とあるカードゲームを楽しむ男ー。
彼は、圧倒的な強さを誇り、
数々の大会でも優勝を果たしていたー。
しかし、彼には重大なある秘密が隠されていて…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーありがとうございましたー」
穏やかな雰囲気の好青年・敷島 栄斗(しきしま えいと)が、
笑みを浮かべながら対戦相手に握手を求めるー。
「ーー…くっーー」
対戦相手の男は悔しそうにしながらも
”俺の完敗だー”と、そう思いながら栄斗の握手に応じるー。
「ー第22回、ショップ対抗トーナメントー、
優勝は敷島 栄斗くんですー」
とあるカードショップで開催されていた中規模大会ー。
その大会でたった今、優勝を決めた
敷島 栄斗は穏やかな笑みを浮かべるー。
彼はー、最近、数々の大会で記録を打ち立てている
実力者だー。
毎回のように上位に食い込んでいた
有力プレイヤーや、
大会の優勝経験を持つプレイヤーらを、簡単に倒して見せ、
瞬く間にあらゆる大会で優勝してみせたー。
そんな彼の実力の秘密は
優れた洞察力ー。
まるで、相手の手札を見ているのではないかと
言われてしまうぐらいにー、
相手の戦術、カードを分析して
それに応じた戦術を取るのだー。
デッキ自体は”よくあるタイプのデッキ”で、
他のプレイヤーとそこまで差があるわけではないものの、
彼は”まるで相手の手札を覗いているかのように”
相手の打つ手を先読みして封じー、
さらには、フィールドにセットしたカードも冷静に分析して
見破る力に長けていたー。
「ーー敷島くん!やっぱりすごいー!」
「サイン下さい!」
大会の行方を見ていた女性プレイヤーから声を掛けられて
笑みを浮かべる栄斗ー。
続いて、子供にも声を掛けられて、優しくサインに応じるー。
「ーー今日もありがとうございましたー」
大会の会場を後にするまで、穏やかな表情を崩さず、
そして、立ち去っていくー。
がーーー
店を出た栄斗は、邪悪な笑みを浮かべたー。
「ーーーククククー
ゴミクズどもがー
お前らなんかじゃ、絶対に俺には勝てないー。」
そうー、
彼、敷島 栄斗はー
”相手の手札”を覗いていたー。
相手がフィールドにセットするカードも含めて、
全て把握しているー。
だから、負けないのだー。
相手は手札もセットするカードも
全て栄斗に晒している状態で、
栄斗は手札もセットしているカードも
相手に一切見せない状態ー。
そんな状態では、勝つのは難しいー
しかし、栄斗は隠しカメラを仕込んでいるわけではないし、
協力者にカードを覗いてもらっているわけでもなければ、
目に何かを埋め込んでいて、相手の手札をスキャンしているわけでもないー。
当然、カードに香水を塗ったりして見分けるなんてこともしていないし、
そもそも相手のカードに香水を塗ることなど不可能だー。
「ーーーー」
翌日ー
栄斗は、別のショップのイベントに出場していたー。
対戦相手は、最近アイドル的な人気を誇っている
プレイヤー・美穂(みほ)ー。
しかし、栄斗は”余裕”の表情だったー。
いや、むしろ”喜んで”いたー。
”嬉しいよーお前みたいな可愛い子の身体に
”入る”ことができるなんてー”
ニヤリと笑う栄斗ー。
「ーターンエンドですー」
自分のターンを終えると、栄斗はそのまま、
自分の魂を幽体離脱させるー。
栄斗の身体は”抜け殻”にー。
が、不自然ではない表情・姿勢のまま
抜け殻になっていて、
周囲は”栄斗がバトルに集中している”ぐらいにしか思っていないー。
「ーわたしのターン…」
美穂がカードを引くと同時に、栄斗は”今だ”と、
心の中で言葉を口にするー。
そしてー、
幽体離脱した栄斗は”美穂”に憑依するー。
「ーーー!」
ビクッとしたり、声をあげたりすることはなく、
スムーズにそのまま支配に成功する栄斗ー。
”最初の頃”は、憑依の際に、
憑依した相手がビクッ!と身体を震わせたり、
「あっ!?」と、憑依された瞬間に
声を上げたりしてしまって、
なかなかうまくいかなかったけれど、
”ゆっくりと自然に身体を重ねるような形”で憑依することによって、
憑依される相手が声を上げたり、
身体を震わせたりせずに、相手に憑依することが
できるようになったー。
「ーふふー」
憑依された美穂は、笑みを浮かべながら”手札”を
全て確認するー。
”ほぅほぅー、こいつはあの戦術を使うつもりかー
お決まりのパターンだなー。
に、しても、こいつ、なかなか引きがいいなー”
美穂の声で、小声で呟くー。
そして、”手札のカード”を素早く全て暗記すると、
そのまま栄斗は何事もなかったかのように自分の身体に戻るー。
素早い憑依であったためか、憑依された対戦相手・美穂も
憑依されたことに気付いていないー
”あの集中力が相手のカードを見破る鍵ってことだよなー”
”洞察力、すげぇよなぁ”
ギャラリーがそんな言葉を口にしているー。
”対戦相手に憑依している最中”に、
栄斗の身体がほぼ微動だにしない状態をー
周囲は”栄斗が対戦相手の分析をしていて集中しているから”だと
そう思っているー。
”クククーみんなバカで助かるよー”
栄斗は心の中でそう言葉を口にすると、
笑みを浮かべながら「俺のターンー」と、穏やかに
バトルを進めていくー。
バトルは、栄斗が終始、有利で進んでいくー。
対戦相手の美穂は、次第にその表情から笑顔が消えていくー。
「ーーー…」
が、栄斗は美穂がさりげなく、フィールドにセットした
カードを見逃さなかったー。
”あいつの手札から考えるにー
使ってくる戦術は2通り考えられるー。
Aだった場合は、俺の勝ちだがー、
あいつが”B”を思いついている場合、
俺はこのターン、攻撃を仕掛けたら逆転されるー”
そう呟きながら栄斗は笑うー。
”ま、さっきのターンもお前に憑依して手札を確認してるからー
手札から消えたカードが”どっちか”で、お前の戦術なんて分かるけどなー”
栄斗は心の中で笑みを浮かべると、
再び”憑依”をするために幽体離脱して、
そのまま美穂に憑依するー。
手札の残りのカードを確認して、ニヤッと笑う美穂ー。
”なるほどー、”B”のほうかー”
栄斗はそう確信すると、美穂の身体から抜けて
すぐに自分の身体へと戻るー。
「ーーふふーーー
用心するに越したことはないからねー。
俺はこのターン、攻撃を遠慮させてもらうよー」
栄斗がそう言うと、
”自分が憑依されていた”とは自覚できないまま
正気を取り戻した美穂が「!」と、表情を変えるー。
「ーふふー、その表情ー
やはり、罠だったのかなー?」
栄斗はそう言うと、”まぁ、まだ決着を焦る必要はないー”と、
美穂の罠を見破って、笑みを浮かべたー。
その後もー、栄斗が有利の状況は続き、
美穂は反撃のチャンスを見いだせないまま、
そのままあっさりと敗北したー。
「ーーーやっぱすげぇぜ!」
「あいつ、ホント、洞察力が鋭いよな!」
「かっこいい!」
観客たちのそんな言葉を聞きながら、栄斗は
穏やかに笑うー。
「ははー、そんな、大したことはないよー
単にまぐれな部分もあるしー」
自分が誰よりも”恐ろしいイカサマ”をしているにも関わらず、
何の罪の意識も見せずに、穏やかに笑って見せる栄斗ー。
栄斗はこの日以降も、数々の大会に優勝したり、
イベントに出て、
”無敗の貴公子”として、”仕事”まで手にするほどの
人気ぶりとなっていたー。
がーー、そんなある日ー。
”ーーっ…この女ーーー”
栄斗は表情を歪めるー
対戦相手の”女帝”の異名を持つプレイヤー・
上梨 夢愛(かみなし ゆあ)を前に、
苦戦を強いられていた栄斗ー。
栄斗は、心の中で歯ぎしりをしながら、
”だが、俺が負けるわけがないー。
俺はお前の手札をいくらでも見ることができるんだからー”
と、そう呟くー。
いつものように、栄斗は幽体離脱をして、
対戦相手の夢愛に憑依するー。
”女帝”という異名とは裏腹に可愛らしい感じの夢愛に
少しだけドキッとしながらも、
”っと、こいつの身体でドキドキしてる場合じゃない”と、
手札を確認するー。
しかしー…
”チッー…くそっー…どのカードでも逆転可能ー…
しかも、こいつがさっきフィールドにセットしたカードも厄介だー”
夢愛に憑依した栄斗は、険しい表情を浮かべながら
夢愛の身体のまま、爪をガリッとかじるー。
「ーーー…くそっ…くそくそくそくそくそーこのままじゃー」
夢愛の身体で小さくそう呟くと、
すぐに自分の身体へといったん戻っていく栄斗ー。
「ーーひとまず、ここは守備を固めるしかないー」
栄斗はそう言葉を口にすると、そのままターンを終了したー。
「ーわたしのターンですねー」
自分が憑依されて、手札が覗かれているなどとは
夢にも思っていない夢愛は、そのままカードを引き、
バトルを進めていくー。
しかしーーーー
夢愛の実力はかなりのものー
さすがに”女帝”の異名を持つだけあるー。
栄斗は、夢愛の手札を覗いてもー、
夢愛のセットしたカードを把握していてもー、
それでも、夢愛に押されていくー。
「ーーぐっ…」
震えながら夢愛を見つめる栄斗ー。
「おいおいおいーまさか、栄斗のやつ、負けるんじゃね?」
「無敗伝説もここでおわりか~?」
観客のそんな言葉が聞こえるー
チラッと観客の方を見つめる栄斗ー
”くそくそくそっ…俺は、俺は負けないー”
爪をガリッとかじりながら夢愛を見つめるー。
栄斗は何とか逆転しようとカードを引き、
すぐに幽体離脱して夢愛に憑依するー。
がー、夢愛は前のターン、
”さらにいいカード”を引いたらしく、
それが手札に存在していたー。
「ーう、嘘だろー…」
思わずつぶやいてしまう夢愛に憑依した栄斗ー。
慌てて自分の身体に戻り、
自分の手札を見つめるも、
今の栄斗の手札に”逆転”することができるカードは
もはや存在していなかったー。
「ーーぐ……」
屈辱の表情を浮かべる栄斗ー。
”俺が、負けるー?
相手の手札を完全に把握しているこの俺がー、負けるー?”
ギリギリと歯軋りをしながら、
栄斗は自分の手札のカードを、
フィールドにセットできる分だけ、ありったけのセットを行うー。
がー、それでも分かるー。
夢愛の手札なら、栄斗を次のターンで仕留めることは
”可能”であるとー。
”くそっーそんなことあるものかー…!
俺に負けは許されないー”
表向きの好青年風な雰囲気とは真逆のー、
邪悪で、自己中な性格の持ち主である栄斗ー。
栄斗は、手札を2枚補充するカードを使い、
逆転の可能性に賭けるも、
引いたカードはこのタイミングでは使い物にならない
カードたちだったー。
「ーーーーー…」
歯軋りをする栄斗ー。
「いけ~~~~!!女帝~~~!!!!」
「夢愛ちゃんが勝ちそうだ~~~!!!」
観客が声を上げるー。
”ふざけるなふざけるなふざけるなー”
栄斗はそう思いながら、夢愛の方を見つめると、
”いやー…俺には憑依があるじゃないかー”と、
ニヤリと笑みを浮かべたー。
「ーターンエンド」
栄斗はそう言葉を口にすると、
夢愛のターンが始まるー
「わたしのターン…」
がー、そのタイミングで栄斗は夢愛に憑依したー。
今度はーー
”手札”を覗くためではないー。
「ーーこんな女に負けてたまるか」
夢愛の身体で、そう呟くと、
栄斗は夢愛に憑依したまま、
”わざと”プレイングミスをしてみせたー
あくまでも”八百長”の疑惑を掛けられないように
”うっかり”の範囲内で済むようなミスをしてみせるー。
「くくー」
憑依されている夢愛はニヤリと笑うと、
そのままターンを終了するー。
直後ー、憑依を解除して自分の身体に戻った栄斗ー
”これで、俺の勝ちだー!”
栄斗がニヤッと笑うー。
がー、”自分のターン”が突然終わっていた夢愛は
「えっ!?!?」と、声をあげるー。
「ーーーー最後の最後でミスをしちゃったみたいだなー…!
このターンで決めさせてもらう!」
栄斗は夢愛が騒ぎ出す前に決着をつけようと、
怒涛の攻撃を仕掛けるとー、
そのまま、夢愛のライフを0にして、戦いに決着をつけたー
「ー俺の勝ちだー」
歓声が上がるー。
がーーーー
「ーーま、待ってーーーー!」
夢愛が叫ぶー。
観客がどよめく中、夢愛は意識が飛んだことを
周囲に伝えるー。
そしてー、夢愛は対戦相手の栄斗に疑いの目を向けたー。
が、栄斗は笑うー。
「ー最後の最後でプレイングミスをして悔しいのは分かるけどー
そんな言い方は酷いんじゃないかなー?
俺は何もしていないよー」
とー。
周囲の観客たちも、それに同調するー。
”負け惜しみ”扱いされた夢愛は震えながら
目に涙を浮かべると、
そのまま逃げるようにして立ち去って行ったー。
”ふんー…俺に黙って負けてればよかったものをー”
栄斗はそんなことを思うと、
”優勝者”として、穏やかな笑みを浮かべながら
周囲に手を振ってみせたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
がーーー
その対戦相手が
ショックのあまり、”自殺”してしまったことを知ったのは、
それから3日後のことだったー
「ーーーーーーーー…」
呆然とする栄斗ー。
”そこまで”する気は全くなかったし、
元々小心者の栄斗は、それを知って、震えが止まらなくなってしまったー
「ーーー…ゆーーーー…許してくれー…
お、俺はーただ、負けたくなかったー…」
そう言葉を口にしながら
スマホのニュースを見つめる栄斗ー。
やがて彼はー、罪の意識に耐えられなくなり、
自ら”憑依”のことを明かし、表舞台から姿を消してしまうのだったー。
おわり
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コメント
1話完結のカードゲームX憑依 でした~!☆
カードゲームで憑依を悪用されると
なかなか厄介ですネ~…!
お読み下さりありがとうございました~~~!!
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