「1年に1度」
身体を乗り換える男がいたー。
憑依能力を持つその男は、
毎年、新年を迎える瞬間に、次の身体に憑依する。
それを彼は、
”体越し”と呼んでいた…。
---------------------
2019年12月31日ー
”その男”にとっては
1年に一度の、大切なイベントがある日だー
”年越しー?”
世間のやつらは、そうだろう。
だが、彼にとっては年越しなど
どうでも良い事だ。
彼はー、憑依能力を持っているー。
そして、その憑依能力を使って…
彼は、女性の身体を乗っ取り、
1年間を過ごすー。
彼は、年越しの瞬間に
毎年身体を乗り換えているー。
去年ー
2018年⇒2019年に切り替わる瞬間には、
梨花という女から、幸せな家庭の母親・若菜に
乗り換えたー
正気を取り戻した梨花は、当時激しく動揺
していたが、その後、どうなったのか、
彼は知らないー
そしてー
この1年間、彼は、若菜として生きてきた。
夫・和彦と
一人息子の良助はー
半年前に、家出した。
”恐怖で家庭を支配する美人妻”の
シチュエーションを楽しむつもりだったが、
夫の和彦と息子の良助には
逃げられてしまったのだ。
「は~!どうにでもなれ~♡」
乱れきった若菜は、
昼間から缶ビールを口にすると、
その空き缶を放り投げた。
部屋の中は、滅茶苦茶だ。
夫と子供は逃げだし、
既に離婚が成立している。
追いかけても良かったが、
半年間、夫と子供を苦しめて
女王として君臨した若菜は、
”もう、この生活にも飽きたな”と
そのまま和彦たちを解放したのだったー
「---んっふふふふふ~
わたしってば、やっぱり宝石みたい~!」
今人気のヒートテックを着込んだ若菜が、
自分の太ももをイヤらしく撫でるー。
「んっふふふふふ♡
うふふふふふふふふっ♡」
下心丸出しで
奇妙な笑い声を上げる若菜。
若菜は、この1年間で、
何もかも失ってしまった。
夫と息子は逃げだしー
夫の実家からは、絶縁を叩きつけられ、
若菜自身の両親からも
呆れ果てられてしまったー
友達も失った。
それでも、今の若菜は
そんな状況にゾクゾクしていたー
優しく穏やかなお母さんが、
1年間でここまで堕落するー
いや、堕落”させることができる”
そのことに
憑依されたままの若菜は
ゾクゾクしながら、叫んだ。
「えへへへへへっ!
どうにでもなれ~!
どうせわたしの身体じゃないんだしぃ~☆!」
若菜はそう叫ぶと、
焼酎をがぶ飲みして、ふらふらと立ち上がった。
12月31日ー
今日は”乗り換え”の日だー。
来年は、
どんなシチュエーションを楽しもうかー。
そんなことを、考えながらー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「-ーー♪~~」
冬休みー
小学3年生の咲(さき)は
嬉しそうに大好きな歌を歌っていた。
母親と父親が
微笑ましく見つめる。
今日は大みそか。
家族と一緒に、年越しのイベントに
参加する咲は、ごきげんだったー。
明るく元気で、無邪気な咲ー。
そんな娘を両親もとても
可愛がっていたし、
娘の成長を見守る時間は、
とても、幸せだったー
けれどー
この家族は、まだ知らないー。
2020年は、地獄の幕開けになることをー
娘の咲に、魔の手が迫っていることをー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「は~~~!」
若菜は、吸い殻が山のようになっている
灰皿に煙草を押し付けると、
ボサボサになった髪の毛を
掻き毟った。
「あ~!風呂入ってないからかゆいなぁ~!」
ここ3日間は、
風呂に入っていなかったー
理由は簡単だー
”もう、若菜の身体に用はないからだ”
大晦日を迎えた今日ー
この身体との付き合いも、
残すところ今日だけになった。
もう、どうでもいいー
大事なのは、次の身体。
若菜は、ヒートテックから覗く
自分の太ももをイヤらしく触りながら
呟く…
「今年は人妻…
去年とおととしは女子大生だったから…
そろそろ…小さい子に憑依するか…」
若菜がニヤニヤと笑うー
若菜に憑依している男は、
毎年、異なる”シチュエーション”を楽しむ。
同じような人間に憑依するのではなく
色々な立場の人間に憑依して
1年間を楽しむのだ。
今度はー
そう、小さい子に憑依して
小さい子の特権を利用しながら
あちらこちらで悪さをしてやるー
”無邪気な悪意”こそ、
手に負えないものはないー
「さーてと!」
若菜は部屋にあったビールの缶を
蹴り飛ばして鏡を見つめる。
「1年間、おつかれさま~!」
若菜はそう呟くと、
ヒートテック姿のまま、家の外に出た。
周囲の視線が集まる。
「んふっ♡」
若菜は見られている喜びを感じて
ゾクゾクしながら、年越しイベントが
行われる会場へと向かった。
”来年”を楽しむ身体を見つけるためにー。
・・・・・・・・・・・・・
23:00-
毎年、年越しイベントが
行われているその場所では、
大勢の人間が集まっていた。
「---…ふふ♡」
ヒートテック姿で、
生足を晒しながらやってくる若菜ー。
その身体はー
この1年間、酷使され続けて
既にボロボロだー。
その美貌も次第に失われつつあるー。
周囲は、
若菜の方を気にするようにして見ているー。
「--……ふふふふふ♡
1年間、おつかれさま」
若菜は自分の胸をつつきながら
不気味に微笑んだー…
「わ~い!お父さん、これ買って~!」
可愛らしいツインテールの少女・咲が
大喜びではしゃいでいるー。
咲のそんな姿を見ながら
微笑む父親と母親ー
娘を連れて、
年越しイベントにやってきていた
家族ー。
「--♪~」
嬉しそうにしている咲ー
自分たちの元に
生まれて来てくれてよかったー。
幸せをかみしめながら、
咲の両親は静かに微笑んだー
「-----」
そんな様子を、若菜が見ていたー
1年前までは、この女も
幸せな家族に囲まれていたー
けどー
今はー
「ふふふふ…き~めた!」
若菜がニヤリと微笑むー。
そしてー
若菜は、咲の方に近づいていくー
「--ふふふふふ…」
近づいてきた若菜に
警戒心をあらわにする咲。
若菜の身体はぶるぶると震えているー
例のヒートテック以外、何も着ていないから
当たり前だー
だが、若菜がどうなっても、
もう、どうだっていい。
「---来年になったら、よろしくね」
若菜が咲の頭を撫でる。
「お、、おねえちゃん…だれ…?」
怖がりながら聞く咲。
「ふふふ…来年の、きみだよ」
若菜はそう呟くと、クスクス笑いながら
咲の元から立ち去ったー
23:40-
年越しの瞬間が近づいてくるー
「----」
若菜は周囲の人間にじろじろと
見られながら
見られる喜びを感じていた。
「んっふふふ~♪」
モデルのような歩き方をしながら
若菜は、自分の生足を
見せつけている。
寒さで唇が震えているが、
そんなことは関係ないー
この身体とは、あと15分の付き合いだ。
「----!若菜!」
背後から聞き覚えのある声がして
若菜は振り返るー。
そこには、
若菜の元夫である和彦と
息子の良助がいた。
「--お前…なんて格好してるんだ!」
和彦が叫ぶ。
「---……」
良助は怯えた様子で、和彦の影に
隠れているー
「あらあら…んふふふ…♡久しぶり」
ヒートテックから露出した生足を
触りながら笑う若菜ー。
「--お前…まだそんなことを…
一体どうしちゃったんだ!」
和彦は叫ぶー。
離婚に至ったとは言え、
若菜は元々こんな女性ではなかったはず。
いったい、何が若菜を変えてしまったのか。
和彦はまだ、その答えに辿り着けずにいた。
「----ふふ」
若菜が会場の時計を見つめるー
23:55-
もうすぐ、この身体の役目はおわりだー。
「--♪~!」
近くでは、少女・咲とその両親が
年越しの瞬間を待ちわびていたー
”あと3分”-
咲の身に起こることを知らずにー。
そして、年越しのカウントダウンが始まるー
年越しイベントの会場となっている
ライトアップされたテーマパークで
はしゃぐ咲。
咲の身にもうすぐ、何が起こるのか。
この時は咲自身も、
咲の両親も、そのことを知らなかったー
・・・・・・・・・
23:58-
「この身体、とってもエロかったぜ~!
いままで色々な身体を渡り歩いてきた中でも
最高だったー!」
ライトアップされた観覧車に照らされながら
若菜がヒートテック姿で、
表情を鬼のように歪めながら笑うー
「--若菜…」
元夫の和彦はそんな若菜の姿を
見ながら唖然としていたー
本当にこれは若菜なのかー?
とー。
「--ひひひひひひひひひ♡
わたしは、1年間で変態女に成り果てたのよっ!」
大声で叫ぶ若菜。
外に出歩くにしては異様な格好の若菜と
その大声に、周囲の人間が
若菜たちの方を見る。
「ひひひ…
わたしがやりたくないことも、
なんでもやっちゃうの!!
やらされちゃうの!!!
うふふふふ…
あはははははははははぁ♡」
両手を広げて狂ったように笑う若菜。
「おい!若菜…!お前…!」
和彦は、元妻とは言え、
その見苦しい姿を見ていられず
若菜に近づく。
「触るんじゃねぇ!」
若菜が和彦を振り払う。
「----あぁぁぁぁ…
わたしはエッチな変態女よ~!!!
ひひひひひひひひひ…
あはははははははははh…」
笑っていた若菜が
突然糸が切れたかのように、白目を剥いて
その場に崩れ落ちる。
「若菜!?」
驚く和彦ー
Happy New Year
観覧車の中央の電光掲示板のようなものに
大きくそう表示されるー
2020年ー
年越しの瞬間を迎えた。
花火が上がるー
「ねぇねぇ、おとうさ…あっ!?」
家族と共に、
年越しの瞬間をイベント会場で
過ごしていた少女ー
咲の目の輝きが一瞬、失われたー
そしてー
花火の光に照らされながら
咲が不気味な笑みを浮かべるー。
「---咲」
父親が咲の背後から声をかける。
「-----」
咲がクスリと笑うー
先ほどまでの無邪気な笑みではないー
邪悪な笑みを浮かべながらー
「---なぁに?」
咲が振り返った。
花火に照らされて
咲の表情がよく見えないー
咲の父親は、
なんとなく違和感を感じながら
「大丈夫か?」と呟いたー
咲が、言葉の途中で変な声を
出した気がするー
「---だいじょうぶよ♡」
咲はにっこりとほほ笑んだー
”可愛いわが子が、急に不真面目になったらー…?
へへへ…
小学生と言う立場を利用して
2020年はたっぷり遊ばせてもらうぜー”
咲は、そう考えながら
自分のツインテールの髪を
ニヤニヤしながら撫でるのだったー
「---若菜!若菜!」
突然倒れた若菜を前に
元夫の和彦は、必死に彼女を
呼びかけていたー
そして、目を覚ます若菜。
「あれ…わたし…?」
若菜が周囲を見渡すー
彼女は、1年前―、
2018年⇒2019年に切り替わるタイミングで、
憑依されてしまった。
だからー
彼女の時計はそこで止まったまま。
「--えっ!?きゃっ…!?」
自分の格好を見て驚く若菜ー。
そしてー
観覧車に照らされたー
”2020”の文字を見るー
「2020…?」
若菜が呟く。
「--わ、若菜?大丈夫か?」
”元夫”の和彦が言うー
「…え、、ど、、どういうこと…
わたし、どうしてこんな格好…?
え…
2、、2020って…?」
若菜はすっかり弱りきった表情で言う。
「--わ、、若菜…?」
元夫の和彦は何が起きたのか分からず
ただ困惑することしかできない。
「い、、いやあああああああっ!」
パニックを起こした若菜がその場で悲鳴をあげたー
去年の犠牲者とー
今年の犠牲者ー。
2人の新たな1年は、始まったばかりだったー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
今年の憑依空間の更新はこれでラストデス~!
今年は途中で一度体調不良になって
少しだけ更新を休みましたが
なんとか無事に完走できました~☆!
今年も1年間ありがとうございました!
良いお年を~☆!
コメント
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今度の憑依先は小学生かぁ
すごくいいなぁ
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> 今度の憑依先は小学生かぁ
> すごくいいなぁ
コメントありがとうございます~!☆
また1年後に続きがあります~笑