”憑依病棟”
憑依薬が悪用されるようになった世界、
”憑依されたこと”により負った心の傷を治療する
専門病院が存在した…
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”憑依病棟”
この世界では、憑依薬が犯罪組織などの裏社会を中心に
悪用されるようになり、
憑依薬による”憑依被害”が時々発生していた。
当然、警察や政府も対応はしたー。
しかし、”憑依”という逆らうことのできない支配に、
何の罪のない人々が憑依され、
悪事に使われたり、
欲望を満たすために使われたりー
するようになったー
警察による”憑依薬一斉摘発”により、
憑依薬は”表向き”は撲滅されたが
それでもまだ、憑依される人間は存在していたー
国も理解はしている。
”裏社会では、いまだに憑依薬が出回っていること”をー。
だが、憑依薬が誕生したとき、民衆は大混乱に陥ったー
当たり前だー。
”自分が、いつ、どこで急に乗っ取られるか分からない恐怖”
”自分の身を周りの人間が乗っ取られるかもしれないという疑心暗鬼”
だからー
国は
憑依薬を完全に撲滅することは難しいと理解しながらも
”憑依薬一斉摘発”というパフォーマンスを行い
撲滅成功アピールをするしかなかったのだったー。
そして、この憑依病棟では、
そんな憑依薬により、憑依され、心の傷を負った人たちを
治療しているー。
「--……わたし……ごめんなさい…ごめんなさい…」
可愛らしい少女が、先生に対して謝罪の言葉を
口にしながら泣いているー
「君が悪いんじゃない。大丈夫だよ」
憑依病棟の医師・杉原 芳也(すぎはら よしや)は
そんな少女に声を掛けるー。
この子はー
高校入学時に憑依されて、
散々、悪事の限りを尽くした子だー
身体を使って犯罪組織のために金を稼ぎー
親の命を奪いー
毎日のようにエッチを喜んでしていたー
そしてー
”高校卒業”の年齢の際に捨てられたー。
「-ーーでも、、わたしが、、わたしが…」
泣きじゃくる少女ー
彼女はーー
中学時代は生徒会長を務めるほどの優等生で
友達も多く、成績優秀だったー
けれどー
3年間憑依された心の傷は、彼女を壊してしまったー
「--たしかに、身体は君の身体だったー
でもね…
中身が別の人だったんだ。
きみは悪くない。
憑依されちゃった君は、被害者だ。
加害者じゃない」
芳也が優しく話しかけるー。
「--でも、わたしが殺したの!うぅぅぅ…」
永田 翔子(ながた しょうこ)と書かれた病室から
外に出て、ため息をつく芳也ー。
”自分が憑依されていたー”
その事実を知った子たちはー
9割以上が動揺するー
自分のおかした罪にもがき苦しむ子ー
翔子もその一人だー。
憑依されていた事実に怯え、まともに日常生活を送れなくなる子ー
自分の人生の一部が奪われたことに悲しみ、ふさぎ込んでしまう子ー
あまりのショックから狂ってしまう子ー。
そしてー
残りの1割はーー
「---」
Dr芳也は”森坂 百恵(もりさか ももえ)”と書かれた
病室に入るー。
「------」
百恵は口を開けたまま、涎を垂らして
まるで”老人”のように、寝たきりの状態になってしまっているー
病室の済にはー
彼氏だろうかー
優しそうな青年と一緒に写っている写真が飾られているー
”憑依される前の自分”を取り戻すためー
この病院では、それぞれの患者の病室に
”元の自分の写真”を飾るようにしているー
研究の結果ー
”元の自分を取り戻す心理的効果があるのだとかー。
百恵は、女子大生だったー。
2年前に憑依され、半年前に開放されたー。
だがー、
”残りの1割”はー
壊れてしまった人間の割合がほとんどを占めるー。
ごくわずかだけー
”憑依されていたことを冷静に受け止め”
入院する必要もない人間もいるのだが、
それはレアケースだー
憑依していた人間が抜け出してもー
百恵のように意識を取り戻さない子もいるー。
原因は分からないー
だが、憑依されていた際に身体が拒絶反応を起こしただとか、
憑依されている最中に精神的に壊れてしまっただとか、
色々な説が語られているー。
「----悲しくなるよ」
Dr芳也が言うと、同僚のドクターが苦笑いするー
「まぁな…
憑依される前の話とか聞かされると
ホント、やり場のない怒りを感じるよなー」
同僚のドクターの言葉に、芳也は頷いたー
”憑依された人間の末路”は、
悲惨なことが多いー。
入院中に発狂して自殺したものまでいるー
この前もそうだったー。
憑依されて、犯罪に悪用された少女は、
入院中に
「--わたし、悪い子だから…!」と泣き叫びながら
自殺したー。
「----ーー酷いもんだよ。
憑依してた側は、まるで”道具”のように身体を奪い、
それで、用が済んだらポイだ」
芳也が言うと、同僚のドクターは
「あいつらにとっては”他人の身体”は
”洋服”なんだろうな」と呟いたー。
”憑依”に対する手立てはいまだ見つかっていないー。
憑依薬による憑依から身を守る手立てはないー
現在は一般ルートでの入手は困難になっており
件数としては少ないのだが、それでも確実に
憑依による被害は、発生しているのが実情ー
芳也は午後も患者を診て回るー
「ひっ…」
部屋の扉を開けただけで怯える少女ー。
”憑依”がトラウマになってしまいー
誰を見るだけでも、少しの物音でも、
パニックを起こすようになってしまったー
元は元気なスポーツ少女だったというー。
「----~~~~~~~~~~~」
小声で何かをブツブツ呟いている青年ー
彼は、男性患者で、
憑依されたあとは、精神崩壊状態で、
何かをひたすら呟くだけになってしまったー
「---ど~せ、あたしは悪い子ですよーだ!」
ギャルのような容姿の女ー。
元々真面目な眼鏡女子で読書が好きな子だったのだが
憑依後も、憑依されていた最中の感覚が
抜けないのか、完全にギャル化してしまっているほか、
自暴自棄になっているー
「--先生、あたしとヤラない?」
笑う彼女ー
両親によると、そんな子ではなかったのだというー
自暴自棄になったこの子が、憑依されていた際の
振る舞いを、ヤケクソになってしているのかー
それとも”憑依自体”が彼女の人格そのものを
変えてしまったのかー
「---ここは病院だよ。そういうことはできない」
芳也が優しく言うと、
「ちぇっ!あたし、早く男とヤリた~い!」と、その子は叫ぶー。
「-----…」
芳也は、部屋の写真を見つめるー。
眼鏡をかけた優しそうな少女ー
今のこの子とは、まるで別人ー
例え、憑依から解放されたとしてもー
”元に戻ることができない”
「---」
そんな”憑依”に対して芳也は怒りすら感じるー。
割合としては”少女”が多いー。
憑依薬が流通している裏社会に男が多いことがー
理由なのだろうかー。
悪用されるのは、少女の身体がとにかく多いのだー。
この病棟も、8割が女性で、2割が男性だー。
しかし、いずれにしても、
憑依された子たちはー
憑依された少女たちはー
憑依された少年たちはー
みんな、壊れてしまうー
復帰できる子は、ほとんどー
「--先生」
優しく微笑む綺麗な黒髪の女性ー
丸中 璃々(まるなか りり)という
入院患者の一人ー
”5年間”も憑依されていた子で、
憑依された当時は、中学入学直後ー
解放されたのは、高校3年生になった直後ー
当初は、ひどく怯えていて、
そもそも”本人の意識”は、中学入学時から
止まっていたため
その間の”思春期という大事な成長期”の経験が抜け落ち、
身体は高校3年生なのに、中身は中学入学直後の少女、
という状況だったー
だがー
あれから2年
懸命のリハビリによりー
彼女は、今日、退院するのだー。
「---璃々ちゃん。お疲れ様
よく頑張ったな。えらいぞ」
芳也が言うと、璃々は嬉しそうに「ありがとうございますっ!」と
照れ臭そうに言ったー
既に本来なら大学生の年齢になっている璃々ー
だが、5年憑依されていた影響か、
その言動は、実年齢よりもかなり子供っぽいー
「---わたし、今まで遊べなかったぶん、い~っぱい遊ぶの!」
璃々が言うー。
「--はは、そっか。そうだな。今までの分もたくさん遊んで、
たくさん勉強して、幸せにな」
芳也が言うと、
「--ふふふ!は~い!」と
璃々は嬉しそうに手を挙げたー。
”彼女にはこれから多くの苦難が待ち受けているだろうー”
芳也は心配そうに、璃々の後ろ姿を見つめるー。
中身は中学入学直後ー
もちろん、この病院でリハビリも、学校教育を凝縮したものも、教えたー
けれど、2年間で強引に、無理やり教育しただけー
失われた時間は、取り戻すことはできないー
現にー
その言動は、やはり、大事な思春期の時期、乗っ取られていたせいか、
見た目よりもかなり幼いー。
けれどー
現実は冷たいー
この”憑依病棟”の外では、
彼女のことをみんな大学生として見るだろうー
彼女は、”それ”に立ち向かっていかなくてはならないのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
憑依病棟での戦いは続くー
半年後ー
芳也は、愕然としたー。
「----あははは、、あはは、、あは、、、あははは♡」
狂ったように笑いながら運ばれてきた女性ー。
担当の警察官が言うー。
”4、5カ月程度憑依されていたようですー
身体でお金を稼いで、犯罪組織に横流ししていたようですね”
そう呟いた警察が、書類を芳也に手渡すー
”丸中 璃々”
半年前に退院した、あの子だー
退院後にー
あの子は、また憑依されてしまったのだー
前回の憑依とは、別の人間にー
「---わたし、今まで遊べなかったぶん、い~っぱい遊ぶの!」
退院前の璃々の笑顔を思い出すー
せっかくー
せっかく、立ち直ったのにー
芳也は拳を握りしめるー
「--あはは、、わたし、、悪い子、、あははは…
あは…あはははは…」
璃々は、前とは違ってー
精神的にかなりダメージを受けていたー
泣きながらー
「わるいこ…」と、呟き続けてー
泣きながらーーー
「----」
芳也は、璃々を”自殺の危険性あり”と判断するー。
やっとの思いで立ち直った彼女は、運悪く、すぐにまた憑依されてしまったのだー。
「ーーくそっ!くそっ!くそっ!」
芳也が怒りの形相で壁を叩くー
「人の人生を、弄びやがって!」
”憑依病棟”の存在は、世間には知らされていないー
だから、この場所の人間が憑依される心配は基本的にはないー
「---……くそっ!!!!」
芳也は壁を叩くと、
深呼吸をしながら、璃々の病室に向かったー
璃々は、泣きながら笑っていたー
「---あははは…あはははははは」
”先生”と
芳也のことを慕っていた莉々ー。
だが、今、もう、その”先生”を目にしても
ロクに反応しなくなってしまったー。
”壊れて”しまったー
”俺は憑依を許さない”
芳也は、怒りを抱きながら、
今日も、憑依病棟に運ばれてくる患者ー
入院患者たちを、その目で、見守るのだったー。
おわり
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コメント
憑依され終わった人の心のケアをする専門病院の
お話でした~!
憑依が当たり前の世界では…
必要になりそうですネ~
お読み下さりありがとうございました!!
コメント
こういう憑依被害者の末路的の詰め合わせ的な話はいいですね。
もっと色々読みたくなります。今までの作品でも、この話みたいに悲惨なことになってる憑依被害者は大勢発生してるんでしょうね。
ところで妄想ですが、もし熱心に憑依被害者を救おうとしてる医者の杉原が憑依人だったりとかしたら最悪ですよね。自分が憑依して壊した女の子の様子を見て興奮するヤバい性癖だったりとかして。
ありがとうございます~!☆
1話完結のお話だったので、
もうちょっとじっくり描いてみたい気持ちは
書いた当時ありました~!☆
先生がそんな性癖を持っていないことを祈るのデス…☆