とある病院に、その男は居たー。
外科医・成宮 龍(なるみや りゅう)。
彼は、ある日”リアル”の力に目覚めた。
そしてそれ以降、彼は”神の外科医”として、
カードで手術をするようになったのだった…。
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オペ室。
Dr成宮が、オペを行っている。
しかし、オペ室には成宮と助手一人しか居ない。
上からは、外科部長と病院長がその様子を見守っている。
「--カード」
成宮は”メス”ではなくカードを要求した。
彼はー
”カードを現実化させる力”に目覚めた
”リアル・デュエリスト”だ。
彼は、この力を医療に使えないかと考えた。
そしてーそれを実現させた。
リアルによる力で患者を救うことに成功した彼は、
メスを置いた。
「これからは、リアルの時代だ」と。
リアルの力は時に暴発を招く。
だが、こうして助手にカードを選ばせて、自分の手に
渡させればー、”事故”は起きない。
そう、彼は”リアル”の力を徹底的に研究して、
それで医療を行っていた。
最近の彼の口癖はー
「俺は、患者をカードで救う」
リビングデッドの呼び声。
彼はそのカードを発動した。
すると”死んでいた”患者が生き返ったのだー。
「---わ、、、わたしはーーー?」
まだ幼い女子中学生。
交通事故により死んでいた彼女が生き返るー。
成宮は優しくつぶやいた。
「もう、大丈夫だー」 と。
オペ室から出た彼は、
ライバルの外科医、九十九 遊作(つくも ゆうさく)と鉢合わせした。
「成宮―」
九十九は不愉快そうにつぶやく。
「--また、カードでオペをしたのか?」
九十九の言葉に、成宮はうなずく。
「---あぁ」
成宮が手袋を破棄して、オペ室から去ろうとすると
九十九は呟いた。
「--外科医がメスを持たなくなったら、終わりだろ」 と。
ーー嫉妬。
確かに、成宮のリアルの力は患者を救っている。
そんなことは分かっている。
けれどー。
「-------」
成宮は何も言わず、九十九に背を向けてその場を立ち去った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
自分の部屋に戻った成宮は
”リビングデッドの呼び声”をスリーブに入れて、慎重に棚の中にしまった。
リアルの力に目覚めたあと、彼は慎重にその力について調べた。
医療に用いるのであれば、失敗は許されない。
彼の調べで、
「魔法」「罠」カードのような「発動してすぐ墓地に行くカード」は
一度使えば効果が消えないことが分かっている。
例えば一度”死者蘇生”を発動すれば、蘇生した人間は
死ぬことはない。
その場で効果が発揮されるからだー。
だが、モンスターカードと”永続魔法” ”永続罠”は違う。
これらはフィールドを離れると、、つまりリアルで言うならば
”カードをしまったとき”や”物理的に破いたとき”そして、
対象の人間がある程度、カードから離れると効果がなくなってしまう。
成宮の調査で分かったことだ。
だからー
リビングデッドの呼び声では、さっきの女子中学生はまた急に死んでしまう可能性も
あるわけだー。
しかし。
成宮はそれを克服した。
”カードをスリーブに入れる”
すると不思議なことに、対象がどんなに遠くに行っても
その効果は永遠に発揮される。
だから-
こうして”リビングデッドの呼び声”をスリーブに入れているのだ。
生き返ったあの女子中学生が急死しないようにー。
成宮は、最初は”死者蘇生”患者をよみがえらせようとしていた。
だがー、
世界各地で、数は少ないものの同じ”リアル化”の現象が確認されているのだ。
そのため、死者蘇生は瞬く間にプレミア化し、
今では一枚100万以上の値がついているような状態だ。
当たり前だー。
死者をよみがえらせることができるのだからー。
だが、
”早すぎた埋葬”や”リビングデッドの呼び声”は例外だった。
カードから距離が離れればリアルの効力がなくなる。
また、カードをデッキに戻したり、破れば効力がなくなるのだ。
ゆえに、この2枚は”使えないカード”として
リアルデュエリストたちも手に入れようとしなかった。
死者蘇生は一度発動してしまえば、元々墓地に行くカード。
そのため、発動後は破っても、何をしても、その効果は
消えないのだ。
だがーDr成宮は辿り着いた。
”カードをスリーブに入れることで”効果を永続効果にするーという方法に。
「俺は、患者をカードで救う」
成宮は、部屋の引き出しにしまった
50枚以上のリビングデッドの呼び声を見て呟いた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ブルーポージョンを発動!」
成宮がカードをかざすと、
大けがをしていた男の怪我が一瞬で治癒したー。
オペはわずか3秒で終わった。
「--見事」
志島院長は呟いた。
彼は、成宮の力を使い、医学界の頂点に立とうとしていた。
しかしー
それを面白く思わない人物も居た。
鬼柳(きりゅう)外科部長であるー。
鬼柳は思う。
”あんなオペじゃ、満足できないぜー” と。
鬼柳は、自らの派閥に所属する腹心である、
九十九を呼び出した。
外科医の九十九。
元々は成宮と並ぶ実力者で、
鬼柳が可愛がっていた医師だが、
成宮がリアルの力を手にしたため、
院長は成宮を重用し始めた。
今や九十九は、”優秀なだけ”の医師になってしまった。
「彼の力は知っているな?」
鬼柳外科部長が言う。
「はいー」
九十九は悔しそうに歯軋りした。
何で成宮だけー。
俺だって、患者を救いたいという気持ちは同じなのにー と。
「---彼が患者を蘇生させるために使っているカード。
確か、リビングデッドの呼び声ー、とか言ったか?」
鬼柳外科部長がそういうと、九十九医師はうなずく。
「--彼のリビングデッドの呼び声のカードを
全部”スリーブ”から取り出してあげなさいー」
鬼柳が冷たい目線で言う。
“リビングデッドの呼び声”をスリーブから取り出す。
それはすなわちーーー
”蘇生した患者達の死”を意味するー。
既に患者達は退院し、本来であればリアルの力の
届かない距離に居る。
しかし、メカニズムは不明だが、成宮はそれを
”スリーブに入れる”という方法で克服した。
“スリーブに入れると効果が永続的に続くのだ”
「--しかし、そんなことをすれば
生き返った患者達は!」
九十九医師が言うと、
鬼柳外科部長は微笑んだ。
「--私はね。
君に出世してもらいたいなんだよ。
君のことは最初からずっと、目にかけている」
鬼柳の言葉に、九十九医師は「は、ありがとうございます」と
頭を下げるー。
「---大儀に犠牲はつきものだー。
それに、生き返った患者達は”既に死んでいた”んだ。
患者をあるべき姿に戻すだけだ」
鬼柳外科部長はいすから立ち上がり、
九十九医師の肩を叩いたー。
「我々の満足はこれからだー。」
そう呟き、鬼柳外科部長は立ち去っていった…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「成宮先生!今日もお疲れ様です♪」
助手で看護師の孔雀 淳子(くじゃく じゅんこ)が
満面の笑みで言う。
しかしー
可愛らしい容姿をしている彼女はーー
本来の彼女ではない…
淳子は元々38歳のベテラン看護師で、
かなり疲れた、愛想の悪い感じの女性だった。
しかし、リアルの力を知り、淳子は成宮に頼み込み
お注射天使リリーというモンスターの姿に変えてもらったのだった。
リリーの姿になった彼女はとても明るくなった。
”カード”が性格にも影響を与えたのか。
それともー。
真相は分からない。
けれども、本人が幸せで、仕事にもプラスになるのであればー。
成宮はそんな風に思っていた。
リリーの姿になった彼女は、髪を黒くそめ、
普通の服を着ているので
誰も”お注射天使リリー”の姿だとは気付かないだろう。
リアル化の
モンスターカードへの変身で姿を変える―。
その力はスリーブにカードを入れることで永久なものとなる。
そしてー
服や髪型など、イメージチェンジをしてしまえば、
もはやそれは”新しい自分の姿”になるのだ。
「--喉がいたくて…」
患者の言葉を聞き、成宮は風邪薬ではなく、
「治療の神ディアンケト」を発動した。
するとーたちまち患者の喉はなおり、
風邪も完治したのだった。
「先生、ありがとうございます」
患者が嬉しそうに笑う。
そうだー。
俺はこの笑顔が見たくて医者になったんだー。
成宮は思う。
この力は”俺が患者を救う為に神が授けてくれたのだ”と。
そうに違いない。
だったら、俺は、この力で患者を救う。
そのためならー、
どんなカードだって手に入れて見せる。
「--あ、成宮先生!」
廊下で可愛らしい女子高生が手を振るー
彼女は元・患者だー。
とてもかわいらしい彼女はーーー
実は2か月前まで男だった。
”性の悩み”に彼は苦しんでいた。
心は女性、体は男というやつだ。
成宮は悩んだ末に院長に相談し、
彼を”女”にすることにした。
そう、リアルの力を使って。
彼は”調律の魔術師”というモンスターを希望した。
そして、成宮はそれに答えた。
高校生としては少し小柄な気がするが、
それも良いのかもしれない―。
「先生、本当にこの前はありがとう!
今日はお礼にこんなもの持ってきちゃった♪」
彼、いや彼女は、本当にうれしかったのか
週に1度、何か差し入れを持ってきてくれる。
女子高生の制服を着た
黒髪の調律の魔術師が成宮に微笑みかける。
そうだー
この笑顔を俺は守りたい…
「--成宮」
振り向くと、ライバル外科医の九十九がいた。
「九十九。どうした?」
成宮が訪ねると九十九は笑った。
「どうだ?今夜?
久しぶりにお前の家で一杯。」
九十九の申し出に、成宮は微笑んだ。
「あぁ、いいぞ」と。
その言葉を聞いて九十九は笑みを浮かべたーーー
鬼柳外科部長からの指示ー。
成宮の家にあるカードのスリーブを全て外す…
それを成し遂げなくてはならない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜。
成宮と九十九は同期の外科医だ。
ライバル関係ではあるものの、二人切磋琢磨して
ここまでやってきたのだ。
2人は、久しぶりの昔話に花を咲かせた。
「---ん?ちょっと失礼」
成宮のスマホに着信が入り、成宮は部屋を後にした。
「・・・・・・」
一人、成宮の家のリビングに残された九十九は
引き出しをあさり始めた。
成宮のスマホに入った電話は
鬼柳外科部長の電話のはずだ。
外科部長は言った。
自分が電話をかけるから、その間に
成宮のカードを全てスリーブから出せ! と。
そうすれば、成宮を失脚させることができる。
そして、自分は再びNo1の外科医になれる。
「-----!!」
九十九は見つけた。
引き出しにしまわれて…
スリーブに入ったカードたちを。
そのうちの1枚、リビングデッドの呼び声を手に持つ。
「------」
九十九は表情を曇らせた。
“このカードをスリーブからとる”ことは、
このカードで生き返り、今もどこかで暮らしているであろう子を
今一度殺すという意味だ。
手が震える。
九十九医師の額から汗が落ちる。
だがーー。
”俺はリアルの力なんて認めない”
”外科医が、メス持たなくなったら終わりだろ”
自分の言葉を思い出す。
「-----悪く思うな。
死者の魂は現世にとどまってはならない!」
九十九はそう呟くと、一思いにリビングデッドの呼び声を
スリーブから抜き取った…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とある一家が談笑している。
母と父。そして一人娘。
娘は中学生だった。
彼女はー
交通事故で”一度死んだ”
だがー先日、成宮が
リビングデッドの呼び声のカードで
彼女を生き返らせたのだー。
「--ねぇねぇ、お父さん!今度の誕生日だけど~」
娘が笑う。
「----なんだ?」
父と母は感謝していた。
Dr,成宮に。
交通事故で、娘を失ったー。
絶望に暮れたあの日。
だが、翌日、Dr.成宮の存在を知り、
すがる思いで、両親は成宮の居る病院を訪れた。
そして、奇跡は起きたのだ。
「ひっ…うっ・・・」
ーーー!?
目の前に居る娘を父が見る。
「---あ、、、っ、、、、あっ」
娘の顔色が急速に青くなっていくーーー。
目の瞳孔が開きーー、
口から唾液や、その他のものを垂れ流しー
目から涙をこぼしているーーー
「---お、、、おい!」
突然のことに父は悲鳴に似た叫び声をあげた
「お・・・お ど う さ・・・」
娘が震える手を父のほうに伸ばす。
だがーーー
その手は父には届かなかった…
急速に真っ青になり、
食卓の机の上に、そのまま突っ伏すように倒れた
娘はーー
もう、、死んでいた。
いやーーー
”あるべき姿に戻った”のかもしれないーーー
「うっうああああああ!」
父は叫んだ。
母も突然のことに泣き喚くーー
そう、、九十九医師がカードをスリーブから抜いたことに
よる起きた悲劇ー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
九十九医師は、冷や汗をかいていた。
今、抜いた1枚で
”誰かが死んだのだろうか”
いやー。
“元から死んでいたんだ”
九十九医師は自分に言い聞かせる。
そして、、、
「うおおおおおおおおおおっ!」
九十九は叫ぶと、成宮の家にあるスリーブに入ったカードの
スリーブを全て破り捨てたーー。
「はぁっ・・・はぁっ…」
カードを再び引き出しにしまう九十九。
50枚以上のカードは全てーーー
スリーブから取り出されてしまった。
それはーー成宮の患者が皆、”元あるべき姿に戻った”ことを
意味していたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
男がモニターで、リアル化の力を手に入れた人間たちの動向を見ていた。
ーー成宮医師の家でたった今、起きた悲劇を見つめる男ー。
「----ふぅ」
男はイスの背もたれに身を任せてためいきをついた。
悪いのはー
誰なのだろうか。
リアル化の力を医療に使い始めたDr成宮か。
自らの復権のためスリーブを捨てたDr九十九か。
それとも病院内の権力争いで、2人を巻き込んだ、鬼柳外科部長か。
いやー、それとも自分自身か。
「---…嵐が起きるな…」
男は呟いた。
そう、明日には病院中が大騒ぎになるだろう。
成宮が治療した患者が一斉に
再びあの世へと帰ったのだからー。
男は「---全ては私の”次元”のためなのだー」
と静かに呟いた・・・
⇒Next Stageに続く…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
長くなったので前編 後編に分割になりました(笑)
次回は来週金曜日です!
<予告>
リアルデュエリストVol6 俺は患者を助けたい
病院では大騒ぎになっていた。
医師たちが集められたその場所で、院長に呼ばれたDr成宮は、
とあるモノを病院関係者たちに見せたー。
そしてーー。
”リアルの力”を使った医師の物語の結末はー?
10/13 掲載予定です!
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
重しく思わない
重しく→面白く
満足できないwwwww
どうせ破り捨てたところとかが記録に残ってそう。
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> 重しく思わない
> 重しく→面白く
>
> 満足できないwwwww
>
> どうせ破り捨てたところとかが記録に残ってそう。
誤字失礼しました^^
満足できないー!
記録…
さて、どうでしょう?(すっとぼけ)