<憑依>体越し① ~年に一度の祭り~

憑依能力を持つその男は、
1年に1回、”からだ”を乗り換えていた。

毎年大晦日の日、
年が変わるタイミングで、からだを捨てて、
新しいからだに憑依するのだ。

彼はそれを”体越し”と呼んでいる。

今年も、捨てられるからだと奪われるからだ…
二人の女性に悲劇が起きる…。

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大晦日。

「---今年ももう終わりだね」
ちょっと小柄な、弱弱しい女性が言う。

「--あぁ、そうだな」

12月31日 20:00。
大学生カップルがカウントダウンのイベントに参加するために
とあるテーマパークにやってきていた。

星野 梨花(ほしの りか)と、その彼氏の三本 慶介(みつもと けいすけ)
とある悩みで、大学内でひとり、涙を流していた梨花に声をかけたことから
二人の中は始まり、
それから、交際に発展したのだった。

奥手で、控えめな梨花も、慶介には心を開いていた。

「---来年も、、一緒にいようね」
梨花がほほ笑むと、慶介も「あぁ」とうなずいた。

しかし、二人は知らないー。

彼女はこの数時間後、
”来年のからだ”に選ばれてしまうー。

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PM21:00

別のカップルがカウントダウンイベントの
開催される、テーマパークに向かっていた。

ミニスカート姿の、胸元を強調した格好の
女性が言う。

「ふふふっ…今年1年、楽しかった?」

女子大生の横山 優亜(よこやま ゆあ)が甘い声を出して聞く。

「あぁ…最高だったよ」
車を運転しながら彼氏の、沖野 歩武(おきの あゆむ)が笑う。

二人はカップルだ。
真面目で、優等生の優亜にあこがれていた歩武。

けれど、優亜は、勉強一筋で、浮いた話も一つなく、
真面目という文字がそのまま歩いているかのような
メガネっ子だった。

しかしーーー
今年の元旦に突然呼び出されて、
歩武は告白された。

夢のような1年だった。

優亜は、とてもエロい女だった。
大学ではそんなことしそうになかったし、
そういうイメージじゃなかったのに…。

そのギャップが歩武にとってはたまらなかった。
そして、さらに優亜のことが好きになった。

「でもさ…、あんなに美術の勉強に熱心だったのに、
 優亜、急に止めちゃうんだもんな」

歩武が言う。

優亜は美術系…
絵を描いたりだとか、美術品だとか、そういうものが大好きだった。

だがーー
告白と同時期に、突然それを止めてしまったのだ。

優亜が笑う

「ふふっ…だって、絵とか芸術品とかより、
 わたしの方がよっぽど綺麗じゃない」

自信に満ち溢れた表情で、優亜は言った。

大人しそうな表情なのに、
あふれ出る自信。

彼女は、今年の1月、歩武に告白してから
変わった。

とても、高飛車な感じもする。

だが、歩武はそれでもかまわなかった。
憧れの優亜と付き合えたのだから。

しかも、優亜は、会うたび会うたび、
体の関係を求めてきた。

正直、エロすぎて、歩武は、たまらなく嬉しかった。

「---うふふ・・・♡」
優亜が鏡を見ている。

自分の顔を見て、うっとりとしているようだ。

「---今日でお別れ…か」
優亜がほほ笑む。

名残惜しそうに、自分の太ももを触りながら。

「--ん?何か言ったか?」
歩武が不思議そうに聞き返すと、優亜は
「ううん、なんでもないよ!」と笑いながら返事をしたーー

優亜はーーー
”1年前”の年越しの日にーー
憑依されてからだを乗っ取られている。

豹変したのは、中身が別の人間だからだ。

優亜はーー
からだも心も乗っ取られてしまった。

本当は美術の勉強をさらに進めたかったー、
本当は、自分の体に自信なんてないし、
エッチなことも嫌いだったー。

けれども、それは全て歪められてしまった。

この1年で、優亜は変わって…
いや、変えられてしまった。

本人の意思とは全く関係なく。

男は、8年前、とある場所で憑依薬を手に入れた。
そして、自らの体を捨てて、
彼は人の体を転々として過ごしている。

”1年間”

彼は色々な人間の人生を楽しみたかった。

そこで、毎年年越しの日に、体を乗り換えて
1年間そのからだで過ごすことにしている。

もちろん、男の思うが儘に、だ。

去年もそうだった。
2016年までは、OLに憑依していた。
そして、年越しの日に、今、憑依している女子大生の
優亜に憑依したのだった。

真面目だった優亜も、今ではすっかりエロ女だ。

「---ついたぞ」
歩武が車を止める。

テーマパークに降り立つ優亜。

「---ねぇ、歩武…
 今日はいっぱい楽しもうね…♡」

色っぽい声で歩武を誘惑する優亜。

「あ、あぁ…」

体を密着させて、
わざとスカートを、歩武の手に触れさせながら、
歩き出す。

「---ねぇ、歩武…?」

優亜が尋ねる。

「--ん?」
歩武が返事をすると、優亜は笑った。

「--わたしのこと、好き?」
優亜の言葉に、歩武は満面の笑みで答える。

「--あぁ、大好きだよ」

「どこが好き?」
優亜が尋ねる。

「--優しいところとか、、
 あと、いつも一生懸命なところかな?」

歩武が顔を赤くしながら言うと、優亜は意地悪そうに
微笑んだ。

「嘘はダ・メ♡
 わたしのエッチなところと、わたしのからだが好きなんでしょ?」

顔を近づけて、歩武に囁くようにして言う優亜。

「うっ…」
歩武はゴクリとつばを飲み込む。

「ねぇ…素直になろ?」
甘い吐息を吐きながら、笑いかける優亜。

「--あ、、、あぁ…エロいお前が、大好きだ」
歩武は本心を口走る。

「---うふふ♡ 嬉しい♡
 わたし、1年間頑張ったかいがあったね!」

嬉しそうに言う優亜。

「--ーー?」
歩武が不思議そうに首をかしげる。

「----さ、ちゃんと今年も”越さなくちゃね”」
優亜がほほ笑みながら呟いた。

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23:40

まもなく年越しの時間。

「--」
先に会場についていた梨花と慶介のカップルが
ライトアップされたカウントダウンステージを見つめている。

「---?」
梨花がふと横を見ると、
メガネをかけた女子大生が、こちらを見ている。

大人しそうな顔立ち。
けれども、イヤらしい笑みを浮かべている。

「---お ま え に き め た」

そう聞こえたー。

「---えっ…」
梨花はびくっとして、目を逸らした。

本能的に危険を感じたのだ。

彼氏の慶介の腕にぎゅうっとしがみつく。

「--おいおい、どうした?」
慶介が笑いながら言う。

「----慶介」
梨花は、恐怖を振り払うようにして、
彼氏の腕にしがみついていた。

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23:50

「---ねぇ、歩武」

憑依されているメガネ女子大生の
優亜が笑う。

「---うふふっ♡ 最後のエッチ、今しちゃお!」

そう言うと、優亜が上着を脱ぎ捨てて、
うふふ♡ と笑いながら、歩武を押し倒した。

周囲には多数の人がいるこの状況で…。

「--お、おい、ちょっと待て!ここはさすがに…むぐっ」

優亜が有無を言わさず、あおむけに倒された歩武の上に乗り、
強烈なキスをお見舞いした。

「---むふっ♡ もう無理!わたしの体が疼いてる!
 1年間ですっかりエロいからだになっちゃった!

 ほら♡ 最後にわたしを満足させなさい!」

最後と言う言葉の意味が分からない。
だが、歩武は、上に乗っている優亜の、
飢えたメス、と表現したら良いのだろうか?
そんな表情を見て、自分もその気になってしまった。

「あぁ、優亜!お前は最高だ!」

優亜を抱きしめ、そのまま回転して、優亜を下にした
体勢になる。

「あうっ…♡ わたしを…わたしを滅茶苦茶にして…♡」

完全に飢えた表情で、歩武を見つめる優亜。

「ほら!可愛いでしょ!?エロいでしょ!?
 もっと、もっと、エロいわたしを見て!見て♡」

大声で叫ぶ優亜。

周囲がどよめいている。

「--ちょっと、あなたたち、何してるの!?」
周囲の女性客が叫ぶ。

「---うっさいわね!こんなに可愛いわたしが
 エッチな気分になってるのよ!!
 ブスはお黙りなさい!」

大声で叫ぶ優亜。

周囲の客たちが「なんだよアイツ…」と
さらにどよめき始める。

「ーーー優亜…。
 やっぱもうやめよう」

歩武が正気を取り戻して言う。
テーマパークのど真ん中でヤルなんて、
いくらなんでもやばすぎだろう。

「--あ?」
優亜が睨むようにして言う。

「え…いや…ホラ、ここ、外だしさ」
歩武が言うと、
優亜が大声で叫んだ。

「---っ使えねーな!」

優亜は思いっきり歩武を蹴り飛ばして、
その場に立った。

イライラした様子で、ポニーテールを滅茶苦茶に振りほどくと
大声で叫んだ。

「今年1年、ほんとーにサイコーだったわ♡
 あはははははっ!わたしってば本当に可愛いんだもん!」

自分で自分の事を可愛いと大声で叫ぶ優亜。

その表情は歪みきっている。

「--ーーーふふふふふふふふふっ♡」

狂ったように笑いながら、
自分の服を引きちぎり始める優亜。

「おい、優亜!何やってんだよ!」
歩武が叫ぶ。

「---あんたは黙ってなさい!
 今から最高の芸術を見せてあげる!」

そう言うと、優亜は服を破り捨てて、
さらにはミニスカートを乱暴に脱ぎ捨てた。

真冬のテーマパークで下着姿になった優亜は
なおも微笑んでいる。

周囲が大騒ぎになる。

「----ひっ…」
別のカップルー 梨花がそれを遠目で見て、
恐怖を感じて、慶介の腕にさらにしがみつく。

「--大丈夫だよ。俺が守るから」
慶介がそんな梨花を安心させようと言葉をかける。

「----あれは…何なんだ」
慶介は、一人喘ぎ声をあげだした優亜の方を見る。

「--あぁっ♡ あっ♡ このからだ♡ すごい!すごい!!!
 美しい♡ 美しいぃぃぃぃ♡」

優亜は自分の体を愛おしそうにギュッと抱きしめる。

完全にイカれている。

周囲は憐みの目で優亜を見た。

「---あぁんっ♡
 わたしが芸術!わたしが芸術品なのよ♡
 からだが、、、からだが芸術品♡」

優亜が意味の分からないことを叫ぶ。

そして、

23:59

「わたしってば、、、可愛すぎでしょ!!あはははははっ♡
 このからだ、喘ぎ声、大人しそうな顔!!あははははははっ♡

 綺麗!綺麗♡本当に綺麗♡
 あははははははっ♡ うふはははははは♡

 きれ…」

そこまで言うと、突然糸が切れたかのように気を失った。

「---ゆ、、、優亜!?」
歩武が駆け付ける。

テーマパーク中に花火の音が響き渡る。

Happy New Year

2018年が訪れたーーー。

優亜が目を覚ます。

見知らぬテーマパーク。
騒然とする周囲。

そしてーー下着姿の自分。

「ひっ…
 いっいやああああああああああっ!」

優亜がわけもわからず悲鳴を上げる。

「優亜!優亜!落ち着け!どうしたんだよ!優亜!」

歩武が優亜に触れる。いつものように。

「さ、触らないで…イヤっ…な、、何なの!
 いやっ!助けて!痴漢!!!
 きっきゃああああああああああ!」

パニックを起こして歩武を痴漢と罵り始める優亜。

彼女の最後の記憶は、
去年ーーー
家族と一緒に、年越しイベントに参加している時の記憶だーーー。

「----いやっ…い…いやああああああ!」

優亜の泣き叫ぶ声がテーマパーク中に響き渡る。

「----何なんだあれは…」
別のカップルの彼氏、慶介がつぶやく。

「---ーーーふふふ♡ 馬鹿な子もいるんだね」

腕にしがみついていた梨花がいつの間にか
満面の笑みを浮かべている。

---そして、腕に胸を押し付けるかのようにしながら
梨花は微笑んだ。

「---今年1年間、よろしくね♡」

とーーー。

②へ続く

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コメント

明日は今年最後の更新ですー!
最後まで書ききります!!

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