憑依空間5周年記念小説第3弾★!
不登校の少女⇔泥棒 の入れ替わり!
今回は「果実夢想」様(@fruitsfantasia)
との合作デス!
①、③を果実夢想様、
②、④を私(無名)が担当しました!☆
最終回の⑤は、憑依空間では私が書いた”光ルート”
果実夢想様のサイトでは”闇ルート”を掲載します~!
(※今日から5日間、順番に掲載していきます!)
※今日の小説は、午前中に既に更新済みデス
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①身体泥棒
作…果実夢想
頭上から、大量の水が降り注ぐ。
突然のことに驚きながらも、少女は自身の身体を見下ろす。
全身がびしょびしょに濡れ、服が肌にくっついて強い不快感に襲われていた。
「……」
決して、突然の大雨に見舞われたわけではない。
頭上を見上げ、ニヤニヤと少女を見下ろしてくる人物の顔を見て、全てを察する。
ここは、学校の女子トイレ。
用を済まし、個室から出ようとしたところ、急に扉の上からバケツ一杯分の水をかけられてしまったのだ。
でも、これくらい何てことはない。
いつも通り。少女にとっては、何の変哲もない普通の日常だったのだから。
「……っ」
少女は、奥歯を強く噛みしめる。
そう。これは、いつも通りのこと。今更、何とも思わない。
そのはずなのに。
少女の頬に伝う雫は、水をかけられてしまったことによるものか。
それとも――。
「ほーら、いつまでトイレの中にいんの? さっさと出てきてさ――今日も一緒に遊ぼうよ。にひひ」
頭上から、そんな不快感しかない声を響かせる一人の女子生徒。
少女は、一回だけ深呼吸をして。
意を決し、個室から出た。
瞬間――頬に強い衝撃を覚え、咄嗟のことに反応できず、思わず床に倒れ込んでしまう。
痛む頬を押さえながら見上げれば、何やら箱のようなものを持っていた。
その箱で殴られたのだと察した直後、女子生徒は箱を開く。
そして、少女の顔の上で箱を裏返し――。
「ひ……っ!?」
中から落下してきた黒い物体に、少女の顔は一瞬で青ざめる。
そう。それは他でもない。
おそらく最も人々から忌み嫌われているであろう、数匹の害虫だったのである。
「や……やだ、やめ……」
「あはははっ、そんな泣いちゃってぇ……かーわいー」
少女の顔を虫が這い、目尻から涙が溢れる。
そんな少女を、いじめっ子の女子生徒はただただニヤニヤと眺めていた。
心底、楽しそうに。
心底、面白そうに。
こんな、至って普通の日常は。
おおよそ、千日以上にも及んだ。
§
「は……っ」
ガバッと、布団から飛び起きる。
昔の嫌な夢を見たせいか、嫌な汗でぐっしょりと濡れてしまっていた。
枕元に置いてある時計で時間を確認してみると、もう昼。
今日は平日なのだし、本来は学校で今頃昼休みを満喫している頃だろう。
でも、何の問題もない。
少女――湖守(こもり)珠音(みおん)は、今はもう学校には通っていないのだから。
それどころか。
すっかり家に引きこもっており、太陽の光すらしばらく浴びていない始末。
髪はボサボサで、肌の手入れも怠っているせいか、お世辞にも綺麗とは言えない身なり。
それでも、珠音は全く気にしない。
「はぁ……」
深く溜め息を漏らしながら、部屋から出る。
とても静かで、会話の声もテレビの音も一切聞こえてこない。
俯き気味にリビングへと向かうと、そこには母親――湖守(こもり)波音(はね)の姿が。
娘の珠音がやって来たことに気づくと、一瞬だけそちらを一瞥したのち、またすぐに視線を戻した。
そして、雑誌を読みながら、小さく一言。
「……ごはん、あんたが何とかしなさいよ」
「……ん」
珠音もまた、小さく頷きだけを返す。
決して、昔からこんなに口数が少なかったわけでも、仲が悪かったわけでもない。
こうなってしまったのは、珠音が引きこもってから。
珠音は自分が虐められていることを、親にも言えず。
それでいて、学校に通い続けることもできず。
そうやって理由も話さずに引きこもり続ける娘に対し、母の波音は徐々に嫌気が差し、あるときを境に変わってしまったのだ。
昔は、もっと優しくて温厚だったのに。
しかし、働いていない珠音では、外食もできないし何かを買ってくることだってなかなかできやしない。
だから冷蔵庫を開け、冷やしていた白米を温め直し、それを部屋に持って行って食べる。
あっという間に完食し、空腹を誤魔化すかのように部屋の中を見渡す。
お気に入りの可愛いぬいぐるみを手に取り、本棚からひとつのアニメを取り出す。
既に何回も見たアニメだが、いくら今後の展開や結末が分かっていようと、そのお気に入りのアニメを見ている時間が一番幸せであり、何よりの癒やしだったのだ。
「……ふふ」
そして。
今の珠音にとっては唯一、笑顔になれる時間だった――。
「……ん、んぅ……ぁ」
ふと気がつけば、珠音は部屋の机に突っ伏して眠ってしまっていた。
傍らにはぬいぐるみが転がっており、机の上ではアニメのパッケージが開いたまま。
どうやらアニメを見ている最中に寝てしまったらしい。
「ふぁ~あ……ん、あ……もうこんな時間かぁ」
あくびを漏らしながら、時間を確認して呟く。
何時頃に眠りについたのか、そして一体何時間ぐっすり眠っていたのか、もうとっくに夜遅くなっていた。
こんな生活をしていると、当然曜日感覚も時間すらも分からなくなってくる。
これ以上はもう眠れる気がしない。
そう思った珠音は、今度はゲームをしようと立ち上がり――。
――ガタッ。
不意に、別の部屋から奇妙な物音が聞こえてきた。
「な、なに……?」
訝しみ、部屋の扉を少し開けて顔だけを外に出し、きょろきょろと見回す。
怪しい姿は、少なくとも近くにはない。
でも、一度気になってしまえば眠ることもできないし、ゲームに集中もできない。
珠音は足音を殺し、ゆっくりと忍び足でリビングへ向かった。
母親が何かをしているだとか、父親が久しぶりに帰ってきただとか、そういうことであってくれ――と願いながら。
でも。
リビングに辿り着いた珠音の視界に飛び込んできたものが、そんな楽観的な思考を一気に掻き消した。
見知らぬ男が、棚の中を漁っている。
後ろ姿のため顔はあまり見えないものの、これがどういう状況なのかは嫌でも分かった。
足が震える。喉が渇く。
テレビやゲームなどでは何度もそういったものを目にしたことはあったが、まさか自分がこのような状況に遭うなんて想像もしていなかった。
幸いと言うべきか、泥棒と思しき男性はまだ珠音の存在に気づいていない。
恐怖やら混乱やらで動揺しつつも、珠音は必死に思案を巡らす。
こちらに気づく前に、取れる最適な行動は何か……と。
ポケットから携帯電話を取り出し、すぐに通報を――と。
焦っていたせいか、手を滑らせ床に落としてしまう。
「あ……」
当然、ものが落下すれば音がする。
さっきまで棚を漁っていた男性は珠音のほうを振り向き、存在に気づいた泥棒は小さく舌打ちを鳴らしてすぐさま珠音のほうへと迫っていく。
殺される――と思った。
見られたからには生かしてはおけない、と。
そんな、アニメやゲームなどで見たことのある口封じみたいに。
目を閉じる。
恐怖のあまり、拳を強く握りしめ、奥歯も強く噛みしめて。
しかし。
やがて襲ってきたのは、予想外の痛みだった。
「……つっ……たぁ……!」
ごつん、と。
リビングのテーブルに躓いた泥棒が前のめりになって転倒し――その拍子に、頭と頭が勢いよくぶつかってしまったのである。
思わず尻餅をつき、頭を押さえる。
そして目を開け、珠音は思わず絶句する。
同じように痛そうに頭を撫でている、珠音の姿が目の前にあった。
「あ……あ、あれ……?」
夢か何かかと思い、頬を力強く引っ張る。痛い。
なら見間違えなのかと、何度も目を擦る。
それでも、やはり変わらない。
「あれ、お前……いや、俺……?」
目の前の珠音が、まるで男のような言葉を発する。
一体何が起こったのかと辺りを見回すも、先ほどまでいたはずの泥棒の姿はどこにもなくなっていた。
「何、で……」
ほぼ無意識に呟き、珠音は自身の喉を撫でる。
自分の口から発された言葉は、聞き覚えのない男の声になっていたのである。
それが意味するところはつまり。
湖守珠音と、泥棒の男――夜神斗真は。
頭をぶつけた拍子に、なぜか入れ替わってしまったのだった。
§
「何でかは分からないけど、どうやらそういうこと、らしいな……」
二人で向かい合い、斗真は珠音の顔と声でそう呟いた。
一体どうしてこんなことになったのか。
自分の家に盗みに来た泥棒と身体が入れ替わり、こんな風に話し合う羽目になるとは。
「……くっそ」
珠音(斗真)は忌々しげに呻く。
でも、そうしたいのは斗真(珠音)も同じだった。
これが何回目の犯行なのかは分からない。
だけど、今回は何とか未遂で済んだとはいえ、今までに何度か同じようなことをしているのだとしたら。
捕まってしまう恐れがあるのは、自分自身ということになってしまうのだ。
いくら中身が別人だったとしても、そんなこと他の人からは分からないし、説明したところで誰も信じてくれるわけなどない。
そう思うと、見知らぬ男の身体だというのに珠音は何だか泣きそうになってしまう。
「お、おい、泣くなって。絶対、元に戻れるから」
と。そんな自分の身体に向かって、必死に励ます珠音(斗真)。
「……泥棒のくせに」
「……」
斗真(珠音)が小さく呟くと、斗真(珠音)はばつが悪そうに目を逸らす。
でも。珠音も、目の前の泥棒が何だかただの悪人のようには見えなくなっていた。
励ましてくれたから、だけではない。
斗真の身体になっているからなのか、何となくそう思ってしまうのだ。
でも、このままではお互いに困ることになるのは明らか。
これからどうすればいいのか……と、二人とも押し黙ってしまう。
「……なあ」
と。そんな沈黙を破ったのは、珠音の身体の斗真だった。
「……いつまでもこうしていたって埒が明かない。しばらく、お互いの身体で過ごすしかないかもな」
「え……」
「仕方ないだろ。それとも、元に戻る方法、何か分かるか?」
「いや、えと……」
人見知りな珠音は、珠音の身体でそう問うてくる斗真に、小さく首を左右に振ることしかできない。
当然、そんな方法が分かっていれば今すぐにでも戻りたいに決まっている。
しかしこんな非現実的な状況自体、アニメなどではともかく実際に起こるなどとは思っていなかったし、この世に戻れる方法が存在するのかどうかすら分からない。
だけど、お互いの身体で過ごすということは。
引きこもりの珠音は、泥棒の男として生活をしなくてはいけないということに他ならない。
「俺だって嫌だよ。こんなことしてる間にも、あいつは苦しんで……」
「え……?」
「いや、何でもない。とにかく、お前は俺――夜神斗真として過ごしてくれ」
自分の身体とは思えないほどに、神妙な面持ちで頼み込まれ、斗真(珠音)は拒むこともできずにいた。
この身体では、この家にいられるわけもない以上、そうするしかないことは珠音にだって当然分かっている。
でも、懸念すべき点は、珠音が泥棒の斗真として過ごすことだけではなくて。
この男が、自分の身体で、自分の家で、どう過ごすのか……それが不安で仕方がなかったのである。
「ん……わ、わかった」
悩み抜いた末、渋々そう言って頷いた。
②へ続く
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コメント
合作第1話でした~!☆
私も②を書く前に読みましたが
私とは違って本格的な文章ですごいですネ~!☆
創作歴が私の2倍以上ある方なので、流石デス!
明日の②は私の番…!
ドキドキですが、ぜひ楽しんでくださいネ~!
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