<憑依空間5周年記念>わたしが盗まれたモノ⑤~雲外蒼天・光~(完)

憑依空間5周年記念小説第3弾★!
今日が最終話になります~!

「果実夢想」様(@fruitsfantasia)
との合作デス!

①、③を果実夢想様、
②、④を私(無名)が担当しました!☆
最終回の⑤は、憑依空間では私が書いた”光ルート”
果実夢想様のサイトでは”闇ルート”を掲載します~!
(※5日間かけて、順番に掲載していきます!)

※今日の小説は、午前中に既に更新済みデス

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

⑤~雲外蒼天~
作…無名

「だから…だ、誰もいないんです!」

斗真(珠音)が避けぶ声が玄関の方から聞こえるー。
玄関を抜けて、死角になっている部屋の部分まで
警察が足を踏み入れれば
珠音(斗真)も当然見つかるー

”斗真の家の中に珠音がいれば”

赤月刃と、珠音の母親、それぞれの通報により、
斗真を誘拐犯と疑っている警察は、当然斗真を逮捕するー。

そうなればー

珠音は、斗真の身体のまま、逮捕されてしまうかもしれないー。
そしてー
それは”元に戻るチャンスを失う”ことを意味するー

”どうするー?”

珠音の姿のまま、警察の前に姿を見せて、
”わたしは誘拐されてません!と、叫び、
上手く説得を続けるかー

それとも、この場は斗真になった珠音に託して
窓から脱出ー、
警察が立ち去ったあとに元に戻る方法を改めて探すかー

”どっちだー…?”

斗真(珠音)と何の打ち合わせもできていないー

ここで、自分だけ窓から飛び出せば、
彼女を不安にしてしまうかもしれないしー
”自分だけ逃げた”と思われるかもしれないー

だがー

「ーーー”絶対に”誰も、いないんです!
 そこまで言うなら、部屋の中を見てみて下さい!」

斗真(珠音)が大声で叫んだー。
珠音なりに、勇気を振り絞って声を吐き出した感じだったー

”絶対に、誰もー?”

珠音(斗真)は思うー。
珠音(斗真)が中にいるのに、そのようなセリフを口にすれば
当然、不利になるー

それをわざわざ大声で言うということはー

”ーーーーー…”

彼女は、強いー

”ここは任せて”と、そう伝えようとしているのだー

珠音(斗真)は、そう解釈すると、
迷わず窓の方に向かいー、

”この子の身体で飛び降りても、平気だよな?”と、
髪を揺らしながら少し不安を覚えるも、意を決して
窓から飛び降り、すぐに家から離れた場所へと移動したー。

「ーーーー誰もいませんー!」

珠音(斗真)が窓から脱出して数分ー
斗真の部屋を調べ終えた警察は
戸惑いの表情を浮かべたー

「だ…だから…言いましたよね」
斗真(珠音)がそう呟くと、
警察官たちは少し不満そうにしながらも
「ご協力、ありがとうございました」と頭を下げて
そのまま引き下がって行ったー。

「ーーーは~~~~~……怖かったぁ…」

警察官が立ち去って行ったのを確認すると、
斗真(珠音)は、身体をガクガクと震わせながら
そのままへなへなと座り込んだー。

鏡に映る自分の姿ー
”斗真”が半分涙目になっている姿がそこに写るー

「ーーー」
窓のほうを見つめる斗真(珠音)ー

”戻って来るよねー…”

当然、このまま”身体を持ち逃げ”されてしまう可能性も
0ではなかったー

相手は泥棒だし、身体も盗むかもしれないー。

でもー…
半日にも満たない時間だけど、
彼はそんな嘘をつくような人間ではないー、と、
珠音は信じていたー

だからこそー
”珠音の身体を預けたー”

彼は、きっと戻ってくるー。
きっとー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

窓から飛び出して、様子を伺っていた
珠音(斗真)は、こっそりと周囲の様子を
伺っていたー

せっかく窓から飛び出して一度逃げたのに、
ここで警察に見つかってしまっては、
珠音の身体では、保護されてしまうだろうし、
こんな時間帯に少女が歩いていれば、
当然、保護されるー

「ーーーー」
ふと、自分の華奢な手を見つめる
珠音(斗真)ー

”ーーーー…”
怖いだろうなー…と、いじめのことを少し想像しながらも、
”とにかく今は、元に戻る方法を見つけないと”と、
斗真(珠音)が待つ部屋に戻ろうとするー。

だが、まだ”警察”が周辺をマークしている可能性もあるー。

だからこそ、慎重にー、慎重に斗真の部屋を目指したー。

その時だったー。

「ーーーあれぇ~?お人好しさんじゃねぇかー」

「ーーー!」
珠音(斗真)が振り返ると、背後から、斗真の相棒である
赤月 刃が姿を現したー

警察に”通報”したあとに、
斗真がどんな顔で出て来るか拝むために、
この付近へとやってきていたのだー。

「ーーーーー斗真と、どういう関係だ?」
刃が鋭い目つきで、珠音(斗真)を見つめるー

「ーーーだ…だから…さ、さっきも説明した通りー」
珠音(斗真)が言いかけると、
「そんなわけねぇだろ」と、赤月刃は、住宅街の壁に珠音(斗真)を
壁ドンして、鋭い目つきで睨みつけたー。

「ーーーあいつに何を頼まれたー?
 あいつと何を仕組んでやがるー?

 俺だけはめようってのか?そうはいかねぇー

 あいつだって俺と一緒に”盗み”を繰り返してるんだー 
 自分だけ妹のためだからってお涙頂戴か?

 ふざけるなよー?」

刃の言葉に、珠音(斗真)は
「お…落ち着いて…下さいー」
と、必死に”斗真としての素”が出ないように呟くー

普段ならー
斗真と刃が対決することになっても、
少なくとも、斗真が一方的にやられてしまうことはないー。

だがー
今はー”珠音”の身体だー。
この華奢な身体では、”赤月刃”を制することは難しいし、
何をされるか分からないー。

”俺とお前は、運命共同体だからなー? それを忘れるなよ?”

赤月刃は、いつもそんなことを言っていたー

”盗みに入ったはずの家の娘”と、一緒にいたことで、
一気に刃を”疑心暗鬼”の状態にしてしまったのかもしれないー

「ーー答えろ。あいつと何をしようとしている?」

刃が、珠音(斗真)を壁際に追い込んだまま、乱暴に言葉を続けるー。

「ーーー答えねぇならー…
 どうなっても知らないぜ?」

刃が言うー。
その表情には”狂気”が宿っているー。

刃には”善悪の概念”が存在しないー
頭が良く、頭もよくキレ、回転が非常に早くー
そして、普段は”面白い”やつだー。

”泥棒”の相棒を依頼するー。
そんなこと、”普通の人間”じゃ引き受けてはくれないー

だがー
妹を救うため、どうしても”誰か”力を貸してくれる人間が必要だったー

だからこそー、
友人でもあった赤月刃にそれを依頼したー。

刃は、”自分が面白いと思っている限り”絶対に
周囲にはこのことを漏らさないし、
そういう意味では妙な信用があったー。

しかしー

今ー
珠音と入れ替わったことで、その赤月刃との信頼関係は一気に壊れー、
こうして、最悪の自体に陥っているー

「ーーー答えろ」
刃が脅すような口調で呟くー

最初はー
”入れ替わったこと”を素直に打ち明けることも考えたー。

けれどー
”少女と入れ替わった”なんてことを言えばー
刃は、こう言うに決まってるー

”せっかくだから、その身体で楽しもうぜー”

とー。

何なら、珠音の立場と身体を使って、
悪事まで企てるかもしれないー。

刃は、そういうやつだー

”絶対にあり得ないような楽しいこと”を見つければ
それがどのようなことであろうと嬉々として乗ってくるー

だからこそ、斗真の”妹を救うために泥棒になる”という計画にも
嬉々として乗ってきたのだー

「ーー言え。それともー」
刃が言葉を続けるー

珠音(斗真)は、”悪いな、赤月ー”と、心の中で呟くと、
珠音の身体で、刃の股間を思いきり蹴り飛ばしたー

華奢な珠音の身体で、赤月刃を撃退するには、
これしか方法はなかったからだー

「ぐっ…!?おっ!?うぐぁあああああああああっ!?」

赤月刃が地面をのたれ回るのを見て、
珠音(斗真)は走り出すー。

斗真になった珠音が待つ、”自分の家”へー。

”あの子を、一人に何てできないー”

珠音(斗真)は思うー

ちっぽけでー、
今にも消えてしまいそうなー
そんな弱弱しい感じー。

形は違うー。

でもー

”お兄ちゃん”と、
自分の名前を呼ぶ妹もー

”今にも消えてしまいそうな”
そんな、感じだったー。

妹は、病気でー

珠音は、いじめでー。

理由も全く違うし、
もちろん、容姿も性格も違うー。

けれどー
何だかー
放っておけなかったー

「俺はバカだなー」

赤月刃や警察の追撃を避けるために、
遠回りして斗真の家の方に向かうー。

珠音と入れ替わってしまってー
何となく妹の姿を重ねてしまってー
何となく感情移入してしまったー

その結果ー
”泥棒”には失敗したし、
パートナーであった赤月刃とは”決裂”状態だし、
警察に捕まるリスクも上がったしー

「ーあぁ…踏んだり蹴ったりとか、このことだな」

ため息をつく珠音(斗真)ー

”このまま珠音の身体を持ち逃げしてしまえばー”

この子の人生を奪うー
”人生を身体ごと盗むことだって”できるー。

自分の今までの罪は帳消しになるかもしれないし、
妹の治療費を”珠音の身体”で稼ぐこともできるかもしれないー。

斗真になった珠音が”入れ替わっちゃったんです”なんて
泣きながら周りに説明をしたとしても、
周囲は誰も信じないだろうー。

このまま”珠音として逃げればー”

自分が逮捕される可能性も下がりー
斗真が妹を助けることができる可能性も高まるかもしれないー。

「ーーー」
珠音(斗真)は、そんなことを考えながら
少しだけ笑みを浮かべたー。

そして、今までよりも早く、走り始めるー

珠音の髪や服が風で揺れる中ー
珠音(斗真)がたどり着いたのはーーー

「ーーーーーそんなこと、できるわけないだろ」

斗真の家だったー
彼はー、斗真は、珠音の身体を持ち逃げなどせず、
ちゃんと、この場に戻ってきたー。

「ーーーよかった…無事だったんだ…」
部屋の端っこで一人、小動物のように待っていた
斗真(珠音)が喜びの表情を浮かべるー。

「ーーさっきはごめんなー。一人にしちゃってー。」

「ーーううん…怖かったけど… 大丈夫…」

そんな会話のやり取りをするー

そしてー、珠音(斗真)は
「とにかく、元に戻る方法を探さないとーー」、と
言いかけたその時だったー。

バン!

まだ鍵を閉めていなかった玄関の扉が開いたー

「ーーーう、うしろ!」
斗真(珠音)が咄嗟に叫ぶー

珠音(斗真)が振り返るとー

「ーーーへへへへ…な~にしてんだぁ斗真?」

そこに入ってきたのはー
さっき急所を蹴り飛ばされて苦しんでいた赤月刃ー。

彼は、痛みを堪えながら必死に
珠音(斗真)を追ってきたのだー。

刃は、笑みを浮かべながら珠音(斗真)のことなど
眼中にない、という様子で
一直線に斗真(珠音)の方に向かっていくー。

斗真(珠音)が怯えた表情を浮かべるー。

”入れ替わり”を知らない赤月刃からしてみれば、
当然の行動でもあったー。

「ーーへへへ…どうしたんだよ斗真?
 この女は、お前が体調不良とかなんとか言ってたけどー
 ピンピンしてるじゃねぇか」

刃があきれ顔で言うー。

「ーお前、もしかして俺を”売る”つもりじゃないだろうな?
 俺にだけ泥棒の罪をなすりつけて、
 お前は一人で、妹を助ける正義のヒーローってか?」

そこまで言うと、刃は「ふざけんじゃねぇぞ!」と、
怒りの形相で怒鳴り声を上げたー。

「ーーー(くそっーどうする?)」
珠音(斗真)がこの状況をどうするか、必死に頭をフル回転
させて考えるー。

今、仮に斗真が”自分の身体”でいるならばいくらでも方法はあるー。
”力”で赤月刃を制圧することも可能だし、
どうにでも説得することはできると思うー。

だが、珠音の身体では、下手なこともできないし、
腕力も刃の方が上だろうー。
それに、斗真(珠音)を守ることも考えないといけないー。

「ーーおい、何とか言えよ!」
刃が叫ぶー

斗真(珠音)は震えながら赤月刃のほうを見つめるー。

”ほーら、いつまでトイレの中にいんの? さっさと出てきてさ――今日も一緒に遊ぼうよ。にひひ”

”あはははっ、そんな泣いちゃってぇ……かーわいー”

このままじゃー
わたしは、ずっと、このままーー

いじめられていた苦い記憶ー
思い出したくもない”悪夢”を思い出すー。

悪夢と言っても、夢ではないー。
現実に起きた出来事なのだー。

「ーーー……」
ぐっ、と拳を握りしめた斗真(珠音)ー

彼女はー
ありったけの勇気を振り絞ってー
自分でもよく分からないうちに、気づいた時には、
赤月刃の身体に向かって、突進していたー

「ーテメェ!斗真ァ!」
叫ぶ刃ー

「ーー!」
珠音(斗真)が斗真(珠音)の行動に驚きながらも、
彼女を守ろうと、赤月を止めようとするー。

しかしー
珠音の身体では、刃のほうが力が強く、
彼を抑えることができないー。

「ーージャマすんじゃねぇ!」
刃が、珠音(斗真)を突き飛ばすー

吹き飛ぶ身体をどうすることもできずー、
珠音(斗真)は衝撃に備えようとー

「ーーー!」

刃に突き飛ばされた珠音(斗真)の視線のすぐ先にはーー
斗真(珠音)が驚いた表情で立っていてー
二人とも避け切ることができないまま、
そのまま正面衝突して、床に倒れ込んだー。

「ーーーーケッ
 斗真ーお前が裏切るってなら、俺にも考えがあるぞ」

刃は不機嫌そうに呟くー。

「ー大体、”これ”を始めようと言い出したのはお前だぜ?
 俺を盗みに誘っておいて
 今更どういうつもりなんだ? あ?」

刃の言葉に、
斗真(珠音)は、静かに立ち上がったー

いやー

「ー赤月ー」
斗真が、赤月刃のほうをまっすぐと見つめるー

一般的に”イケメン”と言われそうな顔立ちの斗真ー
そんな、整った顔に、険しい表情を浮かべながら
斗真は、赤月刃を睨んだー。

「ーーーあ…」
遅れて珠音も身体を起こすー

「え…」
珠音の視線の先には、斗真と刃がいるー。

斗真と刃が向き合いー、
そして斗真が言い放つー

「ーーー赤月ー、お前、誰が裏切ったって?」
斗真が言い放つと、
刃は表情を歪めるー

「ーーいや、だってお前ー
 そのガキとー」

刃が言い放つと、斗真は刃の腕を掴んで
乱暴にその腕を捻り上げたー。

「ーー誰が裏切ったって????」
斗真が脅すような口調で言うと、刃は
「いてっいてててててててっ!」と、苦しそうに声をあげてから
「わ、わかった、わかった!」と必死に叫ぶー。

そして、斗真は刃を壁に追い詰めて
”さっき珠音の身体の時に”やられたように、
逆に壁ドンをすると、
小声で何かを囁いたー

”油断させて、いいモノ盗ろうとしてたのに、
 お前がチョロチョロ邪魔するから、
 台無しになったじゃないかー
 なぁ、赤月ー。どうしてくれるんだ?”

そう囁かれた刃は
「わ、悪かった!悪かったよ!」と、声を上げるー。

斗真は、嘘と勢いで刃を丸め込むと、
玄関から押し出すようにして
「ーー少ししたら俺も行くから外で待ってろ」と告げて、
玄関の扉を閉めたー

「ーーー巻き込んで、悪かったなー」
斗真が言うー

「ーーえ…あ…う、うんー」
珠音は不安そうに斗真のほうを見つめるー。

「ーーあんま、お前と長話してると、
 また赤月のやつが騒ぎ出すから」

それだけ言うと、珠音は少し寂しそうに斗真のほうを見つめたー

「ーおいおい、何だよその顔はー…
 俺は、お前の家に忍び込んだ泥棒だぞー?」

斗真が言うと、
珠音は「うん…」と大人しく答えるー。

「ーーー……でも…何だか…」
珠音はそこまで言うと、「何だか…怖かったけど…楽しかった」と、
自信の無さそうな声で呟いたー

ずっと不登校で、引きこもってー
”自分の部屋の中”だけが、自分の世界になっていた珠音にとってー
斗真と過ごすことになってしまった、一晩は、
本当に新鮮で、自分の知らない世界をたくさん知ることができたー。

「ーーーー……」
斗真は少し複雑そうな表情を浮かべると、
珠音は「わたしたち…どうして戻れたのかな?」と、疑問を口にしたー。

斗真は言うー。

「ー俺にもよく分からないけどー
 たぶん…”わざと”じゃダメだったんだろうなー」

入れ替わったあと、元に戻るために色々なことを試した二人ー。

”わざとぶつかってみる”こともしたー。

だが、”わざと”じゃダメだったのだろうー。

最初もー
そして、今もー
”わざとではなく、トラブルで”お互いがぶつかったことによって
身体が入れ替わったー。

「ーーまぁ…不思議なこともあるもんだな」
斗真はそれだけ言うと「ーほら、親が待ってるぞ」と、
珠音に家の外に出るように促すー。

これ以上、長話をすると赤月がまた騒ぎ出すー。

「ーーーーーー」
珠音は、うん…と、言いながら俯くー。

「ーーーーーーー」
斗真はそんな珠音を見て、少しだけため息をつくー

「ーーーそんな顔するなって」
斗真が言うと、珠音は寂しそうに斗真のほうを見つめながら
「ありがとうー」と、小声で、消えそうな声で呟いたー

「ーーーーーーーいやーーー
 俺は、泥棒だし、お礼を言われるようなことは
 何もしてないしー

 まぁ、その、とにかく気を付けて帰れよー。
 それとーーーー」

斗真は、小声で珠音に何かを囁くー。

その言葉を聞いた珠音は、
小声で何か返事をするー

それを聞いた斗真は少し驚いた様子を浮かべながらも
「そっかー…」と、頷くー。

そんな斗真に対して珠音は、

「ーーわたしのことそんなに心配してくれるなんてー…
 ……泥棒のくせにー」
と、笑いながらそう微笑んだー

初めて見る珠音の心からの笑顔にー
斗真も少しだけ笑うとー

「ー進む道は違うけど、お互い、頑張ろうなー」

と、珠音に対してそう言い放ったー

・・・・・・・・・・・・・・・・

家を出て、斗真と別れた珠音は
気まずい表情で、母親の待つ家の前へとやってくるー

するとー
玄関の前にいた母親と目が合ったー。

「珠音!どこ行ってたの!?もうー…
 心配したんだからー」

珠音を見ると同時に、そう叫ぶ母親ー。

珠音は、母親に怒られると思っていたー
母親に、叩かれると思っていたー。

でも、母親・波音はーーー
何も聞かずに、珠音を抱きしめてくれたー。
斗真のことも、何も聞かなかったー。

珠音は、そんな母に対して、
”心配かけてごめんねー”と、
静かに、けれども力強く言葉を呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー…あのガキと、本当は何をしてたんだ?」
赤月刃が、塀に寄りかかりながらそう呟くー。

「ーーーー何だっていいだろ。
 それに、俺はお前のことを裏切ったりしないー。
 俺がお前を誘ったんだー

 ちゃんと最後には”全部”責任を取るさー」

斗真が、鋭い目つきで、赤月刃のほうを見つめると
刃は少しだけ笑みを浮かべてー

「ーまぁ、それなら文句はねぇよ」
と、だけ呟くと、刃は斗真と共に歩き出すー

斗真はふと、夜空に浮かぶ月を見上げるー。

”泥棒は、泥棒だー

 泥棒は犯罪者であり、泥棒は悪でしかないー。

 どんなに誰かに優しくしようとー
 どんなに綺麗ごとを言おうと
 どんな理由があろうと、
 例え盗む相手が悪党であろうとも、
 悪が悪からモノを盗んでいるに過ぎないー

 何がどう転んでも、泥棒は、悪なのだー。
 
 妹を救うためであっても、そうー”

「ーーーーー」

”泥棒のくせに”

珠音からそう言われたことを思い出すー

「ーーーそうさー…俺は悪党さ」
斗真はふと、そう呟く。

「あん?」
隣を歩いていた刃が首を傾げるー。

「ーーでもーーーー」

妹は、このままなら死ぬー。
国内では治療できない病気に冒され、
それは確実に進行していてー
もう、時間がないー

”普通の方法”では、妹を助け出すことはできないー

盗んだお金で治療を行うー
そんなこと、”正しい道”だとは思わないー

でも、今の自分にはーーーー

”このまま妹が死んでいくのを黙ってみているか”

それとも

”こうして”盗み”で金を稼ぎ、妹を助けるかー”

それしか、ないー。

妹の手術の成功を見届けたら、妹の生活に影響が出ないよう、
家族になるべく迷惑がかからないよう、全ての罪を
自分一人で被るつもりだー。

手術さえしてしまえばー
少なくとも、妹は助かるー

”犯罪に手を染めて妹を助けるか”
”何もせず、妹を見殺しにするか”

選択肢は
”地獄”と”地獄”

けれどもー

「ーーーどちらを進んでも地獄ならー
 俺はー
 お前を助けたいんだー

 お前は、たった一人の、たった一人の
 大切な、妹だからー」

斗真は月を見つめながら、
たった一人の、最愛の妹の名前を呟いたー

「深紅(みく)ーーー」

・・・・・・・・・・・・・・・・

それからー
時は流れー

珠音は、意を決して再び学校に足を踏み入れていたー

あの日、泥棒と入れ替わる不思議な経験をしてー
珠音は少しだけ勇気を貰えたー

彼が、勇気をくれたー

そんな、気がしたー

「……泥棒に勇気を貰うなんてー」

珠音は少しだけ微笑みながら
学校に足を踏み入れー
教室に入ると、

いじめグループのリーダー格の女子が、
すぐに珠音に気付いたー

「あっれぇ~?」

ニヤニヤと笑みを浮かべるいじめっ子ー

珠音は、それだけで自分の身体が震えることに気付いたー

でもー
彼と、約束したからー

”俺は、泥棒だし、お礼を言われるようなことは
 何もしてないしー

 まぁ、その、とにかく気を付けて帰れよー。
 それとーーーー

 お前のいじめーー…
 俺が、どうにかしてやるからー”

あの日ー
元に戻れた直後、彼は小声で
”珠音のいじめ”をこんなことに巻き込んだお詫びに
何とかする、と言ってくれたー

けどー
珠音は、首を横に振りながら答えたー

”ーー大丈夫ー…
 今日、もういじめなんかよりいっぱい怖い思いさせられたしー…
 
 …わたし、もう一度自分で頑張ってみるー”

とー。

”そっかー”

斗真は、そう言いながらも、少しだけ嬉しそうにも見えたー

元に戻った直後のやり取りを思い出しながら
珠音は思うー。

”いじめ”に立ち向かうことは簡単じゃないー。
そう簡単に、この状況を抜け出せるとは思えないー。

それでもー
あの泥棒と約束したからー

お母さんも、お父さんも全力で力になると約束してくれたからー
先生にも相談して、先生も力を貸してくれると約束してくれたからー

あの泥棒がー
”わたしの弱い心”を少しだけ盗んでいってくれたからー。

「ーーーーーー」
珠音は、すぅっと深呼吸をしてから
と、自分の座席に向かって歩き出すー。

”わたしー今度は絶対に負けないー”

いじめっ子のほうを見つめながら
珠音は心の中で静かにそう呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数か月後ー。

「ほんと…バカなんだからー」

目に涙を浮かべながら、手術を終えて
退院を間近に控えていた
珠音と同じぐらいの年齢の少女は
静かに呟いたー

”連続窃盗事件の容疑者、逮捕ー”

ニュースで、窃盗事件の報道が行われているー。

逮捕されたのはー
少女の兄と、その友人らしき男ー。

「ーーーお兄ちゃんのバカー…
 でもーーーーーー」

少女は、弱弱しい手で握りこぶしを作ると、

「助けてくれて、ありがとうー
 斗真お兄ちゃんー…」

そう呟くと、病室の窓から
空を見上げながら、少女は静かに言葉を続けたー。

お兄ちゃんは、わたしにとってー
本当に最高のお兄ちゃんだよー

ーーーーー…泥棒だけどー

とー、

斗真の妹・深紅は、
どこか、珠音と同じようなことを口にして、
寂しそうに、テレビに映る兄の姿を見つめたー

”お兄ちゃんが犯罪者”ー

これから先、それが原因で辛い思いをすることもあると思うー

でも、それでもー
生きていれば、いつか必ずーーーー

深紅は、これから先の未来を強く生きていくことを決意して、
決意の眼差しで、窓の外を見つめたー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

5周年記念作品第3弾の最終話でした~!
第1弾は普通の感じの作品、
第2弾はいつもより長めの作品、
第3弾は合作にしてみました~!
(それぞれ繋がりはありません!☆)

今回の合作は、以前もやったことがある方法で
合作をしましたが、その時とは違って
私がハッピーエンド側を作ったので、
前回とはまた違う経験ができました!

ここまでお読み下さりありがとうございました~!

果実夢想様のサイトの方では
闇ルートの最終回があるので、
そっちもぜひ、楽しんでくださいネ~!

★果実夢想様のサイトの闇ルート版はこちら(果実夢想様のサイトに飛びます)から読めますので、
興味があればどうぞ~!☆
※怪しいサイトに飛ぶことはないので、安心してください!

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