<憑依>体越し② ~新年~(完)

新年が訪れたー。

それと同時に、男は「去年の体」を捨てて、
「新しい体」に憑依した。

これが、体越し…。
憑依されていた側と、憑依された側。
二人の運命は…。

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騒然とするテーマパークに警察官が駆けつける。

「---いやっ…離して・・・
 わたし…わたし、何でこんなところに居るの!?
 
 だ、、、誰か!
 お父さん?お母さん?どこ!?どこにいるの!?」

ーー憑依されていた優亜の記憶は・・・
2016年の年末…。
家族で年越しイベントに行ったときのままだった。

「---え?2018…どういうこと…」
優亜が絶望的な表情を浮かべる。

先ほどまで色っぽく微笑んでいた優亜が
憔悴している。

「---ほら、服を着なさい」
警察官が服を羽織らせる。

自ら服を脱ぎ捨てた優亜が、
恥ずかしそうに悲鳴をあげる。

その様子を別のカップル、
慶介と梨花が見ていた。

「--くふふっ…バッカじゃないのあの子」
梨花が腕を組みながら心底バカにした様子で言う。

「---梨花?」
慶介が不思議そうに梨花の方を見る。

梨花は奥手で、人をバカにしたり絶対にしない子だ。

だから、慶介はその発言に違和感を感じた。

「---今、何て?」
慶介が尋ねると、梨花は微笑んだ。

「ううん、何でもない!」

何かが変だー。
慶介はすぐにそう思った。

だがーーー

”何が起きたのか”は
理解できなかった。

連行されていく優亜を、蔑むように見つめる梨花。

「---頭おかしくなっちゃったんだね、あの子。
 可愛そ~~~うふふふふふ♡」

大人しい顔で、意地悪そうな笑みを浮かべる。

そのギャップはーーー
一部の男が見たら、たまらないものだろう。

だがーー
普段の”梨花”が好きな慶介には我慢ならなかった。

「梨花!そこまで言わなくてもいいじゃないか。
 あの子にもあの子なりの理由があるんだよ」

優しさがウリの慶介はそう言った。

「---ふふっ、そうかもね♡」
梨花はそう言うと、甘えるようにして慶介に寄りかかった。

「----」
慶介の中の違和感がさらに膨れ上がる。

「---」
連行されている女子大生を見つめる。

そして、梨花を見つめる。

慶介は気づいていた。
”年越し”の瞬間から梨花の様子が変わったことに。

そしてーー
”年越し”の瞬間に、あの優亜という子が倒れたことにー。

けれどー、
関係があるとは思えなかった。

慶介は気づけなかった。

2017年の間、優亜に憑依していた人間が、
2018年は、梨花の体で過ごすことにした、ということに…。

「-----…こいつ」
梨花は呟いた。

今までに何人もの女に憑依してきた。

これまでにも彼女の豹変に”違和感”を感じた周囲の人間は居た。

ーーーだが…。
女の体に誘惑された男たちは、すぐにそんな不安を捨てて、
欲望に身をゆだねた。

たった今、連行された優亜の彼氏、歩武もそうだ。

今回の慶介とか言う彼氏も、所詮は体に誘惑されれば
落ちる。
そうだ、この後、ホテルに誘ってやろう。

梨花は邪悪な笑みを浮かべる。

その視線の先にーーー
”さっきまで彼氏だった”歩武が居た。

「---…優亜、どうしちゃったんだよ…」
うろたえる歩武。

ーー梨花は”ちょっとだけ意地悪な気持ちになった”

慶介に”ちょっと待ってて”と声をかけて、
歩武の方に向かう。

「あの・・・」
梨花が歩武に声をかける。

梨花ーー
いや、梨花の中にいる男にとって、
歩武とは1年の付き合い。

だが、当然、歩武はそんなことを知らない。

「---はい…?」
歩武が焦りをにじませた表情で振り返る。

「---あなたの彼女さん、最低ですね!
 わたし、せっかく彼氏とデートに来ていたのに、
 あんな気持ち悪いもの見せられて、本当に気分最悪なんですけど!」

怒りっぽく言う梨花。

歩武の心が、どの程度傷ついているのか。
優亜の連行が、どの程度、歩武に響いているのか。
自分はどの程度愛されていたのか。

それを試してみたくなった。

「---…す、、、すみません」
歩武が泣きそうな顔で頭を下げる。

「あのさ…マジで不愉快!きもいんですけど!」
梨花が絶対に口にしない言葉を投げかける。

うろたえる歩武。

「---こんな公衆の面前で、服を脱ぎ捨てるとか
 あの彼女さん、あたまおかしいんじゃないですか!?

 あ、彼氏のあなたも同類ですよね!
 きゃははははははっ」

徹底的に蔑んでやるー。

自分でも、何をしたいのかは分からない。
けれども”他人”として歩武を蔑んでみたかった。

「----」
しゅんとした様子で歩武が下を向く。

「---ここはね、
 あなたたちみたいな底辺カップルが来るところじゃないのよ!」

梨花が叫ぶー。

「---……アンタにそこまで言う資格はあるのか」
歩武が口を開いた。

「は?迷惑かけておいて逆…」
梨花が反論しかけると、歩武が叫んだ。

「---優亜がどんな子だって、
 俺はあいつが好きなんだ!
 俺はあいつの全てが好きなんだ!

 確かに迷惑はかけたけどよ、、
 アンタに、、お前にそこまで言われる筋合いはねーよ!

 何が底辺だよ!何が頭おかしいだよ!」

歩武が怒りをにじませて言う。

”自分”の演じていた優亜がこんなに愛されていたなんて…と
梨花は心の中で笑う。

「---うふふ♡
 逆切れ…サイテー!」

バカにした様子で梨花が言う。

その時だった。

後ろから肩をつかまれた。

「----その辺にしとけ」
いつも優しい彼氏の慶介が怒っている。

「---慶介!でもホラ、あいつ…」
梨花が歩武を指さすと慶介が叫んだ。

「俺、梨花の今、してること、すっげぇムカつく!
 確かにあのカップルは変だけどさ、
 そこまで言わなくてもいいじゃないか!」

慶介が言うと、
梨花は微笑んだ。

「---そう、ごめんね♡」

まだ、嫌われるわけにはいかない。
これから1年間ー、
この”梨花”の体で過ごすのだから。

誘惑して、しもべにしてやるか…。
梨花はそう思って、
甘い声を出した。

「ごめんね…慶介…

 ねぇ…お詫びに…」

梨花の甘い声に、慶介がゴクリとつばをのむ。

男なんて、同じだー
可愛い子の体で誘惑してやれば…

「---ホテルにいこ?
 わたしのこと、好きにしていいよ♡」

梨花が出したことのないであろう、エロい声を出しながら、
あざとく、慶介を誘う。

だがーーー

「---ごめん。なんか、今日の梨花、
 好きになれないや」

慶介が梨花を離した。

「---え」
梨花が唖然とした表情で慶介を見る。

「俺…そういうの好きじゃないし…
 梨花の優しいところが好きだったのに・・・

 今日の梨花、なんかおかしいぞ?」

慶介が言う。

梨花はわざとらしく微笑む。

「--どこもおかしくないよ、わたしはわたしだよ♡」

梨花の媚びるようなしぐさ。
慶介は目を逸らした。

「---もういい、俺は帰る。ごめんな」

それだけ言うと、慶介は足早に立ち去ってしまった。

「---チッ!」
舌打ちする梨花。

自分のロングスカートと控えめな服装を見て
表情をゆがませる。

「こんな色気のねぇ服着やがって!
 ゼッタイあの野郎を誘惑してやる!」

恐ろしいまでに低い声で、叫ぶ梨花。

「----そうだ、良ければ、」

梨花が振り返り、歩武を誘惑しようとしたが、
歩武も既にそこには居なかった。

「----くっ・・・
 くそっ…わたしを…わたしを我慢させるの!?」

飢えた雌の表情で梨花は、その場から立ち去った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

優亜は後日、釈放された。

「----優亜」
彼氏の歩武が優亜を迎えに来ていた。

「・・・・・・・」
優亜が怯えた表情で歩武を見る。

「----大丈夫・・・か?」
歩武が尋ねると、優亜はうなずいた。

優亜と歩武は恋人関係ではなかった。
だが、憑依される前から大学で何度かかかわりはあったから、
優亜にとっても面識はある。

「----あの…」
優亜がよそよそしい様子で聞く。

「---ん?」
歩武が優亜の方を見る。

歩武はそこで違和感を感じたー。
まるで、彼女になる前の優亜に戻った感じだ。

エロくて、強気で、色っぽい優亜ー。
あれは、”幻”だったのだろうか。

「・・・わたし・・・去年…ううん、2016年の
 大晦日の日から……今年の元旦までの記憶が…」

目に涙を浮かべて歩武を見る優亜。

「---2017年の記憶が・・・ないの・・・」
その場に泣き崩れる優亜。

「---な、、、何だって…?」
歩武が唖然として尋ねる。

「--わたし、去年、自分が何をしてたか、
 分からないの…

 2017年になった瞬間まで覚えてるの…
 でも…
 気づいたら…わたし、、、あそこで…あんなことに…」

泣きじゃくる優亜。

歩武はどうしていいか分からない。

けれどーーー。
「---優亜…
 いや…横山…さん」

歩武は下の名前で呼ぶのをやめた。

去年の記憶が無いということはーー
自分たちは恋人関係ではない。

「--…俺が、教えるよ…。
 去年のこと…」

歩武が優しくつぶやくと、
優亜は涙目でうなずいた。

ーーーたとえ、何が起きていたのだとしても…
歩武は、優亜のことが好きだったーーー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---くそがっ!」
梨花がスマホを床にたたきつけた。

小柄で弱弱しい印象はなくなり、
乱暴な女性になってしまった梨花。

彼氏の慶介からは、あの日以降、無視されている。

「---マジむかつくわ!」
梨花は、ネットで注文した露出度の高いドレスを着ながら、
家の中をイライラしながら歩き回っていた。

ビールの缶を開けて、
ソファーで足を組みながらそれを一気に飲み干す。

「あーーー!ウゼェ!」
缶を壁に向かって投げつける梨花。

「はーっ…はーっ…
 こんなに可愛い私が誘惑しているのに…
 何なのあの男!?」

今度は煙草に火をつける梨花。

明らかにイライラしている。

自分の太ももを片手で、狂ったようにこすりながら、
梨花は思う。

「そうだ…
 ふふっ♡
 こっちから会いに行って、押し倒してやろ!」

梨花がタバコを灰皿で処理すると、ほほ笑んだ。

「ーー男なら、襲われればその気になるもんね…
 うふふふふっ♡
 あはははははははははははは!」

梨花は、クローゼットの方に行く。

元々あった、大人しい服は全部捨ててやった。

この体は俺のものだ。

こんなに可愛いなら、それを武器にしなければ勿体ない。

派手なミニスカートと可愛らしいコートを着て、
いつもより濃いメイクをして、
梨花は、外出した。

大学はーーー
やめるつもりだ。

今年は、去年以上に女を壊してみたい。

梨花はこの1年間でー、
性欲に狂った女になるのだー。

「うふふふ♡
 慶介…
 わたしが、あなたを落としてあげる♡

 あま~い地獄に…ネ♡」

そう言ってウインクすると、梨花は
不気味にほほ笑みながら慶介の家へと向かった…

2018年が終わるときー、
慶介と梨花の関係はどうなっているのだろうーーー。

1年後の今頃、それが明かされるときは来るのだろうか…

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

続きは…
来年の今頃に(えっ!?)

体越し2018
2018年12月30日~ 書く予定です 笑

今年1年間、色々な小説が書けて
本当に楽しかったです!
ありがとうございました!

そして来年もよろしくお願いします!

それでは皆様、良いお年を!

 
 

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憑依<体越し>

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