<憑依空間5周年記念>わたしが盗まれたモノ③~已己巳己~

憑依空間5周年記念小説第3弾★!
今日は第3話をお送りします~!

「果実夢想」様(@fruitsfantasia)
との合作デス!

①、③を果実夢想様、
②、④を私(無名)が担当しました!☆
最終回の⑤は、憑依空間では私が書いた”光ルート”
果実夢想様のサイトでは”闇ルート”を掲載します~!
(※5日間かけて、順番に掲載していきます!)

※今日の小説は、午前中に既に更新済みデス

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③~已己巳己~
作…果実夢想

「あ、あの、ちょっといい……ですか?」

 斗真は珠音の身体で、いきなり馴れ馴れしいと不審がられるかと思い、敬語で赤月刃の後ろ姿に声をかける。
 身体が入れ替わったことなんか話しても信じてもらえるわけがないし、それどころか頭のおかしいやつだと思われてしまうだけだろう――と。

「……んあ? あれ、お前確か斗真と一緒にいた――」

 すると刃は振り向き、怪訝そうな顔でそう呟いた。
 珠音(斗真)は、心の中で忌々しげに舌打ちをする。
 迂闊だった。まさか、よりによってそんなところを目撃されていたとは。
 だがそんな心情は一切悟られないよう表情には出さず、あくまで湖守珠音として、赤月刃と接した。

「あの、あんまりそうやって大声で騒いでいると近所の人の迷惑になるのでやめたほうが……」

「あ~、悪い悪い。でも、しょうがないだろ~? この家の中にいるやつ、斗真に用があるんだけど出てきてくんねえんだから」

 やはり、その程度では簡単に諦めて去ってはくれないか……と。
 そう諦めにも似た溜め息を静かに漏らした瞬間、刃は更に続ける。

「なぁ、あんたからも言ってやってくれよ~。さっさと出てこいって。すげえ仲良さそうだったしさぁ」

「い、いや、それは……」

 どうしたものか、と再び思案を巡らす。
 このままでは斗真(珠音)が家から出てこない限り、ここを一歩も動かないような気さえしてしまい、珠音(斗真)の頬に一筋の冷や汗が伝う。

 でも、逆に言えば、事情を説明さえすればここを去ってくれるはず。
 たとえ嘘でも構わない。その場しのぎでもいいから。

「あの人はさっき急に体調が悪くなったみたいで……それで家まで肩を貸しながら送ってあげた感じで。たぶん今は寝込んじゃってるんだと思う」

「はぁ~? あいつ、そんなことメッセージじゃ一言も……それに一緒に歩いてるときは元気そうに見えたけどなぁ」

「たぶん、あんまり心配とかかけたくなかったんじゃないかな……はは。えっと、あんまり近くで見たわけじゃないなら、体調が悪いのを分からなくてもしょうがないよ」

「……ほ~~ん」

 珠音(斗真)の言葉を聞いて、刃は未だ訝しそうに珠音の身体を見つめる。
 その場しのぎのつもりではあったものの、あまりにも支離滅裂でおかしな言い訳だとは、もちろん本人にも分かってはいた。
 ただ赤月刃ほど頭の回転が早くない斗真には、今この状況でできる言い訳など、これくらいしか思い浮かばなかったのである。

「でも、何で盗みに行った家の子がわざわざそんなことしてくれんだよ?」

「いや、家の中で倒れられても困るし……結局、何も盗まれなかったわけだから、いいかなぁって」

 これでも信じてくれなかった場合は、また更なる嘘を重ねるつもりではあった。
 しかし、珠音(斗真)はこの男がそれほどまでに容易い人物だとも思えなかった。これまでの付き合いで、それは重々承知している。
 そうして、次にどう言葉を返してくるのか……刃の一挙手一投足に注目していたら。

「わ~かったよ。じゃあまたな、お人好しさん」

 最後にそれだけを告げ、赤月刃は立ち去っていく。
 ずっとその背中を目で追い続け、ようやく姿が見えなくなると――。

「はぁぁぁ~~~~……」

 深々と、心の底から安堵の息を吐き出した。
 それからすぐスマートフォンを取り出し、中で震えたままの斗真(珠音)へとメッセージを送る。

“悪かったな、もう帰らせたから大丈夫だぞ”

 それから僅か一分足らずで、短い返信が返ってくる。

“うんありがと怖かった”

 顔文字なんかを使ってはいるが、よほど怖かったであろうことは斗真にも理解できた。
 無理もない。ただでさえ赤月刃は普通の人間ではないのだし、会ったことすらない上に引きこもっていて人見知りな珠音ではまさに恐怖の対象そのものだろう。

“ちょっと問題が起きた。俺を中に入れてくれ”

 そう返信し、玄関の前で待っていると、やがてゆっくりと扉が小さく開かれる。
 家の前にいるのは自分の身体をした斗真だけなのにも関わらず、少しだけ開いた扉の隙間から顔だけを覗かせ、しばらくきょろきょろと見回したのち静かに扉を全開した。
 やはり、そう簡単に警戒心や外への怖さみたいなものは薄れやしない。

 自分の身体でそんな行動をしていることに、何だか口角が引きつるのを感じつつも、斗真は自分の家へと入っていく。
 そう。自分の家だ。斗真は毎日ここで暮らしていたはずなのに、今は珠音の小柄な身体になっているせいか、大して大きくない家がいつもより少し広く見えた。

「そ、それで、問題って……?」

 やがて向かい合って座り、少しの逡巡を見せたのち珠音が斗真の顔と声でそう問いかける。
 斗真は珠音の顔で小さく息を吐き、ほんの少し前に起きたことを余すことなく説明した。

 母親に怒鳴られ、家を追い出されてしまったこと。
 そして、先ほどこの家を訪れていた赤月刃の存在について。

「……そ、か」

 それを聞いて、斗真(珠音)は消え入りそうな声で小さく呟いた。
 思わず珠音(斗真)はどう声をかければいいのかと迷い、言葉を口にする、その前に。

「あ、あの……ごめ、なさい。お母さんが、その……」

 目を逸らしながら、心底申し訳なさそうに謝る斗真(珠音)。
 斗真は、自身の妹のことを嫌でも思い出してしまう。勝手に記憶が呼び起こされ、思わず顔を顰めてしまう。
 そういえば、あいつもいつも申し訳なさそうに、よくそんな顔を見せていたっけ……と。

 妹があんな目に遭って、泥棒なんてことをする羽目になって。
 どうして自分たちだけが……不幸に思ったことや嘆いたことだって当然、何度もある。
 でも。珠音の身体と入れ替わったことで、珠音にも家庭環境や学校生活で色々あることが分かった。
 だからこそ、どうしても他人のようには思えなかった。

「いいんだよ。お前は何も悪かないだろ」

 気がついたときには、今は自分の顔をした相手であるにも関わらず、その頭を撫でていた。
 斗真(珠音)は驚いたように顔を見上げる。
 自分がしていることにすぐさま気づいた珠音(斗真)は、はっとしたように手を離す。

「わ、悪い」

「……い、いや……」

 途端に気まずくなり、お互いに目を逸らす。
 長い静寂が辺りを包み込み、外から聞こえてくる人々の声や椅子の軋む音などのちょっとした物音ですらもはっきりと聞こえる。
 やがて沈黙を破ったのは、斗真(珠音)のほうだった。

「あの……い、妹、って?」

「えっ?」

「いや、さっきの人、言ってた、から……」

「あー……」

 ほぼ無意識に、珠音(斗真)は後頭部をボリボリと掻く。
 そして、しばし心の中で思案する。
 斗真にとって妹についての話は、なかなか知り合ったばかりの人に話せるようなものではない。

 でも。珠音は先ほど、知り合ったばかりの斗真に自身の過去を話した。
 苛められていたことなど、そう簡単に誰かに話したいものではないにも関わらず。
 それに、事故とはいえ今は身体が入れ替わり、お互いの存在になってしまっているのだ。
 だというのにこのまま隠し続けることもまた、斗真には気が引けてできやしなかった。

「俺には、難病の妹がいるんだ。今も、こうしている間にも妹はきっと苦しんでいる。早く治して、また元気に遊んだり学校に通えるようにしてやりたい。でも、当たり前だが治療のためにはお金が必要だ。それも、ちょっとやそっとじゃない莫大なお金が。だから、悩んで悩んで……窃盗なんかを始めるようになっちまった」

「……そんな、ことが」

 その言葉を聞いて、斗真(珠音)は俯き、思わず言葉を失ってしまう。
 まさか自分の家に盗みに入った泥棒が、そんな事情によるものだったとは思っていなかったのである。
 泥棒だなんて、当然いいことではない。人々から咎められ、法で裁かれるべき立派な犯罪だ。
 でも、それが大切な妹のためだというのだから責めることもできず、上手くかける言葉が見つからなかったのだ。

 そんな心情を表情などから察し、珠音(斗真)は小さく息を吐いて言葉を続ける。
 諦めや悲哀などが綯い交ぜになったかのような声色で。

「……分かってるよ。どんな理由があろうと、絶対にしてはいけないことだ。だから、治療費を稼いでちゃんと妹の病気を治すことができたら……俺は、しっかり罪を償うつもりだ。妹が元気になってくれるんなら、何年、牢にぶち込まれたっていい」

 斗真自身ではない、珠音の姿であるにも関わらず。
 そう語る顔は、確かな決意が込められた表情だった。

「で、でも、お兄ちゃんが捕まっちゃったら、せっかく元気になれても妹さんは寂しいんじゃ……」

「……そうかも、な。でも、しょうがないだろ。あいつのために俺はこうすることしかできなかったし、一度始めちまったからには、このまま逃げ続けるつもりもない」

「……」

 再び、斗真(珠音)は言葉を失う。
 ここまで妹を想い、決心している者に対して、身体が入れ替わっただけの他人にはもうとやかく言える筋合いなどないと自分でも思ったから。

「ま、俺の話はそれくらいにしよう。そんなことより、今は元に戻る方法について話し合うべきだろ」

「あ、うん、そうだねっ」

 そうして、二人はどうすれば元の姿に戻れるのかを議論し合う。

 まず最初に出た案は、お互いもう一度身体をぶつけてみること。
 入れ替わった原因も、二人の頭が激突したことによるものだったため、二人とも異論は特になくまずは試してみようということに。

「それじゃあ……行くぞ」

「う、うん……っ」

 斗真(珠音)は強く目を瞑り、頷く。
 それから、意を決してお互いのほうへと駆け出した。

「ぃっ、たぁぁ……」

 頭同士がぶつかり、斗真(珠音)は頭を押さえながら目を開く。
 しかし、目の前には何も変わらない自分自身の姿が同じように頭を押さえては痛そうに顔を顰めていた。

「痛いだけで効果はなしか……そりゃあそう上手くいくわけないよな」

 珠音(斗真)は独り言のようにそう呟き、ポケットからスマートフォンを取り出して画面を操作する。

「な、何してるの?」

 斗真(珠音)が訝しみ、そのスマートフォンの画面を覗き込みながら問う。
 すると、画面に注目したまま答える。

「いや。検索したら何かヒントとか出ないかと思って」

 だが、それが如何に甘い考えなのかをすぐに思い知る。
 出てくる検索結果は、当然と言うべきかネット小説や映画の内容など、フィクションのものばかり。
 これらが元に戻るヒントに繋がるとは、やはりどうしても思えなかった。

「……なあ、キスしたら元に戻るとかいうロマンチックなものもあるんだけど」

「き、キス!? す、するの……!?」

「しねえよ。冗談だって」

 それからというもの、二人ともスマートフォンで検索したり、話し合ったり、それぞれの案を実践してみたり。
 気がついたときには、数時間が及んでいた――。

④へ続く

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今日は果実夢想様が担当したパートでした~!☆

明日の④はまた私が担当する部分ですネ~!

書き手側としてお話を作りつつ、
読み手側としても参加する…
不思議な気持ちデス…!

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