<憑依>くノ一完結編~現代(いま)を生きる者~②訣(完)

彼女は、この時代に生きる人間じゃない、
そんなことは分かっていたー。
けれど…。

彼女に憑依したくノ一の魂との別れのときー。

くノ一、完結です!

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木々が風に揺られている。
桜の花びらが舞い落ち、
地面をピンク色に染めていく。

「--今、なんて…?」
圭吾が言う。

愛衣は繰り返した。

「お別れだ」

と。

「--お、お別れって…
 ど、どういうことだよ!」

圭吾が叫ぶ。

愛衣は淡々と続けた。

「私はもう、還るー。
 ここは、わたしのいるべき時代じゃない。
 この女の身体から抜け出すための忍術を使って、
 わたしは元の時代に帰る」

愛衣の中に憑依しているくノ一は
そう言いながらも思う。

”嘘だー”

と。

”帰る”場所なんて、もう無い。
時はもう流れた。
あの時代に帰る方法なんて、ない。

この身体から抜け出せば、
自分は消滅することになるだろう。

殿や、あの時代の皆が待つ世界に、
逝くことになるのだろう。

「ど…どうして…!
 僕はまだ、君と一緒に居たいよ…!」

圭吾が涙を流しながら叫ぶ。

「--ぬるい時代に、飽きたのだ。
 この時代は、わたしには合わぬ」

愛衣が目を逸らしながら言う。

「---そ、それだけの理由で…!」
圭吾が叫ぶ。

「---それに、お前みたいなよわっちいヤツは
 好かぬ!男らしさのカケラもない!」

愛衣は、桜を見つめながらそう言った。

「---ねぇ…」
圭吾は口を開く。

「こっち向いて話せよ!
 
 わかってる!君が目を逸らしてるときは
 僕にウソをついているときだ!
 数か月も一緒にいたんだから、そのぐらい、分かるよ!」

圭吾が言うと、
愛衣は、圭吾の方を見た。

その目にはー
涙が流れていた。

「---ーー変なところには鋭いんだな…」
愛衣が涙を流しながら言う。

「---帰るって…
 それってさ、死ぬってことだよね」
圭吾が言うと、
愛衣は首を振った。

「--わたしは、お前と出会えて本当によかった。
 わたしは元々、あのとき、死ぬはずだった女だ。
 だから…いいんだ。

 たった数か月だけでも、今の世の中を
 見ることができて、私は幸せだ」

愛衣が寂しそうに言った。

「--だめだよ!僕には君にずっといて欲しい!」
圭吾は空を見つめる。

「--愛衣のことなんてどうだっていいんだ!
 僕は君とー!」

「--ウソをつくな!」
愛衣が叫んだ。

「--お前も同じじゃないか」
愛衣が笑う。

「--私にウソをつくときは、
 目を合わせられない」

指摘されて、圭吾は顔を赤らめる。

「--本当は、この女のこと、
 誰よりも大切に想ってる。
 そうなんだろう?」

愛衣が言う。

圭吾は、事実を指摘されて、涙を流すことしかできなかった。

「--わかってる。
 私に気を使わせないために、
 そう振る舞ってたのは。」

愛衣が圭吾に近づいて、ほほ笑む。

「本当は、会いたいんだろう?
 …この女に」

愛衣がそう言うと、
圭吾は泣いたまま頷いた。

「うん………

 で、、でも、僕が、僕が必ず
 君と愛衣がどうにか二人とも
 人生を送れる方法を考えるから」

圭吾が言うと、
愛衣は首を振った。

「そんな都合の良い方法は無い。
 消えるのは、わたしだ」

そう言うと、愛衣は、悲しそうに微笑んだ。

「……ねぇ、わざわざ死ぬ必要なんてないよ!
 ねぇ、僕の前から消えないでよ…!
 僕、君に出会えて本当に楽しかった!

 だから、だから…!」

圭吾はそこまで言って、
泣きじゃくってしまった。

「--泣くな。男だろ?」
愛衣は微笑むと、近づいてきて、
圭吾を抱きしめた。

「---!!」
圭吾は突然のことに驚く。

「--感謝するのはわたしの方だ。
 忍びとしての生き方しか知らなかったわたしに、
 お前は、人として、女しての生き方を教えてくれた」

愛衣に抱きしめられながら
圭吾は、止まらない涙を流し続けた。

「--決めてたんだ。桜が散るころには
 消えようって」

そう言って愛衣は、圭吾から手を離す。

「--いかないで…」
圭吾が泣きながら言う。

「--ふふ、未練がましいやつだな」
愛衣が笑うと、
圭吾の手に、何かを握らせた。

「わたしが作ったお守りだ。
 何かあった時は、
 それで、私がお前を守ってやる」

それだけ言うと、愛衣は背を向けた。

「-べ、別にお前の事が好きなわけじゃないから」
そう言うと、愛衣は、呪文のようなものを
唱え始めた。

散る桜を見つめながら、愛衣は悲しそうな
表情を浮かべる。

「殿…今、お側に参ります」
そう呟くと、愛衣は目を閉じた。

「---お松さん!」
圭吾が、くノ一の本名を口にした。

その名で呼ぶのは、初めてだ。
いつも、愛衣と呼んでいた。

「---ありがとう。今まで、本当にありがとう…」
圭吾の言葉を背中で聞きながら
愛衣は微笑んだ。

そして、呪文を唱えるのをやめて、
圭吾の方を見て微笑んだ。

「---大好きだよ…
 圭吾くんーーー」

くノ一は、初めて圭吾の名前を呼んだー

そして、顔を真っ赤にして微笑んだ。

「く…や、、やっぱり、
 こ、、こういうのは私には無理だ!」

そう言って、愛衣はまた背を向けて、
呪文を唱え始めた。

そしてーーー
謎の光が、愛衣の身体から飛び出て、
そのまま、愛衣は地面に倒れた。

「-----さよなら」
圭吾は泣きながら、そう呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

光の中ー。

一人の少女が、困り果てた表情で
何もない世界を歩いていた。

「---悪かったな」
そこに、忍姿の女性がやってくる。

「---・・・」
肉体の主導権を解放した
くノ一から、愛衣は全ての記憶を受け取っていた。

自分が、加賀コーポレーションの社長に拉致
されて、くノ一の魂を憑依させられたこと、
けれども、そのくノ一が加賀を裏切って、
圭吾に味方したこと。
それから、圭吾とくノ一が、数か月間の時を
過ごしたこと。

「---怒らないでやってくれ」
くノ一が言う。

「ーーーーー」
愛衣は、複雑そうな表情で、くノ一の方を見た。

「---…ふ、無理な相談か」
くノ一がつぶやく。

長い間、自分の人生を奪われていたのだ。
怒って当然だ。

「…怒ってるよ」
愛衣は口を開いた。

「--でも、、、感謝もしてる」
愛衣がほほ笑む。

くノ一は意外というような表情で愛衣の方を見る。

「--あなたは、圭吾のことを守ってくれた。
 ありがとう」

愛衣が言うと、
くノ一が照れくさそうに顔を赤らめた。

「わ、私は、ただ、あの加賀という男の
 悪党ぶりに腹が立っただけだ」

そう言って目を逸らすくノ一。

「--ふふ」
愛衣はそれを見て、笑った。

そしてー

「あいつは、口にはしなかったけど、
 ずっとお前のことを心配していた。
 だか、怒らないでやってくれ」

くノ一の言葉に、愛衣はうなずく。

「うん。約束する。
 圭吾らしいな…
 あなたのことも、真剣に考えてたんでしょ、きっと」

愛衣がほほ笑むと、
くノ一も少しだけ微笑んだ。

「--それと、あいつに伝えてくれ」
くノ一が真剣な表情で愛衣を見た

”愛している”とー

そう言おうと思った。

けれどー
彼女である愛衣の目の前でそれを言うのはー
そして、もう2度と会うことのできない自分が
それを言うのは酷だー。

そう思った。

「--元気でな、と伝えてくれ」

くノ一の言葉に、愛衣はうなずいた。

そして、くノ一は、愛衣に背を向けて
歩き出した。

「--私は、帰るべき場所に帰るー。
 悪かったな…身体を長々と使って」

くノ一は、そう言うと、
振り返ることなく、光の中に消えて行った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---うっ…」
愛衣が目を覚ました。

「---……め、愛衣ちゃん?」
圭吾がそう呼ぶと、愛衣は微笑んだ。

「ただいまー」
愛衣がそう言うと、
圭吾は、おかえりと、嬉しそうに、
けれども、少し寂しそうに微笑んだ。

「----って、何この格好!?」
愛衣が自分の格好を見て叫んだ。

露出度が高い格好に声をあげる。

「--ちょっと!じろじろ見てたでしょ!」
声をあげる愛衣。

「--み、見てないよ!」
顔を赤らめながら言う圭吾に、
「その顔は見た顔よ!エッチ!」と叫んで
愛衣は目を逸らした。

「--はは・・・」
圭吾は笑いしながら、
くノ一に最後に手渡されたお守りを見つめた。

そのお守りはー
ボロボロで、まるで幼稚園児が作ったかのようだった。

「はは…ボロボロじゃないか」
戦いしか知らないくノ一が、必死に作ったお守りを
握りしめながら、圭吾は涙したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1か月後。

圭吾と愛衣は、
くノ一と別れた場所にやってきていた。

石で作った簡素な墓を前に
圭吾は手を合わせていた。

「---」
愛衣も、敬語と一緒に手を合わせる。

桜はもう散っている。

圭吾は、手を合わせ終えると微笑んだ。

「きみのことは忘れないよー」

と。

愛衣はそれを聞いて
「ちょっと嫉妬しちゃうな…
 でも、ありがとう」

と、くノ一の眠る墓に語りかけた。

そして、二人は、仲良くその場から
立ち去っていく。

”元気でなー”

ふいに、そう聞こえた気がした。

圭吾は、振り返って微笑みながら呟いた。

「--ありがとう」   と。

おわり

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コメント

くノ一の物語をようやく完結させることが
出来ました!

彼女の帰還まで、ちゃんと書ききれてよかったです!
お読みくださりありがとうございました!!

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憑依<くノ一>

コメント

  1. より:

    SECRET: 1
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    もしかしてこれが言ってた数少ないハッピーエンド?
    めんどくさがりの俺はラスト確認ばかりで情けない限り、拙者切腹したいでごわすよ…
    と言うわけで改めて初めから呼んできます。
    ちなみに個人的にくノ一は大好きです。今回みたいなのも悪くは無いですが、自分はくノ一の方に憑依ってのが好みです。
    実際某アニメで憑依じゃ無く操られた娘(しかも何と中二ですよ!がいたんですが、操られるシーンが憑依に近い感じもあり卑しくもゾクッとしましたね。