
涼子が急に入れ替わり相談所を退職したことには驚いたー。
だが、当時は違法入れ替わりのことなど考えなかったー。
しかし、幸則自身も、久しぶりにこの前、涼子が相談所にやってきた際の
言動や、血液検査を3年間一度も受けていない記録を見て
その疑念を強めていたー。
「ーーそれで、明日、涼子がココに来ますー」
美月がそう言うと、幸則は「涼子ちゃんが?」と、少し表情を歪めるー。
「はい。マッチングしたと嘘をついて、呼んでありますー」
その言葉に、幸則は「ー呼んで、どうするつもりだい?」と、
戸惑いの言葉を口にするー。
美月は少し気が進まない様子で、
涼子がいなくなった後に他の相談所からやってきた
エリート相談員・田倉 園香の方に向かっていくと、
「田倉さんーお願いがありますー」と、そう言葉を口にするー。
「ーなに?」
園香が、美月の方を見つめると、
美月は頭を下げながら、園香に対して”お願い”を口にするー。
「明日、涼子がうちに来たら、
ここで”血液検査”をしてもらえませんかー?」
とー。
「ーーー検査をー?」
園香は表情を歪めるー。
血液検査をするには”資格”が必要だー。
そして、この園香は”資格”を持っていて、
この入れ替わり相談所でも”入れ替わり歴の有無”を調べる際など
必要になった際には、園香がこの場で血液検査を行っているー。
そんな機会はめったにないものの、
稀に”違法入れ替わりの有無”を調べてほしいという依頼が
入れ替わり相談所に舞い込むこともあり、
その調査を行えるスタッフとして、別の相談所から
園香を引き抜いたという経緯もあるー。
「ー検査は、本人の同意がなければできないでしょ」
園香が言うー。
「ーーー…お願いします」
美月は、そんな園香に食い下がったー。
もしも、涼子が違法入れ替わりの犠牲になっているのであればー、
その決定的な証拠を突き止めて、
”涼子の身体の今の持ち主”に涼子の居場所を聞き出したいー。
「ーーーーーーー」
美月が、必死に頭を下げるのを見て、園香は少しだけ表情を歪めると
「ー分かったわー。けどー」と、言葉を口にするー。
「ーー上手く行ったら、駅前のお店のパフェ、奢ってもらうわよー」
その言葉に、美月は「ありがとうございますー」と、
園香に対して頭を下げたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日の夜ー。
「ーーー…」
美月は”明日”のことを考えながら
帰り道を歩いていたー。
明日、涼子が入れ替わり相談所にやってくるー。
そこで、”強引に”血液検査を行い、
涼子に入れ替わり反応が出るかどうかを確認するー。
何の反応も出なければ
単に涼子が”昔とは変わった”ー
それだけのことだと思うし、それで済む話だー。
しかし、
もしも、反応が出れば”入れ替わり歴”が公的には
存在していない涼子は”違法入れ替わり”の被害に遭ったことになるー。
「ーーー!」
そんなことを考えていた美月は、ふと背後に人の気配を感じて振り返るー。
するとそこには”入れ替わる前”の美月の元カレを名乗る男・修平が
立っていたー。
「ーあ、ど、どうもー」
美月は偶然かと思い、そう言葉を口にすると、
修平は笑みを浮かべたー。
「ーこの前は言い忘れたんですけど、
俺ー、”美月”のこと、今でも好きなんです」
そう、言葉を口にしながらー
「ーあ、あははー…
彼女は今、わたしの元々の身体でー」
美月は”本当の美月”は、今の美月の中身である男の身体で
生きていることを告げようとするー。
がーーー
修平は、美月の腕を掴んだー
「俺が好きなのは、中身じゃないー。美月、
きみの外見だよー」
と、そう言葉を口にしながらー。
身の危険を感じる美月ー。
しかし、修平は”何か”変なにおいのするハンカチのようなものを美月の
顔に押し付けると、美月は急激な睡魔に襲われてその場に
力なく倒れるー。
「クククー」
笑みを浮かべる修平ー。
そんな光景をーーー
偶然、街で買い物を終えて歩いていた
”涼子”ーーー
涼子(津田)が、目撃していたー
「ーーあれ?アイツー」
涼子(津田)は、そう言葉を口にしながら
連れ去られていく美月を見つめると、
「ーふふ」と、少しだけ笑いながら
”まぁ、俺には関係ねぇかー”と、言わんばかりに
そのまま立ち去って行ったー…。
<最終章>続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
次回が”時代は入れ活”のラストデス~!
どんな最後が待っているのか、
ぜひ見届けて下さいネ~!
今日もありがとうございました~!
コメント