新年が訪れたー。
それと同時に、男は「去年の体」を捨てて、
「新しい体」に憑依した。
これが、体越し…。
憑依されていた側と、憑依された側。
二人の運命は…。
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騒然とするテーマパークに警察官が駆けつける。
「---いやっ…離して・・・
わたし…わたし、何でこんなところに居るの!?
だ、、、誰か!
お父さん?お母さん?どこ!?どこにいるの!?」
ーー憑依されていた優亜の記憶は・・・
2016年の年末…。
家族で年越しイベントに行ったときのままだった。
「---え?2018…どういうこと…」
優亜が絶望的な表情を浮かべる。
先ほどまで色っぽく微笑んでいた優亜が
憔悴している。
「---ほら、服を着なさい」
警察官が服を羽織らせる。
自ら服を脱ぎ捨てた優亜が、
恥ずかしそうに悲鳴をあげる。
その様子を別のカップル、
慶介と梨花が見ていた。
「--くふふっ…バッカじゃないのあの子」
梨花が腕を組みながら心底バカにした様子で言う。
「---梨花?」
慶介が不思議そうに梨花の方を見る。
梨花は奥手で、人をバカにしたり絶対にしない子だ。
だから、慶介はその発言に違和感を感じた。
「---今、何て?」
慶介が尋ねると、梨花は微笑んだ。
「ううん、何でもない!」
何かが変だー。
慶介はすぐにそう思った。
だがーーー
”何が起きたのか”は
理解できなかった。
連行されていく優亜を、蔑むように見つめる梨花。
「---頭おかしくなっちゃったんだね、あの子。
可愛そ~~~うふふふふふ♡」
大人しい顔で、意地悪そうな笑みを浮かべる。
そのギャップはーーー
一部の男が見たら、たまらないものだろう。
だがーー
普段の”梨花”が好きな慶介には我慢ならなかった。
「梨花!そこまで言わなくてもいいじゃないか。
あの子にもあの子なりの理由があるんだよ」
優しさがウリの慶介はそう言った。
「---ふふっ、そうかもね♡」
梨花はそう言うと、甘えるようにして慶介に寄りかかった。
「----」
慶介の中の違和感がさらに膨れ上がる。
「---」
連行されている女子大生を見つめる。
そして、梨花を見つめる。
慶介は気づいていた。
”年越し”の瞬間から梨花の様子が変わったことに。
そしてーー
”年越し”の瞬間に、あの優亜という子が倒れたことにー。
けれどー、
関係があるとは思えなかった。
慶介は気づけなかった。
2017年の間、優亜に憑依していた人間が、
2018年は、梨花の体で過ごすことにした、ということに…。
「-----…こいつ」
梨花は呟いた。
今までに何人もの女に憑依してきた。
これまでにも彼女の豹変に”違和感”を感じた周囲の人間は居た。
ーーーだが…。
女の体に誘惑された男たちは、すぐにそんな不安を捨てて、
欲望に身をゆだねた。
たった今、連行された優亜の彼氏、歩武もそうだ。
今回の慶介とか言う彼氏も、所詮は体に誘惑されれば
落ちる。
そうだ、この後、ホテルに誘ってやろう。
梨花は邪悪な笑みを浮かべる。
その視線の先にーーー
”さっきまで彼氏だった”歩武が居た。
「---…優亜、どうしちゃったんだよ…」
うろたえる歩武。
ーー梨花は”ちょっとだけ意地悪な気持ちになった”
慶介に”ちょっと待ってて”と声をかけて、
歩武の方に向かう。
「あの・・・」
梨花が歩武に声をかける。
梨花ーー
いや、梨花の中にいる男にとって、
歩武とは1年の付き合い。
だが、当然、歩武はそんなことを知らない。
「---はい…?」
歩武が焦りをにじませた表情で振り返る。
「---あなたの彼女さん、最低ですね!
わたし、せっかく彼氏とデートに来ていたのに、
あんな気持ち悪いもの見せられて、本当に気分最悪なんですけど!」
怒りっぽく言う梨花。
歩武の心が、どの程度傷ついているのか。
優亜の連行が、どの程度、歩武に響いているのか。
自分はどの程度愛されていたのか。
それを試してみたくなった。
「---…す、、、すみません」
歩武が泣きそうな顔で頭を下げる。
「あのさ…マジで不愉快!きもいんですけど!」
梨花が絶対に口にしない言葉を投げかける。
うろたえる歩武。
「---こんな公衆の面前で、服を脱ぎ捨てるとか
あの彼女さん、あたまおかしいんじゃないですか!?
あ、彼氏のあなたも同類ですよね!
きゃははははははっ」
徹底的に蔑んでやるー。
自分でも、何をしたいのかは分からない。
けれども”他人”として歩武を蔑んでみたかった。
「----」
しゅんとした様子で歩武が下を向く。
「---ここはね、
あなたたちみたいな底辺カップルが来るところじゃないのよ!」
梨花が叫ぶー。
「---……アンタにそこまで言う資格はあるのか」
歩武が口を開いた。
「は?迷惑かけておいて逆…」
梨花が反論しかけると、歩武が叫んだ。
「---優亜がどんな子だって、
俺はあいつが好きなんだ!
俺はあいつの全てが好きなんだ!
確かに迷惑はかけたけどよ、、
アンタに、、お前にそこまで言われる筋合いはねーよ!
何が底辺だよ!何が頭おかしいだよ!」
歩武が怒りをにじませて言う。
”自分”の演じていた優亜がこんなに愛されていたなんて…と
梨花は心の中で笑う。
「---うふふ♡
逆切れ…サイテー!」
バカにした様子で梨花が言う。
その時だった。
後ろから肩をつかまれた。
「----その辺にしとけ」
いつも優しい彼氏の慶介が怒っている。
「---慶介!でもホラ、あいつ…」
梨花が歩武を指さすと慶介が叫んだ。
「俺、梨花の今、してること、すっげぇムカつく!
確かにあのカップルは変だけどさ、
そこまで言わなくてもいいじゃないか!」
慶介が言うと、
梨花は微笑んだ。
「---そう、ごめんね♡」
まだ、嫌われるわけにはいかない。
これから1年間ー、
この”梨花”の体で過ごすのだから。
誘惑して、しもべにしてやるか…。
梨花はそう思って、
甘い声を出した。
「ごめんね…慶介…
ねぇ…お詫びに…」
梨花の甘い声に、慶介がゴクリとつばをのむ。
男なんて、同じだー
可愛い子の体で誘惑してやれば…
「---ホテルにいこ?
わたしのこと、好きにしていいよ♡」
梨花が出したことのないであろう、エロい声を出しながら、
あざとく、慶介を誘う。
だがーーー
「---ごめん。なんか、今日の梨花、
好きになれないや」
慶介が梨花を離した。
「---え」
梨花が唖然とした表情で慶介を見る。
「俺…そういうの好きじゃないし…
梨花の優しいところが好きだったのに・・・
今日の梨花、なんかおかしいぞ?」
慶介が言う。
梨花はわざとらしく微笑む。
「--どこもおかしくないよ、わたしはわたしだよ♡」
梨花の媚びるようなしぐさ。
慶介は目を逸らした。
「---もういい、俺は帰る。ごめんな」
それだけ言うと、慶介は足早に立ち去ってしまった。
「---チッ!」
舌打ちする梨花。
自分のロングスカートと控えめな服装を見て
表情をゆがませる。
「こんな色気のねぇ服着やがって!
ゼッタイあの野郎を誘惑してやる!」
恐ろしいまでに低い声で、叫ぶ梨花。
「----そうだ、良ければ、」
梨花が振り返り、歩武を誘惑しようとしたが、
歩武も既にそこには居なかった。
「----くっ・・・
くそっ…わたしを…わたしを我慢させるの!?」
飢えた雌の表情で梨花は、その場から立ち去った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
優亜は後日、釈放された。
「----優亜」
彼氏の歩武が優亜を迎えに来ていた。
「・・・・・・・」
優亜が怯えた表情で歩武を見る。
「----大丈夫・・・か?」
歩武が尋ねると、優亜はうなずいた。
優亜と歩武は恋人関係ではなかった。
だが、憑依される前から大学で何度かかかわりはあったから、
優亜にとっても面識はある。
「----あの…」
優亜がよそよそしい様子で聞く。
「---ん?」
歩武が優亜の方を見る。
歩武はそこで違和感を感じたー。
まるで、彼女になる前の優亜に戻った感じだ。
エロくて、強気で、色っぽい優亜ー。
あれは、”幻”だったのだろうか。
「・・・わたし・・・去年…ううん、2016年の
大晦日の日から……今年の元旦までの記憶が…」
目に涙を浮かべて歩武を見る優亜。
「---2017年の記憶が・・・ないの・・・」
その場に泣き崩れる優亜。
「---な、、、何だって…?」
歩武が唖然として尋ねる。
「--わたし、去年、自分が何をしてたか、
分からないの…
2017年になった瞬間まで覚えてるの…
でも…
気づいたら…わたし、、、あそこで…あんなことに…」
泣きじゃくる優亜。
歩武はどうしていいか分からない。
けれどーーー。
「---優亜…
いや…横山…さん」
歩武は下の名前で呼ぶのをやめた。
去年の記憶が無いということはーー
自分たちは恋人関係ではない。
「--…俺が、教えるよ…。
去年のこと…」
歩武が優しくつぶやくと、
優亜は涙目でうなずいた。
ーーーたとえ、何が起きていたのだとしても…
歩武は、優亜のことが好きだったーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---くそがっ!」
梨花がスマホを床にたたきつけた。
小柄で弱弱しい印象はなくなり、
乱暴な女性になってしまった梨花。
彼氏の慶介からは、あの日以降、無視されている。
「---マジむかつくわ!」
梨花は、ネットで注文した露出度の高いドレスを着ながら、
家の中をイライラしながら歩き回っていた。
ビールの缶を開けて、
ソファーで足を組みながらそれを一気に飲み干す。
「あーーー!ウゼェ!」
缶を壁に向かって投げつける梨花。
「はーっ…はーっ…
こんなに可愛い私が誘惑しているのに…
何なのあの男!?」
今度は煙草に火をつける梨花。
明らかにイライラしている。
自分の太ももを片手で、狂ったようにこすりながら、
梨花は思う。
「そうだ…
ふふっ♡
こっちから会いに行って、押し倒してやろ!」
梨花がタバコを灰皿で処理すると、ほほ笑んだ。
「ーー男なら、襲われればその気になるもんね…
うふふふふっ♡
あはははははははははははは!」
梨花は、クローゼットの方に行く。
元々あった、大人しい服は全部捨ててやった。
この体は俺のものだ。
こんなに可愛いなら、それを武器にしなければ勿体ない。
派手なミニスカートと可愛らしいコートを着て、
いつもより濃いメイクをして、
梨花は、外出した。
大学はーーー
やめるつもりだ。
今年は、去年以上に女を壊してみたい。
梨花はこの1年間でー、
性欲に狂った女になるのだー。
「うふふふ♡
慶介…
わたしが、あなたを落としてあげる♡
あま~い地獄に…ネ♡」
そう言ってウインクすると、梨花は
不気味にほほ笑みながら慶介の家へと向かった…
2018年が終わるときー、
慶介と梨花の関係はどうなっているのだろうーーー。
1年後の今頃、それが明かされるときは来るのだろうか…
おわり
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続きは…
来年の今頃に(えっ!?)
体越し2018
2018年12月30日~ 書く予定です 笑
今年1年間、色々な小説が書けて
本当に楽しかったです!
ありがとうございました!
そして来年もよろしくお願いします!
それでは皆様、良いお年を!
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