山の中でクマと入れ替わってしまった女子大生。
この姿のまま山を下りるわけにもいかず、
彼女は山で一晩を過ごすことになり…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝日の温もりを感じて、
洞窟の中で目を覚ましたクマ(松美)ー。
”ーーあ…もう朝ー”
そう思いながら、クマ(松美)は
住処である洞窟から顔を出すと、
近くの川辺まで行って、水を口にするー。
”ー…普段だったら絶対、こんな水飲みたくないのにー”
そう思いながら、川辺で水を満足するまで飲み込むと、
そのまま周囲を見渡し、朝食がてら草花を口にするー。
”これ、美味しいんだよねー”
クマ(松美)がそう思いながら、朝のひと時を終えると、
森の中を探索し始めるー。
”ーはぁ~…たまにはこういう生活もいいのかなー”
”今はクマさんの身体だから、わたしの身体より頑丈だしね”
そう思いながら、山の中を探索するクマ(松美)ー
”そういえば、全然迷わないー”
”確か、こっちに美味しい草があるんだよねー”
この山の中の地理に特別詳しいーー
なんてことはないはずなのに、道に迷うことなく、
当たり前のように山を動きまわるクマ(松美)ー
”すごいー。なんだか、前からこの山に住んでるみたいー”
クマ(松美)は、そう思いながら
”ふと”あることを思うー。
”ーーー……あ…もしかしてー”
クマ(松美)は昨日の”松美になったクマ”のことを思い出すー。
松美(クマ)は、松美自身の友達である瑠璃のことを
認識している様子だったー。
”ーーそっかー…入れ替わったことで相手の記憶みたいなものが
自然と少し流れ込んできている状態なのかなー”
クマ(松美)はそう解釈するー。
そう言えば
昨日も、”このクマ”がいつも根城にしている洞窟に
無意識のうちに移動することができたし、
草花を食べたり、川の水を飲んだり、
このクマが”いつもしている”ことを無意識のうちに
こなすことができているー。
それもきっと、クマの身体になったことで、
松美自身にクマの記憶が流れているのだろうー
”あぁー…だから、昨日、
わたしになったクマさんの喋り方もどんどん
人間らしくなったんだねー”
クマ(松美)は、そう解釈するー。
入れ替わった直後は”クマそのもの”のような動きを
していた松美(クマ)ー。
けれど、時間が経つにつれて、人の言葉を発するようになって、
瑠璃と合流した時には”松美のフリ”をしているかのように、
松美(クマ)は”いつもの松美”のような振る舞いを
するようになっていたー。
”ーーー…ーーー”
しかし、そうだとすると、
松美(クマ)は、時間が経てば経つほど、”松美”として
振る舞うことができるようになってー、
”完璧に松美に成りすませるようになってしまう”のではー…?
そんなことを思い、クマ(松美)は不安そうな表情を浮かべるー。
”瑠璃ー…”
クマ(松美)は、親友の瑠璃のことを思い出しながら
”戻って来てくれるかなー?”と困惑の表情を浮かべるー。
この状況を打開するには、瑠璃を頼りにするしかないー。
この姿のまま山を下りれば
”クマが出没”とニュースになってしまうのは目に見えてるし、
最悪の場合、猟友会やら何やらに射殺されてしまう可能性もあるー。
そうなったら終わりだー。
”ーーガゥ…”
クマ(松美)は、ゆっくりと移動しながら
山の中を歩くー。
がー、
その時だったー。
「ーーー!」
親友の瑠璃が、突然姿を現したー。
ゴクリと、瑠璃が緊張した様子でクマ(松美)を見つめるー。
クマ(松美)も、じっと瑠璃を見つめるー。
すると、瑠璃が「ーま、松美…だよね?」と、
別のクマかもしれない恐怖心を押さえながら
そう言葉を口にしたー。
クマ(松美)は、ハッとした様子で
棒を手にすると、「うんーまつみ」と、そう土に書き記したー
「あはは、よかった~!
他のクマさんだったら、あたし、死んでたかもしれないし~」
瑠璃はそう言うと、
「ーーあははーそんな顔しないでよ~
あたし、ちゃんと戻って来るって昨日、約束したでしょ?」と、
そう言葉を口にしたー。
どうやら瑠璃は、ちゃんとクマの中身が松美だと
信じてくれていたようだー。
「ーあははークマさんの毛、触り放題ー」
瑠璃は、中身が松美であることに安心してか、
クマの身体を嬉しそうに触るー。
くすぐったそうにしながら、クマ(松美)は
思い出したかのように”それで、わたしはー?”と、棒で地面に文字を書いたー。
「あ、うんー松美はいつも通り過ごしてるけどー…
中身がクマさんとはとても思えない感じでー」
瑠璃が笑いながらそう言うと、
クマ(松美)は、すぐに棒で”相手の記憶が流れこんできていること”を伝えたー。
「ーなるほど~…それで”松美になった”クマさんは、
普段の松美と同じように行動できてるんだねー」
瑠璃はそう言いながら頷くと、
クマ(松美)はふと、”どうしてわたしをしんじてくれたの?”と、棒で土に文字を書いたー。
それを見た瑠璃は笑うー。
「え~~~?だってホラ、そんな風に文字書けるクマなんていないでしょ?
それとー、松美、”た”の書き方が特徴的だからー」
そう言いながら”わたし”と書かれた部分を指差す瑠璃ー。
それを見て、クマ(松美)も、少しだけ笑うー。
「それで、あたしに手伝えることはー?」
瑠璃がそう言うと、
クマ(松美)は少しボーッとしながら、あることを考えるー。
「ーーーーーー」
が、すぐにそれを振り払うと、
”クマさんに、でんごんをおねがいー”
と、そう文字を書くー。
「ー伝言?」
瑠璃がそう言うと、
クマ(松美)は、元に戻るために色々試してみたい、
ということを告げるー。
お互いにぶつかってみたり、
また、斜面から滑って見たりー。
そのために、まず松美(クマ)に元に戻る気があるのかどうか、
瑠璃に確認してほしいというのだー。
「ーもし、クマさんがとぼけたら?」
瑠璃が言うー。
松美(クマ)は、今日は大学で、”松美”として振る舞っていたのだというー。
クマ(松美)の読み通り、松美に成り代わるつもりなら
瑠璃が問い詰めてもとぼける可能性も高いー。
”そしたら、またそうだんしよう”
そう土に書くクマ(松美)ー。
瑠璃は「うん!わかった!」と、
そう言葉を口にすると、
そのまま二人は少しの間、雑談を交わしたー
そしてー、
瑠璃が何かを取り出すー。
「ーこれ、小さいGPSー。
お父さんから貰ったのー。
これ、持っててくれれば明日以降、松美に会いに来るとき分かりやすいしー、
あたしが他のクマさんを松美と勘違いして、
食べられちゃうのを防げるから!」
瑠璃の言葉に、クマ(松美)は頷くと、
瑠璃は「あ~ここに引っ掛けておくね」と、そう言葉を口にしたー。
クマ(松美)が”ありがとう”と、文字を書くと、
瑠璃は嬉しそうに微笑み、「今日は一旦帰るね」と、
そう言葉を口にしたー。
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その日の夜ー。
”ーーー瑠璃がおいしそうだったー”
クマ(松美)は、そんなことを考えながら
洞窟で過ごしていたー。
そしてーーー
”ーーそういえば、あの人間ー
どうして、わたしに会いに来るんだろうー?”
と、そんなことを考えるー。
”ガゥー…”
心の中で悩む”クマ(松美)”ーー
がーー
”えー…”
クマ(松美)は、ハッとすると
”今、わたし、何をー?”
と、自分が考えていたことに違和感を感じ始めていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
瑠璃は、大学で松美(クマ)に話しかけていたー。
「ーークマさんだよね?」
瑠璃がそう尋ねると、松美(クマ)は
「え…な、なにを言ってるのー?」と、不安そうに呟くー。
「ーあははー。大丈夫大丈夫ー。落ち着いてー
あたしも、松美も怒ったりしないからー」
瑠璃が、松美(クマ)を優しく説得するー。
だがーー
「ーーご、ごめんー瑠璃、どういうこと?」
松美(クマ)は心底不安そうにそう言葉を口にするー。
瑠璃はその目を見て、表情を曇らせると、
「ーー…ねぇ…自分がクマだってこと、分かってないの?」と、
そう言葉を口にしたー。
がーー
松美(クマ)は、心底戸惑った様子で
「ど、どういう意味ー…?? わたしがクマなわけないでしょ?」
と、そう言葉を口にしたー。
瑠璃は表情を歪めながら
”ー…嘘をついてるようには見えないけどー…”と、
松美(クマ)のほうを見つめながらそう感じるのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”ーーー”
クマ(松美)は、入れ替わって3日目の朝を迎えたー。
がーーー
クマ(松美)は、
まるでクマのように、エサを探し、山の中を積極的に徘徊していたー。
「ーーーー!」
その最中にー、偶然、瑠璃から貰ったGPSが目に入るー。
”ーーーーえ…”
クマ(松美)は、戸惑うー
”ーー……わ、わたしー…”
クマ(松美)は震えたー。
”自分がクマ”だと思っていたー
何の違和感もなくー。
時間が経つにつれて、どんどんどんどん
思考も”クマ”になっていっているー。
そのことに気付いたクマ(松美)ー
”ま、まさかー…”
クマ(松美)は、松美(クマ)のことを思い出すー。
松美になったクマは、人間の記憶が流れこんで
”松美のフリ”をしているのではなく、
自分がクマだったことを忘れて、完全に松美そのものになってしまったのではないかと
そんな可能性にたどり着くー。
だってー、今、”自分自身”がクマそのものになりかけているのだからー。
”記憶が流れこんでいる”のではなく、
”身体に影響されて、そのものになりつつある”のではないかと、強い不安を覚えるー。
そういえばー、
昨日も、瑠璃のことを”美味しそう”と思ってしまったし、
”料理のようなニオイ”がしたー。
”ーーーーーーー…”
クマ(松美)は、自分がだんだん”クマそのもの”になりつつあることを
自覚したー。
”ーーえ……じゃあ、あの美味しそうな人間がまたわたしに会いに来たらー…!”
クマ(松美)は表情を歪めるー
”わたしは、あの人間をたべてしまうかもしれないー”
とー。
「ーーが…ガゥガゥガゥ!」
クマ(松美)は、瑠璃から身を隠そうと、GPSを引きはがして
そのまま山の奥に向かって走り始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー…あれ~…?」
松美(クマ)に、何とか”もう一度あのクマさんと会って”と、
お願いして、納得してもらった瑠璃は、
その報告のために、山にやってきていたー
”でも、松美も松美だと思うんだけどなぁ”
瑠璃は戸惑うー。
クマ(松美)のことは、中身は松美ー…だとは思う。
普通のクマがあんな風に文字を書くことはできないだろうし
話の内容もかみ合っているー。
けれど、大学にいる松美(クマ)もまた、松美だと思うー。
確かに、山で再会した時は何か変な感じだったけど、
少なくとも今日、大学で話した感じは松美そのもので、
話の内容もかみ合っていたー。
”いったい、どうなってるの?”
瑠璃は戸惑うー。
松美とクマ、両方が松美なんてことはあり得ないー。
と、するとやっぱりあのクマは松美じゃないだろうかー。
でも、それだと文字を書いて意思疎通ができるのは謎だー。
”ーーーーー”
瑠璃は、GPSの反応がある場所までやってくると、
表情を歪めるー。
「あれ…?ーーー」
瑠璃は、GPSが落ちているのを見つけると
「身体から外れちゃったのかな?」と、
そう戸惑いの言葉を口にしたー。
その時だったー
ガサッー
背後から音がして、瑠璃が振り返ると、
そこにはクマ(松美)の姿があったー。
昨日、他のクマと見間違えてしまわないように、
その特徴を覚えておいた瑠璃は、一瞬、驚いたような
表情を浮かべていたものの、
すぐに「あ、松美~!」と、言葉を口にするー
クマ(松美)は、低いうなり声をあげながら、
瑠璃の方を見ているー。
”ーーーおいしそうなーーにんげんー”
クマ(松美)は、そう思ったー。
「ーーね~ね~、言われた通り、
大学にいる”松美”の方に話をしたら
今度また会いに来てくれるってー。
でもさ~
今日、あたしが話した感じだと、
松美も、松美本人な気がするんだよね~」
瑠璃がそんな言葉を口にしながら
クマ(松美)に報告をするー。
がーーーー
「ーえっ?」
クマ(松美)が瑠璃の頭を掴むー。
「ーーググググ…」
クマ(松美)が獣のような声を上げるー。
瑠璃は戸惑いながら
「ま、松美ー?」と、そう言葉を口にするーー
しかしーーー
”クマになった松美”は、もうー、
ほとんどの自我を失いー、クマそのものになっていたー。
直後ー、
瑠璃の悲鳴が山の中に響き渡ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーそんなー」
数日後ー
大学内で”女子大生がクマに襲われて死亡”のニュースを知った
松美(クマ)は悲しそうに表情を浮かべるー。
二人はー、
入れ替わったことで次第に”身体”の影響を受けて、
元々の自分のことを忘れて、その本人そのものになってしまったー。
松美になったクマのほうが、クマとしての自我が消えて
松美になってしまうのが早かった理由は、
”クマ”だったからー。
人間よりも自我のようなものが弱く、すぐに身体に飲み込まれたー。
一方、クマよりも複雑な自我を持っていた人間ー
クマになった松美は、松美になったクマよりも長い間”自我”を持っていたものの、
先日、瑠璃が再度会いに行った際には
もう自我を失い、”クマ”そのものになっていたー。
「ーーー…だから、クマになんか会いに行っちゃだめって言ったのにー」
松美(クマ)は、友人の瑠璃を失ったことを、
心底悲しそうにしながら、
そう言葉を口にしたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
入れ替わった本人たちが、
そのことを自覚できない状態になったことは、
せめてもの救い…かもしれないですネ~!
お読み下さりありがとうございました~!
今日も暑いところが多いので、
気を付けて過ごしてくださいネ~!!
コメント
入れ替わったクマは♂?
笑~★
あえて書きませんでしたが、♂の設定デス~笑