半年前ー
”お姉ちゃん”は、忽然と姿を消したー
”半年前”
何が起きていたのかー
それを解き明かす、過去の追憶…(後編)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
黒月村での一晩を過ごしー、
翌朝を迎えたー。
紅葉に同行している男性記者の塩村は、
パソコンで調べ事をしていて、あることに気づいたー。
”少女が失踪ー”
偶然目にしたー
数年前のニュース…
その”失踪した少女の顔”はー
村長の娘を名乗っていた美音と同じだったのだー。
”「ーー娘の美音(みおん)です」”
何故、失踪した娘がこの村で
村長の娘を名乗っているのだろうかー。
イヤな予感がするー。
そう思い、宿を飛び出した塩村ー。
だがーー
宿の外に飛び出した塩村が目にしたのはー
別の宿に宿泊していた紅葉が、
巫女服を身に纏い、不敵な笑みを浮かべながら
宿から出てくる姿だったー。
「ーーー…そ、その恰好は?」
塩村がいつものような冷静さを少し失いながら聞くと、
紅葉は「あぁ、お前ー」と、言いかけてからー
「ーーわたし、この村が気に入ったの」と、笑みを浮かべたー
「ーー…な、何を…?」
塩村は戸惑うー
”黒月村に入った人間は二度と帰ってこない”
そんな、不気味な噂ー。
ただの都市伝説だと思っていた”ソレ”が
突然現実味を増していくー。
「ーわたし、今朝、村長さんに相談したんです。
そしたら、この村の巫女さんにしてくれるんですって!
だからー
え~っと、しお、塩村さん、あなたは一人で帰ってください!
ふふ、ふふふふ」
紅葉はそれだけ言うと、村の集会所のような場所に
向かって歩き出すー。
昨日と言っていることが全然違うー。
突然の豹変に塩村は戸惑いながら、「ちょ!神矢さん!」と叫ぶー。
「ーーーーー」
立ち止まる紅葉ー。
「ーーい、妹さんと、婚約者がいるんだろ?
その人たちはどうする?」
塩村が言うと、紅葉はクスッと笑ったー
「あぁ、”そんなもの”いるんですね」
とー。
まるで”興味”が無さそうにー
「ーーお、おい…!?何を言ってるんだ!?」
いつも冷静な塩村が、完全に困惑しているー
「ーーーな~んちゃって!
ふふ、塩村さんの焦る顔、初めて見ました!」
「ーーそんなこと言うわけないじゃないですか!
妹や彼氏も心配しますし!」
昨晩ー
”この村に残る”と冗談を口にした紅葉の姿を思い出すー。
だが、今度はー
今度は、”冗談”とは思えないー
「ーーーーわたし、この村のために尽くすことに決めたのー。
この身体を捧げて、ね」
不敵な笑みを浮かべる紅葉ー。
巫女服を身に着けているからか、
いつもの紅葉とは違う、異様な雰囲気を感じるー
「ーーな、何を言ってるんだ!
さぁ、帰るぞ」
塩村は紅葉の手を掴むー。
”嫌な予感”がしたー。
何かの宗教的なモノが存在する村なのだろうかー。
たった一晩にして、紅葉を言葉で言いくるめでもしたのだろうかー。
とにかく、早くこの黒月村から出て、
紅葉を連れ帰る必要があるー、とそう感じたー
「ーー触らないで」
紅葉が低い声で塩村の手を振り払うー。
「ーーか、、神矢さん…!?」
いつも寡黙で冷静な塩村は、戸惑うことしかできないー
「ーこれはこれは、どうかしましたかな?」
そこにー
村長がやってきたー
紅葉は不敵な笑みを浮かべながら
村長の方に歩み寄っていくー。
「ーわたしがこの村に残るって言ってるのに、
この人、無理やりわたしを連れて帰ろうとするんですよ」
紅葉がそう言うと、村長は笑みを浮かべたー
「ほっほほ…それはそれは…
塩村さん、この人は”自分の意志”でこの村に残りたいと
仰ってるんです。
家族でもないあなたが、無理やり連れ帰る権利など、ないのでは
ないですかな?」
村長の言葉に、塩村は「ーあ、、あんたら…その人に何をした!?」と叫ぶー。
だが、紅葉は笑みを浮かべながら答えるー
「ーわたしは、わたしの意志でここに残るんですよ。塩村さんー。」
とー。
「ーふ、、ふざけないでくれ…!
家族は…!?会社はどうする!?」
塩村が言うと、紅葉はクスクスと笑いながら
「ーうるせぇやつだな」と、呟いたー
そして”退職願”を放り投げるー。
紅葉の筆跡と明らかに違うー。
それを見て、塩村は「なんだこれは…」と、戸惑いながら
紅葉のほうを見つめるー。
「ーーお、、お前ら!その人に何をしたんだ!おい!」
塩村がそう叫ぶと、
村長は不気味な笑みを浮かべたー
「ーーそれを知って、どうしますか?」
とー。
「ーーき、決まってるーーー…そ、そんなことは…」
塩村は、足を震わせていたー。
普段は寡黙で、冷静で、何事にも動じない男性記者の塩村はー
本当は”臆病な性格”だったー。
寡黙なのは、人付き合いが苦手だからだー。
冷静で動じないように周囲から見られているのはー
単純に感情を表に出さないタイプだけだからだー。
だが、紅葉を始め、同僚たちはいつの間にか
塩村のことを「寡黙で頼りになる男性」と、考えて
しまっていたのだー
見た目が妙に渋く、強そうに見えるのにも原因が
あるのかもしれないー
「ーーどうぞ。お帰り下さいー」
それを見抜いたのか、村長が静かに微笑むー。
”この村はやばい”
塩村は、何が起きているのかも分からないままー
慌てて村の外に駆け出すー。
「ーーあ~~あ。”この女”も可哀そうにー
クククー」
紅葉が巫女服の上から自分の胸をさりげなく触るとー
村長のほうを見て「でも、帰らせる気はないんでしょう?」とほほ笑むー。
「ーーーもちろんじゃ」
村長はそう言うと、邪悪な笑みを浮かべたー
黒月村は、人口減に苦しまされていたー。
若い人たちは村を出て、
俗に言う”限界集落”状態だったー
世間は、そんな黒月村をあざ笑ったー
”努力不足”
”ジジイとババアの村”
”淘汰を受け入れろ”とバッシングされるばかりー」
とー
だからこそー
黒月村の残った住人は”村に昔から言い伝えられている”
禁忌の儀式を用いたのだー
年老いた村人から魂を取り出しー
村にやってきた若い男女に憑依させるー
そしてー、支配した若い身体を使い、赤ん坊を出産していくー
だがー
時折”使えない身体”もあるー。
あの塩村という男性記者は”不適合”だったー。
”持病”があるのだー。
村の子孫繁栄のためにも
”健康体”以外は必要ないー
故にー
塩村のような男の場合は解放してやっているー
しかしー
今回は”紅葉”と一緒に来て、紅葉が豹変する様を見てしまったー。
「ーーふふふふふふ
可哀そうにー」
紅葉はそう呟くと、「村長、この女の子作りだけどさ」と、
村長のほうを見て微笑むー
「あぁ、さっそく始めてもらいたいー」
村長がそう言うと、「じゃあ、今晩からー」と、紅葉は笑みを浮かべたー
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塩村は、黒月村を離れ、険しい山道の
”車に乗ってきた場所”までたどり着いていたー
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
必死に逃げていた塩村ー
彼はー
もう、紅葉のことなどどうでもよかったー。
元々彼は臆病だー
寡黙なのも、彼の場合は”臆病”故ー。
車の扉を開けて、運転席に乗り込もうとする塩村ー
”昨日までの紅葉”と
”今日の紅葉”の顔が交互に浮かぶー
”まるで別人”
いやー
”まるで”どころかー
完全にーー
「ーーー!」
物音が聞こえて塩村が振り返るー
木々の向こうから、何か音が聞こえるー
「ーーな、、なんだ!?」
塩村はすっかり怯え切っていたー
”こんな村、来なきゃよかったー”
編集長にもしもこれで怒られるのであれば
会社なんてやめてやるー。
「ーー誰かいるのか!?」
塩村が怯え切った声で叫んだー。
その直後ー
”それ”は木々の隙間から姿を現したー
悲鳴を上げる塩村ー。
塩村にできることはもはや、何もなかったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーククククク…」
紅葉は不気味な笑みを浮かべながら
”昨晩”のことを思い出すー。
昨晩ー
村長の娘・美音は、
”村人の魂”を安置してある建物内に向かったー。
普段は厳重に閉ざされている場所だー
そこからー
村に伝わる禁忌の術で抽出した”村人の魂”を手にー
美音は、女性記者・紅葉が眠っている宿に忍び込むー
「ーーお前も今日から村の一員だー」
美音は、穏やかな寝息を立てている紅葉を見つめるとー
”村人の魂”を紅葉の口に無理やりねじ込もうとするー
「ーーー!!!」
目を覚ます紅葉ー
「ーーえ、、、なっ!?むぐっ…あぁ、、、あっ!?!?」
村人の魂が口から紅葉に憑依しー
激しく痙攣をおこす紅葉ー
やがてー
紅葉の痙攣が止まるとー
紅葉は目に涙を浮かべたまま、笑みを浮かべたー
「ーーおはようございますー」
美音がにっこりと微笑むとー
紅葉は自分の手や足を見つめー
頬を触ってから笑みを浮かべたー
「これが、俺の新しい身体かー」
村の小さな神社を半月前まで運営していた男の魂が
紅葉に憑依したー
「ーーーいい身体だな…気にいった」
紅葉はニヤリと浮かべると、
そのまま立ち上がって美音の頭を撫でたー
「ーーえっ~と、中身はーー…」
紅葉が言うと、美音は「今は村長の娘の美音ーー」と、
笑みを浮かべたー
「ーーへへ…そっか。
あ、この身体の名前は?」
乗っ取られた紅葉が笑いながら言うと、
美音は「神矢 紅葉ー。雑誌の記者みたい」と、答えたー。
「ーーへへへ 今日から俺がその神矢 紅葉かー」
ニヤニヤしながら腕をしばらく振り回すと、
「ーー俺の神社は、どうなってる?」と、美音に確認するー
美音が、まだちゃんと残してあります、と言うと、
紅葉は「じゃあ、これからは村の巫女にでもなるか」と、
邪悪な笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
完全に支配されてしまった紅葉は
程なくして、妹の友里恵や、婚約者であった祥吾との
連絡を絶ち、黒月村の住人となったー。
同行していた男性記者の塩村は、
黒月村から少し離れた場所で”熊”に襲撃されて死亡したー。
その”熊”も
黒月村の住人が憑依している熊だー。
”熊”による死者が出るのは、仕方のないことー。
黒月村の住人たちは、
禁忌の儀式で、年老いた村人から順番に、村にやってきた若い身体に
憑依させていきー、
そして、”必要のない身体”は、帰り道で
村人が憑依している熊を使って”処分”するー。
「ー全ては、この村の繁栄のためじゃー」
村長は、村の若者と子作りに励んでいる紅葉の声を
建物の外から聞きながら、静かに笑みを浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーどうするんですか?」
紅葉と塩村ー
二人の記者からの連絡が途絶えてから半月以上が経過したー。
「ーーー…知らんー…
知らないで通せ!」
編集長の堂原は頭を抱えていたー。
”訪れた者は2度と帰ってこない村”
そんな、都市伝説通りになってしまったー。
編集長の堂原は、
”そういう噂があることを知っていて
2人の記者を取材のために向かわせた”ことの責任を
取らされることに怯えー。
塩村と紅葉の行先について、固く口を閉ざしたー。
その結果ー
紅葉の妹である友里恵と、婚約者の祥吾が
”黒月村”の情報にたどり着くまで、半年の時間を要したー。
”本当はわたしが行くはずだったのにー”
と、2歳年上の女性記者・阿左美が罪悪感に耐え切れずに、
密かに情報を外部に流したのだー
その結果ー
堂原編集長は失脚ー
友里恵と祥吾は、紅葉が”黒月村”にいることを知ったー
しかしー
それが、さらなる悲劇の幕開けであることをー
この時の友里恵と祥吾は、まだ、知らなかったー。
おわり
(※本編①に繋がります)
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コメント
「黒き村」の半年前を描く作品でした~!
ここから、本編①に繋がっていくわけですネ~!☆
お読みくださり、ありがとうございました!!
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