<入れ替わり>山のくまさん①~遭遇~

ある日、山の中、くまさんと出会ったー…。

山登り好きな女子大生の災難ー。
しかし、災難はそれだけで終わりではなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー…!」
山登りが好きな女子大生・福森 松美(ふくもり まつみ)は、
唖然としていたー

”くっ…く、く…くまーーー…!?!?!?”
松美は、心の中でそう叫びながら、
突然、目の前に出現したクマを呆然として見つめていたー。

”う…う、嘘でしょー…!?”
まさか、この山でクマと遭遇するなんて思っても見なかった松美は、
身動きすら取ることもできず、
只々、呆然としていたー。

人間、あまりの恐怖を前にすると
声が出なくなったり、動けなくなったりするー
きっと、そういう状態なのだろうー。

クマが松美に気付いたのか、松美の方に近付いてくるー。

「ーーー…ーーー…!」
身体を震わせながら、冷や汗をかく松美ー。

”ど、ど、どうしようー
 え…?わ、わたし、ここでクマさんに食べられちゃうのー?”

そんなことを考えながら、松美は
クマに対する恐怖を改めて実感するー。

”あ~~…もう、こんなことになるんだったら瑠璃(るり)と一緒に
 休憩しておけばよかったぁ…”

心の中で松美はそう呟くー。
瑠璃とは、同じ大学に通う友達で
今日は半分強引に山登りに一緒に来てもらっていたものの、
”あたし、もう疲れたよぉ~”と、言い出したために、
今は山の中腹の休憩所で休んでいるー。

”ーーーーあぁ…瑠璃ー、ごめんねー
 わたし、先に地獄で待ってるからー”

心の中で思考が暴走しがちな松美は、内心で
そんな言葉を呟くー。

クマが、松美の身体に触れるー。

まるでセクハラをされている気分になりながら
ひたすら耐える松美ー

”あ~もう、クマさんの中身、実はおじさんなんじゃないの?”
太腿を触られながら松美は、心の中でそう呟くー。

”あ~あ…歌のクマさんみたく優しいクマさんならよかったのにー”
”っていうか、触りすぎじゃない?警察呼んじゃうよ?”
”わたしなんか食べても美味しくないから!うん!絶対!”
”見逃してくれたらコンビニでサンドイッチ買って来てあげる!うん!約束するよ!”

心の中で意味のないことを連続して考える松美ー。

クマが、松美の顔に顔を近づけて、
じっと松美を見つめるー。

松美自身、恐怖もありほとんど動いていないからか、
クマは松美のことを襲わず、興味深そうに
松美を見つめているー。

しかし、いつ食われるかも分からないし、
恐らく今、この場から走り出したら
クマに殺されるー。

「ーーー」
松美はなおも、クマの前で動かないように
そのままクマが去ってくれることを祈りながら、
永遠にも思えるような長い時間を耐えるー。

やがて、クマが少し怒ったような声のようなものを出すと、
松美の手をさっきまでよりも
少しだけ乱暴に掴み始めるー。

”あ~~…もう、わたしの人生、ここで終わりー?”
松美は、再び脳内で色々なことを考え始めるー。

”なんか、子供の頃の思い出が蘇ってきたー…”
子供の頃の思い出が頭の中に浮かぶー。

”あ~これが走馬灯ってやつなのねー”
自分自身で、今見ている光景が”何”なのかを
納得しながら、心の中で笑う松美ー。

”あぁ…ごめんね瑠璃ー
 やっぱりわたし、先に地獄で待ってることになりそう”

松美の腕をクマがさっきから繰り返し触っているー。

”ーーって、何で地獄なのー?
 よく考えたらわたしが行くのは天国だったー”

こんな状況でも、頭の中ではとても騒がしい松美ー

”瑠璃ー、先に天国で待ってるからねー”
松美がそんな言葉を頭の中で口にしたその時だったー。

クマが突然、松美の腕を思いっきり引っ張ったー。

特に、深い意味はない野生動物ならではの好奇心ー。
が、腕を引っ張られた松美はバランスを崩してしまうー

「あっ…!」
ちょうど、松美の横には斜面が広がっているー。

バランスを崩して、思わず声を上げた松美を
”エサ”だと認識したのか、クマがうなり声を上げて
松美の方に突進してくるー。

「ーーひぃぃぃぃっ!?」
松美は、今度こそ死ぬと思ったー。

がー、松美とぶつかったクマは、その背後の斜面でバランスを崩し、
クマにぶつかられた松美共々、そのまま斜面を転がり落ちていくー

「ーーひっ…!?」
斜面をクマと共に落下していく松美ー

”クマさんと一緒に転落死とか、勘弁して~~!!!”
心の中でそう叫ぶと同時に、クマと共に下に叩きつけられて、
そのまま松美は気を失ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー松美、遅いなぁ…」

山の中腹の休憩所で、
疲れて休んでいた友人・瑠璃は心配そうな表情を浮かべながら
ボソッと呟くー。

「ーーまさか、遭難したとかないよねー」
瑠璃はそう呟くと、
「ーやっぱあたしもついていけば良かったかなぁ」と、
心配そうにスマホを手にしながら
その画面を見つめたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”いたたたたたたた…”
転落した松美が意識を取り戻すー。

”ーー…い、生きてるー…”
周囲を見渡す松美ー。
てっきり、周囲には花畑だったり、
白っぽい風景と共に神殿みたいなものが見えたり、
そんな光景が広がっていると思って、周囲を見渡した松美ー。

だが、転落したことで場所が変わったとは言え、
松美が今、いる場所はさっきまで自分がいた山だったー。

”ーーまさか、天国も山の中なんてことはないだろうしー
 わ、わたし、助かったんだねー…!”

クマに襲われそうになって、しかも斜面を転がり落ちていたのに生きていたー。

なんだか、10年分、いや、20年分ぐらいの運を
使い果たしたような気がして、松美はホッとするー。

が、まだ周囲にクマがいるかもしれない。
油断はできないと、声を出さないようにしながら
さらに周囲の状況を確認しようとしたその時だったー。

ガサッ、と背後から音がして、
松美はビクッとするー。

”く、クマさんー!?ま、まだわたしの肉を食べようとしてるのー!?”

”わ、わたしの肉なんて絶対おいしくないよー!?
 コンビニに売ってるチキンとか食べた方が美味しいって!”

松美がそう思いながら息をひそめているとー

ガッ!と、背後から腕を掴まれたー

「ガァァァァッ!」
クマの唸り声が響き渡るー。

腕を引っ張られて振り返った松美はー、
あり得ない光景に強い衝撃を受けたー

”え……わ、わたしー!?”
背後から、松美の腕を掴んだのはー

”松美自身”だったー。

目の前に、松美が立っているー。

意味の分からない状況に
”え?え?”と困惑する松美ー

しかも、目の前にいる松美は、獣のような奇声を上げながら、
”ちょ、ちょっとー!何するの!?”
そう思いながら、必死に振り払おうとすると、
”もう一人の松美”は、呆気なく吹き飛んで、
そのまま地面に倒れ込んだー

”え…?”
思った以上に”怪力”を発揮した自分の腕を見る松美ー。

が、そこにあったのはー
ふさふさの茶色の毛に包まれた腕ー。

”はっ…!?えっ!?”
松美は、自分の腕をー、いいや、身体全体を見下ろすー。

そこに見えたのはー
自分自身の身体ではなく、”クマ”の身体ー。

「ーーがぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!?!?!?」

”ええええええええ!?”と叫ぼうとした松美ー

が、”自分の口”から出たのは、クマの声だったのだー。

”そ、そういえばさっきー”
松美は、ふとあることを思い出す。
ついさっき、背後から”自分自身”に腕を掴まれたとき、
クマの「ガァァァァ!」という声が聞こえたー。

しかし、よく考えたらあの時、松美自身が悲鳴を上げていたー。
今の松美はクマの身体であるため、
悲鳴は上がらず、”ガァァァァ”という声しか出なかったのだー。

つまり、さっきのは自分の声ー。

”え…え?どういうことー?
 わたしがクマでー…く、クマさんが、わたしー?”

頭の中でそう考えていると、
松美(クマ)が、再び起き上がって、クマ(松美)の腕を噛み始めるー。

”ちょ!!ちょ!!わたしの身体でクマを食べようとしないで!?”

しかしー…
クマ自身の口とは違って、松美の口に
クマの身体を食いちぎるほどの力はないー。

慌ててそれを振り払うと、
松美(クマ)は、再びうなり声を上げたー。

”ちょ、ちょっとちょっとちょっとー!?何これ!?
 どうすればいいの!?」

クマ(松美)が戸惑うー。

”これって、どういうことー!?
 なんかテレビで見た僕とわたしが入れ替わっちゃったみたいなやつ!?”

クマ(松美)は、そんな言葉を口にしているー…
つもりだったが、口からはクマの声のようなものが発されていて
人間の言葉は発されていないー。

”え?え?でも、よりによってクマと入れ替わりとかー
 あり得ないんだけど!?”

クマ(松美)はそう思いながら
再び向かってくる松美(クマ)から身を守ろうとするー。

”っていうか、わたしの身体で勝手にそんな怖い顔しないで!?”
クマ(松美)は、松美(クマ)が、自分でも見たことのないような
恐ろしい形相を浮かべていることに戸惑いながら、
何とかこの状況を打開しようと頭をフル回転させるー。

”…え、えっと…入れ替わった時は、あの斜面から落っこちたんだからー
 もう1回、同じような状況を作りだせば元に戻ることができるかもー!?”

そう思いながら、クマ(松美)は、突進してくる松美(クマ)を
振り払いながら、何とか”さっきと同じ状況”を再現しようとするー。

がーー

「ーーいたたっ…」
松美(クマ)が”言葉”を発したー

「ー!?」
クマ(松美)が、松美(クマ)のほうを見ると、
松美の腕に、大きな青い痣が出来ていたー。

”あー…”

軽く振り払ったつもりだったー。
がー、”クマの身体”は想像以上に力が強いようで、
”松美の身体”が怪我をしてしまったのだー。

”ーわ、わたしが怪我しちゃったー…
 わ、”わたし”を怪我させないようにしなくちゃー…”

クマ(松美)は、心の中でそんなことを考えるー。

自分自身の身体をダメにしてしまったら
大変なことになるー。

しかしー、そうなると
さっきのように”もう一度斜面から転落する”のも危険だー。
さっきはたまたま助かったけれど
最悪の場合、死ぬ可能性もあるー。

”ーーーって言っても…
 クマのまま生きていくなんて絶対にイヤだから、どうにかしないと”

そう思っていると、
松美(クマ)は、ふと、キョロキョロと周囲を見渡し始めたー

「あ…あれ…?」
松美(クマ)が、そんな言葉を口にしているー。

最初は獣のような声しか出さなかったのに
さっきから、人間の言葉を少しだけ話し始めているー。

そんな様子を見て、クマ(松美)は、松美(クマ)に
話しかけようとするも、
口から出るのは”クマ”の声ー。
人間の言葉を話すことができず、コミュニケーションを
取ることができないー。

「ーーーーー……」
松美(クマ)は、目の前のクマ(松美)と自分自身の手を
不思議そうに見つめると、
「ーーーあれ…?」と、そう言葉を口にするー。

「ーな、なんで…人間ー?」
機械のように、感情の無い声でそう呟くと
松美(クマ)は、混乱した様子で周囲をさらに見つめるー。

「がぅ…ガゥ…」
とにかく話し合いをしようとクマ(松美)が近付いていくー。

がーー

「ーーー!!」
松美(クマ)は、クマ(松美)が近付いてきたことに
驚いたのか「ーーこ、こないで」と、棒読みのような口調で
そう言葉を口にすると、そのまま走り去っていくー

”えっ!?ちょっと待ってよ!”
自分の身体を持ち逃げされたような状態になってしまった
クマ(松美)は、困惑した表情を浮かべながら、
その後を追いかけるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーやっぱり変ー…」
松美との連絡がつかない状況に
異変を察知した友人の瑠璃は
戸惑いの表情を浮かべながら、
山の中腹の休憩所から、顔を外に出すー。

「ーーーー…」
少し迷った挙句、瑠璃はため息をつきながら、
松美が向かった方向に歩き出すのだったー

②へ続く

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クマと入れ替わってしまうお話デス~!☆

自分がクマの身体になったことで、
とりあえず死の危険からは逃れられたものの、
この先が大変そうですネ~!

続きはまた明日デス~!!

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