<憑依>コインランドリーの男

小さい頃から、彼はコインランドリーが大好きだったー

洋服と洋服が洗濯機の中で混ざり合い、
溶け合っていくー
その様子に芸術を感じたのだー。

そしてー、
彼は狂った。

憑依薬を手に入れた彼は、
乗っ取った人間の脳を”かき混ぜる”ことに
快感を感じ始めたのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーえへへへへ…えへへへへへへ♡」

女子高生が一人、部屋の中で乱れ切った格好のまま
ニヤニヤと笑い、
白目を剥いたままピクピクと痙攣しているー

時折、うめき声のようなものを出しながら、
涎を垂れ流しー、
笑い続けている少女ー

やがてー
床に座っていた少女はその場に顔をついて倒れ込みー、
動かなくなったー

その少女からーー
煙のように”霊体”が飛び出してくるー

彼は、数年前に憑依薬を手に入れ、
以降、憑依で欲望の限りを尽くしている男ー

我部 謙介(がぶ けんすけ)ー。

彼は、小さい頃からコインランドリーが大好きで、
洗濯機を見つめながら何時間も過ごしていられるような
そんな、少年だったー。

彼はいつしか大人になり、
大人になってからも、コインランドリーで時間を潰す日々を送っていたー

”回転する洗濯物”を見ると、妙に興奮するようになったのだー。

そんな彼が、ある日ー
コインランドリー内で”忘れ物”を見つけたー。

それが、憑依薬だった。
憑依薬を使い、憑依能力を得た謙介は
己のやりたい放題、他人の身体を貪りつくしたー。

それだけでも、十分に”他人にとっては恐ろしい憑依人”だったもののー、
謙介は”さらにその先”に進んでしまったー。

いつものように、憑依してその身体で欲望の限りを尽くしていた謙介は、
気付いたのだー。

イッたあとー、
脳が快感に溺れているタイミングでー
”脳をかき混ぜることができる”ということにー。

方法は言葉にはしがたいー
だが、最高のゾクゾクを味わった直後に、
色々なことを考えながら、頭の中をかき混ぜるイメージをするとー、
その乗っ取った人間の脳みそを
まるで”洗濯機の中の洗濯物”のようにかき混ぜることができるのだー

かき混ぜている時には、
身体中がイク時とはまた違う、なんとも言えないゾクゾクー
全てが洗い流されるような
コインランドリーで感じた快感に似たようなものを感じることができたー

それ以降、
彼は乗っ取った身体で欲望の限りを尽くし、イッたあとには
必ず”脳をかき混ぜる”行為を楽しんでいたー。

今も、そうだー

「ーーーえ…えへへへ…ふひっ…ははっ… んひひひひひひひっ」
乗っ取られていた少女が起き上がると、突然拍手をしながら
胸を壁に押し付け始めるー

「あ~~~~~!♡ 俺の身体ぁぁァ えっろおおおお♡」
奇声を上げながら少女は拍手を続けー
部屋をドタバタと歩き回りながら、
時折、意味もなくジャンプをしたりしているー

”くくくくくー…
 脳をかき混ぜられた人間のー
 常人には理解することのできない行動はーーー

 実に美しいー”

邪悪な笑みを浮かべる謙介ー

コインランドリーでくるくる回転を続ける洗濯物のようにー
”脳”をかき混ぜられてしまった人間はー、
”脳のあらゆる思考”がおかしな具合に結び付き、
常人では絶対に取らないような行動を繰り返すー。

先程まで乗っ取られていた少女もそうだー。

少女が元々持っていた記憶や思考ー、
そこに謙介の思想なども混ざった状態で
かき混ぜられてー
彼女は、壊れたー。

「ーーうへへへへへへ うひゃひゃひゃひゃ!!!!」
やがて、奇声を上げながら部屋にダンゴムシのように転がり
ぐるぐると床を回転し始めた少女ー。

少女の母親が、娘の部屋”から聞こえてくる異様な音に
気が付いたのか、驚いた様子で部屋の扉を開くー

だが、そこにいたのはもはや”娘”ですらなく、
記憶をごちゃ混ぜにかき混ぜられてしまった
”怪人”とも言える、そんな存在だったー

「ーークククー
 すげぇよなーたまらないぜ」

謙介はそう言いながら家に帰宅するとー
笑みを浮かべながら奥の部屋のほうを見つめたー

「ーただいまー彩夏(さやか)ー」

笑みを浮かべる謙介ー

彩夏とは、彼の妹だー。
現在30歳前半の謙介に対し、
20代中盤の彩夏ー

しかし、彩夏は今、謙介と一緒に暮らしているー

…いいやー、”暮らしている”などと言えるような
状態ではないかもしれないー

「ーーう~~~~! あ~~~~~~♡!」
万歳をしながら、奇声を上げる彩夏ー

元々は綺麗な女性だったー
そんなことが分かる顔立ちの彩夏も、
今は髪が幽霊のように伸び切って
生気のない顔で奇行を繰り返しているー

「ーーへへへ まるで獣だな」
謙介はそんな妹の様子を見ても、全く動じる様子を
見せないままニヤニヤしながら部屋の奥に歩いていくー

謙介がー
”脳をかき混ぜることができる”ことに気付いたのはー
”妹の彩夏”に憑依している時だったー。

元々、憑依薬を手に入れてから謙介は
既に結婚していた妹に度々憑依しては
その身体を存分に堪能していたー。

そしてー
その最中に気付いてしまったのだー
”脳をかき混ぜることができる”ことにー。

謙介は実の妹相手にもためらわずに
”それ”を実行したー。

その結果が、”これ”だー

奇行を繰り返すようになり、夫からは離婚を突き付けられて
実家でも”手に負えない”と、お手上げ状態になっていた
彩夏を、謙介はこうして引き取って”世話”をしているー

実際には謙介が”その犯人”なのだが、
実家の両親も、彩夏の元夫も
謙介には感謝しているー。

「きひひひひひひっ! いひひひひひひひひっ!」
突然笑いながら何度も何度も万歳を繰り返す彩夏ー。

「くくくくー…」

謙介はそんな妹・彩夏を見つめながら笑うと、

”まぁー…彩夏のことはこんな風にするつもりは
 なかったんだけどなー”

と、心の中で呟くー。

元々、何度も憑依していて”お楽しみ”を繰り返していたものの、
彩夏に特に恨みはなかったし、
それ以上のことはするつもりはなかったー。

だが、ある時ー
”脳をかき混ぜることができる”と気づいた時に、
それを我慢することが出来ず、
彩夏の身体でそれを試してしまったー。

その結果が、これだー。

一度、謙介は彩夏を”元に戻そう”としたことがあるー。

しかし、混ぜ合わせた絵具は、もう元には戻らないー。
赤と青を混ぜて紫色になった絵具を、
どんなに混ぜてももう元の色には戻らないー。

再び赤に戻せたとしても、
それは”元々の赤”ではなく、
”最初の赤とは違う、赤”だー。

故に、彩夏はもう元には戻らないー。
混ぜに混ぜてしまった彩夏は、
永遠に、このままだー。

「ーーい~~~~~~!!! うがあああああ!!!」
突然、両手で自分の胸をどんどんと叩き始める彩夏ー

「ーーー…ーーー…」
謙介はくくっ、と笑いながら彩夏の部屋から離れていくと、
そのまま夕食を食べ始めたー。

”壊れた人間はー、一種の芸術だー”

そんな風に思っている謙介はー、
それからも”憑依して、欲望の限りを尽くしー、脳をかき混ぜる”という
行為を繰り返したー。

「ーーー」

それからしばらく時が流れー、
謙介は、自分が経営するコインランドリーのメンテナンスを
行っていたー

”憑依”があれば、金を稼ぐことはそれほど
難しいことではないー。

だが、小さい頃からコインランドリーに対して
妙な愛着を持っている謙介は、
大学卒業後から、こうして自分のコインランドリーを営業して、
”表向き”は生計を立てているー。

もちろんー
コインランドリーだけで、生計を立てるのは、
謙介のような小規模な店舗では難しいー

それを、”憑依”でカバーしながら
生活を続けているー。

「ーー…この前憑依した人妻も最高だったなー
 身体もすごくよかったしー、
 何より子供の前でそういうことしちゃうってのがー
 何ともゾクゾクしたしー」

洗濯機のほうを見つめながら
「脳をかき混ぜたあとのあの壊れっぷりも美しかったー」と、
そう、笑みを浮かべるー。

目の前で回転しているドラム式の洗濯機を見つめながら
笑みを浮かべるー。

だがー
その時だったー。

「ーやっと、見つけたぞー!」
背後から声がして、謙介が振り返ると、
そこにはボサボサ頭の男がいたー

目は血走り、充血しているー

「ーーーーーいらっしゃいませ」
謙介はコインランドリーの店主として、頭を下げるー。

普段、常にこの場所にいるわけではないが、
店に来ている時は、”店主”として丁寧に
接することを心がけているー。

「ーーお前が、我部だな?」
男がそう叫ぶー

「ーそうですが?」
謙介はそこまで呟くと、
少しだけ表情を歪めたー

”こいつ、この前憑依した人妻のー…夫ー”

髪がボサボサで
別人のようにやつれていたため、
一瞬気付かなかったものの、
この男は、間違いなく先日、憑依して
欲望の限りを尽くした人妻の夫だったー。

「ーーお前…お前…よくも明子(あきこ)を!」
妻の名前を叫ぶ男ー

”なんだこいつー?
 なぜ、俺のことが分かったー?”

そう思いながらも
「落ち着いて下さいー。何の話でしょうか?」と
謙介が笑みを浮かべながら言うと、
男は叫んだー。

「ー妻を…よくも妻をあんな風に…!」
怒りの形相で胸倉をつかむ男ー。

「ーー……何のことだか、分かりませんねぇ」
謙介がなおもとぼけると「貴様…!」と、男は怒りを
露わにしたー。

「ーーー”我部”」
男が言うー。

「ー妻が、我部のせいでー 我部のせいでー
 って泣きながら呻いてるんだ!
 お前、妻にー、明子に何をしたー!」

男が叫ぶー。

”なるほどー”
謙介は心の中で思うー。

脳みそをごちゃ混ぜにかき混ぜた人間は
正常な人間ではなくなり、狂人となるー。

だが、その”かき混ぜ具合”は、謙介にも調整は難しくー
憑依して、脳を混ぜた人間がどうなるかは分からないー。

この前、憑依した人妻には、
”自分をこんな風にした男の名前”を口にできるだけのーー
理性が残っていたのだろうー。

”あ~~…
 そうだー”

謙介は思い出すー

人妻・明子に憑依した際に
”自分の苗字”を名乗ることに興奮して、
「わたしは”我部”明子」と、謙介の苗字を
何度も何度も口走っていたのだー

それが、明子の脳に強烈に残っていたのだろうー。

「ーークククククー」
謙介は本性を現すと、
笑みを浮かべながらドラム式の洗濯機のほうを指差したー

「ーーあんたの妻の脳みそをー」

そう言うと、指をくるくるさせながら、

「ーーかき混ぜたー」
と、謙介は笑みを浮かべたー

「ー貴様ァ!」
怒り狂う男ー

”クククー
 お前の脳みそもかき混ぜてやるよー
 この洗濯機のようにー”

謙介がそんなことを心の中で思っていると
次の瞬間ー。

怒り狂った男が、謙介に突進しー
謙介の身体は面白いように、そのまま背後で扉が開いたまま
だったドラム式の洗濯機に押し込まれたー。

「ーー!?!?!?」
謙介が思わぬ反撃に驚いた表情を浮かべているとー、
「まさか、そんなところに偶然、突っ込むとはなー」と、
男が怒りの形相で呟いたー

そして、妻を謙介に滅茶苦茶にされた男は
何を思ったのか、怒りの形相を浮かべたまま、
ドラム式洗濯機の扉を閉めたー。

「ーーー!?!? おい、まーーー!」
謙介は”待て”と叫ぼうとしたー。

同時に、すぐに霊体になってこの男に憑依しー、
脳みそをぐちゃぐちゃにかき混ぜてやろうとしたー。

しかしー
それよりも早く、洗濯機が回転し始めるー

激しい動揺から、精神の乱れが生じー
霊体になることもできなくなった謙介はー
洗濯機の中で回転しー、
自分の身体がボロボロになっていくのを感じながら

ーーー笑みを浮かべたー

”アァ、美しいー”

今まで、多くの人間を傷つけて来たー
きっと、これは、自分に対する天罰なのだろうー、と

そう思ったー。

やがて、意識が遠のいていくのを感じながらー
最後に謙介が味わったのはー
”自分がかき混ぜられる快感”だったー…

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

随分前に浮かんだものの、
個性が強すぎて、微妙な感じがしたので没にしていたネタを
今回、ようやく書いてみました~!

実際、洗濯機に突入してしまったら
(突入したことはないので)
どうなるのかは分からないですが、
フィクションということで…★!

お読み下さりありがとうございました~!

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