愛衣にくノ一の魂が憑依してから数ヶ月。
お正月に、共に初詣に行くことになった
圭吾と愛衣。
すっかりくノ一のことが大好きになった圭吾は、
元々の愛衣のことなど、忘れていた。しかし…
くノ一(過去作品はこちら)の最新作です!
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愛衣が鏡の前に立っている。
「---お前は…今、どうしているのだ?」
愛衣が独特な口調で話す。
彼女は、自分のからだ自身に尋ねていた。
憑依して、奪ってしまったこの体の持ち主にー。
長い黒髪に目の大きめな美少女ー。
しかし、現在はくノ一の魂に憑依されている。
動きやすさを重視してか、
冬場なのにもかかわらず、大胆に足を露出した
ショートパンツばかり穿いている。
「・・・・」
愛衣はカレンダーのほうを見つめる。
昔とは違うー。
カレンダー一つとっても、くノ一にとっては
慣れない。
世の中は大きく変わっていた。
数ヶ月経った今でも、信じられない。
「---殿…」
愛衣が悲しそうに目を閉じる。
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遠い過去のあの日ー。
城下には、桜が咲いていたー。
「--お前は、戦いばかりの日々、疲れたことは無いか?」
くノ一の”殿”が尋ねる。
「---私は、殿の命令を忠実にこなすだけです」
一人のくノ一が頭を下げた。
昔、盗賊に焼き払われた村があった。
この殿は、その盗賊を自ら出陣して、全滅させたー。
そして、その村で見つけたのが、一人の少女だった。
家族を盗賊によって奪われて、一人になった少女を不憫に思った殿は、
少女を引き取り、松と名づけて、以降、自身の忍として育て上げたのだった。
「---争いの無い世…。」
そう呟いて、ひらひらと散る桜の花びらをつかむと、
くノ一にそれを見せた。
「もし、それが実現したら、、、」
”殿”は、まだ若い。
とある事情で、若くして1城主となったという経歴を持つ。
「---私と、いっしょになってくれるか?」
桜の花びらを見せながら、笑う殿。
くノ一は突然のことに顔を真っ赤にしながら
目をそらした。
「--わ、、わ、、わたしはっ…
……殿と忍ですから、そのような…」
彼女がそう言うと、
殿は笑った。
「--ふふふ…、
なら、私の”命”だ。
松、争いが終わったら、一緒になってくれるか?」
殿は言った。
一回りほど年齢差があるくノ一を、
殿は本気で愛していた。
そして、くノ一も、殿のことを内心では…
「ご、、ご命令とあらば…。」
くノ一が顔を真っ赤にしながら頭を下げる。
「--ー来年はーーー
2人で、この桜を見に来れるといいな」
殿はそう呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「桜…」
愛衣は思う。
あの花をもう一度見たい。
それを見たら、
そのときは、わたしは…。
「---この体は…私のものではない」
愛衣は険しい表情で呟いた。
「---ちゃんと、返してやらねばな…」
そう呟くと、愛衣は体を震わせた。
「さ、、、さ、、、さ、さむくなんかない!」
一人でそう言うと、露出した足をガクガクと震わせながら
外出の準備を始めた。
今日は、圭吾と、初詣に行く予定があるのだ。
愛衣は慌てて準備を始めるのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お待たせ…!」
圭吾がやってくる。
愛衣は既に体を震わせながら待っていた。
「お、お、お、お、お、遅いぞ…」
ガクガク唇を震わせている愛衣。
「遅いぞって…
まだ10分前だよ~待ち合わせの!」
圭吾が言うと、
愛衣が震えながら返事をする
「う…うるさい…!
我々、忍は何事も素早く動くんだ!」
「はいはい」
圭吾が愛衣の格好を見る。
半そでにショートパンツ姿。
真冬にはあまりにも無謀だ。
「---ねぇ…流石に無理がない?その格好は」
圭吾が呆れた様子で言うと、
愛衣は首を振った。
「に、、任務のとき、、動きにくい服装だと困るだろう!
あのヒラヒラしたやつはどうしても私の性にはあわん!」
ヒラヒラしたやつ・・・
スカートのことだろう。
「--はは、スカート姿の愛衣ちゃんも可愛いけどなぁ…」
圭吾が言うと、愛衣は顔を真っ赤にして呟く。
「私は忍だ!カワイイだとか、そんなことは…」
いつものようにわめく愛衣。
とても寒そうにしている愛衣を見て、
圭吾は自分がしてきたマフラーを愛衣の首にかけた。
「---触るな!」
愛衣が圭吾を振り払う。
圭吾は笑いながらそれを避けて
「でも、あったかいでしょ?」
と微笑みかける。
「---、、、うん」
愛衣は圭吾から目を逸らしながら、
呟いた。
「・・・ありがとう」
愛衣が恥ずかしそうに目をそらしているのを見て、
圭吾は笑う。
「だんだん愛衣ちゃんも現代のお礼に慣れてきたみたいだね!
よかったよかった。
これからこの時代で過ごしていけばもっと、もっと
今の時代に馴染めるよ」
圭吾が言うと、愛衣は「そ、、そうだな…」と呟く。
圭吾は、「あ、あっちにおみくじがあるよ」と
言って、そちらに歩いていく。
そんな圭吾の後姿を見ながら愛衣は、呟いた。
「…わたしは・・・
いつまでもお前の側にいてやることは
できぬのだ…」
愛衣は、、
いや、くノ一はそう呟いた。
”このからだは返さなくてはならない”
「ーーー”殿”と見た桜をもう一度見たら…。
そのときは、わたしはー」
愛衣は、その考えを振り払うかのように、
圭吾の歩いていったほうへと歩き始めた。
「はは、僕は大吉だよ!」
おみくじを引いた圭吾が笑う。
「----」
愛衣が不満そうな顔をしている。
「ん?何引いたの?」
圭吾がニヤニヤしながら、愛衣のおみくじ結果を見ようとすると
愛衣は「バカッ!」と叫んで、おみくじを圭吾の顔に叩きつけて別の方向に
歩いていってしまった。
圭吾は「何だよ~」と呟きながら
それを見る。
「大吉」
その下には、恋愛運について書かれている。
いつも身近にいる大切な人とー そんなようなことが書かれていた。
「ププッ…照れてる照れてる!」
圭吾が笑いながら愛衣のあとを追う・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
愛衣は顔を赤らめながら、歩いていた。
「---あいつの、大切な人は、私じゃない…」
自分の体を見つめながら呟く。
「---あいつが見ているのは、私じゃない…」
寂しそうにー。
もう、自分の体は無くなってしまったからー。
いつまでも、ここにいるわけにはいかないからー。
「--ん?」
愛衣の視線の先では、子供たちが、駒で遊んでいた。
少しだけ、微笑む愛衣。
微笑んだのは、いつ以来だろうー。
「---この時代にも、あるのだな…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「----殿、それは…?」
くノ一は、尋ねた。
殿が城下の子供たちと見たこともないものを
持って、遊んでいた。
「駒と言ってな…。
子供たちの間で流行っている遊びだ」
殿が笑いながらくノ一の方に近づくと、
駒をひとつ手渡した。
「---戦乱の世が終わったら、
お前にも教えてやる」
殿は微笑んだ。
「わ、私は、このような…」
くノ一は首を横に振る。
自分は、殿のために、邪魔な敵を消し去るためだけに
生まれてきた存在。
だから、このような・・・
「---ふふ…
お前も笑って、生きていけるような世の中を
私は必ずー」
けれど、その数日後ー
彼女は突然、告げられた。
「私の城から去れ」
殿は、無愛想な声で言った。
「---!?、ど、どうしてですか?」
くノ一は突然のことに驚く。
「---去れ。お主の顔などもう見たくも無い」
殿がくノ一を睨む。
「--な、何故ですか、殿!」
くノ一が動揺した様子で言うと、
殿は刀を抜いた。
「---去れと言っておる。
お主が目障りになった。ただ、それだけだ」
刀を突きつけられたくノ一は
呟いた。
「---はい」
信じられなかった。
子のように育ててくれた、殿がこんな…。
くノ一はただ、ひたすら走った。
行く当てもなく。
彼女にとって”隠密任務”が全てだった。
女としての生き方を知らない。
闇で生きる術しか知らない。
なのにーー。
彼女は、馬を走らせる武将とすれ違う。
「---殿の下へ急ぎ向かうぞ!」
武将が、兵士たちに叫んでいる。
「まさか、柏崎が謀反を起こすとはー」
くノ一はその言葉に振り返る。
”柏崎”とは、殿の家臣の一人だ。
「---殿?」
くノ一はすぐに悟った。
殿は、自分を逃がそうとして、あのような…。
優しくて、民の信望も厚い殿。
けれども、どこか不器用で、
時々家臣を困らせる殿。
くノ一は走った。
そしてーー城に戻ったときには、城は炎に包まれていた。
「---殿!」
くノ一は慌てて城に飛び込む。
そしてーー
「---殿!」
くノ一は、殿と再会を果たした。
「---お松…、どうして?」
剣を持つ殿が言う。
「---どうして…、、
私は、忍です!
殿をお守りするのが…」
くノ一がそう言いかけると、殿は微笑んだ。
「---すまなかった。
私がお前を拾わなければ、
お前は普通の村人として生きていけたかもしれない。
私が、お前を乱世に引きずり込んだ。
…だから…
お前だけでも、逃げて欲しい…
そう思ったのだ」
殿は、家臣の柏崎の謀反の情報を直前に密偵から入手し、
限られた時間でくノ一や、町民たちを逃がしていた。
自身は城に残り、謀反を起こした柏崎を迎え撃つつもりだった。
「殿ーー、わたしも一緒に!」
くノ一がクナイを構える。
「---ならぬ!」
殿が叫んだ。
「---ですが、私は殿の忍!」
くノ一の言葉に、殿は笑う。
「--全く、お前は頑固で叶わないな。」
そういうと、殿は、部屋の片隅にあった、
黒い箱を指さした。
「---もう、城から逃げ出すことは叶わないだろう。
柏崎の兵が囲んでいる。
だがーーー」
その箱は、殿が、禁断の錬金術と呼ばれる秘術で作り出したもの。
魂を封印し、
そのまま次の世代へと送り渡す、
試作段階の”禁断の箱”
「-ー松、お前に頼みがある。
---いやとは言わせぬぞ?
これは、主としての命だ」
そう言うと、殿は微笑んだ。
「これから、お前の魂をその箱に封印する。
そして、遠い未来、誰かがその箱の封印を解いたとき、
お前は復活するー。
その新しい世の中でーーー
私の子孫を助けてやって欲しい」
殿はそう言うと、
謎の呪文を唱え始めた。
そしてーー
くノ一の体から力が抜けていく。
「---と、、、との…」
殿は最後に言った。
「 ”もしも私の子孫が、悪の道に染まっていたならば、
お前の手で、引導を渡せー” 」
ーーーと。
くノ一の意識は、そのまま闇に飲まれた。
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「---駒…いつ教えてくれるんですか…殿」
子供たちが遊んでいる駒を遠目で見ながら
悲しそうに呟くくノ一。
背後から圭吾がやってくる。
「あ、いたいた!探してたよ
---って…」
圭吾が。、振り返った愛衣の顔を見て
ハッとする。
愛衣は、涙を流していた。
「え?泣いてるの…?」
そう言うと、愛衣は叫んだ。
「泣いてない!」
「え…でも涙…」
「涙ではない!雨だ!」
愛衣が叫ぶ。
「---え?でも雨降ってないよ?」
ニヤニヤしながら言う圭吾。
「う、うるさい!わたしが雨と言ったら雨なんだ!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶ愛衣。
「ふふ、、はいはい」
圭吾がニヤニヤしながら言うと、
愛衣は「なんだその顔は!」とわめいている。
圭吾は笑いながら
「そろそろ帰ろうか」と愛衣に手を差し出した。
「--な、、なんだそれは」
恥ずかしそうに目をそらす愛衣。
「今の時代ではね、
仲良く帰るときは手をつなぐんだよ!」
圭吾が言うと、愛衣の顔はさらに赤くなる。
「バ・・・バカ!わたしはそのようなことはせぬ!
私は…」
「ほら…」
圭吾が愛衣の手をつかむ。
「~~~~~~~」
愛衣が恥ずかしそうにあたふたする。
「--ふふふ、真っ赤じゃん!」
圭吾が言うと、
愛衣は「黙れ!」と叫びながらも、どこか嬉しそうにしていた。
ーーー歩きながら愛衣は思う。
殿とあの日見た、桜をもう一度見たらー
わたしは・・・。
このからだはわたしのものじゃない…
だから、わたしはもう、ここには居られないーーーー
「・・・あと2ヶ月ちょっと…か」
愛衣が呟く。
「ん?」
圭吾が振り向くと、
愛衣は「なんでもない!」と叫んだ。
その表情は、
どこか、、、
寂しげだったーーー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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くノ一の生い立ちと、
”最終章”への伏線を…!?
次回は、ほのぼのとした最終章を書いてみたいデス!
桜の咲くころに(え?)
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