女子たちが牛丼屋に一人で入るのはちょっと…
などと言いながら談笑していた。
そうか?
そんなことはないだろう?
そう思った彼は、憑依薬を使って、女子の身体で、牛丼を
食べることにしたー。
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「は~ごちさうさま~」
男子高校生の境田 太一(さかいだ たいち)は、
牛丼の特盛をペロリと平らげると、
そう呟いた。
彼は、無類の牛丼好きだ。
本人は、毎日だって、牛丼を食べられる!などと豪語している。
「~~まったく、お前、牛丼好き過ぎだろ!」
友人の隆盛が笑う。
「--まぁな~。
牛丼なら毎日だって食べられるぜー」
そう呟きながら、コップに注がれた水を
美味しそうに飲むと、太一は呟いた。
「--牛丼、最高だぜ!」
彼にとって、牛丼は生活の一部だった。
牛丼は、部活終わりのストレス発散現。
牛丼があるからこそ、頑張れる。
牛丼があるからこそ、毎日こうして笑顔で居ることができる。
それほどに、彼は、牛丼を愛していたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日。
登校すると、クラスの女子生徒たちの話し声が聞こえてきたー。
「--牛丼か~食べないなぁ~」
「うん、わたしも」
牛丼大好きの太一は、その言葉を聞いて、聞き耳を立てた。
彼は、”牛丼を侮辱することを許さない”という
考えの持ち主だった。
だからこそ、”牛丼”という単語には敏感に反応したー。
「--ちょっと、一人じゃ入りにくいよね~」
「うんうん、分かる分かる~」
女子生徒たちの話に、太一は加わろうかと思い、
席を立ちあがろうとした。
だがー
「やめとけ」
近くに居た友人の隆盛が言う。
以前、太一は牛丼愛を爆発させて、周囲から
ドン引きされたことがあるー。
だからこその、警告だった。
「--いや、勿体ねぇな…ってさ」
太一は深呼吸しながら座席に座ると、
悔しそうに歯を食いしばった。
隆盛は、”何でコイツはこんなに牛丼好きなんだ”と
思いながらも、自分も椅子に座って、
太一に「ま、好みは人それぞれだろ?な?」と
笑いかけた。
太一は、決意したー。
あの能力を使うしかないー。
境田家は忍者の末裔だ。
唐突に何を言っているのか、分からないと思うが、
とにかく、忍者の末裔なのだ。
そしてー
境田家には”外法”と呼ばれる禁忌の忍術が
伝わっていたー
それが…
”憑依の術”
だが、この術は一回使うごとに
”5年”寿命が縮まるとされている。
それほどまでに、生命力を使うのだ。
しかも、1回に憑依できる時間は”1時間”だけー。
あまりにもリスクがありすぎて、
境田家でも、この憑依の術を使う人間はいなかった。
しかしー
太一は我慢ならなかった。
女子に、牛丼の良さを教えてやるー。
いや、女子に牛丼を食わせてやる。
ーーー否、自分が女子になって牛丼を食べたい!
「---憑依の術、使ってやるぜ!」
太一は決意した。
5年なんて、安いものだ。
どうせー、
年老いれば不自由な5年を過ごすことになる。
人生最後の5年なんて、なおさら
辛いものだろうー。
ならば、例え1時間であっても、
その”5年”を今、有意義なことに使えれば良い…。
「--さ、誰に憑依しようかなー」
決行は今日の放課後。
女子生徒の一人の身体を拝借して、
牛丼を食べに行く。
ついでに、その子のSNSに「牛丼サイコー」と
叫ばせる。
それだけで、太一にとっては、5年の価値があったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
吉松 優乃(よしまつ ゆうの)-
大人しい雰囲気の眼鏡女子だ。
ちょうど、優乃は友達と別れるところだった。
「ーーよし、よし、吉松さんにするか。」
太一は、そう思いながら憑依するための
”禁断の術”を唱えることにしたー
「憑依の術」
代々境田家に伝わる秘術書には
その記述が確かにあった。
だが、太一もそうだし、両親も、祖父母も
その術を使ったことはないというー。
ただのイタズラかも知れない。
だがー
太一はご先祖様を信じていた。
「---憑依の術!」
呪文を唱え終えた太一は、
憑依の術の発動を叫んだー
そしてーー
術は、成功したー
「おぉ!マジか!」
自分の身体が透明になっていることに気付いた太一は、
思わず声をあげた。
これが、憑依の術ー。
まさか、本当にこんなものが使えるなんてー。
「--よし!」
下駄箱のところに立っている
優乃を見つめるー。
彼女に憑依して、牛丼を喰ってやろうー。
牛丼の良さを広めるためー
そして、女子として牛丼を食べる快感を味わうためー。
「--ごめんね、吉松さん!」
そう呟きながら、太一は
優乃の身体に霊体を重ねた。
「ひぅっ!?」
優乃が身体を震わせて、その場に硬直するー。
「え…あぁ…あ???」
優乃は怯えきった表情で、身体を震わせている。
「---悪いようにはしないさ!
牛丼を食べるだけだよ!」
太一は”牛丼喰いてぇ”と、いう強い意識で
優乃の意識を抑え込んだ。
そしてー
「あ…あ…あぁ…あ…や、、、やった!」
優乃の恐怖の表情は歓喜の表情へと変わった。
笑みを浮かべた優乃は
大人しそうな表情を歪めて叫んだ
「さぁ、牛丼の時間だ!」
と。
嬉しそうにスキップしながら優乃は
牛丼屋に向かうのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・
「いらっしゃいませ~!」
優乃が牛丼屋に入る。
サラリーマンや、
男子学生などで店内は混雑していた。
だがー、
別に誰も優乃のことを気にしている様子はない。
案外、そんなものだ。
女子は、牛丼屋に一人で入りにくい、
などと言うが、実のところ、あまり誰も気にしていないー
それが、答えなのである。
「わたし、牛丼屋デビュー!」
優乃は小声でそう呟くと、
微笑んだ。
「そんなことより、なんか足がスースーするし、
ここにアレがないってのも、
変な感じだな。
なんだか、大事なものを失っちゃったかのような」
優乃がブツブツ呟いていると、
周囲の男性客が驚いた様子で振り返り、
優乃の方を見た。
「あ…ご、ごめんなさ~い!」
慌てて座席の方に向かう優乃。
境田家に伝わる憑依の術は、
5年の寿命を使い、1時間の間だけ、
誰かに憑依すると言う能力だ。
なんだかんだでもう30分経過している。
早く、女子高生の身体で牛丼食べると言う夢を
成し遂げなくてはならないー。
「---特盛でお願いします~!」
優乃が嬉しそうに言うと、
店員は、一瞬きょとんとした顔で、
「牛丼の、特盛でよろしいでしょうか?」と聞き返した。
「--特盛って言ってるでしょ?」
優乃は強気にそう言うと、
店員は「特盛一丁~!」と叫んだ。
「--ふふん」
優乃は自分の身体を見つめながら微笑んだ。
できれば、この身体を遊んでみたいところだが、
あと30分じゃ、牛丼を食べ終える頃には憑依時間は
終わりだろう。
ちょっと残念だが、まぁ、仕方がない。
牛丼を女子の身体で食べるだけで満足だー。
優乃は微笑みながら
”一人で牛丼!特盛食べちゃうよ~☆イェイ☆”と
自分のツイッターに写真つきのツイートを投稿した。
「--ふふふ、女子だって牛丼食べていいのよ~♪」
そんなことをしていると、
お待ちかねの牛丼が到着したー。
「~~うはぁ~来た来たサイコ~!」
優乃は嬉しそうに大声で叫んだ。
周囲が”なんなんだこの女子高生は?”と思いながら
目を合わせないようにしている。
「--んははははは~牛丼牛丼~!」
牛丼を大口で喰いながら、
その様子を写真に撮影して
優乃のツイッターに投稿した。
ツイッターでは
驚きの声や反応がすぐに上がったが
今の優乃にそんなことは関係ない
「んはっ!やっぱ牛丼はうめぇな!」
可愛い声でそう呟く優乃。
隣の席に座っているおじさんが
なんだかそわそわしている。
そんなことに目もくれず、優乃は
牛丼をがっつくように食べ続けた。
「うっめぇ~~~!」
唐辛子と紅しょうがを大量にかけて、
口から米粒をこぼしながら
牛丼をむさぼるようにして食べている。
「---んふぅ~たまんねぇ」
自分が女の子に憑依していることすら
忘れて、太一は優乃の身体で、行儀の悪い食べ方をしていたー
周囲が唖然としている。
こんな大人しそうで可愛らしい子が、
こんな下品な食べ方をするなんてー
と。
しかも、小柄なのに特盛だ。
この子は大食いで、太らない子なのだろうかー、
と。
「----!?」
牛丼を美味しく食べていた優乃は異変に気付いた。
「あ…あれ…?」
いつもなら軽く食べられるはずの特盛…
何故だか今日は半分ほど食べたところで、
酷い満腹感に襲われた。
どうして…?
そう考えていた優乃は、自分の足元を見てはっとした。
「あ、やべ、今、俺、女なんだ!」
周囲が不思議そうな顔をしているのを無視して
優乃は一人で納得するー。
身体は優乃の身体だからー
自分と比べて小食なのだと。
「--でも…でもさぁ…
牛丼、無駄にはできないよなぁ!」
優乃はそう叫ぶと、
髪を振り乱しながら
必死に牛丼をむさぼり始めたー
そしてー
10分後、
優乃はなんとか牛丼を完食したー
「げっぷ…」
げっぷをしながら爪楊枝で歯の掃除をしている
優乃。
もはや、可愛い女子高生の面影など、0に等しい。
「うっぷ…」
優乃は、胃から何かこみあげてくるのを感じた。
最悪だ…
女の子の身体は、そんなに小食なのか。
「うっ…ううう…」
優乃はなんとか吐き気を我慢しようとしたがー
無理だったー。
その場で口から、盛大に食べたものを
逆流させてしまったー。
唖然とする周囲ー。
「げほっ…げほっ…」
制服やスカートにも吐いた汚物が付着しているー。
「--あ、、あ、、、あ、、、ご、ごめんなさい~!」
優乃はそう叫んで財布から5000円札を取り出して
カウンターに起き、そのまま飛び出した。
吐いてしまったことのお詫びもかねて。
「どうせ、俺の金じゃないしー」
スカートをふわふわさせながら走る優乃。
そしてー
「---!?」
突然、グラッとしためまいを感じて
優乃はそのまま倒れてしまったー
ふと気づくと、太一は、
上空に居た。
下には倒れている優乃。
意識を取り戻し、
自分の吐いた汚物で汚れているスカートを見て
悲鳴を上げているー。
「--ふふん、牛丼女子の誕生だぜ~!」
太一は笑う。
「それにしても、女子と男子で随分身体の仕組みも
違うみたいだ。
いつもなら、特盛も余裕なのにな」
そう、呟きながら太一は思う。
「あれ?そういや、俺、なんで、身体が透明なままなんだー?」
太一の疑問は、すぐに
”違和感”に変わったー。
ーー!?
自分の身体が薄れているー
「--な、、な、、な、、どうして?」
太一ははっとしたー
この術は”5年”寿命を消費する、と
代々伝わる古文書に書かれていたー
つまりー
「--ま、、まさか…!」
そうーー
太一はーー21のときに病気で死ぬ運命だったのだー
だからー
5年間を消費した太一はーー
「---ま、、、待て…ちょ…えぇ?
マジかよ…おい、、ちょ…ま…!
いやだだああああああああ!」
太一の霊体は悲鳴を上げて
そのまま消えてしまったー
「---いやああああああああああ!」
太一が消えたすぐ下では、
正気を取り戻した優乃が、
自分が牛丼屋前で汚れた状態で倒れていた
事実に恐怖して、悲鳴をあげていたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
私は一人で牛丼屋に行ったことがないので、
実際の牛丼屋とちょっと違ったらごめんなさい!笑
コメント
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女の子はとばっちりですが、憑依者も流石に可哀想ですね…w
牛丼のためだけに5年の寿命を捨てるってのは凄い覚悟…
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> 女の子はとばっちりですが、憑依者も流石に可哀想ですね…w
> 牛丼のためだけに5年の寿命を捨てるってのは凄い覚悟…
それだけ牛丼が好きだったのでしょうネ…笑