<憑依>お別れ屋① 憑依は”ビジネス”

お別れ屋。

”どんな男女でも金を払えば別れさせてくれる”
そんな人物が居た。

今日も”お別れ屋”は、
憑依能力を駆使して、男女の仲を引き裂く…。

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ーー彼は、小さいころから天才だった。
頭の回転が速く、クラスでも成績優秀を誇っていた。

クラスメイトからは「インテルが入ってるんじゃないか」と
言われるほどだったー。

そんな彼は、22で独立し、ベンチャー企業を立ち上げた。

ネットビジネスを中心に、日々お金を稼いだ彼は、
”成功者”の階段を駆け上がった。

だが、そんな彼は、ある日、
”憑依能力”を手に入れた。

彼はー。
全てを捨てた。

ベンチャー企業をたたみ、彼は行方をくらました。

そして、数年後、彼は戻ってきた。

そう、彼は”憑依”を”ビジネス”に利用できないかを考えたのだ。
彼の長所は、いち早く”先”を見通すこと。
これからの時代はネットビジネスではない、
憑依ビジネスだと彼は考えたのだ。

結果、彼は”お別れ屋”というビジネスを始めたのだった。
金さえ払えば、どんな男女の仲でも引き裂くー。

それが、”お別れ屋”

今日も、お別れ屋に、とある人間が訪ねてきた。

お別れ屋は、”客”と”店主”が対面することはない。
客は完全に仕切られたスペースで、マイクでお別れ屋店主と会話するのだ。

お金は全自動の支払い口に入れるシステムになっている。

客に気付いた可愛らしい顔の女性は微笑んだー。
見た目は10代後半だろうか。

椅子で足を組みながら、スカートをいじり、ほほ笑んでいるー。

そう…お別れ屋は、憑依能力を手にして、
それまでのビジネスだけではなく、自分をも捨てていた。

今の彼はーいや、彼女は、
他人の体を奪い、その体で日々生活をしている。

「---今日も、お客さんね…」
”お別れ屋”は微笑んだ。

この体を乗っ取ってからもう3年。
当時、中学3年生だったこの女の失踪はニュースになった。

だが、お別れ屋の力を使えば、それを”失踪”で片づけるのはたやすい。

今や、この少女の体は完全にお別れ屋のものになっていた。
そして、お別れ屋も、女性としての振る舞いを完全にわが物にしていた。

「--お願いします。
 クラスメイトのこのカップルを別れさせてほしいんです」

やってきた依頼人は男子高校生だった。
眼鏡をした、ちょっと危ない感じの生徒だ。

「--わかりました」
”お別れ屋”は答えた。

お別れはビジネス。
お金さえ払ってもらえれば、
”理由は問わない”

例え、別れさせたい理由が、悪しき理由だったとしても…だ。

「うふふ・・・では…その二人をお別れさせるために、
 50万、頂きますよ?」

お別れ屋が笑うと、男子高校生が口を開いた。

「---意外ですね。
 店主さんは男性かと思ってました」

監視カメラ越しにお別れ屋はその男子高校生を見る。
”嫌らしい笑み”を浮かべている。

”この男、危険だー”

カップルの仲を引き裂いてどうするつもりなのか。

「--ふふっ…私の事が気になるの?」
お別れ屋は誘うようにしてマイクに声を吹きこんだ。

「い、、、いえっ…」
男子高校生が顔を赤らめている。

”ふふっ…バカなヤツ…”

お別れ屋は人をからかうのが好きだった。

みな、この店に来る人間は、店主が
男性だと思っている。

何故だろうか。

思い込みとは怖いものだ。

彼女は微笑んだ。
「ま、、、私も体、乗っ取られてるだけなんだけどね…!」

”お別れ屋”が憑依しているからだは、
長い間眠りついているため、憑依から一時的に抜けても
簡単には意識を取り戻さない。

お別れ屋が調べた感じでは5日、放っておいても
意識を取り戻さなかった。

「もう、このからだは私の体ー ふふっ♡」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

とある高校生カップル。

真下 渉(ました わたる)と、
藤上 茉麻(ふじがみ まあさ)は、
初デートの日を迎えていた。

だがーー。

「---遅いなぁ…」

真面目な性格の茉麻が
初デートに遅刻してくるなんて。

自分はからかわれたのではないだろうか。
渉はそう思い始めていた。

クラスでも、明るく人気者の茉麻が、
事なかれ主義者の自分に振り向いてくれるなど、
どうしても信じられなかったのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一方、茉麻の自宅では信じられないことが起こっていた。

「---あなたの体、お借りしますね♡」
茉麻が鏡の前で不気味なセリフを呟いていた。

彼女はーー
既に”お別れ屋”に憑依されていた。

「うふふ・・・お仕事の前に…
 ボディチェックしてたら時間かかっちゃった♡」

お別れ屋は、女性に憑依して、
二人の仲を引き裂く。

そんなお別れ屋の楽しみの一つが、
憑依した直後のボディチェック。

憑依対象の女性の体を調べつくし、
”採点”するのだ。

「--茉麻は、80点!うふふ♡」
自分を採点して、嬉しそうにスキップする茉麻。

そしてー。

茉麻は
引出しから一番派手な服を取り出した。

アイドルが着る様な派手なスカートと服…。

演劇部に所属する彼女が、演劇のために
買った服のようだ。

「これで、出かけちゃお!」
茉麻は恥ずかしげもなく、その服を着て、意気揚々と出かけて行った。

”派手な女子は嫌い”

お別れ屋は下調べを欠かさない。
彼氏の渉は”派手な女子が嫌い”だった。

いつもより、濃いメイクで、茉麻は不気味にほほ笑んだ…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お待たせ!」

渉の背後から声がした。

彼女の茉麻だ。

「---あ、茉麻…
 って…今日は随分派手な格好だな」

渉が言う。
嫌そうなのが表情に少し出ている。

「うふふ・・・これが本当の私なの!」
茉麻が言うと、渉は首を振った。

「無理しなくていいのに…
 俺はいつもの明るくて清楚な茉麻が好きなんだから」

渉が言うと、
茉麻は「そ、」とつぶやいた。

「----」
渉が不審な目で茉麻を見つめる。

今日は、初デートで舞い上がっているのだろうか。
どことなく、違和感を感じる―。

なんだか、
自分が好きな茉麻ではないような…

そんな感じがした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

二人はファミレスで昼食を食べていた。

「---茉麻、そういえば来週誕生日だよな?
 何が欲しい?」

渉が言う。

渉は茉麻に夢中だった。
そして、茉麻もそんな渉が大好きだった。

クラスでは”アツアツの二人”と噂されるほどに。

「---」
茉麻がクチャクチャと音を立てながら食事を口に運んでいる。

「----」
渉が少しイヤそうにその様子を見ていると茉麻は笑った

「なに?」

「…いや…ちょっと、、、茉麻、もうちょっと綺麗に食べる
 イメージがあったから…」
渉が苦笑いすると、
茉麻が口に食べ物を詰め込んだ状態で口を開いた。

「へー、渉って男のくせにそんなこと気にするんだ?」
茉麻が汚らしく口を動かしている。

「--いや、、男だからとかじゃなくて
 マナーだろ!」
渉が冗談めいた笑みを浮かべながら言うと
茉麻が話題を変えた。

「そういえばさ、このピザ クソ不味くない?」

茉麻の言葉に、渉はまた驚いた。

「え?美味しいけどー」

そう言ったその時だった。
茉麻が店員を呼んだ。

「ねぇ、このピザ、パサパサしててまずいんだけど。
 こんなんでよくお金とれるよね?」

茉麻が机に肘をつきながら不機嫌そうに店員に言う。

「お、おい、やめろよ恥ずかしい!」
渉が彼女の茉麻を止めに入る。

こんなことする子だっただろうか?

学校で見ていた茉麻は、幻想だったのだろうか?

そうこうしているうちに、
あまりにも激しい剣幕でケチをつける茉麻を前に、
女性バイトが涙ぐんでしまっているのに気付いた。

「おい!もうやめろよ茉麻!」
渉が少し声を荒げた。

前に、お店の人に高圧的な人ってなんかヤダよね…?と
言っていた茉麻がこんなことするなんて…。

「うるさい!渉は黙ってて!」
茉麻が声を荒げた。

そしてさらに、クレームを店員につけようとする。

バン!

「やめろって言ってるんだよ!」
渉が怒って机をたたくと、
茉麻はようやくクレームを止めた。

「---何よ…それじゃあ、私が
 悪いみたいじゃない!」

茉麻が不満そうに怒っている。

そして、渉も、初デートでこんな非常識なクレームをつけた
茉麻に対して怒っていた。

険悪なムードが流れ、二人は無言で食事を口に運んだ。

”いい、雰囲気だ”

茉麻に憑依しているお別れ屋はそう思った。

ーもっと、強引な手を使うのはたやすい。
だが、お別れ屋のモットーは
”できるだけ自然に、別れさせること”

だから、こうやってネチネチやっていくのだー。

「---あ、」
茉麻がスマホの着信に気付き、
そのまま席を立つ。

「お会計、お願いね♪」
茉麻が悪びれる様子もなく言い、店から出て行ってしまう。

「---ったく」
一人残された渉は不機嫌そうにつぶやいた。

何で自分が会計をー。
渉の中の不満が次第に蓄積されていく。

ーーそして…

渉のスマホに着信が入った。

クラスメイトの女友達、夏菜(なつな)からだった。

”今日、茉麻とデートだったっけ?
 水を差す様な事言って悪いけど、、
 茉麻、他に男が居るみたいだよ。”

「----えっ」
渉は唖然とした…。

茉麻に男がー?

渉の中の不信感がさらに膨れ上がる…

一方、外に出たフリをして、トイレの個室に
入っていた茉麻は、白目を剥いて意識を失っていた。

ーーー”お別れ屋”が一時的に茉麻の体から
抜けていたのだ。

お別れ屋はーーー
何人もの人間に憑依して、男女の仲を引き裂く。

茉麻の体でトイレの個室にこもり、茉麻から離脱、
すぐさま、渉の女友達の夏菜に憑依、
夏菜の体で浮気をほのめかすLINEを送ったのだった。

そしてー
渉に疑念を植え付けたところで、茉麻の体に戻る

「---ひぅっ…」
茉麻の体がビクンとなり、再び笑みを浮かべる。

「--ふふ・・・渉君、いつ私に愛想を尽かすかな?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夕方。

これから二人は映画を観に行って
それで解散することになっていた。

「ねぇ、渉、映画よリさ…」
茉麻がほほ笑みながら近づく。

「わたしと、、ホテルにいかない?」
耳元で茉麻は甘い声でささやいたー。

「----」
だが、渉は動かなかった。

「どうしたの?」
茉麻が、とても外出用とは思えないアイドル風衣装の
スカートを抑えながら言う。

「ごめん…」
渉は俯いた。

「え?」
茉麻はニヤッと笑みを浮かべる。
ー渉に悟られないように。

「---俺、、、茉麻とは付き合えない」
渉が言った。

”お別れ屋”が待ち望んでいたセリフー。

「--え…どうして?」
茉麻がわざとらしく尋ねると、渉は呟いた。

「--…ごめん…本当にごめん…
 茉麻のコト、もっとまじめな子だと思ってた。

 昼間の態度とか、そういう格好とか、
 浮気とか…

 俺には許せないんだ」

渉が悔しそうに言う。

そんな渉を見て、茉麻は笑った。

「だったら何よ…。
 渉こそ、もっと心の広い人だと思ってた」

茉麻がため息をつきながら、失笑した。

「--心の広い人って…お前さぁ…!」
渉が声を荒げる。

茉麻はそんな渉の頬をビンタした。

「アンタみたいな男、つまらない!
 いいよいいよ、もう別れよ!」

茉麻の言葉に渉も「このビッチ女!」と捨て台詞を吐いたーーー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜。

茉麻は自宅のベットで目を覚ました。

「あれーー、、わたし…?」
その日の記憶がおぼろげだ。。

渉との初デートに行った気がするけれど・・
よく覚えていない…

そして…
翌日、渉の態度が豹変したことに驚いた茉麻。

茉麻のことを”汚いものを見る様な目”で見るようになった。

「どうして…渉…?」
泣きそうになりながら茉麻は尋ねたが
渉は「うるさい!俺によるな!」と叫ぶだけで
相手にしてくれなかった。

次第に二人の距離は開いて―――、
”別れた”のだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

依頼人の男子生徒はニヤっと笑った。

”彼氏”が茉麻ちゃんに居なくなったー。
これで茉麻は僕のものー。

男子生徒の部屋には
茉麻の写真が100枚以上貼りつけられていたー。

そう、彼はー
”ヘンタイ”だった。
茉麻のストーカーだったのだ…。

今までは彼氏の渉が守ってくれていた。

”俺たちが付き合ってしまえば、アイツも手出しできない、だろ?”

そんな感じで付き合い始めた二人。
だが、茉麻は渉を失った。

もう、このストーカー男子生徒を止める手立てはない。

男子生徒は口元をゆがめて
茉麻の写真にキスをした…
何回も、何回も。
写真が唾液まみれになるまでー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後。

”お別れ屋”は微笑む。

今回の依頼はカンタンだったー と。

そう、こんな感じの依頼はよくあることだ。
お別れ屋にとっては朝飯前。

しかし…
時として彼、いや…彼女のもとには難しい依頼が
舞い込むこともあるー。

ふと、パソコンの画面に映ったニュースに彼は目を止めた。

”女子高生、同級生に暴行され死亡”

「-------」

この”女子高生”は、
この前憑依した”茉麻”かもしれない。

だが、お別れ屋にとって、そんなことはどうでも良かった。
憑依中は、なるべく対象を傷つけないようにはする。

だが、それだけだ。
そのあとの事は知ったことではないし、
依頼人がどんな人でも関係ない。

お別れ屋にとって、
依頼人も、憑依する女性も、引き裂かれるカップルも
”ビジネスの道具”に過ぎないのだからー。

②へ続く

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コメント

今日はお別れ屋の概要的なお話…。
明日は難しい依頼が舞い込みます!

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憑依<お別れ屋>

コメント

  1. 柊菜緒 より:

    SECRET: 0
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    どんな依頼が入るのか楽しみですねぇ

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > どんな依頼が入るのか楽しみですねぇ

    そっち系もあれば、あっち系の依頼も…?